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やりたい事をやる為に  作者: 千月 景葉
第一章 黒き森
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1-19 黒き森

お読みくださりありがとうございます。


又少し森のお話が入ります。


ガルシア達の仕事内容もちょっと出ます。

 客間でそんな会話がなされている時、森を見回っていたガルシアと、ジェラルドに同行してきた騎士のシュナイダーが家に戻ってきた。


 全員が揃ったところで朝食をとる。


 コレットはコリンを起こしに行くが、やはり中々起きず一苦労したようだ。


 愚図ったままコレットに抱かれて食堂に姿を表したコリンだったが、アナスタシアにおはようと微笑まれた途端、目を輝かせて母から離れ、アナスタシアに近付こうとして母に睨まれた。


 流石に昨日の今日で、泣きわめいて意志を通すと格好がつかないとでも考えたか、今朝は大人しく母の元で食事をとるコリン。


 クロエはさっき客間で一頻(ひとしき)り大泣きしたので疲れたのか、今はラックの中でうたた寝をしている。


 今日はこの後森などを視察がてら、畑近くの野原でピクニック形式で昼食をとる。


 皆で歩きながらの視察となるが、ジェラルドとアナスタシアの馬は共に引き連れていく。


 ジェラルドは毎年このようにして視察をしているが、アナスタシアは初めてだ。


 馬に乗って視察をとも考えたが、アナスタシアが固辞した。


 折角の機会なので自身の足で皆と同じ様に視察したいし、況してや小さな子供達まで歩くのにいい大人が楽をしてどうすると言うのが理由だった。


 確かにその通りなので、一応馬は連れていく条件で側仕えと騎士達は了承した。


 仮にも侯爵夫人であり他の領地の領主夫人でもあるアナスタシアが自ら歩くことを、本来ならば護衛する立場の騎士達は止めるのが筋だが、ここは特別な“黒き森”であり、向かうは“守るべき地”なので、歩いた方がこの“地”に対して敬意を払うことにもなるのだ。


 ()くなる訳で、アナスタシアは動きやすい軽装になったのである。


 アナスタシアの衣装の見た目は乗馬服に近い。


 下がミディ丈より少し長めのキュロットスカートで足元はショートブーツだ。


 髪は緩くアップにして、スカーフ状のもので頭全体をフワリと包んでいる。


 とてもコレット達から見たら軽装ではないが、侯爵夫人にとってはこれでも大分碎けているのだ。


 又いつもなら荷車に載せてる荷物は、ジェラルドとアナスタシアの馬にコンパクトに纏めて載せてある。


 今日は農作業はしないので、昼食の為の荷物しかないのだ。




 さて、準備を調えた一行は視察を始める為、森の家を後にした。


 ゆっくりとガルシアに質問しながらジェラルドは、先頭を側仕えのアレクとガルシアと共に歩く。


 少し遅れてアナスタシアやコレット達が続く。


 しんがりを騎士のテオが努める。


 森はいつものように静かである。


 時折鳥の声が聞こえるが、それ以外は風が吹くこともなく、森の木々の木洩れ日が所々苔むした道を照らし出している。


 この森にも鳥以外に動物達は居るが、基本的に出会うことはない。


 それがこの森の特徴だ。


 この“黒き森”はガルシア達が管理していると言ったが、実はそれは正しくない。


 正しくはガルシア達も森の動物達も“黒き森”の“意思”に従い、動くのだ。


 管理人兼守人のガルシア達は、ある“力”を持っている。


 それは“黒き森”の“意思”を感じ取る“力”だ。


 声が聞こえるわけではない。


 但、静かに森に尋ねるとその答えは自ずと示されるのだ。


 例えば今彼らは畑のある野原を目指して歩いているが、ガルシアは“野原”を目指すと家を出る際に“森”に“願い”で伝える。


 するとガルシアが歩き出して目に入る“道”は、自ずと“森が示した道”になっているのだ。


 逆に言えば、“森”が“通る事を許した”道しか、ガルシアには進むことは出来なくなっているのだ。


 そして同行の者がガルシアに逆らい、彼とは違う道を行こうとすると、いつの間にか森から弾き出され、以後は森に入れなくなるのだ。


 ガルシアは“黒き森”に認められた管理人兼守人なのだ。


 だが、あくまで主導権は“黒き森”にある。


 そして“黒き森”はその先にある“守るべき地”を守るために存在している。


 番人である“黒き森”に認められた者しか森を歩くことは出来ないし、又その先に行くことなど許されないのだ。


 森が認めない者が無理矢理入ると、何も見えない“黒き”狭間を歩かされ、いつしか森に弾かれてしまう。


 まず森が認めぬ者が単独でこの森に入れる筈もないが、万が一入れたとしてもそうなるのだ。


 又、この地をジェラルドの一族が治めるようになったのは、偶然王に命ぜられたからではない。


 元々貴族の中では、ジェラルドの一族しかこの地の“意思”を感じ取る事が出来る者がいなかったからなのだ。


 昔から実り豊かであり、又国の防衛ラインでもあるこの地を自分の領地にしたい貴族は多かった。


 しかしジェラルドの祖先が昔から守ってきた地なので、他の貴族が入り込む余地は元々無きに等しかった。


 だが何代か前の王が、欲深な他の貴族の訴えに耳を貸してしまい、この地をジェラルドの祖先から取り上げようとしたことがあったらしい。


 そして、その王と貴族が森に入ろうとすると森が拒んで全く彼等を寄せ付けなかったそうだ。


 ジェラルドの祖先が汚い手を使って入らせないようにした、と王も貴族もまくし立てた。


 すると、国の清流の水が涸れてしまったのだ。


 アーソルティ王国はフェリーク州に大きな“水源”を持つ。


 “水源”の正体は白く高きシエル山脈の雪解け水であるのだが、その雪解け水が“守るべき地”と“黒き森”を通ることにより、さらに水は清らかになる。


 その後アーソルティ王国全体に行き渡るのだが、その水の流れを王と貴族の無礼に怒った“地”が止めてしまったのだ。


 これには国中が大混乱となり、結果王は失脚し、その貴族は処刑の末路を辿ったと言う。


 その森の怒りを鎮めた者が居るのだが、それは又別の話。


 その後紆余曲折を経て、ジェラルドの祖先が又この地を守ることとなったのだ。


 因みにガルシアはジェラルドの一族ではない。


 ガルシアはジェラルドの愛弟子でしかない。


 だが、修行中にジェラルドに連れられてガルシアがこの森に来た際、何故か“黒き森”は彼を受け入れた。


 彼は“黒き森”に見込まれたのだ。


 理由など誰にも分からない。


 大体ジェラルドの一族でも全ての者が、森の意思を感じ取れる訳でもないのだ。


 では何が“黒き森”に認められる要因になるのか。


 それは誰にも分からないのだ。


 但“黒き森”の意思を感じとれる者はジェラルドの一族には多く現れる。


 そしてその一族の(おさ)に見込まれた一族以外の者は、得てして“黒き森”の“意思”を感じ取れる者ばかりなのだ。


 何とも不思議なのだが、こればかりはそういうものだと受け入れるしかないらしい。


 まあそう言う“黒き森”を、ガルシア達は森の意思が示す道をゆっくりと歩いていく。


 因みに森の実りを分けて貰いたい時は、そう“願う”と果実が実っている木や、花蜜が採れる場所に森が“案内”してくれる。


 しかし示された場所以外から採るのは許されない。


 そして必要以上に採取しても駄目。


 森に住む“他”の生き物の食物でもあるし、この地の植物の命を分け与えてもらうのだから、欲を掻いてはならないのだ。


 “狩猟”に至ってはもっと厳しい。


 直接の命のやり取りとなる“狩猟”は、森が許可を下す事は余り無い。


 昨日のメイン料理の食材であった鳥の“グーア”は、森が許した“戦い”に勝利した証し。


 森が“狩猟”を許可した場合、森がその瞬間から狩る“者”の命の守護を一時的に止める。


 全ての森の動物が対象になる訳ではなく、子供や妊娠した雌、又手負いの獣は森が守るので、狩る者から挑まれた“獣”は狩られないようにと抵抗が激しくなる。


 狩りを行うというのはお互い命のやり取りとなるから、例えガルシアが命を落としても文句など言えない。


 罠など仕掛けるのは森への冒涜だ。


 だから極々たまにしか、“狩猟”はしない。


 但、たまに森側から“狩猟”をしろと命ぜられる時がある。


 正気を失った森の動物が同属で争ったりした場合だ。


 その争いの程度が酷い場合、森の“管理人兼守人”の仕事となる。


 導かれるまま歩くと、荒ぶった動物と対峙し森の命じた“狩猟”が始まるのだ。


 その場合は森が力を貸してくれるから、比較的楽に仕留める事が出来る。


 又複数の獲物を仕留める事も、この場合は多い。


 そう言う獲物の肉を普段から干し肉にして備蓄しているのだ。


 因みに卵はガルシア達が森に許しを得て飼っている家畜の鳥から採っている。


 勿論、無精卵だ。


 だから普段は雌と雄は別けて飼育しているが、一月に一度は交ぜて飼育する。


 その際に産まれる有精卵は森が採取を許さないので、ガルシアの“目”に入らなくなる。


 で、その後いつの間にか“雛”が増えてたりする。


 “黒き森”にはそう言う“掟”が幾つもあるのだ。


 しかし全て“黒き森”が采配するので、ガルシアはその“意思”に従うのみ。


 誠に不思議な森である。


 森を歩くと非常に大きな木々ばかり。


 しかし中には“ウロ”が開いた木もある。


 そういう木は頃合いが来ればガルシア達が切り倒すが、勿論森が示してからである。


 木としては寿命が尽きかけているものもあるが、ウロは動物達の(しとね)となっているものもあるのだ。


 ガルシア達は森の命じた木を切り倒し、それを資材にしている。


 今日も何本かその時期が迫る木があるのをジェラルドはガルシアに報告を受け、確認した。


 非常に稀少な種類の木々であるから、例え寿命が来た木でも、資材以外に色々と利用価値があるのだ。


 どんな種の木が近々手に入るのか、知っておくのも大事なのである。




「本当に圧倒されますわね…。話には聞いておりましたが、これ程に荘厳な森だとは思いませんでした。お父様が心砕かれて大事になさるのも当然ですわね。」


 アナスタシアがため息を吐きながら、森の木々を見上げる。


「儂等は唯命じられるままに森を整えるだけよ。森は全て自らが定めた通りにしか動かぬ。

そこに住まう生きとし生けるもの、全てはそれに倣うのみだ。人も木も動物も虫も草も全部、森の手のひらの中じゃ。

“黒き森”は“神域”なんじゃ」


 ジェラルドがアナスタシアに答える。


 アナスタシアも無言で頷き又歩く。


「じゃからこそ、これからは更に気を引き締めなければならぬ。王都の奴等の動きがキナ臭くなってきおった。

あの様な輩に惑わされるバカが出てきておるからな。ここには手出しさせぬ」


「分かっております、ジェラルド様。気を静めて下さい。空気が荒れますよ?」


 ガルシアが静かに師匠に釘を刺す。


 ジェラルドがフッと息を吐く。


「すまぬ。年じゃな、儂も」


 ライリーはそんな大人達の会話を静かに聞いている。


 やがて木々の間から草原が見えてきた。


「まあ!何て綺麗なの」


 アナスタシアや側仕えのモニカ、騎士のテオが感嘆の声をあげた。


 “守るべき地”に着いたのだ。











次話は明日か明後日に投稿します。

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