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やりたい事をやる為に  作者: 千月 景葉
第一章 黒き森
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58. 朝の朗報

お読みくださりありがとうございます。


クロエが目覚めたことを姉のミラベルが漸く知ります。

ミラベルはどんな反応を見せるでしょうか。

「……おはよう、父さん。……母さんは小屋なの?……アタシ何を手伝えば良い?」


ミラベルが起床し、台所のガルシアの元に近寄ってきた。


半月前は好奇心に溢れて光り輝くようにキラキラしていた金の瞳は、ここ暫くの気鬱のせいで影を帯び、伏し目がちになってしまっていた。


クロエが綺麗だと嬉しそうに撫でていたショッキングピンクのストレートの髪は半月前に比べて艶が減り、ツインテールにせず後ろで無造作にまとめている。


(クロエが居ないのに髪なんてどうでも良いわ……後ろで縛って。アタシに構わないで……自分が嫌なの。アタシに使う時間はクロエに使ってあげて……)


ガルシアやコレットが、クロエが倒れたのはミラベルのせいじゃないと言葉を尽くして言い聞かせたが、責任感の強い彼女は自身が妹の前で何気無く口にした魔晶石の話が、妹の魔力の暴走の切っ掛けになったと正しく理解していた。


妹のクロエはとても賢く、時に年上であるミラベルを遥かに凌駕する知識を見せつけたり、周りをまとめる言動や振る舞いをとる。

なのに全く姉を馬鹿にするような事はなく、いつも姉の自分を心底慕ってくれ、ミラベルの事が大好きと言ってわらってくれるのだ。


又ミラベルにとって、実は自分のピンクの髪は悩みの種であった。

早く大人になりたいと背伸びし勝ちな彼女にとって、ピンクの髪は子供っぽいことこの上ない。

兄のライリーの様に深いグリーンの髪や、弟のコリンの様に輝く金の髪が本当に羨ましかった。


だからそんな彼女にとって、妹のクロエの黒髪は別格だった。

(こんな綺麗な艶やかな黒髪が有るんだ……凄く大人の色だ。アタシもこんな髪に生まれたかったな……)

正直クロエが妬ましく思えた事もある。


そんな妬ましい髪の持ち主のクロエがよく口にする一言が

「お姉ちゃんの綺麗な髪」

だった。


クロエはミラベルのピンクの髪が何故かとてもお気に入りらしく、事あるごとにウットリとした顔で髪を触る。

そして言うのだ。

「良いにゃ~……きょんにゃ綺麗にゃ色にょ髪ぎゃありゅにゃんちぇ。ミヤベユお姉ちゃんみちゃいにゃ髪に生まれちゃきゃっちゃにゃ~アチャシ……」

次いで溜め息を吐くと、ミラベルの羨望の的である自分の黒髪を触り

「黒にゃんちぇ……ちゅまんにゃい。姉妹にゃにょににぇ……。アチャシ、もっちょ綺麗にゃ明りゅい色ににゃりちゃい……」

と項垂れるクロエ。


ミラベルとは全く正反対の感想。


そんなクロエは又色の選択が抜群にお洒落なのだ。

だからミラベルにとって、趣味のよいクロエが自分のピンクの髪を羨ましがってくれていることが、本当に誇らしかった。


クロエのお陰で自分のピンクの髪が好きになり始めたミラベル。


なのにいつものように笑って姉の髪を褒めながら撫でていた妹を、あろうことか自分の不用意な言葉で痛め付けてしまったのだ。


何とか妹の魔力の暴走を抑えることが出来た母に手を貸そうと近寄り、気が付いた妹を見た時、ミラベルは叫びそうになった。


クロエの顔には生気が全くなく、目はまるで光を無くし、体は凍り付いたように動かない。

一瞬ミラベルを見てくれたようだが、ただ目を向けただけのようで、無機質な目だった。

さながら魂の脱け殻の様だった。


そしてその後、妹は深い眠りについたのだ。


倒れたその日の内に、ディルク先生の小屋に運ばれたクロエ。

家で何故見ないのかと両親に聞くと、魔力が涸渇しかけていて1日誰かが見ていないとどうなるかわからないこと、クロエ個人の“特性”のせいで、魔力の涸渇しかけた体から他の魔力を求めて再び力が暴走する危険性がごく僅かだがあること、後今のクロエは非常に繊細な状態にあるので、静かな環境に置いてやる必要があることを聞かされたのだ。


女の子であるミラベルと母のコレットがクロエの体の清拭をしたり、服を着替えさせたりしていたのだが、最初ミラベルはクロエの体が氷のように冷たいのに衝撃を受けた。


温めなくて良いのかと母に聞くと、魔力涸渇による体温低下なので、このまま様子見をするしかないと言われた。


部屋もひんやりとしていてクロエが凍えてしまうと泣きそうになったが、体の生命活動が生きる最低限度にまで下がっているので、寧ろこの低温状態でなければならないらしかった。


ただ体の関節が固まらない様にだけはしなくてはならないとも言われ、定期的に体位変換や関節の運動をさせてあげるのがミラベル達の役目だった。


水分や栄養はディルク先生が騎士団の救護に長けていたので、先生が何らかの処置をしてくれていたようだった。


だが直ぐに目覚めてくれると思っていた妹はいつまで待っても目覚めない。


寝息すら立てず、ピクリとも動かず、深いビリジアンの瞳は固く閉じられたまま一向に開く気配がない。


妹の体に話し掛けることすら躊躇われ、ただ早く目覚めてと願いを込めながら彼女の体をそっと触れ、動かしていく。


1日に3回、そんな体位変換と関節運動を僅か5才のミラベルが母と共に黙々と妹に施していく。


時に絶望に駆られ目の前がぼやけてくるが、未だ小さな体で耐えている妹の前で涙を見せるわけにはいかなかった。


唇を噛み締めクロエを見つめ、自分の手先に願いを込めながら作業に没頭する。


そんな日々が半月余り続いていた。


『もう二度と……クロエの笑顔に会えないのかもしれない』


この半月、ミラベルの心に巣食った恐ろしい思い。


この思いに囚われた彼女は、食欲も睡眠欲も好奇心も心の輝き全てを翳らせ始め、次第に痩せていった。


両親、兄弟、教師も心配するが、彼女を励ますことが出来ずに居たのだった。





「おはようミラベル。……ああ、母さんが未だ起きてこないんだよ。悪いが寝室に様子を見に行ってくれないか?」

ガルシアが料理をしながら、ミラベルに頼む。


ふとミラベルは違和感を感じた。


「良いけど……でも母さん昨日遅かったの?起きてこないなら寝かせてあげた方が良いんじゃないのかな。疲れてるんだよ、きっと……アタシがその分お手伝いするよ。だから……」

と父に提案する。


いつもならミラベルの申し出を受け入れることが多いガルシアなのだが、何故か今日は違った。


「いや、母さんから起こすように頼まれているんだよ。だから今日は起こしてやらなきゃ。すまんが頼むよ、ミラベル」

と、どうしても寝室に行ってほしいと頼む。


「そう……わかったわ。……父さんはよく休めたみたいだね。何か昨日より元気な感じ……」

とちょっぴり皮肉な調子で、ミラベルが溢す。


ガルシアが苦笑しながら

「そうか?……かもしれんな。まあとにかく頼むよ。俺は朝御飯を早く作らないとな!」

と何故か益々元気になり、台所を所狭しと動き回る。


「アタシは少しで良いから……じゃあ行ってくる」

と溜め息を吐きながら、ミラベルが台所を出ていく。


ミラベルが出ていった後、ガルシアはイタズラっぽい笑みを浮かべ

「早く行っておいで……きっと元気になれるから」

と独り言を呟いた。


廊下を歩くと寝室から出てくる母と、バッタリ会った。


「母さん、起きて大丈夫なの?……疲れてるならもう暫く休んだ方が良いんじゃない?……アタシがその分お手伝いするし」

とコレットに近寄る。


しかし疲れていると思っていた母が、異様に明るい笑顔でミラベルを見た。


「おはようミラベル!大丈夫よ、母さんならスッゴく元気だから!父さんは台所に居た?……ん、この匂いはオムレツね。美味しそうな匂い~!ああお腹が空いて堪らないわ~!」


ここ暫くこんな元気な母を見た覚えがない。

ミラベルは目をパチクリとして

「母さん……元気だね。あ、まさかクロエに何か変化があったの?!」

と期待を込めて聞く。


しかし母は急に顔を伏せ

「それは……。ああ、アタシったらベッドにクロエの着替えを置いてきちゃったわ。ごめんなさいミラベル、アタシ父さんと交代してくるからベッドの上から取ってきてくれる?」

と視線をそらしながら言う。


僅かな期待は直ぐに消え

「そっか……。着替えを取ってくれば良いのね、わかった。……アタシ、後から行くわ」

と俯いてトボトボと寝室に近付く。


コレットが

「ええ、お願いね。急がなくて良いわよミラベル。ゆっくりで良いからね~!」

とスキップでもしそうな機嫌の良さで、台所に小走りで向かっていった。


「なんなの今日は……皆何か変な物でも食べたのかしら……全く。……クロエがあんな状態なのによく平気ね……信じられないわ」

と少し腹立たしく思いながら、寝室の扉を開ける。


腹立たしさから足音を立てつつ、ベッドに近付く。


その時だった。


「ミヤベユお姉ちゃん!」


ミラベルの体が固まる。


目の前の両親のベッドを慌てて見る。


ベッドの上にはクロエの着替えは無く、そこに居たのは小さな体。


目をパッチリと開け、満面の笑みでミラベルに笑いかけている。


「……え?……なん……で?」

フラフラとベッドに近付くミラベル。


「お姉ちゃん、おはよう!……ぎょ免にぇ、心配掛けちぇ。夜中に……」

クロエがミラベルに事情を話そうとすると

「なんでいるのっ?!」

と全くクロエの声が聞こえてない様に叫ぶミラベル。


クロエがにっこり笑ったまんま

「夜中に目ぎゃ覚めちゃにょ。遅い時間らっちゃきゃりゃアチャシ又直ぎゅに寝ちゃっちぇ……しょしちゃりゃ朝起きちゃりゃ父しゃん母しゃんちょ寝てちゃ~!……アチャシ、半月寝てちゃんらっちぇにぇ?ぎょ免にゃしゃい!心配しちゃよにぇ?」

と以前と変わらない調子でミラベルに話し掛ける。


「夜中に……目覚めたの?」

と抑揚の無い声で繰り返す。


「しょう。れも体ぎゃ中々動きぎゃ悪きゅちぇ。半月らもん、しょうぎゃにゃいけりょ~。あ、お姉ちゃんぎゃアチャシにょ面倒見ちぇくれちゃんれしょ!ありぎゃちょうっ!」

と少し両手を持ち上げてミラベルに拡げる。


「………った」


「え?……お姉ちゃん、ましゃきゃ怒っちぇりゅ?ぎょ免にゃしゃい!早きゅ目……」


「クロエッ!!良かったーーー!!」

と顔を歪ませて泣き笑いの表情になったミラベルがベッドによじ登り、クロエにしがみつく。


「わっ!……怒っちぇにゃいにょ?お姉ちゃん?」

としがみつくミラベルの背中をトントンしながらクロエが聞く。


「ごめんっ!ごめんね!アタシのせいでクロエがこんな目に……!アタシが魔晶石の話なんかしたから、力が暴走する程驚かせてしまった!……クロエの体が保たないって聞いて、アタシどうしたらって……!アタシのせいで……!!ウッ……ウ~ッ!」

と後は言葉にならなかった。


クロエのお腹に顔を埋め、背中に手を回し泣き続けるミラベル。


クロエは微笑み、ミラベルのピンクの髪を優しく撫でる。


「違うよ……アチャシぎゃ倒れちゃにょはアチャシにょせいらよ。アチャシ慌ちぇんぼらから……興奮し過ぎちゃらけ。ミヤベユお姉ちゃんは悪きゅにゃいよ?らから泣かにゃいれ……。アチャシは元気にゃんらから……」


「だって、アタシがっ……!」


「ミヤベユお姉ちゃんに会いちゃきゃっちゃ。……アチャシを心配しちぇ凄きゅ痩せちゃっちゃんらにぇ……綺麗にゃ髪も傷んじゃっちぇりゅ……ぎょ免にぇホンチョに。アチャシよりお姉ちゃんにょ体ぎゃ心配らよ……大丈夫にゃにょ?」

と気遣わしげにピンクの髪を撫でながら聞くクロエ。


「アタシなんてどうでもいいのっ!それより……」


「らめ!お姉ちゃん、何言うにょっ!アチャシお姉ちゃんぎゃ心配過ぎちぇ、又倒れちゃうきゃみょしれにゃいよっ!……アチャシを心配しちぇきゅれりゅにゃりゃ、お姉ちゃんみょ元気じぇにゃきゃらめらよ!にぇっ?アチャシはお姉ちゃんにょ笑顔ぎゃ大好きなんらから!」

とミラベルの頭をトントンと叩く。


「クロエ……クロエッ……クロエ~!」

と又ミラベルはしがみついて泣き声をあげる。



「ああ、やっぱり~!……ほらほらミラベル、クロエが困ってるでしょ?離してあげて。……この子お腹が空いてしょうがないんだって。久し振りに大好きな食事を食べれるんですもの、早く食べさせてあげましょ?……早くミラベルも食べてきなさい。美味しいわよ~。ご機嫌な父さんが腕によりをかけて作った朝御飯なんだから!」

と寝室の入り口からクロエの分の食事を載せたトレーを持ったコレットが笑いながら入ってきた。


「母さんっ!なんで言ってくれなかったの?!アタシてっきり未だクロエが目覚めてないんだって思ったじゃないっ!ヒドイ!」

とクロエから未だ手を離さないで身を起こしたミラベルが、コレットに文句を言う。


「ウフフ、嬉しい驚きでしょ?アタシ達も夜中に泣いちゃったわ!だから貴女も今までの気持ちを思いっきり驚かせて泣かせて、スッキリさせてあげたかったの。……ま、驚いた顔が見たかったんだけどね、本音は!ウフフ!」

と割合ひどい話をしながらベッドサイドのテーブルにトレーを置く。


「なにそれ!ひど~い!」

と膨れながらも笑うミラベル。


その後もミラベルが寝室を中々出ていこうとしないので、困ったコレットが

「もう!……貴女もトレーに朝御飯を載せて持っていらっしゃい。クロエと一緒にここで食べて良いわよ。……今日だけよ?」

とウインクする。


ミラベルはパアアッと顔を輝かせると

「うんっ!ありがとう母さん!直ぐ戻るから待っててよっ!……それと後から髪もちゃんと結んでほしいの。クロエが心配するから、良い?」

とコレットに頼む。


コレットが笑いながら頷くと、ミラベルは風のように台所に走り去った。


「良かった、ミラベルも元気になってくれたわ……クロエのお陰よ、ありがとう」

とコレットが嬉しそうに言う。


クロエは

「……アチャシにょ方ぎゃありぎゃちょうらよ……あんにゃに心配しちぇきゅれちぇちゃにゃんちぇ……アチャシは幸せ者らにぇ……ありぎゃちょう、母しゃん、お姉ちゃん」

と笑う。


コレットはクロエに笑い掛けながら優しく彼女の頭を撫でるのだった。


次話は明日投稿します。

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