40. 家族会議その2 “下衆の言い分”
お読みくださりありがとうございます。
コリンの言い分を書かせてもらいました!
流石にここまで勝手な子は居ないと思うんですけど、思い付く限りのバカ息子の主張を考えてみました!
気分悪くされた方が居ましたら申し訳ありません。
「コリン。今更可愛い振りなど見せなくていい。誰も騙されん。この際だ、お前は家族に一体どうして貰いたいのか、ハッキリ全部言え!黙って聞いてやる。コレットもミラベルもコリンが喋る間、決して口を挟むな。良いな?」
ガルシアが3人にまずコリンの意見陳述から行うことを告げる。
女性2人は黙って頷き、“伏せ”状態のコリンは片手を上げた。
うつ伏せで尻丸出しという非常に情けない格好であるが、3才というアドバンテージにより視界に入っても未だ何とか許容できる姿のコリンが話し始める。
「父さん、僕がして欲しいことを言ったら怒らないで全部その通りにしてくれる?」
コリン、先ずは流石の先制パンチ。
遠慮どころか遣り手の商人の様に、父にとんでもない条件を突き付ける。
自らの腹は全く傷ませず、相手に譲歩のみ要求するヤ○ザの様な遣り口である。
勿論計算無し、全て本能。
これで未だ3才、まこと末恐ろしい幼児である。
「……全くお前は。そんなことは話次第だ。とにかく話せ」
ガルシアが疲れたようにコリンに話を促す。
「だって僕がクロエをいじめない様にしたいんでしょ?嘘ついてもダメだって言うし。なら僕の気持ちを解ってくれたらしなくなるからさ~」
横で口を挟まない約束の女性2人はコリンの今の台詞を聞いて、既に約束を破棄してしまいそうな形相になっている。
しかしコリンにとって幸か不幸か、うつ伏せの姿勢のお陰で2人の形相が全く分からない。
それが彼の心に変な余裕と勇気(?)を与えることになってしまった。
コリンの意見陳述は次の通りだ。
「じゃあ言うけど、まずミラベルお姉ちゃんが怒りすぎだよね。僕が小さいからってすぐ怒鳴ったりして。もっと弟に優しくなって欲しいよ、ホント。クロエにばっかり優しくてさ。たまには僕をほめてよ。何もなくても、コリンは良い子だね~とか言ったりさぁ。
あと母さんは叩きすぎ!イタズラしただけでお尻叩くってヒドイと思うよ!未だ僕小さいんだからさ、「まあコリン、こんなイタズラが出来るなんて賢いわね~」って褒めて欲しいな。それとおやつ増やして!僕小さいんだからいっぱい食べなきゃ駄目でしょ?あ、お野菜はいらない!甘いのが僕好きなんだよね。
それとオムツは前のに戻して!寝れないよ、こんな大きいのだと!僕が寝れなくても良いの?!もし周りに漏れても、そんなの母さんが洗うだけでしょ?可愛い息子が失敗したって母さんなら洗ってくれるハズ。未だ僕小さいんだからね!オムツ位でうるさすぎるよ。大体オムツ止めたらトイレに行かなきゃいけないじゃないか、面倒くさい!汚いしさ、自分のでも触りたくないよね!よく皆オムツに触れるよね、僕無理だ!
う~ん、父さんには別に無いなぁ。いつも畑行ってるし、今でもあんまり僕を怒らないからね。ま、良いよ。
ライリー兄ちゃんは良い子過ぎるんだよ!もう少しイタズラとかしなきゃダメ!大体兄ちゃんがイタズラとかしないから僕が目立つんだよ、全く!あといつも僕の玩具を一緒に片付けるんじゃなくて、兄ちゃんが1人で玩具片付けてくれたら良いのに。僕は遊んで疲れてるんだから、兄ちゃんが1人で片付けた方が早いよ。可愛い弟なんだから、そこは甘やかしてほしいな。
それとクロエが目障り!僕より小さいからってちやほやされ過ぎー!まあ妹だし黙ってれば大人しいから、別に皆がちやほやしないなら良いけど。僕のがお兄ちゃんなんだから、クロエは僕より目立っちゃダメ!それを皆わかってないよ!クロエに優しくする前に、ううん、僕の前でクロエに優しくしないで!そうだよ、見ちゃうからイライラしてクロエをいじめちゃうんだ!だから僕の前でクロエに優しくするのは絶対止めてよね!皆もっと気を遣って欲しいよ。
う~ん、急に聞かれたからこれ位しか思い付かないや。やっぱり僕って我慢しすぎたのかな?もっと言いたいこと有ったハズなのに!もしかして僕って未だ皆に気を遣ってるのかな?
父さん、今んとこはこれ位かな。あんまり言えなかった!」
コリンはうつ伏せで話し出すと調子に乗った様で、膝から下の足先をブラブラと振り上げて遊び始めた。
周りでガルシアの言い付け通り口を挟まず黙って聞いていた女性2人は、いつの間にか共に俯いて各々自分の膝辺りのスカートの布地を拳が真っ白になるまで握り締め、丸めた背中をブルブル震わせている。
ガルシアも眉間にシワが寄り、腕組みをして口を真一文字に結び、コリンの背中を睨みつける。
周りの空気の温度が急激に下がっていくのに、コリンは全く気付かない。
足をブラブラさせながら
「父さん、何で黙ってんの~?僕、ちゃんと話したよ。僕の気持ち分かってくれた?返事してよ、父さんってば~!」
と呑気にガルシアの答えを催促する。
「ガルシア……この後、私達はどうしたら良いのかしら…?今、ウチの可愛い可愛い息子が話した要望を私達は慎んで受け入れなければイケナイのかしら……?ねぇ、どう思うミラベルちゃん?」
コレットが猫なで声でガルシアとミラベルに問い掛ける。
「そうね母さん。アタシったら弟への態度、間違っていたようね、ごめんなさい……。可愛い弟がこーんな事考えていたなんて、アタシ考えたことなかったわ!オムツは汚いわよね……ホントよくアタシもコリンのオムツ、触れてたもんだわ……。」
ミラベルが静かな声でブツブツと呟くように応える。
「えー、ミラベル姉ちゃんは僕のオムツ触らなきゃダメでしょ!洗い場に運んでもらわないと臭いじゃないか。僕は運べないし、役立たずのクロエも運べないしね。赤ちゃんて役に立たないよねホント!ライリー兄ちゃんでも良いけどさ。家の仕事は女の仕事でしょ?男は外で仕事があるんだからさ。父さんもよく母さんに言ってるしね!だからミラベル姉ちゃんが一番ピッタリだよ」
コリンの“指摘”にミラベルが
「グガアッ!!」
と変な声を上げた。
「ミラベル姉ちゃん、舌でも噛んだの?気をつけなよ~!慌てん坊だなぁ」
「コリン………もういい、黙りなさい」
ガルシアが地の底から響いてくるような低い声でコリンを止めようとする。
しかしコリンの意見陳述の間、誰も声を出さなかったことが却って災いしてしまい、彼はホントに調子に乗ってしまった。
「いや、待って!僕未だ話足りない事があるよ!思い出すから待って!こんな風に僕のお願い全部叶えて貰えるなんてこれから無いだろうし!ねえ、全部聞いてくれたんだから叶えてくれるんでしょ?僕今までホントに我慢してたの分かったでしょ?
ああ良かったー!これで僕はクロエをいじめたりしなくなると思うよ、うん!
あ、でも僕はお兄ちゃんだからクロエに色々教えてあげないと駄目だよね!それでついキツくクロエを叱るのはしょうがないと思ってよね。
クロエと頑張って仲良くするためにも、ディルク“爺さん”の小屋に行かないとね!クロエは良いのに僕はダメって、あの爺さんえこひいきもいい加減にさせないとダメだよ!
大体先生が爺さんなんてヒドイよねー!ジェラルド様は見る目無いよ。やっぱりアナスタシア様みた………」
しかしコリンの一人舞台はそこまでだった。
「ウルサイッ!!その口を今すぐ閉じろ!この大バカ息子がっ!!」
ガルシアが家を震わせる怒声を上げ、コリンを止めた。
「うわあっ?!と、父さん?!何で怒ってるんだよ!話が違うじゃないか!!」
コリンはうつ伏せのまま、怒声に驚いてピョンと飛び上がった。
ガルシアはまるで敵を睨むように、コリンの小さなお尻を睨み付ける。
「コレット、ミラベルすまなかった……。俺が間違っていた!この大バカ者は駄目だ!……コリン、お前の考えはよーく分かった!俺の認識が甘過ぎた!もういい!もう沢山だ!
コレット……俺がやってやりたいが、俺が叩くとコリンの尻は本気で壊れる。すまないが家族5人分……いやディルク先生とジェラルド様に失礼な言動をした分と次いでにアナスタシア様の名前まで何か失礼な話に出そうとした分も合わせて8回!この大バカ者のケツを思いっきりぶっ叩け!!
遠慮は要らん!その痛む手を使わせてしまってすまないが、このバカを育てた俺達両親の責任だ!俺の代わりに妻のお前に辛い思いをさせるが、どうか頼む!
この大バカ息子の尻をぶっ叩けーーー!!!」
立ち上がったガルシアは、うつ伏せたコリンを指差し叫んだ。
「任せて貴方!!母として涙を飲んでコリンをしつけます!この子も痛いのだから、アタシもこの手の痛みは受け入れます!大丈夫よ!」
コレットは腕捲りをしてコリンの上着を左手でグワシッと掴み、引っ張り上げる!
「父さん、ありがとう!分かってくれて嬉しいわ!アタシは桶に水を汲んできていつでもバカの尻を冷やせるようにしておくわ!そうそう、母さんの手の分も用意しないと!
確かに暴力はいけないわよ……でもね!皆の言葉や優しさが通じないバカの、余りにもヒドイ考えを正すには必要な時もあるんだからね!!
覚悟しろ!コリン!!」
ミラベルが雄叫びを上げると身を翻して、介抱用の水桶や布を用意するためリビングから走り出ていった。
「なんでーーー?!騙したのーー!僕を騙したんだね!ヒドイよ!!お尻壊れちゃう!!止めてよ、今度こそ無理だよーー!朝から何発叩かれてると思ってるんだよー!バカーー!」
コリンの悲鳴に、両親がユニゾンで応えた。
「「ウルサイ!黙れ!!バカ息子がーーーっ!!!」」
バッチーーーン!
バッチーーーーン!!
バッチーーーーーン!!!
バッチーーーーーーン!!!!
………………。
「ごめんなさーーーーい!もう言わないから許してーーーー!イターーーー!!」
尻を叩く音とコリンの悲鳴が、暫しリビングを支配したのだった。
次話は明日か明後日投稿します。