42. 勉強部屋にてその1“クロエの考え方”
お読みくださりありがとうございます。
長兄と末妹が避難した勉強部屋の様子です。
末妹の考え方に長兄と教師は感嘆します。
リビングの家族会議とは全く違う、とても平和な3人です。
さて、又時を少々遡る。
コリンのドタバタ劇により“避難”を指示されたライリーとクロエは、ガルシアの言い付け通りディルクの小屋にやって来た。
中に入れて貰う際にライリーが事情を話すと、ディルクが笑いながら2人をリビングに案内した。
果実水を自分の分と合わせて準備し、2人に椅子を勧めてディルクも向かい合わせに座った。
「ハハハ!コリンは中々に曲者よな!僅か3才にして或る意味大したものじゃ。まあ二親からしーっかりと怒られるが良いの。これも親子の在り方の1つじゃよ。まあ暫く退屈じゃろうが、爺の相手をしておくれ、2人共」
ライリーが頭を軽く下げてから
「退屈などと……。僕達こそ先生のお時間を邪魔してしまってすみません。本当に何でクロエをいじめるのか理解できなくて……。今回は流石におとがめ無しでは済ませません。特にミラベルの怒りが激しくて……。自分の目の前で妹に悪さを仕掛けたのが、余程頭に来たのでしょう。多分僕でもそうなると思います。甘やかし過ぎたと両親も言ってました……」
と溜め息を吐く。
するとディルクは笑いながら
「いやいや、世間の兄弟ではよくあることじゃよ。寧ろ其方やミラベル、クロエの様にケンカもせず互いに思いやり、又聞き分けが良いのが珍しいんじゃ。ああ、勘違いせんでくれ。それは美徳なんじゃよ。ただ子供は大体理不尽な事をするもんだ。其方等は特別利発じゃし、精神的にも本来の年齢を遥かに越えて落ち着いておる。因みにコリンも世間から見れば、十分利発な子供じゃよ。少ぅし其方等よりも悪知恵の方が働くが、なあに大人になれば案外それも長所に成るやも知れんて!ハハハ!」
と如何にも楽しそうに言った。
ライリーが苦笑すると今度はクロエを見て
「……ごめんよ。いつもクロエにはコリンの事で、怖い思いや嫌な気持ちにさせてばかりだね。僕は兄さんなのにコリンを止められなくて……。頼りなくてホントにごめん、自分が情けないよ」
と落ち込んだように謝罪した。
クロエは慌てて
「ライリーお兄ちゃんぎゃ謝りゅ事にゃんちぇ1ちゅも無いれしゅ!謝っちゃ駄目れしゅ!大体アチャシはキョリンお兄ちゃんにょ事じぇ嫌にゃ思いにゃんてしちぇにゃいよ?……みゃあ時々ヒヤリちょはしゅりゅけろ、れも全然怒っちぇ無いし!皆大好きりゃし、寧りょキョリンお兄ちゃん見ちぇちゃりゃ笑えりゅきゃりゃ楽しいよ!」
とライリーを元気付けるように言う。
ライリーが目を丸くして
「コリンを見てたら楽しい……?」
と聞き返す。
クロエは笑って大きく頷く。
「らっちぇキョリンお兄ちゃん、今度は何しゅりゅんらろ?っちぇワキュワキュしにゃぎゃりゃ見てちゃりゃ楽しいれしょ?話聞いちぇちゃりゃ余りにみょ勝手過ぎちぇ却っちぇ面白きゅにゃっちゃう!何ぎゃ出てきゅりゅきゃ分きゃりゃにゃい面白いお兄ちゃんらもん!」
気を遣ってる風でも無く、本当にそう感じている様なクロエをライリーは驚きの表情で見つめる。
ディルクはクロエのコリン観を面白そうに聞いている。
「でもクロエは叩かれたり突き倒されたりしていただろ?コリンに腹が立たないのかい?」
ライリーが不審げに問う。
「う~ん……怪我しちゃりゃっちぇ焦りゅけろ腹は立ちゃにゃいよ?しょうぎゃにゃいお兄ちゃんらにゃあとは思うけろにぇ。……アチャシ変きゃにゃ?」
クロエが首をかしげて、逆にライリーに問うた。
ライリーは暫しクロエを見つめた後ハァと息を吐き、そして笑った。
「いいや、変じゃない。クロエはコリンをよく見てるんだね……。そうか、面白いか。僕もコリンの見方を変えるべきなのかも。そうしたらクロエに見えているコリンが僕にも見えてくるかな?」
ライリーがクロエに聞く。
クロエは優しく笑いながら頷く。
「うん!絶対見えりゅよ。らってコリンお兄ちゃんは嘘下手らしにぇ。直ぎゅバレりゅれしょ?らから寧ろ凄きゅ正直なんらよれー!ライリーお兄ちゃん、キョリンお兄ちゃんにょ嘘ぎゃ見抜け無きゃっちゃ事無いれしょ?普段は何しゅりゅきゃ分かりゃにゃいにょに、そこらけは分かりやしゅいもん、キョリンお兄ちゃん!」
クロエの笑顔につられてライリーの笑顔も本物に変わっていく。
「確かに!コリンの嘘ほど分かりやすいものはないな。何で嘘を吐くんだって苛立つ時も多かったけど、考え方なんだね。クロエはコリンの嘘を見破ったらいつもどうしてるんだい?嘘を指摘してる所は見たこと無いけど?」
とライリーが不思議そうに聞く。
その質問にクロエが舌を出しておどける。
「教えにゃーい!……っちぇ嘘嘘。あにょにぇ、どこまれ嘘を突き通せりゅきゃにゃっちぇ黙っちぇ見てりゅにょ。大体直ぎゅ嘘を忘れちぇ自爆してりゅよ!性格ぎゃ正直にゃんらよ、ホンチョに。隠しぇにゃいんらよキョリンお兄ちゃんは。……黙っちぇ見てりゅアチャシにょぎゃ性格悪いよにぇ。アチャシよりライリーお兄ちゃんちょミラベルお姉ちゃんにょが優しいし、性格みょ良いよ。……らからいちゅもアタシは家族と居るちょ楽しいし嬉しいにょ。コリンお兄ちゃんに腹立たにゃいにょは、家族らかららよ」
ライリーは声を上げて笑い
「アハハハハ!クロエも中々やるね!コリンの自爆を面白がってたんだ!……確かにこれはちょっと面白いな。僕も見習うよ。誰かが痛い思いをしたり、物を痛めたりしそうな嘘でない時はね」
と、クロエの頭を撫でた。
兄妹が楽しそうに話をしているのを、ディルクは静かに微笑みながら聞いていた。
(本当にクロエは不思議な娘だ。コリンは確かに分かりやすいが、相手をすると普通はミラベルのように苛立つ筈だ。ライリーですらあの子を持て余しているようじゃったしのう。……元が穏やかな性質なんじゃろうが、人を憎むと云う考えが欠落しているとしか思えん。余程大事に育てられていたのだろうな。前も今もそこは変わらん。いや、この性格のクロエだからこそ大事にされるのかもしれぬな)
ライリーは漸くディルクの存在を思い出したようで、彼に向き直ると頭を下げた。
「す、すみません先生!クロエの話を聞いていたらつい夢中になってしまって!……あの、こうしてるのも何ですから何かお手伝いすること無いですか?何でも仰ってください」
と、ディルクを気遣うライリー。
ディルクは首を振りながら
「ああ、気にせんで良い。儂も其方等の話を黙って聞いて楽しんどったんじゃよ。ライリー、クロエの考え方は真似をする価値は十分にあるぞ。是非見習う事を薦める。其方の思考に又深みが出るじゃろう。儂も見習おうかの」
とクロエをからかうように言う。
「にょ?!止めちぇくらしゃい~!」
とクロエが焦る。
クロエの焦る姿にディルクやライリーが楽しそうに又笑った。
果実水を飲みながら、ふとライリーはリビングのテーブルの端に寄せられている黒板や紙の束に目をやる。
「先生、お仕事中だったのでは?!やっぱりご迷惑を掛けてしまってたんじゃ……」
とライリーが慌てると
「ああ、それか。……後から話をしに行くつもりだったんじゃが、丁度良い。ライリーよ、明日から2・3日、儂は留守にする。州都でやらなきゃならん事が出来てな。宿題を作っておくので、留守中はそれで勉強をしておいてくれないかの。ミラベルもな。」
とディルクがアッサリと言う。
ライリーが
「はい。その通りに勉強はしますが……。州都で仕事ですか?どんなお仕事か伺っても?」
と聞くと、ディルクが舌をペロッと出し
「教えなーい!」
と急にクロエの真似をし、子供達をドン引きさせた。
「……ちょっとクロエを真似てふざけてみたかっただけじゃよ。そこまで呆れんでも……。
ま、まあ良いか。州都で注文したい物があるんじゃよ。ジェラルドにも話をしたい事が出来てな。
……そうじゃライリーよ、其方一緒に州都に行ってみるか?2年後に行くんじゃろ。下見も兼ねて、儂も其方に手伝ってもらえると助かるんじゃが。どうじゃな?」
とライリーに提案をした。
ライリーは驚いたが、直ぐに
「州都で下見を兼ねたお手伝いですか?……是非行ってみたいです!両親に聞いてみます!」
と嬉しそうに答えた。
ディルクは大きく頷き
「許しが出たら決まりじゃな。まあ短い旅だ。初めて行くには丁度良いじゃろ。ジェラルドには先触れを出しておく。……そうじゃ、もう1つ其方に見てほしい物があるんじゃよ。これなんじゃが、感想を聞かせてくれんか?」
と言いながら、あるものをライリーの目の前に広げる。
(え、コレ?!……凄い!先生もう見やすくしてくれてる!)
ディルクがライリーに広げて見せたのは、クロエが教えた九九の表であった。
次話は明日か明後日投稿します。