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やりたい事をやる為に  作者: 千月 景葉
第一章 黒き森
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56. クロエの中

お読みくださりありがとうございます。


主人公、どんだけ驚いたんでしょう。

驚くほど長い期間寝込んで、意識を失っていました。

その間の彼女の心の中を書いてみました。

「えっ……と、アタシは又どこに居るんでしょう……夢見てんのかなぁ?」


 クロエは変な場所にいた。

 家でも小屋でも森でも畑でもない。

 “守るべき地”でもなかった。


 つまりクロエが知っているこの異世界の場所の何れでも無い。


 だから彼女はこれは夢だと考えた。


 一人で大して歩けないし、リアルで見知らぬ土地に行く術は彼女には無かったから。


「でもなんか夢にしては妙なんだよねぇ。夢見てる最中にこれ夢だ!って冷静に考えてる時点で変だし。……まぁ夢だって考えた一番の理由は目の前のコレなんだけど」


 目の前の“コレ”。


 クロエの目の前には大きな大きな“穴”がポッカリと口を開けているのだ。


 周りは何もなく霧がかかったようにぼやけている。


 目の前の“穴”だけが存在感を示すこの空間。


 穴を覗き込むと底が見えず、ただひたすら下に向かって空洞が在るのみだ。


 正直焦らなければならない状況にいるのかもしれない。

 しかし何故かクロエは暢気だった。


「まぁ夢ならいつか覚めるだろうし、何にもないとこ歩いてもねぇ?……取り敢えず座って様子を見るか……よいしょっと」


 そう呟きながら穴から少し離れた位置に腰を下ろす。


 不思議なことに底無しの穴が目の前に在るのに、恐怖心が全く涌いてこない。


 ただ「変なの~」って感じるだけだ。


「アタシって自分の事いつも変だ変だって考えてるから、変なものに妙な親近感が涌くのかも。それにさ、いつもならこんな穴の近くで座るなんて絶対にしないわ。落ちること想像したら怖くて座れないもん。でも今は何でか、この穴は怖くないんだよなぁ、不思議……」


 誰に聞かせるわけでもない独り言を普通の声のトーンで淡々と喋る。


 退屈な筈なのに退屈とも思えない。


 不思議と落ち着いている自分が居た。


「アタシ……確か赤ちゃんだよね。なのに夢だと赤ちゃんじゃないんだ。普通に発音できてるし。いつも滑舌こうなら苦労しないのに!目が覚めたら又さしすせそとたちつてと、言えないんだろうなぁ……」

 と今のリアルな自分の目下の課題、滑舌について愚痴る。


 足を抱えて“三角座り”をしている自分の手足が見える。


 服は見えないが、霞がかかって膝上や体幹は上手い具合にぼやけている。


 周りの景色と一緒だ。


 ただ1つ自分の体のパーツの中で異様な存在感を放つモノがあった。


 “髪”だ。

 真っ直ぐで艶やかな黒髪が座った自分の体にまとわりつく様にある。


 自分の髪をおもむろに持ち上げる。


「はぁ……お姉ちゃんとか家族皆カラフルな髪色なのに、何でアタシ前と変わらない黒髪に生まれたんだろう。

 ……いや、これはこれで綺麗なんだよ?スッゴいキューティクル完璧だし真っ直ぐで、まるで前の世界のシャンプーのCMに出られそうな位だもん。

 色だって、こんなベルベットみたいな完璧な黒って見たこと無い。漆黒?純黒?何て言ったら良いんだろ……綺麗な黒だとは思ってるけど。

 でも!どうせならもっとファンタジーな髪色が良かったのに!前の世界では真面目で気が弱かったから、髪なんて染めた事無かったんだよ!

 今は色んな髪色が普通に在る世界に居るんだから、ミラベルお姉ちゃんみたいにはっちゃけたピンクとか、せめて金髪とかさー!少しは冒険した髪色に生まれて来いよアタシ!……何で前と変わらない黒なんだよぉ。

 ……文句言ってもしょうがないんだけどさ。ちぇっ」

 と一頻り文句を垂れる。


 そんな感じで座っていると、目の前の穴が急に光り出した。


「きゃっ!な、何?!何が起こるの?」


 思わず座ったまま後ずさる。


 すると穴から光の柱が出てきて、上に向かって伸びていく。


 クロエは座ったまんま、その光が伸びていくのをただ見守る。


「……この光は何なんだろ。でも怖くない。知らないけど知ってる光だ。……この光って多分アタシだ。何かそんな気が凄くする」


 伸びていく光を見ながらそう呟くクロエ。


 暫く光の柱を見ていると急に色が変わり出した。


「えっ?まさか光のショーでも見せてくれるの?」


 暢気な感想をこぼすクロエ。


 しかしそんな感想は直ぐに消えた。


 柱が色を無くし消えてしまい、次いで目の前の大穴が黒く陰り出した。


「えっ?!何で!……イヤッ!これは駄目!何か分からないけど、この穴はいけない!在っちゃいけない穴だ!お願い、塞がって!どうしたら消えるの?!」


 立ち上がって穴の縁まで走り寄る。


 さっきまで怖くなかった底無しの穴。


 でも今は全く違うものに変化した。


 恐ろしい程に深く、奥底でナニかが渦を巻いている。


 まるでこの世の全てを呑み込んでしまいそうな恐ろしい“闇”が見える。


 クロエは思わず後ずさる。


「いや……いやだ!こんなのアタシの“中”じゃない!コレは全てを奪うモノだ……絶対に在っちゃいけないモノだ!どうしよう、どうしたら元の穴に戻せるのっ?!」


 焦って周りを見渡す。

 しかし周りの景色はさっきと変わらず、霧がかかったまんまだ。


「どっかに非常ボタンとか無いの?!アタシが駄目だって悲鳴あげてんのに、何でこの穴変わらないの?!

 アタシの夢でもアタシ自身でも何でも良いから、とにかくこの穴を何とかしなきゃっ!

 でないと絶対にまずいって!」


 穴の周囲を走って、この恐ろしい変化を何とか止める方法を探す。


 しかし何も見当たらず、何も変わらない。


「最悪の場合……アタシがこの穴に飛び込めばコイツ止まるかな?でも、それやっちゃうと多分アタシ……死んじゃう気がする。

 その位コイツは、この黒い穴はヤバい……。

 ん?な、何?!上から何か来た!」


 クロエは上を見る。

 上から金色の優しい温かい光が降り注いでくる。


「わぁ!綺麗……それに優しい光だ。アタシじゃないわ。何だろう……。

 あっ!そうじゃなくって、まずい!

 この光、このままじゃコイツに取り込まれてしまう!

 ……ダメッ!降ってきちゃダメッ!

 あなたがコイツにやられてしまうっ!

 早く止めて!逃げてーー!」


 声の限りに上に向かって叫ぶクロエ。

 しかし“優しい光”は降り注ぐのを止めず、やがて目の前の恐ろしい穴に吸い込まれ始めた。


「ダメ……ダメだよ……止めてっ!お願いこの光を呑み込まないでっ!

 アンタ、アタシなんでしょ?!オマエはアタシなんでしょっ!

 なら言うこと聞きなさいよっ!アタシが嫌がってるのに何で止めないのよっ!

 ……ダメ、ホントに止めてよ……アタシがアンタに飛び込むから、この光を離してーー!」

 と髪を振り乱して叫びながら、クロエは穴に飛び込もうとする。


『 落ち着いて 』


 フッと聞こえたその声に、今まさに飛び込もうとしたクロエの足が止まる。


「えっ、今の……母さん?」


 クロエは上を見上げる。


『お願い……落ち着くのよ……クロエ』


 優しい声が聞こえる。


 クロエは口元に手を当て、呟く。


「まさか……まさかこの優しい光は母さん?!いやっ!絶対に駄目よっ!

 母さんを呑み込むなんて死んでもイヤッ!

 母さん!逃げて!アタシを放っておいて!

 ……オマエなんかに母さんを呑み込ませてたまるかっ!

 オマエはアタシが止めるっ!アタシを呑み込んで消えろっ!」


 クロエは再び穴を睨むと、一瞬目を閉じ気持ちを固め、又目を開くと穴に向かって飛ぼうとする。


『 目を開けて 』


 又聞こえた母さんの声に再び止まる。


 上を見上げたクロエは顔を歪ませ、泣きそうになりながら母に叫ぶ。


「母さん……母さん、母さんっ!助けて!アタシ、目を覚ますからっ!」


 クロエがそう叫ぶと又目の前の穴に変化が起こった。


 黒く陰って底知れない穴の恐ろしさを吹き飛ばす勢いで、一番最初に出てきていた光の柱が底からグーンと伸びて来たのだ。


 優しい“母”の光は光の柱に押し戻されて、遥か上に消えていく。


「母さん……良かった……」


 次いで光の柱は穴の陰りを全て取り込んで行く勢いで太くなっていく。


「あ、あれ?アタシの光、今度はめっちゃ勢いがあるんですけど?!えっ、えっ?……ヒャアアーー!」


 穴を塞ぐ勢いで太くなった光の柱はやがて穴の周囲とそこに立っていたクロエをも呑み込んでいった。






「母……しゃん?ろうしちゃにょ……?」


 クロエが目を覚ますと、傍らに母が座っていた。

 顔色が悪いがクロエを見てとても安心したように微笑んでいる。


 やがて傍にいたディルクがミラベルを呼び、母を連れていくように指示している。


 母にお礼を言いたいのに、何故か体が全く動かない。


 近寄ってきたミラベルが泣きそうな顔でクロエを見たが、直ぐに母に肩を貸して部屋を出ていく。


 クロエはディルクに何が起こったのか聞こうと思うのだが、体がだるくて口も満足に動かない。


 ディルクが暫く休むようにとクロエに言ってきたので、瞼が重くなってきた彼女は素直に目を閉じた。






 又気付くとさっきの空間。


 しかし前と違うことが1つ。


 穴が小さくなっていた。


 さっきまで湖のように向こう側が遠かったくらいに大きかった穴。


 今はまるでどこにでもある水溜まり位だ。


「……こりゃ又えらく小さくなっちゃったね。う~ん、底は深いけど黒くないから、まずは一安心だけど……まさか小さすぎても良くないのかな?」


 水溜まりの穴の周りを歩きながら、クロエは首をかしげる。


 そしてもう1つ気付いてしまった。


 寒いのである。


「な、何かさっきより寒い?ものすごく寒いっ!何か羽織るもの羽織るもの!……やっぱり何にもない~!寒い寒い……」


 じっとしていられなくて、水溜まりの周りを走り回る。

 足が冷たくなり、足先を手で暖めようとしゃがみこんで足先を掴もうとする。


 するとしゃがんだ際に水溜まりの上に頭の先が掛かったのだが、何故か頭の先がフワッと暖かく感じた。


「……アレ?ぬくい?頭が(ぬく)いな。もしかしてこの穴から……?」


 恐る恐る穴の上に手をかざすと、春の風のような暖かい風が下から吹き上がっている。


「やっぱりそうだ!……じゃあこの穴を拡げたら暖かくなるんじゃない?だってさっきまでは全く寒くなかったんだし。

 よおし、穴を拡げるか!

 だけど、何にも道具が無いのが辛いな……。手でやるしかないか……はぁ」


 クロエは穴の横に座り、穴の縁に手をかける。

 暖かい風が手に当たり、少しホッとする。

 その暖かさに励まされ、穴の縁を手でペタペタ触る。


「変な感じだな。硬くもないし、軟らかくもない。何だこの素材?足元もコレなんだけど……手で崩せるんだろか?」


 穴の縁を擦ってみる。

 何となくだが削れた気がする。


 今度は指でカリカリと掻いてみる。

 明らかに跡がついて削れているのが判る。


 手を熊手の様にして思いっきり掻いてみる。

 めちゃくちゃ削れた。


「何?!めちゃくちゃ脆いじゃないの!コレは楽勝だわ!よおし、やる気出て来たぞぉ~。アタシ頑張れ!」


 調子づいたクロエはしゃがみこんだまま、穴をせっせと擦って削って拡げていく。


 しかし軟らかいし簡単に崩れてはいくのだが、必死に削ってもまだ水溜まりがお子様ビニールプール位にしか大きくなってない。


「はぁ……ちょっと休憩~。疲れちゃった……」


 ゴロンッと寝転がって休憩する。

 未だ周りは冷え冷えとして寒い。

 足が冷えると辛いので、穴の縁に足が掛かるようにする。

 フワッと暖かい風が足先を包む。


 ホッと溜め息を吐くクロエ。


 寝返りをうちながら、ダラダラする。


「まだこんだけだよぉ……大体どれだけ拡げたら良いのよ?……まさか、さっきの湖位まで拡げなきゃなんないの?!ムリムリ、ぜーーったいに無理!何年掛かるか判んないよ~!」


 さっきの意気込みは何処へやら、グダグダと愚痴り始めるクロエ。


「な~んか眠たくなってきた……このまま寝ちゃおうかな……疲れたし」

 と丸くなって目を閉じようとする。


『 クロエ 』


「!……今の声……ライリーお兄ちゃん?」


 慌ててガバッと起き上がるクロエ。


「ど、どこ?お兄ちゃん、どこなの?!まさか上に居るの?」


 立ち上がり上を見る。


 もちろん兄の姿どころか何も見えず、霧がかかったようにぼやけているのは全く変わらない。


「……そうだよね。居るわけ無いよ。気のせいか……」


 ペタンと力が抜けたように座り込む。


「第一、今アタシ赤ちゃんじゃないし……ライリーお兄ちゃんが今のアタシを見ても気付く訳無いよ。それに見えはしないけど、実際は何にも着てないから、やっぱまずいよねコレは、うん……」


 クロエは又気が抜けて寝転がろうとした。


『 君を信じてる……だから早く目を覚まして……クロエ 』


 ビクッと飛び上がるクロエ。


「お兄ちゃんが心配してる……アタシまさか寝込んでるの?いけない!こんなことしてる場合じゃないわ!早く穴を拡げて戻らなきゃ!皆心配してるわっ!ライリーお兄ちゃん、待ってて!直ぐに戻るわ、アタシ頑張る!こんな穴、直ぐに拡げてやるっ!」


 クロエはうって変わってやる気に充ちた顔つきになり、プール大になった穴に手を掛け必死に削り出した。


 削れてはいくが、遅々として進まない穴の拡張に業を煮やし

「もうっ!お兄ちゃんが心配してるってのにっ!早く拡がれっての、このクソ穴がっ!」

 と穴の縁を渾身の力でダンッ!と踏む。


 すると足で踏んだ場所がメコッ…と凹み、ガララッ…と崩れていく。


「うわっ……あっぶな……!でも一気に拡がった!よし、コレでいくわよっ!さっさと片をつけてやる!待っててーーっ!」


 ドガッ!ドゴッ!ガラララ……ッ!

 バキッ!メコッ……ガララッ!


 およそ女性らしからぬ姿で穴の縁を次々に踏み崩して拡げていく。


 お子様ビニールプール大が25Mプール大に、25Mプール大が溜め池大に、溜め池大が野球場大に……。


 鬼気迫る表情で足元をすごいスピードで踏み崩していくクロエ。


 そして野球場大がドーム球場大位に穴が拡がった時。


 又あの光の柱が穴の底から伸び上がって来た。


「あ、又あの光!……っていつも突然過ぎるんだってばーーっ!……」


 クロエの叫び声を最後に穴は光の柱に呑み込まれていった。






「クロエ……クロエ、儂が判るか?」


 クロエが目を覚ますと、直ぐ近くにディルクの顔があった。


「しぇ……んしぇ…?……アチャシ……」


 ディルクはハァと大きな息を吐くと、クロエの頭を撫でる。


「よく頑張ったの……クロエ。あぁ未だ慌てて動かん方が良い。体が硬直しとる筈じゃ。今は夜中でな。ちょっとあっちの家に伝えに行ってくるからこのまま休んでいなさい。良いね?」


 ディルクが急いで出ていこうとすると

「しぇん……しぇ、まっ…ちぇ。アチャシ……いちゅきゃりゃ……寝ちぇ」

 と掠れた小さな声が追ってきた。


 ディルクはクロエの元に近寄り

「……余り驚かせたくは無いんじゃがな……其方は倒れてから半月、意識が戻らんかったんじゃ。

 ……大丈夫、世話はコレットやミラベルがしてくれておったし、体は綺麗にしてあるぞ?

 儂はガルシアとコレットと3人で交代で見守っておったんじゃ。……しかし目覚めてくれて本当に良かった……。

 ああ、頼むから今度は意識を失わないでくれぬか?暫くは頑張って起きててくれ。直ぐに両親を呼んでくるからの?寝てはならぬぞ」


 そう言い置いて、老教師はあたふたと小屋を後にする。


(半月も寝てたんだ……皆に心配掛けちゃったな……でも良かった、やっと戻って来られたよ。本当に良かった……)


 クロエはディルクの言い付け通り、少しずつ体を動かす。


 確かに重いが、体は硬直している感じが余りしない。


 きっと定期的に体を動かしてくれていたんだろう。


 筋力は落ちているようだが、クロエはあんまり気にならなかった。


(良かった……戻ってこられて……)


 クロエは涙を堪えることが出来なかった。


 ディルク達が戻って来るまで、彼女は声も出さずただひたすらポロポロと涙を流していたのだった。


次話は明日か明後日投稿します。

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