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やりたい事をやる為に  作者: 千月 景葉
第一章 黒き森
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名前

お読みくださりありがとうございます。


主人公の名前が判明します。


 休憩を挟みながらの移動。


 やがて馬車は山道に入った。


 道がガタつくので、ここからはゆっくりとした速度で進むようだ。


 闇に乗じて出発し、丸一日以上は走っただろうか。


 又夜の闇に包まれていた。


 しかし、目的の地はもうすぐそこまで近づいていた。


 彼らはわざと夜に目的地に着くようにしていたのだ。


 慎重に慎重を重ね、間違っても計画が水泡に帰すことの無いようにと細心の注意を払っていた。


 やがて馬車は夜闇に紛れてその地に入った。


 その地で彼女と“母”は速やかに馬車から降りる。


 近くの建物から何人かの人影が近づく。


 “母”はその人影の中に隠れるように彼女を抱いたまま合流した。


 代わりに別の人物が馬車に乗り込み扉を閉めた。


 その間“父”は馬車から降りずに待機していたが、別の人物が乗り込むとすぐさま再び別方向にそれを走らせて、やがてその影は見えなくなった。


 どうやら“父”はカムフラージュの為に、その人物と動くようだ。


 馬車から降りた“親子”は一日その建物内で休息をとっていたが、夜になって再び動き出す。


最終の地はそこではなかったのだ。

 

荷車に近い馬車が建物に横付けされた。


 そこに“親子”が乗り込み、さらに別の場所に移動を開始する。


 しかし最終の地はそこから遠くは無かった。


 夜半過ぎに或る森の中に荷車は入っていった。


 森には危険な動物もいるが、彼らはその対処法を熟知していた。


 油断はしないが恐れることもなく、彼らは目的のその建物に到着した。


 森の中の奥まったところにある、小屋と言うには少々大きな木の家。


 周りには高くはないが土壁が巡らされ、そこに山草やら(つた)やらがはびこって土が全く見えなくなっている。


 その木の家の近くには馬小屋と家畜小屋。


 あと、これこそ小屋と言うべき小さな木の小屋と煉瓦で出来た炭小屋。


 森の奥によくぞこれだけという位の建物があった。


荷車は中央の一番大きな木の家に横付けされた。


彼らはそこで降り、木の家に入っていった。


実に休憩を入れると丸二日間以上掛けて、彼らの移動は終わったのだ。


この移動の“主役”である小さな彼女はその間実に逞しく、おっぱいを飲んでは寝て、又起きておっぱいを飲むを繰り返し、全く体調が悪くなるといったことは無かった。


“母”の懸念はこの強行軍の移動で彼女の体調が崩れる事だったのだが、心配は杞憂に終わったようだ。


木の家には既に何人かの人影。


中には小さな子供の姿も見える。


漸く彼らはこれからの生活の場となる地に着き、安堵したのであった。




(んー。良く寝た!あれ?もう揺れてない。もしかしてお家なのかな?ここが?)


彼女は目を覚ますとフカフカしたところに寝かされていた。


ベッドの様だ。


この二日間抱かれてばかりだったこともあり、漸く遠慮せず体を色々な方向に動かすことができそうだ。


但し、まだそれほど上手く動ける訳でもないが。


(では、自分の体はどこまでやれるのか、今から試してみましょうかね!これだけ暗いのは誰も周りに居ないって事だろうし)


気合いを入れて、まずは両手から動かす。


グニグニ、プルプル、グッパタッ、グッパタッ。


(流石早いわ成長が。二日前とは可動域が違うわよ。まだ自力でブンブン振り回すとまではいかないけど、大分動けるようになったわね。でも反動つけるのはまだまだ難しいか)


次に首を動かしてみる。


(右、前、左、上~!…ハアハア…。左右は問題ないね!上はやはり筋力が未だ足んないか~。

というか、寝てるせいだよね。下は肉が邪魔して向けないよ。未だ首座ってないし、無理は禁物だ)


次に両足を動かしてみる。


トントン、ズリッズリッ、グッパタッ、グッパタッ。


(おうっ!流石に動くわね~。足は割合動いてたもんね。腹筋弱いから持ち上げるのが中々キツいけど、無理じゃない。曲げたらどこまで引き寄せられるかな?う~!クッ!

…あ、アレッ?!…またやっちゃった~!…お漏らし)


彼女は一つため息をついた。


(しょうがないけど、やっぱ恥ずかしいな。全身の力使ったら絶対出ちゃうよ。未だ我慢できないんだよね、きっと。これは開き直るしかないんだけど…早く自分で動いて用を足したいもんだ…はあ。)


彼女は顔をポリポリ掻いて、気合いを入れて泣き始めた。

 

「ほぎゃあ!ほぎゃあ!ほんぎゃー!」


するとすぐ近くで人の気配がして、誰かが近付いてきた。


「□□□□。□□□□□?□□□□□□□」


(あら!すぐ近くに居てくれてたんですね~!ごめんなさい、お休み中に起こしちゃって。

あの、オムツをですね、粗相しましたもんで替えていただけないかな~と思いまして)


するとその人物は彼女をスッと抱き上げると優しくあやしながら、別の部屋に連れて行く。


すぐ隣の部屋に入るとランプをつけ、彼女を近くの長椅子らしき物に寝かせ、テキパキとオムツを替えてくれる。


ランプの柔らかい光に照らされた顔はハッキリしないが、恐らく“母”だと思われた。


 (お母さんだったんだ。疲れてるのにごめんなさい。早く自分で出来る様になりたいんだけど、やっぱりまだまだ…。

あ、でも頑張りますから!)


 彼女はまたもやア~ウ~と“母”に話しかける。


 すると“母”は彼女を見てクスクス笑いながら、オムツを替えた後優しく抱き上げ頬擦りする。


 「□□□□□!□□□□。□□□□□」


 すると彼女はある事に気付いた。


 (ん?□□□ってよく聞く言葉よね?これってもしかしてアタシの名前じゃない?よおし、この言葉を完全に覚えよう!)


 大人達が話す未だ意味がつかめないこちらの言葉。


 その中にいつも聞こえるある単語らしき言葉。


 (確か…“クロエ”って聞こえるのよね。何となく女の子の名前っぽく聞こえるから、そうだと良いな。

…まさか“オムツ”って意味じゃないよね?うん、しっかりリサーチしよう。

自分の名前だと思ってたら、実は“オムツ”って意味でしたなんて…笑い話にしかならないよ。)


オムツを処理し、彼女を抱き上げた母は眠そうな素振りを全く見せず、その場で長椅子に座り彼女を優しく横抱きにするとおっぱいを飲ませようとした。


(あら、おっぱいの時間ですか?ん~未だ大丈夫っぽいんですが、しかし後から又お母さんを起こすのも申し訳無いですしね…。わかりました、いただきます!)


彼女は一つ頷くと、パクッとおっぱいにかぶり付いた。


(ンクンク…、しかしお母さんって大変だぁ…。昼も夜もなく泣き声で起こされて、オムツ替えて、おっぱいあげて、着替えさせて。

ホントに母親孝行せねばなりませんね。お母さん、アタシ頑張りますからね!ゴクゴク)


やがてお腹一杯になった彼女は満足気におっぱいから離れた。


「クロエ□□□□。□□□□□?クロエ」


(やっぱりクロエって言ってる。オムツ終わったし、そうだよ。クロエってやっぱりアタシの名前なんだよ、きっと!)


少しでも言葉がわかった気がした彼女は嬉しくなって、思わず大きな声でアウアウ!と喋った。


「クロエ?」


「アウ!」


母はまたもや目を見開き、暫く彼女をじっと見つめる。


「…クロエ?」


「アウ!」


母は信じられないといった表情になり、固まってしまった。


(ヤバッ!調子に乗りすぎた!…アタシ未だ生後1週間経ってるか経ってないかだよね?!そんな赤ちゃんが名前読んで返事したら、そりゃ普通にお母さんビビるわ。

イカン!これはフォローせねば!…えーと、えーと、やっぱり泣いて誤魔化すっきゃないね!せーの!)


「う、うえっ、うえ~ん!ウギャー!フンギャアー!」


機嫌が良かった彼女…クロエが突然火が付いた様に泣き出したので、母は慌てて抱き直し優しくあやし出した。


泣きながらクロエは心の中で胸を撫で下ろす。


(よ、よし!何とか誤魔化せたわよね?…ふう、危なかった~。アタシったら直ぐ調子に乗っちゃうから…。

気を付けなきゃ。気味が悪いって思われたら不味い。最悪捨てられちゃうかも…。ぎゃあ!イカンイカン!油断大敵、気を引き締めろ!)


母はクロエをあやしながら寝室に向かうようだ。


(ん、そろそろ泣き止んで良さそう。お母さんごめんなさい。

騙すつもりはないんです!ただ嫌われたく無いから…ホントにごめんなさい。)


心の中で母に詫びるクロエ。


(でも、自分の名前が分かっただけでもスゴく嬉しい!よし、出来るだけ言葉を早く覚えよう。…勿論、細心の注意を払って。)


ゆっくりとやって来た眠気に身を任せながら、クロエは明日からの目標を決めてやる気を燃やすのであった。


次話は明日か明後日に投稿します。

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