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やりたい事をやる為に  作者: 千月 景葉
第一章 黒き森
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61. 魔力暴走と急成長

お読みくださりありがとうございます。


一度魔力の話を組み込むと、魔力の話が続いてしまいますね。ま、ファンタジーですし。

早くに大きな力を使うと、代償も必ずあります。

大好きな漫画からの引用になりますが“等価交換”の原則です。

上手い話はありません。


 それは彼女にとって何よりも大事な食事の時間、具体的にはお昼ご飯を頂いている最中に起こった。


(ん……?何だろ、血の味がする……?)


 クロエはお気に入りの果物、ラビを切ってもらった物をかじっていた。

 いつもなら前の世界でいう林檎と桃を混ぜたような味の、見た目はプラムに似ている果物ラビはそんな血の様な味がする筈がなかった。


(ああ、歯が又生えてきたのかな?1才だものねぇ。次から次に生えてくる筈だし。)


 何となく違和感は朝から有ったのだ。

 ただ、まだ1才で全部の歯が生え揃っているわけもなく、徐々に前の世界で言う乳歯20本が時間を掛けて生えてくる。そして、「あ、生えてきた~」と今の様な感じで気付くのだ。


(……でも、何か今日のはいつもと違う……?何だか……口の中のあちこちがむず痒いし……い、痛い?!)


 思わずかじっていたラビを口から離して見てみる。

 見てクロエはギョッとした。


「えっ?……な、何……?何れ……」


 ラビの果肉にベットリと血が着いていたのだ。

 恐る恐る口に指を入れてみる。

 そっとむず痒い辺りをなぞり、指を口から抜いて見てみると、指先が血で赤く濡れていた。


「うわっ……道理れ……」


 指先をジッと見つめるクロエに気付いたミラベルが、何気無くその視線の先の彼女の指に目を向ける。


「きゃあ!ク、クロエ!それ、血じゃないの?!」

 と叫ぶが早いか、ミラベルは妹に駆け寄り妹の顔を見る。


 妹の口の端に赤いものが付着していて、ミラベルが指でそっと拭うと彼女の指も赤く染まる。


 慌ててクロエの口を開けさせて、口内を見たミラベルが顔をひきつらせて悲鳴をあげた。


「母さん!母さん来てっ!大変よ!クロエの口の中が血だらけなのーー!」


 ミラベルの悲鳴にコレットが慌てて駆け寄る。


「えっ?幾らなんでもこれは……。クロエ、痛い?いつからなの?」


 コレットが口内を見て顔をしかめながら、クロエに聞く。


「しゃっき……血にょ味ぎゃしちぇ……何きゃ、あちきょち痛きゅちぇ……、っ!」

 とコレットに話している傍からクロエは顔を歪め、口を押さえる。


 口を押さえたクロエの小さな手の指の間から、赤い血が滲み出て滴り落ちる。


「っ!……ぐっ……!」

(な、何でこんなに出血が……?いつもなら少しだけ血の味がする程度なのに……!)


「クロエッ!……ディルク先生の所に行くわ!ミラベル、布を!一緒に来て!」


「母さん、僕が先生を呼んでくる!寝室に行って!あまり動かしちゃ駄目だ!」

 とライリーが叫んで食堂を飛び出していった。


 コリンが

「お姉ちゃん達のお部屋でしょ!僕が扉を開けるから早く!」

 とミラベル達の部屋に向かう。


「クロエ、クロエ!手を退けて、血を出してしまいなさい!窒息するわ!」

 コレットがクロエの手を退けて布を口の回りに当てる。

 みるみる内に赤く染まり、クロエの顔下半分が血で汚れる。


「や、やだ……やっと目を覚ましてくれたのに……クロエ……!」

 ミラベルが泣きながら手に持った布を次々に母に渡し、血に汚れた布を回収する。


 母は布を当て換えながらクロエを抱き締めて立ち上がり

「貴女達の寝室に行くわ!ミラベル、水桶を!コリン、扉開いてるわね?」

 と話しながら、小走りにクロエを縦抱きにした状態で女の子部屋に向かう。


「……い、痛!…口……痛……!」

 とクロエが頬を押さえながら、顔を歪める。


 女の子部屋に運ばれたクロエはベッドに寝かされたが、窒息しないように側臥位をとらされ、顔の周辺は布を挟まれて出血に備えられた。


 水に濡らした布で顔を拭き、クロエの様子をコレットが注意深く見つめる。


 その後ろに不安そうに立つミラベルとコリンがいた。


「クロエ、わかる?話せる?……口の中、大分痛むの?」

 とコレットがゆっくりと聞き出す。


「い、痛い……いっぴゃい……生え……っ!」

 とまで言うと、又顔を歪めて体に力を入れるクロエ。


「母さん、ディルク先生が来てくれたよ!……クロエッ!」

 ライリーが老教師を連れて部屋に入り、ベッドのクロエを見て固まる。


 ベッドに横向きで寝かされた妹の、顔の回りに敷かれた布が血で赤く染まり、妹の顔も苦痛で歪んでいる。


「これは一体……!……クロエよ、儂が解るか?……口の中からの出血か。痛むようじゃな……歯が生えて来たにしては異常な血の量じゃし、況してこれ程痛む筈は……、口を開けてみよ、クロエ」


 ディルクが屈み込んで、クロエの口を大きく開く。

 口を開けた後、ディルクが小さな声で何かを呟くと彼の指先が小さく光り出した。


「……水の魔晶石は有るかね、コレット。後、空の水桶を。……洗浄をする」


 指示を受け、コレットが魔晶石の保管箱を持って寝室にやって来た。


 保管箱を開け小さな水色に光る魔晶石をディルクが取り出し、自身の指先で魔晶石を触りながら又何かを呟く。


 魔晶石の周りに水の膜が出来、やがて小さな水の塊が浮かび上がる。


 適当な大きさにまで水の塊が大きくなると、少し輝きを無くした水の魔晶石をディルクは保管箱にすぐ納し、コレットが蓋を閉める。


 ディルクはクロエの顔に水塊を近付け、水塊に自身の指を挿し込み、水塊から水を細長く引っ張り出す。

 その細長い水を引っ張り出している指先をクロエの口の中に突っ込み、クロエの口内でクルリと円を描くように廻す。


 するとクロエの口に入った細長い水が次第に赤く変色し、浮かんでいる水塊に吸い出されていく。


「……ふむ、今はこんなところかの。……クロエ、口をもう少し開けてくれぬか?」


 赤く染まった水塊をクロエの口から抜き出した指先で空の水桶に導いた後、老教師がその指を下に向けると水塊は水風船が割れるように壊れ、空の水桶には赤く濁った水が入った。


 クロエは返事も出来ずに、ただ口を精一杯大きく開ける。


「……何と!……まあこれでは出血が酷くなる筈じゃわい。……しかし又何で……」

 とディルクが顔をしかめ、首をかしげる。


 心配で気が気でないコレットが、ディルクにおずおずと尋ねる。


「あ、あの……先生?クロエは一体……」


 ディルクがコレットを手招きし、自身の指先で照らし出した、洗浄して血を洗い流したクロエの口内を見せる。


「えっ?!嘘……こんなことって……」

 コレットはそれだけ呟くと口を押さえ、驚きを隠さない。


「……有り得んことだが、全ての歯が一斉に生えてきておる。数えたが初期歯全てじゃ。……こんな例を儂は聞いたことがない。クロエの口に今まで生えていた歯は8本、後の初期歯12本が何故か一斉に生え始めたんじゃ。だから出血も酷かったのじゃろう……。本来なら2才半位じゃろう?全て生え揃うのは。のうコレット?」

 とディルクがコレットに尋ねる。


 コレットが頷きながら

「ええ、個人差はありますけど……だけど流石に早すぎるわ。顎だって未だ小さい筈です……えっ!クロエ?痛むの?」

 と話す最中にクロエの様子に変化があり彼女を覗き込む。


 クロエが顔をしかめて身をよじる。

「い、痛い……体……関節が……あ、足首も……頭……い、痛い……!」

 と口を食い縛り、そのせいで口端から血を流しながら頭を左右に振って痛みを訴える。


「……恐らくになるが、魔力熱による副作用じゃないかと思う。本来3・4歳で発動する魔力が発動したせいで、体が魔力の流れに対応するために急激に成長を始めたのじゃろう。

 ……半月の間に成長するための準備を体がしておったんじゃ。そしてクロエが目覚めて、一気に始まったのだろう。

 ……しかし惨いもんじゃな……この子の痛みは相当なものじゃろうて。成長痛が一度にこの小さな体を襲うとはの……。

 じゃが、それ程長い時間は掛からんじゃろう。この酷い苦痛だけなら長くて2・3日で治まると思うぞ。あとは少し痛みは緩和する筈……今ここまで痛むのじゃからな。

 コレットよ、冷やしてやりなさい。……可哀想じゃが、そのくらいしか対処療法は無い。儂も口内の洗浄と傷の治癒術を追々やろう。

 ……ああ、クロエよ噛み締めすぎるでない……痛むじゃろうが余計に傷が酷うなる。

 ……氷塊を作るとするか……それを布で巻いて口に噛ませよう。少しは口内が冷えて、この子の気が紛れるじゃろう。

 ……さて、この子を小屋に移すか?暫く痛みでこの子は夜も寝られんじゃろうから、誰かが看病してやらんとな。コレットよ、今から……」

 とディルクが指示をし始めた時。


 ミラベルが慌てて

「待ってください!アタシが見ます!この部屋でクロエの看病をします。お願いです、連れてかないで!

 ……もう離れたくないんです。クロエが又居なくなったら……アタシも心配でどうせ眠れない。……変化があったらちゃんと呼びますから、だから……」

 とディルクに必死の面持ちで願い出る。


 ディルクは痛々しそうにミラベルを見つめ、首を横に振る。


「……気持ちは解るが、其方も未だ5才じゃ。僅か3・4日の話とは言え、夜を徹しての看病を其方にさせるわけにはいかぬ。又看病をする同じ部屋で休むのも、気が落ち着かぬ筈じゃ。……可哀想じゃが、我慢して……」

 とミラベルを優しく諭そうとすると、コリンがミラベルの前に出て

「あ、あの!ぼ、僕もお手伝いするから!クロエをここに寝かせてあげて!……僕、今日やっとクロエに会えたのに……又僕……妹が居なくなるの、イヤなんです!一生懸命お手伝いするから……連れてかないで!」

 とミラベルを援護する。


 ディルクは目を丸くして小さなコリンを見つめる。

 そして目を涙で濡らしたミラベルを見てから、長兄のライリーを見る。


「……やれやれ其方もか、ライリー。……コレットよ、どうしようかのう……。このままクロエを連れていっては、儂はこの子等に恨まれそうじゃ。良い折衷案は無いかの?」

 とコレットに助けを求めるディルク。


 コレットが子供達を見て嬉しそうに微笑み、ディルクに目を合わせると

「……クロエは子供達の言う通り、この部屋で看病しますわ。先生にはご迷惑をお掛けしますが、客間を準備しますのでそちらでこの急性期の間、助けていただけないでしょうか?

 ……夜はミラベルを私達の寝室に移動させて休ませますし……。子供達もこの部屋にクロエが居るだけで、安心するのでしょう。

 ……私もクロエを手元に置いて、見てやりたい……魔力暴走の危険がなければ、この部屋で……お願いします、先生」

 と頭を下げた。


 ディルクは苦笑してフッと1つ息を吐くと

「あい、わかった。では今から役割分担をするとしようか。

 先ずは氷塊を作るから、台所でライリーよ儂を手伝っておくれ。

 後、コリンは汚れた布を洗い場に持っていって、洗ってくれるかの。出来るかな……そうか、良い子じゃ。

 ミラベルは水桶に綺麗な水と、後綺麗な布を何枚か用意してくれ。その後は汚れた布を適時コリンと共に洗っておいてくれ。

 コレットは儂が氷塊を作るまでミラベルの持ってきた水と布で、クロエの関節や頬を冷やしてやってほしい。

 ……ガルシアが来たら、この部屋に少し水性結界を張る。少し部屋の温度を下げて、この子を楽にしてやらねば……。

 となると更に水の魔晶石が必要じゃな……コレット、後幾つ有るかね?足らぬなら小屋から持ってくるが?」

 とクロエの関節を冷やし始めたコレットに聞く。


 コレットは暫く考えてから

「確かジェラルド様にお渡しする予定の魔晶石の中に、水の物が幾つかあった筈ですわ。保管箱には先程の魔晶石以外に4個か5個有ったと思います。足りますか、先生?」

 と答えた。


 ディルクがフンッと鼻息を漏らし

「構わん!ジェラルドの物を使え!……こんなときに使わずして、何時使うのじゃ!遠慮は要らぬ、儂が許す!ジェラルドに渡す保管箱を見せよ!」

 とコレットに命ずる。


 コレットがクスクス笑いながら

「わかりました。持って参りますわね。暫くお待ちください。……クロエを暫しお願いしますわ。ああミラベル、コリン、一緒に運ぶわ。行きましょう」

 とクロエから離れ、ディルクと交代する。


 ディルクがクロエの傍に座り、ライリーもクロエの傍にひざまづく。


「クロエ……頑張って。皆で君を看病するからね。今度はずっと近くに居るから……だから、痛みに負けないで。クロエ……」

 とライリーがクロエの手を握る。


 痛みに苦しむクロエが、ライリーの手を力一杯握り締め

「……負けない……頑張る……」

 と小さく頷き、又体を強張らせて痛みに耐える。


 ライリーはクロエの返事と握る手の力に笑みを浮かべ、クロエの頭を優しく撫でる。


 ここから家族全員と老教師による、全員参加のクロエの看病が再び始まったのだった。


次話は明日か明後日投稿します。

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