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やりたい事をやる為に  作者: 千月 景葉
第一章 黒き森
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57. 両親の涙

お読みくださりありがとうございます。


主人公復活です。

両親が心底安心します。

「クロエ!!」


ガルシアとコレットが小屋に入るなり、クロエの横たわるベッドまで走り寄る。

二人とも半月程の間にゲッソリと頬が()け、(やつ)れた印象だ。


「……ああ……本当に目覚めてくれたのね……良かった……クロエ……!」

コレットはこれだけ言うのがやっとで、クロエのベッドの横にへたりこみ、クロエの手を握る。

その手を両手で包み込み、自身の頬に当て嗚咽を漏らす。


「……も、もう……目覚めないかもっ……貴女を失うって……!クロエッ!」

コレットは感極まった様に片手を離すとクロエの上に覆い被さり、声を殺して泣き始めた。


ガルシアもコレットの横に膝をつき、目を潤ませながらクロエの頭を撫で

「よく……よく頑張ったな……こんな小さい体で……!偉いぞ、クロエ……お前は本当に強い子だ……」

と震える声で彼女を褒める。


「母しゃん……父しゃん……ぎょ…免にぇ…心配しゃしぇちぇ…」

顔だけを両親に向け、ポロポロ涙を流しながら詫びるクロエ。


ガルシアが首を横に振り

「……俺達が甘かったんだよ……お前に話さなければならない話をしていなかったのは、俺が油断していたからだ。未だ1才にもならないからと……。お前は全然悪くないんだ。クロエ、すまなかった……」

とクロエの頭を撫で続ける。


クロエは父に微笑むと

「……アチャシ……慌ちぇんぼらから……一人じぇ……勝手に……興奮しちゃっちぇ……父しゃんにょ……しぇいじゃ無い……。アチャシぎゃ……悪いんらよ……ホンチョに……ぎょ免にぇ」

と呟く。


覆い被さって泣き続けるコレットが首を振り

「クロエは悪くない!……あんなに驚かせたのはアタシよっ!……アタシの不注意が貴女をこんな目に……!」

と声を絞り出して懺悔する。


「母しゃんにょ……聞きょえちゃにょ」


「……え?」

コレットが顔をあげる。


クロエがコレットに微笑みながら

「母しゃんにょ声……落ち着いちぇ…ちぇ…。目を…開けちぇ……ちぇ」

と途切れながら話す。


「アタシの……声?」


「アチャシ……死にゅきゃみょ……しれにゃいっちぇ……れも……母しゃんにょ声ぎゃ……アチャシを……助けちぇ……きゅれちゃ……。らから……ありぎゃちょ……母……しゃん」


コレットはクロエの言葉を聞いて更に顔を歪め、何も言えずにただ彼女を抱き締める。


ディルクがコレットとガルシアの肩を叩く。


「さあ……もう大丈夫じゃ。……今はこのままこの子をここで休ませるか?それとも家に連れて帰るか?目を覚ましたから動かしても大丈夫だが、お主等の判断に任せる。どうするかの?」

とディルクは目の前の2人に問う。


コレットがクロエを壊れ物を持ち上げるようにそっと抱き上げ

「今、連れて帰ってよろしいですか……?アタシ離したくない……勝手な事を言ってすみません……先生」

とディルクを見つめる。


ディルクは頷いて微笑む。


クロエを抱き締めたコレットの肩をガルシアが優しく抱き、ディルクがクロエが寒くないようにブランケットを掛ける。


「……暫く無理は禁物じゃ。……良いな、クロエよ」

とディルクが釘を指す。


「はい……しぇんしぇ…ありぎゃちょ……ぎょじゃいましちゃ……」

とディルクに微笑む。


そしてそのまま又目を閉じた。


「……クロエ……?」

一瞬コレットが顔を強張らせるが、ガルシアが優しくコレットを慰める。


「……まだ目覚めたばかりだ。俺達の為に必死に頑張ってくれてたんだよ、きっと。……朝になれば又目を開けてくれるさ。さあ、先生にも休んでいただかなくてはな。先生本当にありがとうございました……」

と話し、ガルシアは深々とディルクに頭を下げる。


コレットもクロエが苦しくないよう加減しながら、ディルクに頭を下げる。


暇ごいを告げた2人は肩を寄せ合いながら、腕の中に漸く戻って来てくれた宝物をそっと家に連れ帰って行く。


その後ろ姿を優しい目で見守っていたディルクが

「さて……ジェラルドにも早急に知らせんとな。さぞかし心配しておる事じゃろうて。……まあ何はともあれ、良かったわい……」

と心底安堵した声で呟いた。




家のガルシア達の寝室。


2人は自分達の大きなベッドの真ん中に、連れ帰って来たクロエを横たえる。


クロエは目を閉じているが、今までの昏睡状態とは違い、心持ち柔らかな表情で微かな寝息を立てている。


その確かな“生”の息遣いに、コレットは又唇を震わせる。


「夢じゃない……戻って来てくれたんだわ、やっと……もう、貴女を失うのを怖れなくて良いのね……ありがとう、クロエ……本当によく頑張ってくれたわね……ありがとう……」


コレットはそう呟きながら、小さな体を撫で擦る。


ガルシアもクロエを見つめながら、優しく小さな頭を撫でている。


「……本来今回の力の暴走は、僅か1才の子供の体で耐えられるものではなかった筈なんだ……このクロエだから、耐えられたんだ……。本当に強い子だ……心も体も。俺達の心まで救ってくれたよ……ありがとうな、クロエ」


ガルシアの言葉に震えながら頷いたコレットは、涙に濡れた瞳でガルシアに笑い掛ける。


「さあ、アタシ達もクロエに触れながら眠りましょう……子供達に早く教えてあげなければね。朝が待ち遠しいわ……どんなに喜ぶことか……!」


ガルシアも微笑む。


「そうだな。特にミラベルはあれからめっきり塞ぎこんで、痩せてしまったからな……見ているのが辛かった。……クロエが目覚めたのを知れば、きっとあの子も直ぐに元気になってくれる。……さあ寝よう。朝から忙しくなるぞ?……漸く家族揃ってのいつもの日々が戻ってきたんだからな」


2人は各々クロエの手を握りながら、体を横たえる。


“川”の字になった3人は半月ぶりの幸せな眠りについたのだった。






朝。


まず目覚めたのはガルシアだった。


起きてから、直ぐ隣で眠るクロエの息遣いを確認し、ホッと溜め息を吐く。


妻は“末娘”の頬に自らの頬を寄せ、微笑みながら眠っている。


半月ぶりにやっと深い眠りにつけたのだろう。

妻の寝息は安定し、ここ暫くの様にクロエを失う悪夢を見てうなされることも無い様だ。

愛する妻と“末娘”の幸せそうな寝姿に自然と笑みが溢れた。


妻を起こすのが忍びなかったガルシアは、彼女を起こさ無いようにそっとベッドから出た。


そのまま足音を立てないように静かに移動し、寝室を出る。


「……さて、ご飯でも作るか」


心なしか体も軽い気がするガルシアは、鼻唄を唄いながら台所に向かう。


歩きながら家の中が昨日より明るく見えることに気付く。


「……俺も相当塞いでたんだな……こんなに視野が変わるとは。……これからは気を引き締めないと。二度とあんな日々はごめんだ。……今日からは油断しない。“家族”は俺が守らなければ……」


決意も新たにガルシアは呟き、肩をぐるぐると回すストレッチをしながら、台所に入っていった。


暫くして目覚めたコレットは、自分が寝ながら娘の顔に頬をくっ付けていたことに苦笑した。


そしてクロエの寝顔を見て更に微笑み、その愛くるしい頬を愛おしそうに撫でる。


するとクロエの瞼がピクピクと動き、やがて目を開けた。


「……あらやだ、起こしちゃったわね……ごめんねクロエ。おはよう」


コレットは謝りながらも、彼女を起こしてしまった自らの手を頬から退けようとはしなかった。


「おはよう、母しゃん……あれ?きょきょはろきょにゃにょ?」


クロエはパッチリ開けた瞳で辺りを見回している。


「アタシ達の寝室よ。……どうしても貴女と離れたくなくて……あの後ガルシアと貴女を挟んで休んだの。……体はどう?貴女を抱き上げても大丈夫?……て、夜中に抱き上げて連れ帰って来たんだけどね。……体、辛くない?」

心配そうにクロエに聞くコレット。


「母しゃん……体は大丈夫なんらけろ……辛い事ぎゃありゅにょ」


クロエが深刻そうな顔でコレットに話すと、コレットが真剣な顔で聞き返す。


「どうしたの!まさか又……!」


「……お腹空いちゃにょ……凄きゅ。何きゃ食べちゃい!」


コレットは一瞬固まった。


そしてクッと笑うと、クロエの頭を優しく撫でる。


「……貴女が戻ってきたって実感がするわ!待ってなさい、ここまで朝食をお持ちしますわ、クロエ様!……まだ体を支えられない筈よ。アタシが来るまで寝てなさいね。……あら?ガルシアがいないわ……きっと朝食を作ってくれてるわね。じゃあ早いとこ貴女の朝食を貰って来なきゃ!」

と明るく言い、ベッドから立ち上がる。


寝室の扉を開けてからベッドのクロエに

「良い?勝手に立ち上がらないのよ。直ぐ戻りますからね」

と再度言い置いて、コレットが出ていった。


「あ~……お腹空いちゃ……。生きちぇりゅにゃあ、アチャシ!早きゅ食べちゃい~!」


どんなに生死の境をさ迷っても、感動の復活を果たしても、クロエはクロエ。


やはり彼女には、食事が一番の薬なのだった。


次話は明日投稿します。

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