60. 嬉しい言葉とご褒美
お読みくださりありがとうございます。
妹を心配していた兄弟達は、思い思いに妹とスキンシップを取りたがります。
妹もそれが嬉しくてたまりません。
ただ1つ、長兄はそれだけでは無い様子です(笑)
おませな子供です!
「う~……きょんにゃに筋力落ちちぇりゅにゃんちぇ……座れにゃい……うぅ」
クロエはクッションに挟まれて赤ちゃん用の椅子に座り、愚痴を溢す。
“お世話役”のミラベルは、クロエの頭を優しく撫でながら慰める。
「しょうがないよクロエ。寧ろ目覚めて直ぐにここまで元気に動けるなんて先生ビックリしてたよ。あんなに……冷たかっ……た……グスッ……」
と昨日までのクロエを思い出したのか、しゃくりあげはじめるミラベル。
「ひゃあ!ミヤベユお姉ちゃん!泣きゃにゃい泣きゃにゃい~!アチャシはちゃんちょきょきょに居りゅきゃりゃ~!」
「うんっ……うんっ……ふぇ~ん……!」
「ああ……らめら……しょうぎゃにゃい、ミヤベユお姉ちゃん、もう思いっきり泣きょう!泣いちゃえ~!」
「ウッウッウァーーーン!ウアーーーン!」
「……ヨチヨチ、良い子良い子……ずっちょ我慢しちぇちゃんらにぇ……ぎょ免にぇ……」
赤ちゃん椅子のクロエの膝に突っ伏して泣き声をあげるミラベルの頭を、唯一今自由に動く手で優しく撫でるクロエ。
朝クロエが目覚めたことを知ってから、事あるごとに涙腺を崩壊させるミラベル。
元々勝ち気な所があるミラベルが泣く姿など、家族は余り見たことがない。
泣くくらいなら、唇を噛み締めて立ち向かっていくのがミラベルなのだ。
「泣いてどうなるの?泣くなら先ず動くわ。泣かずに考えて、泣かないで済むように頑張るわ。泣くなんて弱い人の逃げ道なだけよ、アタシは嫌。絶対逃げない!」
と息巻いたこともあるミラベル。
どんなことでも挫けず根を上げず、食らい付いてくるミラベル。
しかし自分の気持ちだけではどうする事も出来ない事があるのだと、今回の件で思い知った。
それでもクロエが目覚めるまでは、原因を作った自分が泣くなんて許されないと、涙を必死で堪えていた。
クロエが目覚め、以前と変わらぬ明るい笑顔と可愛い声で自分に喋りかけてくれる、そんな当たり前の日常がこんなに大事で嬉しいものだったなんてと、今ミラベルは痛いほど実感しているのだ。
昨日までの思い出したくもない日々が、その思いを余計に増幅させて彼女に迫ってくる。
それで直ぐに涙腺が崩壊してしまうのだ。
又クロエがそんな情けない姉の自分を笑って受け入れ、優しく慰めてくれるのがとても温かくて心地良い。
だからついつい甘えてしまうのだった。
「姉ちゃん、又泣く~!……クロエは姉ちゃんに甘いからなぁ。そんなに泣いてると、クロエの膝がびしょ濡れになっちゃうよ」
とリビングの一角で文字札と数字札を並べながら勉強しているコリンが、呆れたように呟いた。
「……キョリンお兄ちゃん、文字ちょ数字は大分覚えられちゃの?」
とミラベルを撫でながら、初めて自主的に勉強をしているコリンを見たクロエが尋ねる。
「う~ん。何かあんまり面白くなくてさ~。少しは覚えられたとは思うけど、何か面白い覚え方ない?クロエ」
と文字札を睨みつつ、クロエにアドバイスを求めるコリン。
「……しょうじゃにゃあ。んじゃ、単語作りしよっきゃ?お兄ちゃん」
と突っ伏したまま、居眠りし出したミラベルの髪を三つ編みにし始めたクロエが、コリンに提案する。
「たんご……?何だよそれ?」
コリンが首をかしげる。
「文字札れ、お兄ちゃんにょ名前並べちぇ見しぇちぇ?」
とクロエがコリンに指示する。
「え?僕の名前?……えーと、えーと……これとこれとこれと……んで、並べて……こ、こうか?」
とクロエが見える位置に文字札を並べたコリン。
「……残念、おしい!キョリンじゃにゃくちぇリキョンににゃっちぇりゅ。並べ直しらにぇ」
と3本目の三つ編みを作りながら、ダメ出しをするクロエ。
「えっ?ホントに?……あ、ホントだ……んじゃこうだよな……。どう?」
「うんっ!正解~!……じゃあにぇ次は父しゃんにょ名前!」
「えっ!と、父さん?!ま、待ってよ、待って……これは要る、これは違う!……あれ?“シ”はどれだっけ?!え、ク、クロエ!“シ”ってどれだ?」
コリンが文字札を見ながらアタフタとし、クロエに助けを求める。
「落ち着いちぇ、お兄ちゃん。“シ”は足元にょ……しょう、しょれらよ。頑張れ!後一文字!」
クロエがコリンに檄を飛ばす。
「お、おう!“ア”だな、“ア”は……あったーー!これだ!……どうだ、これで?!」
“ガルシア”と名前を並べてクロエに見せるコリン。
クロエはニッコリ笑って
「正解~!調子出ちぇ来ちゃにぇ!じゃあにぇ、次は“畑”!出来りゅ?」
とコリンを褒めてから、毛色の違う単語を問題にする。
「な、何で?次は他の家族の名前じゃないの?……僕、札探してあったのに!」
とコリンが文句を言うと
「らめらめ~!違う単語も並べにゃいちょにぇ?しゃあ、大事にゃ“畑”、出来りゅ?」
と兄の予想を裏切って、意地悪な問題を提示するクロエ。
「くっそぉ!姉ちゃんには優しいのに僕にはキツいぞ、クロエ!……それより、は、はたけ、はたけ~……」
コリンが文句を言いながら文字札を必死に探す。
「らっちぇキョリンお兄ちゃんにゃりゃ出来りゅもん~!アチャシ出来にゃい人には言わにゃいチャイプ~!しゃあ頑張れお兄ちゃん~!」
とクロエがコリンを持ち上げる。
「たいぷって何だよそれ~!……出来ない人には言わないって……つまり出来るって……ああ、もう!はたけ作るよ!はたけ、はたけ……」
とコリンが少しにやけながら文字札を探す。
そんな風に賑やかにコリンと話しながら、手は気持ち良さそうに眠るミラベルの髪をひたすら三つ編みにしていく。
ツインテールに結んだミラベルの左右の髪の束で、細い三つ編みを大量に作るクロエ。
(やっぱり綺麗な髪だよね~手のリハビリに丁度良いわ~!何か手芸してる気分~。案外こんな小さい手でも出来るもんだね!)
「よし、出来た!クロエ出来たぞっ!……てお前何を……わっ!ミラベル姉ちゃんの髪の毛が……な、何をしてんだよ……うわぁ~何かスゴいなぁ……良くこんなに上手く出来るなぁ……クロエってやっぱり面白いなぁ」
とコリンがクロエに近寄り、ミラベルの髪にいっぱい編まれた三つ編みをしげしげと見ながら呟く。
「アチャシぎゃ面白い……?しょうきゃにゃ?あ、お兄ちゃん、しょれじゃ畑じゃにゃい、“はらけ”らよ」
と手を休めず三つ編みを作りながら、コリンの文字札の間違いを指摘する。
「えっ?……あ、ホントだ……だってお前って何するか分かんないもん。お前が教えてくれた遊びも面白いしさ~!……お前が倒れた後、皆凄く怖い顔しててさ……クロエが居たらなぁ~っていつも思ってた……だからクロエが戻ってきたから、今何か楽しいっ!……出来た!……どう?」
とコリンがクロエに自分の気持ちを話しながら、文字札を見せる。
「うんっ!正解!……コリンお兄ちゃん、中々女泣きゃしぇににゃりゅにぇ……今にょお兄ちゃんにょ台詞、アチャシ、グッちょ来ちゃっちゃ……。しょんにゃお兄ちゃんにはご褒美あげりゅ!きょっち来ちぇ!」
とクロエがコリンを手招きする。
「ご褒美?何々?何くれんの?!」
とクロエに近寄るコリン。
「ほっぴぇ、きょっち向けちぇ?」
「頬?……こうか?」
コリンが大人しく差し出した頬に、クロエがチュッ!とキスをする。
「へっ?……何だよこれ?何で頬に口付けたんだ?」
と首をかしげるコリン。
「んひゅひゅ~!…お兄ちゃんぎゃアチャシに嬉しい言葉をくれちゃきゃりゃ、しょにょお礼らよ!女にょ子ぎゃキシュしゅりゅにゃんちぇ、凄い事にゃんらからにぇ!」
とクロエがニコニコしながら、首をかしげたコリンの頭を撫でる。
(可愛いーー!もうコリンお兄ちゃんが可愛すぎる~!ついついキスしたくなっちゃう~!ああ、体が大きかったら思いっきり抱き締めるのに~!……ヤバいなぁ、アタシそっちの趣味無いんだけど~)
頭を撫でられたコリンが
「そんなもんなのか?う~ん、僕は食べ物くれる方が良いな。女の子って分かんないや。でも何か頭撫でられたら恥ずかしい、へへ!」
とニッコリ笑う。
「……お~い皆、母さんがお昼ご飯出来たって呼んでる……コリン、何か楽しそうだな……」
と兄のライリーが、いつの間にかリビングの扉を開けて入ってきていた。
「あ、兄ちゃん!クロエがご褒美くれたんだ!だけど頬に口付けるのが何でご褒美なのが、良く分かんないや~。……な、何?……兄ちゃん何か怒ってる?」
とコリンがライリーの表情を見て、後ずさる。
ライリーは髪をかきあげながら
「……何でもない。ミラベルは……ああ、寝てるのか。……おい、おいミラベル、起きろ。ご飯だぞ。……クロエが動けないだろ?」
とクロエの膝にもたれて寝ていたミラベルを起こす。
「う、う~ん……あ、あれ?アタシ寝ちゃって……て、えっ?あ、あれ?な、何これーーー!アタシの髪が、髪が~!」
とミラベルが、自分のツインテールの髪束を見て叫ぶ。
「ぎょ免にゃしゃい~!綺麗な髪らから、ちゅいちゅい触りちゃきゅにゃっちぇ……。あ、しょにょままにしちぇ!三ちゅ編みピャーマしちゃいにょら~!絶対似合うきゃりゃ~」
とクロエが慌てるミラベルを説得する。
ミラベルは髪を掴むと
「えっ?!ピャーマ?……何かわからないけど、クロエがそう言うなら……凄く細かく編んでるね……クロエって不思議な事するなぁ……」
と首をかしげながら承知した。
「……ほら、早く行くぞ。ミラベル、コリン先に行け。僕がクロエを連れて行くから」
と2人を追い立てるライリー。
「え!アタシがクロエを連れて行くよ!お世話係なんだから~。お兄ちゃんが先に……」
とミラベルが抗議すると
「……良いから。つべこべ言わずに早く行け。分かったか」
と冷静な声でミラベルの抗議を完全に無視する。
「う……な、何かお兄ちゃんが怖い……コリン、アンタなんかしたの?!」
とコリンに噛みつくミラベル。
「し、してないしてない~!ただ、僕がクロエにご褒美……」
とコリンがミラベルに説明しようとすると
「うるさいっ!早く食堂に行け!2人共!」
とライリーが妹弟に雷を落とす。
「「わーー!わかりましたーー!」」
と2人は直ぐに立ち上がると食堂に一目散に走っていった。
(へっ?な、なんだなんだー?ライリーお兄ちゃんが滅茶苦茶機嫌悪いんですけど~!……やだやだ、待って待って、2人きりにしないで~!こ、こわ……マジ怒りっぽい……何かしたかな……覚えがないぞ~)
と若干涙目になりながら、ライリーの顔色を窺うクロエ。
ライリーがハァ…と溜め息を吐くと
「さ、クロエおいで。……無理しないで良いから僕にもたれるんだよ。……どうかした?」
とライリーが普段の口調でクロエに聞く。
「お、お兄ちゃん……何きゃ怒っちぇりゅ?アチャシ……何きゃしちゃ?」
と抱き上げてもらいながら、クロエがおずおずとライリーに尋ねる。
「えっ……いや、何でもない。気のせいだよ。……ああクロエ、コリンにご褒美あげてただろう?どうしてだい?」
とライリーが淡々と聞く。
「ああ、コリンお兄ちゃんぎゃアチャシに嬉しい言葉をきゅれちゃにょ~!らから嬉しきゅちぇちゅいちゅい……。あ、ましゃきゃあれは、やっちゃいけにゃい事にゃにょ?!……アチャシ知りゃにゃきゅちぇ……」
(まさかあれ、この世界では凄く失礼な行動だったりするの?……確か前の世界でも子供の頭には神様がいらっしゃるから、頭を撫でたらNG!って国があったよね。ほっぺにキスが駄目なのか、頭撫で撫でが駄目なのか……いや、頭は何回も撫でてるからほっぺにキスだな。しまったなぁ……マナー全く考えてなかったよ。ライリーお兄ちゃんってキチンとしてるから、それで怒ったんだ……うん、きっとそうだ!)
クロエは自分の行動をトレースして、マナー違反をしたんだという結論に達した。
ライリーはリビングに留まったまま更にクロエに問う。
「へえ……良ければコリンがなんて言葉を言ったのか、教えてくれないかな?クロエがそんなに喜ぶなんて、興味あるし」
とニッコリ笑いながらクロエにお願いするライリー。
「お兄ちゃんぎょ免にゃしゃい!ほっぺにキシュはらめにゃんれしょ?……ましゃきゃ、やっちゃいけにゃいにゃんちぇ知らにゃきゅちぇ……後きゃりゃコリンお兄ちゃんにも謝りゅきゃりゃ……ホンチョにぎょ免にゃしゃい……」
とクロエが誠心誠意ライリーに詫びる。
「……もうああいう事はしちゃいけないよ?……コリンはまだ小さいから分からないけどね。……異性にしちゃ駄目だから。どうしてもって事ならミラベルか僕にしなさい。分かったね?」
ライリーの言葉に首をかしげるクロエ。
「……ライリーお兄ちゃんみょ異性らよ?ライリーお兄ちゃんは何れ良いにょ?」
と問うクロエ。
「……コリンは直ぐに喋っちゃうからね。それでクロエが叱られたら可哀想だろう?だけど僕なら黙っててあげられるし。ミラベルも大丈夫だから。……ね?」
とライリーがニッコリ笑いながらクロエに説明する。
(そういうものなのかな……。まぁ、この世界のマナーはアタシには未だ未だ判らない事ばかりだし、ライリーお兄ちゃんは7才だけど詳しそうだしね。黙ってて貰わなきゃならないレベルのマナー違反か……気を付けよう)
「うん、分きゃっちゃ!……お兄ちゃんに迷惑は掛けりゃれにゃいきゃりゃ、今後はミラベルお姉ちゃんらけにしゅりゅ!ありぎゃちょう、ライリーお兄ちゃん!きょれきゃりゃみょアチャシに色んにゃ事教えちぇにぇ!……お兄ちゃんはやっぴゃり凄いにゃ~!」
とクロエはライリーにお礼を言う。
「えっ!……クロエ、僕は大丈夫だよ?だから……」
とライリーが慌ててクロエを宥めると
「ライリーお兄ちゃんはアチャシに甘いきゃりゃ~!甘えちぇばきゃりじゃらめれしょ?らから我慢しゅりゅ!」
とクロエはニッコリ笑う。
「ち、違う、違う!そうじゃなくって……」
とライリーが焦りながらクロエを丸め込もうと話を仕掛けた時。
「お兄ちゃーーん!早く!……アタシ達に早く行けって言ったのお兄ちゃんでしょうーー!」
と食堂の方からミラベルの呼ぶ声がした。
「あ、ミヤベユお姉ちゃんぎゃ呼んじぇりゅよ!早きゅ行きょう、ライリーお兄ちゃん!皆待っちぇりゅよ!」
とクロエがライリーを急かす。
「……ああ、そうだね……うん、行こうか……ハァ~……」
と何だか急に元気を無くしたライリーが、クロエを連れて食堂にゆっくり向かう。
「……お兄ちゃん、元気無いにぇ?」
とクロエが心配する。
「……元気出したいから、僕にもご褒美くれない?コリンみたいに……」
とライリーがボソボソと呟く。
「え?あれ、でもやっちゃいけにゃいんれしょ?」
とクロエが聞くと
「コリンだけズルいよ……僕だって……ずっと心配してたのに……何でコリン……」
とクロエの質問には答えず、愚痴を溢すライリー。
(これは兄弟のプライドからくる焼きもちかーー!……そっか、未だ7才だもんね。妹に好かれたい兄心……ああ、ライリーお兄ちゃん、可愛いなぁ!何でアタシの兄弟は皆こんなに可愛いのーー!……だから~アタシそっちの趣味は無いんだってば~!ああ、もう!我慢できない~!)
「……お兄ちゃん、きょれれ良い?」
とクロエが呟くと、ライリーの頬にチュッと1つ大きなリップ音を立ててキスをした。
ライリーはビクッ!と止まると、クロエを見つめ、みるみる顔を真っ赤に染めていく。
「ク、クロエ……?」
と頬を押さえて焦るライリー。
「エヘヘ~!お兄ちゃん大好きらよ!しゃあ、早きゅ食堂に行きょう!皆待っちぇりゅよ!」
と言いながら、ライリーの腕をトントンと叩いて急かす。
「……う、うんっ!わかった!」
とライリーは真っ赤な顔で口元をにやけさせながら、食堂へ急ぐのだった。
次話は明日か明後日投稿します。




