1-23 この世界の“力”
お読みくださりありがとうございます。
異世界物で無視するかどうするか、非常に悩む日常生活の必須行動について書いてあります。
ぶっちゃけ、チートな力で解決!にしました。
頭の限界でした…。
小川見学を終えた5人は、小川の美しさを互いに話しながら戻ってきた。
ミラベルがコレット母さんに水を汲んでくるように頼まれて持っていたピッチャーを、何故か騎士のテオが水を満タンに汲んで大事そうに抱えながら歩いている。
「ミラベル殿、いつもここの畑にもこの小川の水が使われているのですか?」
「そうですよ。だからお野菜も果物も何でもスッゴく美味しいんです、うちの畑のは!
昨日の晩餐のお野菜のサラダ、とっても甘くてシャキシャキしてたでしょ?母さんが、うちの畑のお野菜は、え~と、なんだっけ?
そう、“ヘグみ”が無いって言ってました!」
ミラベルがテオに訳知り顔で説明する。
「……?“ヘグみ”ですか?」
テオが首を捻りながら聞き返す。
「ミラベル、“ヘグみ”じゃなく“エグみ”だよ」
ライリーが小さな声でミラベルの言葉を訂正する。
「あ、そうそう、“エグみ”!テオ様“エグみ”ですわ!オホホホ、ま、それが無いんですって」
少々頬を赤くしながら慌てて訂正の言葉を重ねるミラベルを、テオがとても可愛いものを見る様に優しく見つめ
「そうなんですね。ミラベル殿はお小さいのによくご存じですね」
と頷いて聞いている。
「アタシ、いえ私は父さんや兄さんともっともっと小さな頃から、この“守るべき地”に来ているのですもの。知っていて当たり前なんです。
私も大きくなったら両親や兄さんと一緒に“黒き森”と“守るべき地”を守っていきたいのです!」
そうテオにしっかりと宣言するミラベル。
小さな彼女の固い決意を、テオも真顔で聞き深く頷き返した。
「解りますミラベル殿。…私も微力ながら“この地”を守る一助になりたく思います。
ジェラルド様に誠心誠意お仕えし“この地”を決して何者にも汚させぬ様、外より守っていく所存です」
テオの言葉にミラベルも深く頷く。
「テオ様、私達は“同志”ですわね。この“守るべき地”を守る“同志”!ガンバりましょうね、テオ様!」
ミラベルの力強い言葉に、テオもニッコリ笑い
「ええ!ミラベル殿には負けません。“同志”として恥ずかしく無いように互いに励みましょう!」
と応えた。
二人の後ろに続いて歩いているライリー、アナスタシアとクロエは、この5歳の女の子と22歳の騎士のやり取りを微笑ましく見ていた。
「テオ様はとても良い方ですね。アナスタシア様」
ライリーの言葉にアナスタシアも頷く。
「私もそう思いましてよ。お父様が側近として召し上げて未だそれ程長く無いのですが、ここに連れて来る者として選ばれた位ですもの。
この“守るべき地”に随行を許されるのは、お父様がお抱えになるフェリークの数多い騎士の中でも極僅か。
テオはあの若さで選ばれたのですから、さぞ重用されている有能な騎士なのでしょうね」
アナスタシアがテオに太鼓判を押す。
ライリーはアナスタシアの言葉を聞き
「僕は騎士の方を父とジェラルド様、そしていつもジェラルド様の側に控えておられるシュナイダー様しか知りません。
僕の知っている騎士の方々はとても威厳があって感情的にならない方ばかりで、僕なんかではとても騎士にはなれないと考えていました。
テオ様の様に気持ちを素直にお出しになる方も居られたんですね。少し騎士の方に持っていた印象が変わりました。
僕でもやれるでしょうか」
と、尋ねた。
アナスタシアは優しくライリーを見ながら
「全てはライリーの心一つですわ。騎士になる為に必要なのは、“守りたい”という心。騎士とは“守る者”。弱き者を害意ある者から守る“盾”。私はそうお父様から教えられました。
貴方にとって守りたいものが何なのか。守るために騎士の“力”が必要か。それを考えてごらんなさい。
私はお父様と同じ意見ですけれど。貴方ならやれますよ、きっと」
と、自身の考えも交えて彼に答えた。
ライリーは
「守りたいものを守る為の“力”か。ありがとうございます、アナスタシア様。
自分の気持ちに整理がつきました。今日の夜、ジェラルド様に御答えしようと思います」
と、真っ直ぐ前を見据えながら伝えた。
アナスタシアはライリーを頼もしげに見やり、それからクロエを見て微笑んだ。
「そうですか。貴方の答えをお父様は尊重なさってくださいます。心のままにお進みなさい。
私も貴方のこれからを楽しみにしています」
アナスタシアはクロエを優しく撫でつつ、彼女を抱く腕に力を込めた。
コレット達は見事な昼食を準備してくれていた。
敷かれたラグの上に昨日の晩餐のグーアの端肉や卵で作ったサンドイッチ、畑で収穫したばかりの野菜で作ったサラダ、同じくその野菜と干し肉で作ったスープ、取れ立ての果物。
本来野原で火を使うのは厳禁だ。
植物にとって、火は命を奪うモノ。
熱は必要だが、火ほどになると植物には害でしかない。
況してや“守るべき地”で火を使うなど言語道断だ。
しかし、ガルシアには“守るべき地”で許された畑がある。
畑の一部にあらかじめ竈を作ってあり、それでスープを作れたのだ。
普段は野菜の収穫後に、枯れた葉や茎を竈の中で焼いて灰にする。
その灰を畑に漉き入れて肥とするのだ。
決して守るべき地で自生する植物達に悪影響を及ぼさぬように、煙も極力出ぬようカラカラに乾かしたものを高温で短時間に焼く。
高温で焼くために森の炭小屋で炭を作り持参している。
ここでは植物達を尊重しなくてはならない。
自分達の生業は与えられた“場”の中ですべて済ませるのだ。
生きていく限りどうしても伴う“排泄物”等の処理もだ。
但し土に埋めるとかはしない。
焼却する。
或る“方法”で。
森の家でも同じ“方法”がとられている。
ガルシアにはそれが出来る。
その“方法”が出来る者は、ある“力”が生まれつき備わっている。
“力”とは“魔力”。
“方法”とは“魔力”の行使。
ガルシアには火の“魔力”が生まれつき備わっている。
念じるとその“魔力”の強さに応じた火が出せる。
この世界の者には少なからず“魔力”が備わっているのだが、では全ての者が“魔力”を行使出来るかとなるとそうではない。
“魔力”があると言っても力が微少な者が殆どだ。
ある程度の“魔力”が備わっていないとその力を行使出来ないのだ。
又“魔力”には属性があり、大きく分けて2属性、そしてその属性の中で又3種別に分類され、計6種の“魔力”が存在する。
“静”属性には水、土、闇の3種別。
“動”属性には火、風、光の3種別。
後未だ持つ者は確認されていないが、どちらの属性にも非ず、又どの種別の“魔力”でもない“力”があると言われている。
全ての“魔力”を“吸収”し、“無効化”する“無”属性の“力”、“還力”だ。
この世界がクロエ・雅のいた世界と決定的に違う点は、この“魔力”が存在する事だ。
しかしまだクロエは、この世界にそんな力が存在する事を全く知らない。
他の者も当たり前過ぎて普段は口にしないので、クロエが知る切っ掛けが無い。
今日も竈でガルシアがチョチョイと使っただけなので、クロエがその力を目にすることは無かった。
いずれは知ることになるのだろうが。
何はさておき、皆が楽しみにしていた昼食タイムが始まった。
テーブルマナー等は全く気にせず、目の前の大量のサンドイッチなどを皆美味しそうに平らげていく。
ジェラルドやアナスタシアも同様だ。
一人を除いては。
そう、まだ“歯”が生えていないクロエだ。
彼女は涎が余りにも凄かったので、不憫に思ったジェラルドが果物の一つ、プラムを大きくしたような見た目で果肉は固め、果実水にも使われる非常に甘い桃と林檎を合わせた様な味の“ラビ”の欠片を持たせたのだ。
涙を浮かべて喜んだクロエは今、必死にその欠片をしゃぶっている。
余りにいじましいその姿にジェラルドが
「何ぞ他に歯が無くても食べられるものは無いのかのう。」
と目の前の食事を見渡す。
コレットが苦笑して
「まだ離乳食の始めでございますから。スープの中の軟らかい根菜でしたらスプーンで潰して与えられますが。」
とジェラルドに教える。
ジェラルドのスープには既に野菜は無くスープ鍋にも残っていない。
ジェラルドが申し訳なさそうにクロエを見ると、クロエは自らの“歯茎”で必死にラビを攻略しようと奮闘していた。
(クソッ!齧れぬ~!うぬぬ、大分この歯茎で圧力を掛けて果肉を軟らかくしたのに、中々噛みきれない~。クッ歯茎の限界かっ!
ラビめ、大人しく齧られれば良いものを。手強いっ!)
ジェラルドがその奮闘するクロエを見て、不憫さにオタオタしながら又辺りを見回す。
「クロエが可哀想じゃよ。ああ、何で儂はスープを全部食ってしもうたんじゃ!パンの残りは無いか?」
ジェラルドはパンを飲み物に浸して軟らかくすればと考えた。
しかしサンドイッチは既に無く、残っているのはラビと同じ位固い野菜サラダだけ。
「サンドイッチも無いではないか!あんなに大量に用意しておったに。誰が食ったんじゃ、テオ、其方か!」
焦る余り、テオにあらぬ疑いをかけるジェラルド。
テオが慌てて
「ええっ?!ジェラルド様、私は確かに沢山食べましたが、ジェラルド様が一番多く食べていらっしゃいましたよ!」
と、反論する。
心当たりが思いっきり有ったのか
「うぬう~。儂かっ!儂が食ってしもうたのか~。すまんクロエ!大食いの爺を許せ!」
とラビ相手に格闘(?)するクロエに詫びるジェラルド。
周りが笑いを堪える中、クロエは頭を下げるジェラルドに気づかず、ひたすらラビに齧りついてる姿が更に笑いをさそうのだった。
次話は明日か明後日投稿します。