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やりたい事をやる為に  作者: 千月 景葉
第一章 黒き森
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1-29 教室での兄姉

お読みくださりありがとうございます。

ライリーとミラベルの勉強の様子を少し書いてみました。


  クロエはディルクに抱かれて、彼の小屋に入っていった。


  ディルクが住まう小屋は森の家の真横に元々建てられていたものを改築したのだが、既に小屋と云うには立派すぎる建物に変貌している。


  ジェラルドが恩師の為にと張り切って色々注文を付けた結果、最終的に小屋とはとても云えない位まで大きくなってしまった。


  因みに小屋には子供達に授業する教室とディルクの書斎、教材用物置、居住スペースにあたる小さな台所がついたリビングに寝室、何と客用の寝室まで用意されているのだ。


  占めて5LDKとなっている。


  立派な一軒家だ。


  しかしディルクはこの小屋を見るなり顔をしかめ

「ジェラルドめ。儂は子供達の授業さえ出来れば良いから極力質素な(しつら)えにせよと言うたに、どう勘違いしたらこのような一軒家になるんじゃ。

 全く少しも成長しとらんのう。

 贅沢は敵じゃと教えた筈が、未だあ奴には足らぬか。

 お貴族様はコレじゃから困る」

 と大きな溜め息を付いたらしい。


  案内してきた騎士のテオと出迎えたガルシア達がジェラルドを庇うと

「お主等が甘やかすから、お主等の主は反省せんのじゃぞ。過度に贅沢を好む主は享楽により身を滅ぼすやも知れぬ。

 あ奴は人が善い故、相手を思いやる余りの結果なのは儂も分かっておる。

 じゃが要らぬと云うたものを押し付けるのは無駄でしかあるまい。

 お主等も主を思うなら、たまには苦言を呈する事も必要ぞ。全く勿体無い!」

 と二人まで叱られてしまった。


  テオが州都アラベラに帰還後、ジェラルドに恩師の感謝のかの字もない言葉を伝えると、面白そうにガハハと大きな声で笑いだした。


「やはり先生は相変わらずじゃ!そうでなくてはイカン。

 子供達の事を第一に考える方だから、儂はあの方を尊敬しておるんじゃからな。例え叱られようが、あの方の住まいは手を抜くわけにいかぬわ。

 先生に少しの失礼もあってはならん。

 テオよ、今後も気を抜かず先生が不自由無き様、全て手配するように。分かったな」


  批判を全く意に介さず、更にディルクを手厚く遇するつもりのジェラルド。


  元よりディルクが贅沢しすぎだと怒るのは想定した上なのだから、更にたちが悪い。


  しかしこれ程価値観の解離があっても、この二人には強固な信頼関係が確かにあるのだから、不思議ではある。





(やってるやってる。二人とも頑張ってるなぁ。

 どんな問題解いてるんだろ?見てみたいな)


 クロエはディルクに抱かれたまま“教室”に入って二人を見ると、真面目に自分達の手持ちの黒板に写し書きした問題を解いている。


 ミラベルは少々苦戦しているようで、眉を寄せて必死に考えている。


 ライリーは既に解き終えたのか、答えの見直しをしている様だ。


 気配に気付いたライリーが目を戸口に向ける。


 クロエを抱いたディルクを認めると、静かに立ち上がり黒板を持って近付いてくる。


「終わりました。採点をお願いします、先生」


 そう言うとディルクの机に自分の黒板を置いて、ディルクの腕からクロエを受けとる。


(流石無駄の無い動きをするわ、ライリーお兄ちゃんは)


 クロエは大人しくライリーの腕の中に収まる。


 ライリーがクロエを見てニコリと笑い

「先生に連れてきてもらえて良かったね。クロエは中々この部屋には来れないしね」

 とささやいた。


(ホントに。この部屋は先生が初めて来られた時以来だよ)


 ライリーに笑い返して頷く。


「フム。ライリー、全問正解だ。易しすぎたの。失敗失敗。

 やはり計算はほぼ問題無いの。単なる計算ではなく、やはり想定問題にせねばならんな。

 とすると……」


 ディルクはライリーの問題について考え込み始めた。


 ライリーはその様子を見ると、肩をすくめて席に戻る。


「ああなると暫く時間が掛かる。ちょっと座って待ってようね。

 ディルク先生は問題を考え始めると周りの存在を忘れちゃうから。

 却ってあのまま横に居ると気を遣わせちゃうんだよ。その間、本を読もうか。

 クロエが選んで良いよ。どれにする?」


 席に座り何冊か本を並べる。


 表題を見ると歴史や地理、後よく分からないが恐らく図鑑と思われる本もある。


 装丁は前の世界で云うハードカバーだ。


 ただハードカバーのカバー無しだが。


 しっかりした作りなので、結構重い。


 クロエは並べられた本から1冊指を指す。


「これ。みたい、です」


 ライリーは笑って頷くと後の本を机の下の棚に納した。


 クロエを自分の膝に立たせると、彼は妹の選んだ本の最初のページを広げる。


 クロエが選んだのは表紙に花の模様が入った本。


 表題が“植物概覧”、つまり植物図鑑だ。


 平地の植物、高地の植物、沼地の植物、後は花木や果実の実る木、蔓植物、薬効がある植物等々多種多様に渡るラインナップだ。


 しかし挿し絵が残念ながら稚拙で、特徴が上手く捉えられていない。


 ボタニカルアートが趣味の雅の眼力が不満を訴える。


(う~ん、もう少し観察して描いてくれないもんかな。葉脈も花弁も全く描き込まれて無い。少々デッサンが狂おうが構わないのに。

 何で茎と葉がこんなに雑なの。花ばっかり力入れて。木に至っては描く気無いでしょ。

 なんでこんなに雑な絵で図鑑にするんだ。

 ああ、草なんて線しか無いじゃない。草は描いてると楽しいのに。根っこまで見てあげようよ!

 図鑑でしょ、仮にも。コレじゃ図鑑の意味を成さないよ、全く)


 クロエがブツブツ呟き始めると、ライリーは口を挟まず彼女の呟きを静かに聞く。


「……なんで、は、まるい?

 は、まる、ちがう。うーっ!

 え、かく、したい。

 かく、したい、もの、いーっぱい、あるのに……!」


 クロエが唸りながら図鑑を睨み付けて話す内容を、吹き出さないよう笑いを堪えながらライリーは聞き取る。


 ライリーはクロエが思う以上に彼女の事を掴みはじめていた。


(クロエは赤ちゃんだけど、赤ちゃんじゃない。

 多分僕より大人だ。何で体が赤ちゃんなのに心が大人なのかが分からないけど。

 それに僕達とは何かが違う。何て言うか…考え方とか常識とかそういう価値観が。

 何故だろう。クロエは確かにアナスタシア様の娘なのに。“黒髪の乙女”はやはり普通の人とは全てに置いて違うんだろうか。

 でも、そんな単純な話じゃ無い気がする。

 だってクロエには別の記憶があるように感じる。

 時々そんな風な呟きが聞こえるし。

 クロエ、君は一体ホントは誰なんだ?それが知りたい)


 だがライリーが彼女にそれを問うことは決して無い。


 何故ならクロエから無理に聞き出すなんて絶対したくないからだ。


 彼女がいずれ教えてくれる日が来るならそれが一番良い。


 彼女が言いたくないのなら、それはそれで構わない。


 クロエを怯えさせたり警戒させたりするかも知れない行為を、自分の存在に掛けて取ることなど有り得ない。


 ライリーが騎士になる決心をした理由は、“黒き森”と“守るべき地”の管理人兼守人になる為だった。


 領主の信頼を得ることが出来なければ、守人になれる筈も無い。


 だから騎士になり、信頼を得られるよう全力で取り組みたい。


 それが志望動機だった。


 では何故守人になりたいのか?


 尊敬する父の後を継ぎたいから。


 彼はそう言った。


 それは嘘ではないが、全てではない。


 寧ろ彼が決して口に出さない理由こそが、真の理由だ。


 “黒き森”と“守るべき地”を守る為に生まれてきた“黒髪の乙女”になり得るかもしれないクロエを守る。


 そしてもし“黒髪の乙女”で無くともだ。


 何者か知れぬ大人の心を持つクロエ。


 実はライリーは初めてクロエが家にやって来た日に彼女を一目見て決めていた。


(この子は僕が一生掛けて守り抜く。誰にも手出しをさせない!)と。


 俗に云う一目惚れかもしれない。


 だがそんな簡単な言葉で片付けられない何かに、彼は突き動かされたのだ。


 両親から聞いていたクロエの境遇。


 命を懸けてシェルビー家の者全員でクロエを守るのだと両親やミラベルと誓い合った。


 だがライリーはクロエを見た瞬間に何かが彼に伝えてきた気がしたのだ。


『この娘を守ってくれ。今度こそ幸せな人生を。頼んだぞ』


 ライリーはその何かに反発等は一切感じなかった。


 寧ろ自分はこの子を守る為に生まれてきたんだと素直に思えた。


 だから全てに置いて全力で取り組み力を付ける。


 力や知識、強い心がなければクロエは守れないから。


 クロエから離れるつもりなど一切無かったが、“黒き森”から出せないクロエを守るには守人になる必要がある。


 だから気持ちを圧し殺して騎士を志望した。


 少しの間離れてしまうが、きっと力を付けて出来るだけ早く彼女の元に戻るのだ。


 悠長に構えてなどいられない。


 彼女が成長すれば彼女を取り巻く危険が嫌が追うにも増してしまう。


 未だ彼女が小さい内に自身を鍛えるのが一番彼女を守るには確実だ。


 僅か7才の少年はそこ迄考え抜いて騎士になることを決めたのだった。





「やった、出来た!

 あれ?クロエが居る。

 クロエいつ来たの……ってお兄ちゃんはもう問題解き終わったの?

 嘘っ、アタシより問題いっぱいあったじゃない!

 アタシよりやり始めるの遅かったのに何それ!

 ま、負けてらんないわ。

 先生、アタシも出来ました!

 見てくださいーっ!」


 ミラベルは隣の様子に気付いて驚き悔しそうに唸ってから、漸くディルクに黒板を見てもらうために立ち上がった。


 ディルクはまだライリーの問題を考えていたが、ミラベルが業を煮やして

「ディルク先生!見てくださいってば!」

 と大きな声で頼むと、老教師はビクッと体を震わせて気付いた。


「フオッ!……ああ、すまんすまん!

 よしよし、では採点しような。

 んー惜しいの。ここは足す筈が引いておる。コレが合っとれば全問正解じゃったがな。

 ミラベルが次の段階に上がるのは又お預けじゃの。

 ほっほっ」


「え、嘘っ!先生見せてください!

 ……ホントだ。何でこんな間違いするかな~。

 うう、又やり直しだよ」


 ミラベルが黒板を握り締めがっくり肩を落とす。


 その芝居がかった様子にディルクもライリーもクロエも吹き出した。


 そんな皆を見てミラベルはほっぺを可愛らしく膨らませ

「笑ったわね。見てなさい、次からは全問正解ばかりしてやるから~!

 もう、クロエまで笑わないで!」

 と文句を言ったのだった。



次話は明日か明後日に投稿します。

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