55. 家からのSOS
お読みくださりありがとうございます。
主人公、知恵(?)熱出して倒れました。
家族は彼女の回復を祈るだけです。
体に変調を来す程の衝撃でした。
森の家がクロエの“暴走”で大騒ぎになる少し前。
畑の男性陣3人はのんびりと畑仕事をしながら、汗を流していた。
コリンは最初土を触りたがらなかったが、本当に最初の一時だけで、直ぐに土に慣れていった。
土の中から出てくる小さな生き物を見ては歓声を上げるコリン。
「兄ちゃん、コレ何?!変なのいっぱい居るよ!うわっ、グニグニ動いてるよ~、面白ーーい!」
と自分の指で摘まんだり、手の平に載せたり。
ライリーはコリンの手の平を覗きこむと
「ミミズだな。そいつは土を食べるんだ。で、又それを排泄して土を肥やしてくれるんだ。畑にとって大事な生物だから、ちゃんと元の所に帰してやるんだぞ。ここの生物達を殺してはならない。分かったな?」
とコリンに話す。
「うん、わかった!お前土を食べるのか~、土って旨いのか?僕はお菓子のが好きだけどな!……じゃあね、又頑張って土食えよ~」
とライリーの言葉に頷いて“ミミズ”に話し掛けた後、土の上に“ミミズ”をそっと置き、土をふんわり優しくかけてやるコリン。
どこの世界でも大抵の男の子は虫や小さな生き物が好きなのである。
コリンもどうやらそのようだ。
「おい、コリン。ここの草を竈の近くまで運んでくれないか?僕が草を抜くから、お前が運び役だ。この箱に入れて運ぶんだよ。解るな?」
とライリーがコリンを手招きする。
「うん!あの草の山に置けば良いんでしょ?解るよ。箱はコレだね」
とライリーの指差した箱を持ち上げて草を入れ始める。
箱がいっぱいになってから持ち上げると思いの外箱の重さがずっしりとコリンにかかる。
「えっ?!こんなに重かったっけ?草もこれだけ有ると重いんだなぁ……よいしょっ……と!」
コリンは箱を持ち直し、竈の方にトコトコ歩き出す。
コリンは3才にしては体つきががっしりしていて大きい。
ガルシアの血が濃く出たようだ。
因みにライリーも体は大きめだが、どちらかと言うと細身である。
将来的にはコリンの方が体は大きくなるだろう。
ガルシアが鍬を振るいながら
「ゆっくりで良いからな~。コリン転けるなよ~」
とコリンを叱咤激励(?)する。
コリンは笑いながら
「転けないよ~!畑の苗を潰しちゃったら大変だもん!ゆっくりやる~」
と足元に気を付けながら、畑の畝と畝の間をゆっくり歩く。
コリンの聞き分けの良い返事にガルシアとライリーも優しく頷く。
コリンにとって畑は未知の世界に等しい。
元はコリンの拗れたオムツ外しから始まったあのお尻ペンペン騒ぎ。
結果家で1日居るのは良くないと、又ガルシアやライリーと男のふれあいをもっと持つ意味合いも兼ねた畑の毎日のお手伝いだったが、コリンには驚くほど有効な方法だった。
コリンは畑仕事が楽しくて仕方無いのだ。
草が昨日より大きくなってたり、抜いた筈の土に又草が生えてきてたり、畑は毎日変化が目に見えるので楽しい。
ガルシアやライリーはいつも草を見て
「早い……ホントに気を抜けないな、草だけは参るよ、全く」
と溜め息を吐きながら抜き始めるのだが、コリンは違う。
「えーー!お前等凄いなっ!もうでかくなったのか?!僕やクロエは昨日から全然変わらないんだぞっ?すごーい!何食ってんだ、ホントに?よおし、又抜いてやるからな、負けないぞぉ!」
と腕捲りしながら鼻唄交じりに抜き始める。
綺麗になっていく畑の畝を見て
「へへっ!今日も僕のが強かったな!又生えてこい、抜いてやるからな~!さて、次の草は……と」
と全く草むしりが苦にならない。
又普段見ることができない父や兄の力強い仕事振りに、コリンは目を見張る。
父の振るう鍬が硬くなった畑の土を軟らかく砕いていき、兄が振るう土篩で土が更にフカフカになっていく。
それを父と兄が各々の鍬で見事な畝に仕上げていく様は見ていて気持ちが良いのだ。
コリンは兄が振るった後の土の塊を自分の手や小さなスコップで更に潰していくが、小石を見付けると小さな箱に入れなければいけない。
土が周りにくっついていて判らないが、この“守るべき地”からは宝石や魔晶石が頻繁に出てくる。
後から小川の水で洗い、汚れた水は畑に掛けてやり、出てきた稀少な石類は種類によって扱いを変えなければならない。
実は稀少な石類はこの“守るべき地”に埋めたり小川に沈ませておくと、大きく育っていく。
だから1つたりとも、わざと砕いたりしてはならない。
魔力に満ち溢れた“守るべき地”ならではである。
特に魔晶石の場合、属性や種別によって埋めたり小川に沈ませたり、中にはそのまま畑以外の“守るべき地”の野原に撒いたりする物もあるのだ。
魔力を蓄える魔晶石はその魔力の属性により薄く色付いている。
その色でガルシアとライリーがどう扱うか判断し、処置の仕方を決める。
又輝きだして色がとても濃くなった魔晶石は土が付いていても解るので、コリンは触らず、父や兄を呼ぶ。
魔晶石が魔力を満タンに蓄えて、飽和し始めている証拠だからだ。
そういう石はガルシアが専用の箱に入れて持ち帰る。
危険な状態でも有るからだ。
“守るべき地”にとっては別に危険でも何でもない魔力飽和状態の魔晶石。
しかし人間や畑の植物には影響が大きすぎるので、先ず畑からは除去しなくてはならない。
その上で割合小さな飽和石なら畑や森の家で使い、大きく立派な石なら前領主であり村長のジェラルドに判断を仰ぐ。
……実はこの魔晶石がフェリークの“陰”の特産品であったりする。
魔力を必要とする者は大勢居る。
そこで魔力飽和状態の魔晶石の出番となるのだが、魔晶石は中々市場には出回らない。
あっても値段がとても手が出ない代物だ。
売っているのは宝石商や武器商。
そう、州都アラベラでライリーが見た番人の居る大店舗。
ああいう店でしか扱われない。
宝石商でも普段は店の奥に置いてあって魔晶石に関しては一定の顧客としか取引しない。
それほど貴重な石であり、或意味危険な石でもある。
他の領地でも産出はする魔晶石。
だがフェリーク産は品質が群を抜いて良いのだ。
だからこそ昔この地を手に入れたがった貴族も居たのだが、既に語った通り“呪い”とも言うべき状況に陥った事から今では手を出す不埒な貴族はいない。
今現在は、であるが。
しかし畑での男3人の平和な時間は、ガルシアの一声で突如消え去った。
「……まずい!ライリー、コリン!家に戻るぞ!後片付けもいらん!直ぐに出る、急げっ!」
鍬を投げ捨て荷車もそのままにコリンを抱き、ライリーの手を引く。
「父さん、何でー?!僕歩けるよ!」
とガルシアが荷物のように脇に抱え上げて運ぶのを止めようとして、コリンが声を掛けると
「……口を閉じておけ、舌を噛むぞ」
と低い声で命令された。
その声のトーンに、コリンが慌てて口をつぐむ。
ライリーは父に付いていくのに精一杯で、肩が引っ張られて痛むのも我慢して走る。
しかしガルシアに早々付いて走れる筈もなく、彼も小脇に抱え上げられてしまった。
「あ、兄ちゃん僕と一緒!」
「……うるさい、一緒にするなバカ」
子供2人を抱えて走っているのに、息も切らせずにガルシアが走る。
父の驚異の身体能力もさることながら、尋常ではない“何か”が家で起こったのだと2人にも分かった。
普段なら森に入ってから20~30分は歩く筈の道を、ガルシアは2人を抱えて僅か10分程で走り抜けて家に着いた。
扉前に子供達を下ろし
「暫く家に入らずここで待ってろ。俺が声を掛けるまでだ。分かったな、2人とも」
と言い置いて、ガルシアが家に入る。
ライリーはコリンの肩に手を掛けて、扉をじっと見つめる。
「兄ちゃん……何が起こったの?」
「分からない……だが油断するなよ。直ぐに動けるようにしておくんだ……良いな?」
コリンが兄の真剣な声に黙って頷く。
そうやって父を待つこと暫し。
やがて扉が開き、緊張が幾分取れた顔でガルシアが出てきた。
「2人ともすまん。待たせたな。入って良いぞ。もう大丈夫だ」
とガルシアが微かに笑いながら、息子2人を中に入れる。
「父さん、一体……?」
ライリーが父に尋ねようとすると
「ああライリー、済まないが話は後だ。母さんが今日は体を動かせないから、家事をしなけりゃならん。今ミラベルが母さんの世話をしてくれている。お前達も手伝ってくれ」
とガルシアが手短に現状を伝える。
コリンが
「母さん、病気なの……?」
と泣きそうな声で聞いてきた。
ガルシアはフッと表情を緩め
「病気じゃない、ただ疲れてしまったんだ。明日には元気になるから、そう心配しなくて良い」
とコリンを慰める。
「僕、母さんのとこに行っても良い?」
とコリンが聞くとガルシアが頷いた。
コリンはそれを見ると直ぐに靴を脱ぎ捨て、母の休む寝室に走っていった。
ガルシアとライリーはコリンの姿を目で追う。
「ライリーは風呂の準備を頼む。俺は夕食の準備に取り掛かる。忙しいぞ」
と台所に向かうガルシアに
「……父さん、クロエは……?」
と震える声でライリーが聞く。
ガルシアが足を止める。
「……今は眠っている。恐らく今日は目覚めないだろう。ディルク先生が付いていて下さっている。後からクロエを小屋に運ぶことになっている。……大丈夫だとは思うが念のためだ。もし力が暴走してしまったら、次はコレットには抑えられないらしい。俺か先生がクロエに付く。目覚めてくれたら一安心なんだが……。」
ガルシアが振り向き、ライリーに言う。
「クロエは……死んだりしないよね?」
恐る恐るガルシアに問うライリー。
ガルシアはライリーを見つめて
「恐らくは。……だがまさか1才にもならない体で力が暴走しかけたとは……俺も聞いたことがないんだ。俺達の油断だった……。先生の見立てでは命には別状は無いらしいが、心の問題があるからな……クロエはひどく混乱していたらしい。未だ詳しくその時の状況をコレットやミラベルから聞けていないんだ。コレットが目覚めたら話を聞く。ミラベルは……今は聞かない方が良さそうだ。さっき少し話を聞こうとしたら、顔を強張らせて自分が悪いと言って俯いてしまってな……お前も気を付けてくれ。さ、早く動かないとな。ライリー頼むぞ」
と言うと台所へ向かおうとする。
ライリーは慌てて靴を脱ぎ、ガルシアに追い付くと腕をつかんで
「クロエの様子を知りたいんだ。父さん」
と訴える。
ガルシアがライリーを見て溜め息を吐くと
「……無事だから我慢しろって言っても無駄か。……分かった、少しだけだぞ?」
と呟き、ライリーの肩を叩く。
ガルシアがライリーに付き添い、女の子部屋の扉を開ける。
「ああ、ガルシアか。……ライリー、どうしたんじゃ。今は……」
とディルクが近寄ってきたが
「ええ、分かっています。ですがライリーはどうしてもクロエの無事を自分の目で確認したいと……すみません、直ぐに連れ出しますから……」
とガルシアが詫びながらライリーを押し出す。
ディルクは苦笑し
「……全く。少しじゃぞ?さ、こっちで眠っておる。……眠りが深いので、目覚めるのは未だ先じゃ。ガルシアよ、丁度良い。暫くクロエを頼めるか?小屋の準備をしてくる。直ぐ戻る。良いかの?」
とガルシアに言うと、彼は無言で頷く。
ディルクは微笑み、ライリーの肩をポンポンと叩くと
「そう心配するでない。大丈夫じゃよ……クロエは強い子じゃからな。信じるんじゃ、良いの?」
と励まし、出ていった。
ライリーは師に頷くと父から離れ、クロエの眠るベッドに近付く。
ベッドの上に横たわる小さな妹は寝息もたてず身動きもせず、固く瞼を閉じたままだ。
父を見ると微かに頷いたので、ライリーはクロエの手にそっと触れる。
「……!何て冷たいんだ……父さん、本当にクロエは大丈夫なの?」
ライリーは悲壮な顔でガルシアを見る。
「生きるための最低限の動きしか取れないんだろうな……負担が大きすぎたんだ。1才なんだ、無理もない。下手に温めたりも出来ない。ただ回復を見守るだけだ。……大丈夫だ。先生も言ってくださってただろう?信じよう、この子の力を」
とガルシアがライリーの肩を抱く。
ライリーは頷き、クロエの手を握る。
(君を信じてる。どうか早く目を覚まして……クロエ)
ライリーはクロエの冷たい小さな手を握りながら、そう祈るのだった。
次話は明日か明後日投稿します。




