45. 家の寝室大移動とライリーの豹変
お読みくださりありがとうございます。
大人しく良い子だったライリーがどうやら“素”の自分を出しました。
弟の失礼な言動は、彼の本性を引きずり出すことに成功したようです。
暫くしてライリーが母のコレットを連れて小屋に戻ってきた。
コレットはライリーがディルクの州都行きの負担になるのではと懸念していたが、ディルクが是非ライリーを連れていきたいと彼の口から告げるとライリーの同行を許可した。
その上でコリンには未だ暫く勉強部屋への出入りを禁止したとの旨を伝え、悪知恵が働く子だから決して口車に乗せられて部屋に招き入れないで下さいと懇願された。
ディルクは苦笑したが、コレットの話を聞くと納得し了解した。
ディルクも連れ立って家に戻ると、コレット以外の3人はコリンの姿を見て固まってしまった。
先程一足先に家に1度戻っていた筈のライリーも、実はその際コリンには会っていなかったのだ。
リビング以外の部屋に居たと思われるコリンは何故かスカートを穿いていたのだ。
コリンは3人が表情を強張らせたのを見て、コレットを睨み付けて抗議する。
「母さんが穿かせたんだ!皆も僕は男なのにスカート穿かされて可哀想だって思うでしょ!思うなら早く母さんに言ってやって!こんな罰は酷すぎるって!」
3人が顔を強張らせたのを、物凄く都合良く解釈した様だ。
しかしライリーがいち早く立ち直り、コリンに近寄ると開口一番
「案外似合ってるじゃないか。どうせ尻が痛くて下も裸なんだろう?スカート以外穿けないのに駄々を捏ねるな」
と彼を軽く小突く。
コリンはライリーの台詞に驚いたようで
「何で?!母さんから聞いてたの?何だよ、それじゃ無駄じゃないか。ちぇっ」
と舌打ちした。
どうやらお尻ペンペンを根に持っていて、酷い扱いだとディルク達に母を非難させ一矢報いたかったようだ。
その様子に又々ディルクとクロエは愕然とする。
ディルクは微かに笑うと
「……恐れ入ったな。こりゃ又凄い子供だ。こんなに悪知恵の働く3才児は初めてだのう。……コレットよ、其方等夫婦は凄いな。子供が全員規格外だ!
確かにこの子の口車なら乗せられそうじゃな。精々儂も気を付けよう」
と感心したように頷く。
コレットは頬を赤くして
「ディルク先生、今のは完全に面白がっていらっしゃいますね?……この子ったら私達の頭痛の種になりそうですわ、全く!」
と溜め息を吐く。
コリンはスカートを穿いたままその場でクルリと回転してみせると、あろうことか素っ裸の下半身が丸見えになった。
「何してるの!やめなさい、コリン!」
とコレットが慌てて止めようとする。
「やーだよ!穿けって言ったのは父さんと母さんだもん。スカートって回ると広がるから面白いや!見たくないなら見なきゃ良いでしょー!」
とコレットをからかうとあっかんべーをして逃げていった。
(わ、この世界でも人をからかう時にあっかんべーってやるんだ!何かホントに日本と共通する事が結構あるよね~)
と変な感心をしているクロエ。
コレットが額を押さえ小さく首を横に振って、処置無しと云った体で肩を落とした。
「あ、お兄ちゃん!聞いてくれた?悪いんだけど寝室を分ける作業してるから手伝ってー!父さんが今からベッド運んでくれるのー!」
ミラベルが雑巾用のボロ布を振り回してライリーを呼ぶ。
ライリーはミラベルに返事しながら、逃げたコリンを追いかけて捕まえた。
「ああ、今いくよ。おいコリンいくぞ。少しは手伝え。馬鹿なことしてたら今度は僕が尻を叩くぞ。同部屋だからな、汚くしたり暴れたりしたら、問答無用で部屋から追い出す。僕は嘘が嫌いだからな、絶対にやる。父さん母さんからも遠慮なくやれって言われてるしね。コリンもその方が良いだろう?僕が黙ってたらお前は怖いらしいし。だからこれからはお前の望み通りにハッキリ叱ってやる、嬉しいだろう、コリン?」
ライリーは、何とか手伝いから逃げようとするコリンの腕を捕まえて引き寄せ、今度は耳を引っ張りながら彼を連行する。
「イテッイテッイテテーッ!耳千切れるー!嬉しくないっ!何で皆で僕をいじめるのー!兄ちゃん、あれは冗談だし、本気にしないでよー!いつもの優しい兄ちゃんのが良いー!謝るからさ、早く離して!痛い!」
「今さら遠慮するな、僕も我慢しなくて良いならその方が楽だ。さあ、耳が嫌なら鼻をつまむか?つべこべ言わずにさっさと来いっ!」
ライリーはコリンの嘆願を完全にスルーし、これまで見せたことがない強い態度で彼を引っ張っていく。
「やだーーー!怖い兄ちゃんやだーーー!前のが良いよーー!僕、怖い兄ちゃんと同じ部屋なんて無理ーー!クロエと一緒が良いーー!」
その叫びを聞いたクロエ含む皆がずっ転けた。
「バカッ!お前がクロエに悪さするから寝室を分けるんだろうがっ!僕もお前よりクロエやミラベルの方が良いに決まってるだろ!お互い我慢してるんだ、諦めろ!」
ライリーがよろけつつ更にコリンの耳を強く引っ張りながら、2人は彼等の寝室になる部屋に入っていった。
ディルクとクロエは半分呆気に取られながら、2人のやり取りを見ていた。
(あ、あれぇ?あれがライリーお兄ちゃん?!……まさかこっちが素なの?さっきも結構迫力あったし……。コリンお兄ちゃん、これはマジでヤバいよ…)
クロエは自分を抱いてくれているディルクと目が合うと、曖昧な笑みを浮かべて2人が行った方向にもう一度目をやる。
ディルクも最初はライリーの変わり様に戸惑っている様子だったが、クッと口角を上げるとワハハハハと大きな声で笑い出した。
「なるほど、ライリーめ!中々に曲者よ。本性はこちらであったか!……確か以前、極力気持ちを乱さぬ様自身を律しておると言っておったしな。ホンにあ奴だけは読めぬわ。儂に言わせるとは全く大したもんだ!」
ディルクは楽しそうに笑う。
クロエはそんなディルクを見上げながら
「先生、何きゃ凄きゅ嬉ししょうれしゅね……」
と訝しげに聞くと
「わかるか?嬉しい驚きじゃ。ライリーは大人しくて頭の良い子じゃが、実は少し覇気が足りぬと危惧しておったのよ。騎士になるには優しすぎるのではないかとな。しかし杞憂であったわ!いやいや、中々見所があるわい!ワハハハハ!」
と更に笑う。
クロエはディルクを見ながら
(う~ん、やっぱりどこの世界でも男は皆こうなのかしら?ライリーお兄ちゃんの変化はアタシ結構な衝撃でしたけど……。アタシはやっぱり平和が好きだよ……)
と困ったような笑みを浮かべて、次いで小さな溜め息を吐いた。
ディルクとクロエは寝室の大移動が終わるまで、リビングに居るようにコレットに言われたのでその通りにした。
ディルクがリビングに敷かれたラグの上でクロエと話しながら、自分が作った木札について彼女の感想を改めて聞く。
クロエは暫く考えていたが、木札に絵を描いてみてはどうかと提案した。
日本で言うカルタだ。
ただし読み札は無く、自分でその描かれた絵から発音をし、文字を覚えやすくするといったものだ。
この世界の果物や動物、道具など描く素材は色々ある。
全ての文字を頭にして各々違う絵を描く位は大丈夫な筈だ。
クロエの意見を真面目な顔で頷きながら、いつの間にか胸元に潜ませていた紙と小さなインク壺とペンを取りだし、書き留めていく。
数字札については、クロエ自身前から考えていたトランプ方式を提案する。
トランプについてはどうやら相当ディルクは興味を引かれたようで、詳しく話すように急いてくる。
ただトランプは木だと厚くなりすぎてゲームに使うには使い勝手が悪すぎるし、紙は紙で相当しっかりした厚紙を用意しないと直ぐに使えなくなると欠点を話す。
ディルクはその欠点を聞いて、顔をしかめた。
クロエが良い素材は無いかとディルクに聞いてみたが、彼はどうやら思い当たる物は何も無いらしく今は断念せざるを得ない様だ。
ディルクはクロエの提案したトランプがとても諦めきれない様だったが、彼女から素材さえ見つかればいつでも教えるからと言われ、この場は退くことにした。
恐らく州都に行ったら素材探しに奔走しそうな雰囲気ではある。
ディルクは書き留めていた紙やペンを又胸元に納すと
「…しかしクロエよ。良くもそれだけ次々に思い付くものじゃな。其方の頭の中はいつもそんな斬新な物で溢れておるのか?全て知りたいものじゃが、どれだけ出てくるかと思うと少し空恐ろしくもある。少しずつやっていくのが賢明よな、やはり」
とクロエの頭を撫でながら苦笑する。
クロエはクスッと笑うと
「アチャシは賢く無いれしゅきゃりゃ、しょんにゃに思い付きましぇんよ。買い被り過ぎれしゅ」
とディルクに話す。
しかしディルクはそんなクロエをチラリと見て
「よく言うわい、全く」
と笑った。
その後2人が、明日からのディルクの州都での予定について楽しく話していると
「あ、居た居た!先生、クロエ来て来て~。アタシ達の部屋が準備できたよっ!未だ未だ未完成だけど感想を聞きたいし、クロエの希望も聞きたいから来て見て!」
とミラベルがニコニコしながらリビングに飛び込んできた。
2人も喜んで頷き、ミラベルに言われるままリビングを後にしたのだった。
次話は明日か明後日投稿します。




