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やりたい事をやる為に  作者: 千月 景葉
第一章 黒き森
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194. 成長

お読みくださりありがとうございます。

一気に5年、時が進みました。

成長した主人公が動き出します。

「母さーん、洗濯物畳んだわよ!じゃあアタシ卵取りに行ってくるから~」


「ありがとう!あ、卵なら私が行くわ。クロエは父さんとコリンのためにお風呂を頼めるかしら?」


「うん、解った。次いでに着替えも出しとくよ。

 ねぇ母さん夕食なに作ろっか?」


「そうねぇ……コリンが貴女の作った“肉じゃが”を又食べたいって言ってたけど?」


「正確には“肉じゃがモドキ”だけどね。じゃあお肉有る?」


「有るわよ、畑から“ショーユ”の実を取ってきてくれることになってるから、下ごしらえだけしときましょうか。

 あ、そうそう!“ぷりん”が食べたいって父さんも言ってたわよ」


「プリン?じゃあ卵が来たら先にプリンから作っとこ」


「……果物飾って私は“あらもーど”にするのよ、フフフ」


「あ、母さん聞こえたわよ!アタシもプリンアラモードにするっ!一人だけズルい!」


「解ってますってば!“料理”の先生を差し置いて、私だけなんて考えてないわよ~」


「絶対よ!……この間一人だけ“柿ピー”つまみ食いしたの、アタシ知ってるんだからね。

 先生と父さんが知ったら怒るかもよ?」


「!み、見てたの?クロエ」


「うん、母さんが“柿ピー”の壺から一握り出してエプロンのポッケに入れてるのをね。何でか減りが早いな~って2人が首捻ってたわよ。お酒のアテが減るのには敏感だよ、ホント。

 ……フフ、犯人はここにいるのに」


「し、しまった見られた~っ!……いつも周りを確認してから頂くんだけどなぁ」


「だってアタシ小さいからね。隠れるなんてお手のものだも~ん!」


「……内緒にしてくれるでしょ?」


「じゃあアラモードには生クリーム付けてね!」


「……泡立てるのはガルシアにやって貰うわ」


「あれ疲れるもんね~。父さんならあのパワーであっという間だけど。

 じゃあアタシお風呂用意してくるわ」


「ええ、よろしくね」





 ……兄のライリーが旅立ったあの日から瞬く間に月日は流れた。





 今の森の家にはガルシア夫妻、老教師のディルク、そしてコリンとクロエが暮らしている。





 姉のミラベルは兄が旅立った2年後、元領主ジェラルドの娘であるアナスタシアの嫁ぎ先インフィオラーレへ、アナスタシアの娘であるエレオノーラの側付きの侍女になると云う名目で行儀見習いに出たのだ。


 その内実は、この森の家に年一度やって来ていたエレオノーラがミラベルの奉公話を聞き

「嫌!ミラベルにこの先会えなくなるのは絶対嫌です~。他の家へ行儀見習いに行くのでしたら、是非是非私の家にお越しくださいませ!どこかの知らない貴族になど、大事なミラベルを任せたくないのです。

 ……実はお父様とお母様には既に内々に承諾をいただいておりますの。

 何も準備は要りませんわ、全て我が家でミラベルに必要な物は揃えます。行儀や淑女教育も私と共に学べるように全て手配致します。

 も、勿論年一回はこの森の家に里帰り出来ましてよ。……その時は共に私も参りますし。

 だからミラベルは何の心配もなさらずにその身一つで、我がインフィオラーレに来てくだされば良いのです!

 ……どうかお願いです、私を見捨てないで、ミラベル。インフィオラーレの我が家に来て下さいませ~っ!」

 と言う、ともすれば熱烈なプロポーズ(?!)にも聞こえる勧誘をしたのだ。


 驚いたのはミラベル本人と両親だ。


 余りにも厚待遇だし、申し訳無さすぎると最初は固辞したのだが、泣いてすがり付くエレオノーラにほだされたミラベルが最終的に折れた。


 又ミラベルが旅立つ日には、エレオノーラの母アナスタシアまでが彼女を迎えに森までやって来た。


 これに喜んだのはコリン。


 大好きなアナスタシアの登場で、彼は憧れの()(かた)に下にも置かぬおもてなしを、と張り切りまくり、却ってアナスタシアを恐縮させた。


 又出立の際には、姉が遠地に旅立つと言うのに

「アナスタシア様がお帰りになられるのがとても寂しいです。……今度はいつお越し頂けるのでしょうか?」

 と涙目で聞いて、アタシはどうでも良いのかと憤慨した姉から最後の拳骨を喰らう事となった。


 (ミラベル)の旅立ちはそんな感じで、悲壮感が全く欠けたとても楽しいものとなった。





 そんな姉の旅立ちからも又月日が流れて。





 今、クロエは7歳。兄のコリンは9歳になった。


 9歳を迎えたコリンは今年の視察陣の引き上げの際に、彼等と共に森の外へと旅立ち、ジェラルドの元で暫く教育を受けた後、騎士団に入ることとなっている。


 兄のライリーの時と同じである。


 実はコリンはこの旅立ちを酷く渋っていた。


 理由は単純明快、妹のクロエを一人置いていきたくないのである。


 クロエが旅立つ時に共に出たいとまで言い出し、両親やクロエ本人が慌ててしまった。


 勿論クロエの秘密に関してはコリンも既に聞いて知っている。


 だから精神的には大人なので大丈夫だと言い聞かせたのだが、それでも絶対残されるのは寂しい筈だと言って譲らなかった。


 結局「わからず屋のコリンお兄ちゃんは何か嫌だな」と、クロエがボソッと呟いたことでコリンが泣きそうになり、渋々旅立ちを決意したのだった。




 コリンは旅立ちを決意した後、残り少ない森の家での生活を思う存分楽しもうと考えを切り替えた。


 お手伝いを精一杯し、両親や先生と思いっきり意見を述べ合い、動物達ととことん触れ合い、クロエを思いっきり可愛がり、又同時に自分も甘えることに決めた。


 そしてそれはしっかり実践されている。


 前世が異世界人のクロエは、この世界には無い色んな変わった知識を持っている。


 遊びに道具、食べ物、服等々。


 特に食べ物、料理についてはコレットが興味津々で質問しまくっていた。


 ただ残念なことに前の世界では簡単に手に入った食材が、この世界では殆ど手に入らない。


 似たような食材があれば未だ良いが、こと調味料に関しては完全にお手上げだった。


 で、考えたクロエは森に相談した。


 するとクロエにとことん甘いこの世界の意思は早速動き出す。


 クロエの五感の記憶を頼りにこの世界の物質でそれを合成し、守るべき地の畑の果樹に実として生らせた。


 クロエが願った調味料は瓢箪の殻に入って枝にぶら下がっていた。


 又合成が比較的簡易であった穀物は、畑でも育つ種子を作って与え、守るべき地の畑を広げて育てさせた。


 クロエが切望していたうるち米と餅米、大豆と小豆、そして落花生だ。


 初めて収穫出来た時、クロエは狂喜乱舞した。


 それらを使って餅を作り、細かくして風通しのよいところでカラカラに乾かし、揚げたり焼いたりして“おかき”を作った。


 瓢箪の実に入っていた醤油や畑で育てた唐辛子で作った辛味醤油で味付けしたおかきと落花生を混ぜた“即席柿ピー”を作ってガルシアやディルクに振る舞ってみた。


 大人達はこの柿ピーをいたく気に入り、沢山作ってくれと懇願した。


 で、定期的に作ることになり、今では常時台所に柿ピーの壺が鎮座している。


 だが無くなるスピードが早く、現在はしょっちゅう作るはめとなっていた。


 その無くなるスピードが早い原因が、台所に常に出入りしているコレットのつまみ食いだったのだ。


 コレットがバレると不味いと思ったのも無理はなかったのである。


 他にも醤油が出来たことで、肉じゃが等の和食の煮物が作れるようになった。


 早速クロエは氷室に置いてあった肉やこの世界の芋モドキを使い、肉じゃがモドキを作って家族にドキドキしながら振る舞ってみた。


 この世界からすると比較的甘い煮物だったので、クロエは皆の反応をじっと窺う。


 すると皆驚いた表情を浮かべた後、バクバク食べ始めた。


 ディルクが嬉しそうに

「甘いがとても美味しい。それに腹に優しいの。脂が少ないので儂でも量が食べられる。

 お主の世界の食べ物は老いた者にも優しいのだな。有り難い事だ」

 と感想を言った。


 それ以上に喜んだのはコリンだった。


「軟らかいし甘いし、これ僕大好きだ!又作ってよ、もっと食べたい!」


 母も嬉しそうにパクパクと食べ

「美味しいわねぇ。とても優しい味だから幾らでも食べられそう」

 とおかわりした。


 ガルシアが苦笑しながら

「こりゃ肉じゃがは皆食べすぎてしまいそうだな。俺もこの味は大好きだ」

 と彼もおかわりを願ったのだった。


 そんな訳で今森の家の食卓は和食モドキメニューで彩られていた。


 それはデザートにも及び、しょっぱい系の柿ピーや揚げおかき、小豆もあるので甘い系の大福やぜんざいも作った。


 洋デザート系ではプリンやスフレなども作ってみた。


 和デザートも洋デザートも共に皆気に入り、今では毎日何かしら作っている。


 コレットは料理上手なのですぐにクロエに作り方を教わり、嬉々と自分のものにしていった。


 今では毎日の献立は母娘2人で話し合いながら決めて、仲良く手分けしながら作っている。


 以前にもましてコレットとクロエは仲良くなり、色んな女同士の話をしたりしてすこぶる良い関係を保っていた。


 というように、今の森の家はとても和やかな空気が流れているのである。





 その日の夕食の席で。


 コリンのリクエストで作った肉じゃがを皆で美味しく食べながら、ある話題で盛り上がっていた。


 先だって領主の双子の片割れであるリュシアンが、目の下に大きな隈をこさえてやって来たのだ。


 彼曰く、クロエの変身法具の試作品が漸く出来たとのことだった。


 思えば初めて彼が森に来たのはクロエが2歳の時。


 この時クロエの為に作ることを決意した法具が思いの外難しく、ディルクが王都に出向いたりリュシアンが森に来たりジェラルドの屋敷で2人で落ち合って試作したりと、彼等は必死に研究していたのだ。


 それから5年が過ぎた今。


 漸く納得のいく試作品が作れた彼は、疲れきった体を鞭打ってこの森にそれを届けてくれたのだ。


 ……着いた途端にリュシアンが気を失って倒れたのには皆慌てたが。


 そして試用してみて、何とか研究者2人が求めるレベルまで術の効果を確認することが出来たのだ。


 後は細々とした大きさやデザイン、法具に使う素材をこれから詰めていくと言う。


 未だ何度か試作をするようだ。


 今クロエはリュシアンが作ったその法具の髪留めを連続装用しながら、効果が持続するかどうかの検証をしている。


 といってもクロエは着けてるだけなので、彼女は全く負担を感じていない。


 たまに説明通りに法具の髪留めの指定された部分を弄り、髪の色の変化を確認したりするのだが、これがとても楽しい。


 コレットやコリンに変身ゴッコと称して、一緒に確認してもらう。


 2人は目を輝かせながら、楽しんで検証に付き合ってくれた。


 もう森の中では法具の力は問題ないと思われた。


 そうなると1段階検証のハードルを高くしたいと、リュシアンやディルクは考え始める。


 つまり森の外での使用の検証だ。


 しかし彼女をその為だけにアラベラに行かせる事は、どう考えても危険すぎる。


 なので森のすぐ外の雑貨屋までの外出から始めようと言う話にまとまりつつあった。


 その事で食卓が盛り上がっていたのだった。


「うわぁドキドキする。森の外を見るのは初めてなんだもの!」


「外は外だけど森のすぐ近くだし、もう一つの結界内では有るから完全な外では無いけどね」


「それでも楽しみよ~っ!ね、その日は皆で雑貨屋に行くの?」


「先生と俺、コリンとクロエだ。コレットは留守番だよ。

 誰かは森の家に居た方が良いし、守り人の俺は必ず付いていかないとイカンからな」


「そっか、そうよね。母さんとも一緒に行きたかったんだけど、しょうがないか」


「ごめんなさい。又次の機会にしましょうね」


「クロエ、僕が一緒に行くから良いじゃない!僕だと不満?」


「やだ、そんな筈無いでしょ!ウフフ、コリンお兄ちゃんと森の外で買い物かぁ。楽しみだ~」


「浮かれて転んだりするんじゃないぞ、お主は結構抜けておるからのう」


「解ってまーす、浮かれすぎないように気を付けまーす!」


「こ奴、絶対何かやらかす気がするわい……ガルシア、コリンよ、儂等が気を付けるしかなさそうじゃな。

 当日は油断せぬように頼むぞ。

 特にこの面白娘の行動にはな!」


「はい、お任せください先生!僕がクロエを守ります!」


「ええ、警戒は怠りませんよ」




 そんな風に外出の予定は話し合われ、クロエの初の森の外でのお買い物ツアーが決まったのだった。

なるべく早く更新します。

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