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やりたい事をやる為に  作者: 千月 景葉
第一章 黒き森
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1-25 決断

お読みくださりありがとうございます。


今日も更新出来ました。


後1話で客人達の話は終わります。

 守るべき地を後にし、黒き森に入る。


 日が暮れ始めたので、森は大分薄暗くなってきた。


 大人でも少々足がすくんでしまう不気味な闇が迫る。


 しかし怖がる筈のミラベルは全くそんな様子を見せず歩いていく。


 ライリーは解るが、コリンですらガルシアにしがみつくこと無く普通だ。


 騎士のテオにはそれがとても奇妙に思えた。


 だからミラベルに聞いてみた。


「何故闇が怖くないのか」と。


 ミラベルはキョトンとした顔で言った。


「夜は暗くなって闇に包まれるのが当たり前ですけど?別に怖くないです。テオ様は怖いのですか?」


 からかっているのではない。


 ミラベルは全く夜も闇が怖くないのだ。


 勿論ライリーとコリンもだ。


 物置に閉じ込められたコリンが泣いたのは、自由を奪われたのが腹立たしかっただけで、闇が怖かったからではない。


 闇は身体を休めるために必要だと、3人は赤ん坊の頃から優しく教えてもらっている。


 ただ夜は両親に森に入る事は許されていない。


 自分の身体を休めるのは何より大事なことだし、森も夜は闇の中で皆活動したり休んだりしているモノが入れ替わる。


 昼に動くのが生業の人間が、夜の闇の世界で動くモノ達の場を荒らすことは余程の理由がない限りしてはならないのだ。


 シェルビー家の子供達は理屈でなく、身体でそう教えられている。


 父のガルシアが夜出掛けるのは、余程の事が起こった時だけ。


 例えばクロエを匿った時や、森が“狩猟”を命じた時などだ。


 子供の自分達が出る幕ではない。


 だからそういう時、シェルビー家の子供達は怯えず母の指示にしたがい大人しく休んだり、リビングに固まっていたりする。


 それが森に生きる者の姿だ。


 生きる力がまだ足りない者は、そうやって生きる力が有る者の指示を聞き動くのだ。


 そういう生き方をしている者が、むやみやたらに訳もなく闇を怖がる事はない。


 闇は時として、自分を守る盾にもなり得る事も知っている。


 だからミラベルにはテオの質問の意味が全くわからなかったのだ。


 テオはそんな生活をしたことが無い。


 ミラベルの瞳を見て、彼は初めて森の厳しさを見た気がした。


 彼にとっては森は神聖なもので守らなければならないものだ。


 だが共に生きていくと言う視点を持つことは無い。


 自分を神聖な森の隣に置くことなど余りにも不謹慎なので、はなから考えたことも無かったからだ。


 しかしミラベル達は違う。


 生まれてからずっと、森と共に生きているのだ。


 テオの“守る”とミラベル達の“守る”は同じ様に見えて実は全く重みが違うのではないかと、テオは初めて気付いたのだ。


 しかし何て言ったら良いか解らず、テオは

「そうですか。変なことを聞いてしまってすみません。あ、自分は怖くないですよ」

と言葉を濁した。


 ミラベルはニコッと笑って

「ではテオ様も私も同じですわね。流石“同志”ですわ!」

と無邪気に喜んだ。


 テオはばつが悪そうに笑いミラベルに合わせたが、ミラベルの意識が自分から逸れると表情を引き締め、考え込んでしまった。






 二人の会話を聞くともなしに聞いていたシュナイダーが、テオの表情を見て彼の気持ちが読めたが、あえて何も言わなかった。


 シュナイダーにとって、今のテオの“疑問”が重要だったのだ。


 実はテオはまだ完全に側近ではなかった。


 この随行で今の“疑問”に辿り着くかどうか、テオは試されていたのだ。


 そして彼はその“疑問”に見事に辿り着いた。


 答えは人それぞれだから、敢えて聞かずにおく。


 何故ならその“疑問”に辿り着くには、自分の森への意識に“疑問”を持つことが必須だからだ。


 森が好き。森は大事なもの。森は神聖なもの。森は美しいもの。


 森への賛美は皆が持つ。


 ただ森を守るにはその賛美だけでは不十分。


 森と共に生きていく覚悟が必要なのだ。


 その覚悟を持つ者が、この“黒き森”と“守るべき地”の守護を担うジェラルドの側近騎士になるのだ。


 今、見事にテオはその最終試験に合格したのだ。


 彼も知らないうちに。


 因みに今の疑問を持つこと無く随行が終了していたら、テオは王都に戻されていた筈である。


 シュナイダーはやはりテオを選んで正解であったと胸を撫で下ろしていたのを、無論テオが知る由もなかった。






 そうこうする内に森の家に帰りついた。


 コレットや側仕え達、ガルシアやライリーは片付けとお風呂、夕食の準備を手分けして行う。


 ミラベルとコリンとクロエは、夕食とお風呂の時間までリビングのラグの上で遅めのお昼寝だ。


 ジェラルドとアナスタシアは騎士のふたりと共に客間で寛いでいた。


 ジェラルドが問う。


「アナスタシアよ。明日アラベラに帰るが、静養を続けるか?」


 アナスタシアはジェラルドを見つめ、首を小さく横に振った。


「帰ります。お父様、永らく我が儘をお聞きくださって有り難う御座いました。クロエに会えて、あの子があのように愛され大事にされているのを見ることが出来ましたから、もう大丈夫ですわ。

寧ろあの子の能力の高さを見て、(わたくし)はこんな事をしている場合ではないと思い知りました。あの子を守るには今のままではいけない。あの“悪夢”が現実になる。

(わたくし)は急ぎ夫と子供達の元に戻り、今後に備えて出来る限りの手立てを講じます。時間はどれだけあっても足りないくらいです。何があっても守らなければ」


 アナスタシアの瞳は決意に満ちていた。


(もう、心配はないな。以前のアナスタシアより更に瞳に強さが備わったようじゃ。ガルシア、コレットよ。感謝するぞ!)


 ジェラルドは深く頷き、アナスタシアに言う。


「あいわかった。あの子のことは儂に任せよ。其方等に逐一報告は上げよう。其方等の覚悟、儂も従おうぞ。

何としても守り抜く。奴等に手出しは一切させぬわ。フェリークの、アーソルティの宝でも有るのじゃからな」


 ジェラルドの言葉にアナスタシアも厳しい表情で同意した。


「はい。有り難う御座います。それに早く帰ってあげなければ。寂しい思いをさせてしまいましたから」


 アナスタシアが自嘲の笑みを浮かべた。


 ジェラルドも同意する。


「そうじゃな。可哀想なことを強いたからのう。待っておるであろうの」


 そう呟いて目を閉じて、ソファに深く沈んだのだった。





 ジェラルドとアナスタシア達がそんな会話をしている間、台所、食堂、お風呂はてんやわんやの忙しさであった。


コレットは夕食の料理に一心不乱に取り掛かり、側仕えのアレクが食堂の準備と料理の補助をする。


ガルシアはお風呂の準備を一人でする。


モニカは二人の主の着替えの用意等に大忙しだ。


ライリーは下の弟妹達の着替えやベッドの準備に大活躍。


寝ぼけ眼のミラベルを起こし、コリンとクロエをガルシアと共にお風呂に入れ、着替えさせる。


二人が終わればミラベルとライリーも順にお風呂を済ましていく。


ガルシアはひたすらお湯を沸かす。


因みに普段はこんなことでは使わない“魔力”も使う。


でないととても間に合わない。


生活に根差した“魔力”の使用である。


子供達が終わるとお風呂を再度美しく洗い清め、主の使用に備える。


後は側仕えの二人に任せ、自分はひたすらお湯沸かし。


ガルシアは本当によく働く男である。


主達も身を浄め、騎士の二人も後に続く。


森の家は夕食の時間までとても慌ただしかった。




やっと夕食の時間になり、今日は皆がいっしょに食事を楽しんだ。


メインは干し肉を戻した物をミンチにして作ったミートローフだ。


戻す際に取れた出汁で美味しいスープも出来た。


前菜は取れ立て野菜と塩漬けの生ハムのカルパッチョだ。


後、野菜と卵と干し肉ミンチで作ったキッシュ。


急いで作ったわりには豪華な食事だ。


流石、“仕事”に手を抜かないコレット母さんである。


しかしクロエの口に入るのは、クタクタ野菜のスープを薄めたものだ。


あっという間にお腹の中に全て納め、クロエは微妙な満足感で食事を終える。


彼女の今の願いは只一つ。


“歯”よ、早く生えろ!である。


食い気だけは誰にも負けない彼女らしい、残念な願いであった。





楽しい夕食が終わり、子供達は寝室に引き揚げる。


だがライリーとクロエは何故か客間に居た。


クロエは既に夢の中なのだが、アナスタシアが時間が許す限り手元に置きたいと願ったからだ。


だから今クロエはアナスタシアの腕に抱かれて眠っている。


今日はこの後もアナスタシアの寝所にて、クロエは休む予定だ。


ライリーはジェラルドに返答するために客間に居た。


両親にも願って了解を得て、今この場に居る。


ライリーは開口一番、こう言った。


「ジェラルド様。僕は騎士になります。守りたいものを守るために」










次話は明日か明後日に投稿します。

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