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やりたい事をやる為に  作者: 千月 景葉
第一章 黒き森
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44. 勉強部屋にて その3“信頼出来る人”

お読みくださりありがとうございます。


このエピソードの最終話になります。


主人公、心から信頼出来る人を見つけました。

「ぎょ、ぎょ免にゃしゃい……ア、アチャシしょんにゃちゅもりじゃ……。や、役に立ちちゃきゃっちゃらけにゃにょ……」


 その小さな震える声にディルクとライリーが振り向くと、困惑に表情を強張らせるクロエの姿があった。


「クロエ!」


 ライリーが慌てて抱き上げる。


(そんな事考えもしなかった……。ただアタシは九九を知ってたら計算が楽になるし、これからの勉強にも使えると思ったから……。雅の世界の知識を使って3人が楽しく勉強出来る様になれば、アタシも初めて皆の役に立てるしって……。アタシ、間違ってたの?アタシのした事は役に立つどころか、皆に余計な苦労を掛けるだけなの?)


 クロエは今の2人の話を聞いて、自分の考えが独りよがりで浅はかな物でしか無かったのではと焦った。


 ただ役に立ちたかっただけだ。

 勉強部屋で兄姉達が楽しく勉強が出来る様に、手助けをしたかったのだ。


 クロエが持っている、他の人には無い唯一の能力(?)と本人が考えている“異世界の記憶”。


 勉強部屋で兄姉の学習環境を見て、自分のその能力は正に兄姉達の勉強に活かす為に在るのではと考え付いた時、クロエは本当に嬉しかったのだ。


(ジェラルド様が仰っていたように自分の能力を伸ばす為にも、雅の知識を思い出して兄姉達の勉強に使えそうな物は色々出して活かしていこうって、そう決めてたんだけど……。アタシの考えは甘過ぎた……。新しい“知恵”が危険を呼び寄せる原因になってしまうなら、アタシはもう………!)


 クロエは自分の考えに沈み込んでいて、呼び掛けるライリーの声に気付かない。


 困ったライリーはしょうがなく、軽く彼女の頬を2・3回叩いた。


「ふにゃ?!あ……ぎょ、ぎょ免にゃしゃいお兄ちゃん……あにょ、アチャシもう……」


 クロエの瞳が漸く自分を見たのに安心しライリーは

「クロエ、始めに言うけど、君はなんにも悪くないからね」

 と微笑みながら話す。


「えっ?れ、れも、狙われりゅんれしょう……?アチャシより先生やお兄ちゃんぎゃ危にゃきゅにゃりゅ…。にゃりゃ九九表みょ鉛筆みょ無きゃっちゃ事にしちぇ……」

 とクロエは自分の知識の“産物”を無くす様提案しようとした。


 ライリーは首を横に振るとクロエの頭を軽く撫で

「それは絶対にしない。

 クロエが編み出した“九九”は、今後皆がきっと学ぶことになる筈だ。その位価値有る物だよ。……鉛筆というものは知らないけど、それもきっと凄いものなんだろう。どうして無くさなきゃならないんだい?

 素晴らしい“考え”は活かさなきゃ!

 その“考え”を生み出すクロエを守るのは、“考え”を使う僕達側の責務だ。君が気にすることは何もない。

 クロエはただ、やりたい様にやれば良いんだよ?」

 と優しく諭す。


「れも、皆に余計にゃ苦労や迷惑を掛けちぇしまうにょよ!しょれにゃらアチャシにょ考えにゃんちぇ出しゃにゃい方ぎゃ良い……アチャシ今以上に家族にょお荷物ににゃりちゃきゅ無いもにょ……」

 とクロエが苦しそうに呟く。


「今以上にお荷物って何を言い出すんだ!何でクロエがお荷物なんだ」

 とライリーが少し口調をキツくしてクロエに問う。


「一番何にも出来にゃいし。家族に抱っこしちぇ貰わにゃきゃ移動出来にゃいし、オ、オムチュみょお世話に……」


 ボソボソと恥ずかしそうにクロエが答える。


 ライリーは溜め息を吐いて、軽くクロエの頬をつねる。


「うにゃ?!少し痛いれしゅお兄ちゃん」


「馬鹿なことを言うからさ。全く……。良いかい、赤ちゃんのクロエがオムツを使うのは当たり前だろ?未だ歩けないのだってそうだ。そんな当たり前の事でお荷物なんて言う方が変だよ。

 寧ろクロエはもっと家族に甘えたり頼ったりすべきなんだよ?でないと僕等も寂しいんだ。

 それにね、そんな事言ったら君の兄のコリンはどうなる?……ただアイツは逆にもう少し恥の自覚が必要だけどね。

 ここまで兄妹で考えが違うとはね。本当にコリンはクロエをもっと見習うべきだし、クロエもコリンの図々しさを少しは見習ったら良いよ」

 と、クロエの頬をつねったままライリーが話す。


「う……しょ、しょうなのきゃにゃ?れも、アチャシやっぴゃりきょれきゃりゃは余計にゃ事はもう言わにゃい様に……痛!痛いよお兄ちゃん!」


 クロエは話を中断して、彼女の頬を少し力を加えてつねり続けるライリーの腕をペチペチ叩いて抗議する。


「……馬鹿なこと言わなくなるまでつねるよ。今度言ったら両頬同時だ。どうする、クロエ?」


 いつもは優しいライリーが、声を低くして半ば脅し文句を使ってきた。


「ひょえ?!お兄ちゃん怖い!言わにゃい!言いましぇん!らから、ちゅにぇりゃにゃいれ~!」


 涙目でライリーの腕をペチペチしながら、返事をするクロエ。


 妹のその様子を兄は厳しい目で見つめ、漸く頷いて指を離す。


「少しクロエにはキツく言わないと駄目なようだからね。僕もクロエを見習って見方を変えるよ。妙な遠慮とか自分を卑下したりしたら、又叱るから覚悟しなさい」


 兄の“宣言”に妹は

「しょんにゃ見習い方はしにゃきゅちぇ良いれす……。アチャシはお兄ちゃんみちゃいに怖きゅ無いし」

 と小さな声で“反論”する。


「……僕が怖いなら、今後は気を付けるんだよ。僕もクロエには優しい兄で居たいんだからね」

 と小さな妹の反論に苦笑しながら、ライリーが普段の口調で注意する。


「はい、わきゃりましちゃ……ライリーお兄ちゃんちぇ、怒りゅちょ怖いれゅ……初めちぇ怒らりぇちゃっちゃ、えへへ」

 と頬を触りながらニパァ~と笑うクロエ。


「怒るのは苦手なんだ。……只でさえコリンには怖いって言われてるのに」

 と今度は少々頬を赤くして、自嘲気味に気持ちを話すライリー。


 クロエが首を傾げて

「キョリンお兄ちゃんが?キョリンお兄ちゃんにも怖い物ぎゃ有っちゃんら…。怖い物知らじゅらちょ思っちぇちゃ」

 と意外そうに感想を口にする。


 ライリーも力無い笑みを浮かべ

「寧ろアイツには感情を表に出さないように気を付けてたんだけど。感情のままにアイツに向かってたら、僕もミラベルの様になってただろうからね。

 ……どうやらソレが却って仇になってしまってたみたいなんだ。今後はアイツにはハッキリ感情を表に出していくつもりだよ。これ以上怖いと思われるのも何だし」

 とこれからのコリンへの対応を変えると宣言するライリー。


 クロエは曖昧に笑いながら

(あちゃあ~。コリンお兄ちゃん、何をライリーお兄ちゃんに言ったのか分からないけど、これは完全にヤっちゃったね……。絶対後悔するよ!

 コリンお兄ちゃんの本当の恐怖はこれからだよ、きっと。ご愁傷様です……アタシもこれには何にも出来ないや。コリンお兄ちゃん口は災いの元だね、お互いに)

 と心の中でこれからのコリンの為に合掌する。


 ディルクは目の前の兄妹のやり取りを温かい目で見守っていたが、漸く普段の2人の状態に戻ったのを見て口を開いた。


「クロエが何とか理解してくれたようで何よりだ。……ライリー、どうやら家の方も落ち着いた様だ。1度クロエをここに置いて様子見をしてきてはどうじゃ?

 コリンの泣き声とガルシアの怒鳴り声も先程から聞こえんしの」

 とライリーに笑いながら提案をする。


 ライリーはディルクにクロエを預けながら頷き

「わかりました。先生、クロエを頼みます。ああ、明日からの州都行きの話は今してきた方が良いですね。後から父か母を一緒に連れてきます。……クロエ、暫く待っててくれ」

 と話した。


 クロエはディルクに抱かれると

「はい、待っちぇりゅにぇ」

 とライリーに笑い掛ける。


 ライリーも笑い返すと、小屋を出ていった。





 ライリーが出ていった後、クロエはテーブルの上に座らせてもらい、ディルクはその前に向かい合わせになるようにいつもの椅子に座る。


「クロエ、すまんかったの。急に儂があんな話をしたから戸惑ったのも無理はない。其方の前で話すべきかどうかは迷ったんじゃがな。

 クロエ……詳しくは聞かんが、其方の中には未だ色々な“思い”が有るじゃろう?儂に聞く権利などは無いし、其方が話さないのには訳がある筈じゃ。

 しかしこれだけは覚えておいてほしい。其方の知識は宝なんじゃ。だからこの世界でその知識を是非活かして貰いたいと儂は思っておる。

 儂が見るに其方の芯は“光”であり“善”だと思う。人を疑ったり憎んだりが生来出来ん人柄のようじゃ。周りを温かくし、明るくする。非常に得難い人間じゃよ。

 その其方に類い稀な“知識”が眠っているのも、神の思し召しだろうな。悪用など考えもつかん其方だからこそ、神もその“能力”を持たせたのじゃ。

 しかし世の中には光があれば闇もある。善があれば悪も生まれる。其方とは正反対にその宝の知識の存在を知れば、悪用して一儲けしようと考える輩がきっと現れる。その為に其方を何としてでも手に入れようとする筈だ。

 儂はそれを恐れておるんじゃ。ジェラルドもライリーもだ。

 だからこそ今から動かねばならぬ。

 未だ誰も知らない内に手をうっておけば、其方が狙われる危険性は格段に低くなる筈だ。

 ジェラルドが其方を自由にやらせてやりたいと願っておった。其方の周りに居る者は皆そうだ。

 だから約束してほしい。

 儂達以外の者には知識を知らせないと。不用意に人の為になるからと口を滑らせたりしないと。

 未だ小さい其方だから暫く身内以外に会うことは無いだろうが、それでも頼む。

 ……約束してくれるかね?クロエ」


 ディルクの瞳は真剣だった。

 赤子に向ける様なものでは無い、一人の成熟した大人に向けた眼差し。


 クロエを見た目通りの赤子ではなく、一人の大人として見ているのだ。


(先生は分かってらっしゃるんだ…。アタシの中には異世界の人間だった雅が居るってこと。それでも聞かずにいてくれるって…。アタシを自由にやらせる為に動いてくださるなんて、アタシは幸せ者だ。

 ならば、そんな人達にせめて少しでも報いる為にこれから頑張れば良い。アタシはその為にここに来たんだ、きっと。

 だから……)


 クロエはニッコリ笑うと大きく頷き了承した。


「約束しましゅ。きょにょ勉強部屋じぇらけ、アチャシは知識を使いましゅ。大事にゃ人達に相談無きゅ、他人に知識を教えましぇん。絶対に。

 ……いちゅきゃアチャシぎゃちゃんちょ話ぎゃ出来りゅ様ににゃっちゃりゃ、聞いちぇ欲しい話ぎゃありましゅ……。しょの時は聞いちぇ下しゃいましゅきゃ、先生?」


 初めてクロエ自身が、前世の記憶を誰かに聞いて貰いたいと思った瞬間だった。


 誰かに聞いて貰いたいが、しかし誰でも良い訳では無い。


 ディルクだからこそ話したいと思ったのだ。


 ディルクは微かに笑みを浮かべると

「喜んで。其方の気持ちに折り合いがついたら、いつでも話を聞こう。待っておるよ、クロエ」

 と優しい言葉で請け負ったのだった。

次話は明日か明後日投稿します。

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