191. 姉達
お読みいただきありがとうございます。長くなりました。懲りずにお読みくだされば有り難いです。
「お姉ちゃんがアタシを疑ってます。それにあの様子だと、ほぼ秘密に気付いてると思うんです。
元々賢い子だし、これ以上誤魔化すのはたぶん無理ですね。と言うかアタシがそうしたくない。
なのでお姉ちゃんにも秘密をぶっちゃけたいんです。どうでしょうか?」
クロエは勉強部屋で大人3人と兄2人を前に、今の気持ちを話した。
大人3人は苦笑しながら、口々にそうだろうなと肯定する。
「やはりか。あの子がいつまでも気付かない筈無いからな。寧ろ儂が想定していたより遅かった位じゃ」
「多分ミラベルは今までお前を気遣っていたんだろうな。だけどライモンド様や双子のお2人に秘密を先に打ち明けただろう事を強く感じて、妬きもちを妬いてるんだと思う。
「姉のアタシを差し置いて……水臭い」……ってね」
「あの子ったらさっきも貴女から聞き出したくて、ウズウズしていたものね~。大分嫌味も言ってたもの。アレじゃこれ以上隠すと姉妹の仲が拗れてしまうかもしれないわ。確かに打ち明けた方が良いわね」
ウンウンと各自頷きながら考えを述べていく。
「ミラベルなら打ち明けても問題ないよ。実は僕もその事を持ち掛けるつもりだったんだ。
僕はもうすぐここから離れるだろう?なのに残る姉兄がお前の秘密を知らないのは、やはり良くないと思うんだ。
それに知らないままじゃ、この後僕の代わりを勤めてもらえないしね」
ライリーが感想を言うとクロエが首をかしげる。
「僕の代わり?どういう意味なの、ライリーお兄ちゃん?」
「森への付き添いさ。お前は一人でこれからは行くつもりだったろ?
それは駄目だ。お前は直ぐに突っ走る性格だから、森から戻って来なくなると困る。だからお目付け役は絶対に要る。
だから今後はミラベルに頼みたかったんだ。勿論ミラベルが旅立ったら次はコリンにその役をやって貰う。
考え無しで突っ走るお前の重石には丁度良いよね。
これはシェルビー家の子供達の大事な役目とするんだ。……末妹を守るのは兄姉として当たり前だろう?」
ライリーがそう言ってニヤリと笑う。
「ええっ?!いや、それは余りにも過保護と言うかなんと言うか……アタシ一人でもちゃんと帰ってくるよ。突っ走るなんてそんな……」
「信用できないね。これは今までのお前がとった行動を考えての提案だからな。
森の中でお前の帰りを幼い姉や兄が待っているって事が、考え無しのお前にとっての歯止めとなるんだ。その存在が有れば、興が乗っちゃって森で暫く居ちゃえ~、何て行動もとれなくなるだろう?
先手必勝ってやつさ。解った?」
ライリーの容赦ない指摘に身に覚えの有るクロエは頭を抱えた。
「アタタ……情けないけど反論が出来ない。で、でもミラベルお姉ちゃんやコリンお兄ちゃんにこれ以上負担掛けるのは忍びないんですが……」
クロエの恐る恐るの反論にライリーは彼女をジロッと睨み付ける。
「勝手に居なくなる方が余程怖い。あの恐怖を味わった2人がこの提案に同意しない訳無いだろう。文句を言わずに受け入れるんだな」
「アウゥ……。し、信用が無さすぎる、アタシ。哀しい……」
「信用してるさ。僕達をとても大切に思ってくれてるって事は。
だからこそ僕達がお前の突飛な行動の重石役となり、足枷となり得るんだよ。有り難い事にさ。
万が一にも大事な妹を失うなんて事、有っちゃならないからね!」
非常に晴れやかな笑顔で言い切るライリーには最早どんな反論も意味をなさない。
それを痛感したクロエはただ一言
「その節は大変ご心配をお掛けしました……」
と呟いたのだった。
「では決まりじゃな。ミラベルに話しなさい。
……いや、エレオノーラにも話す方が良いな。クロエよ、エレオノーラにも打ち明けてみんか?」
「エレオお姉ちゃんに?勿論アタシは構いません。ただエレオお姉ちゃんは本当のお嬢様だから、この事を聞いたらショックを受けてアタシを怖がったりしないかな……?」
ここでオーウェンが割って入った。
「先生、どうしてエレオノーラにも秘密を話した方が良いと思われたのですか?」
「うむ、エレオノーラはこの先もここに来ることになるじゃろうからな。恐らくエレオもこの子の秘密にある程度気付いておると儂は踏んどる。ミラベルやコリンとも非常に良好な関係を築けておるし、今後を考えれば打ち明けた方が益となる。
同性で同世代、又立場的に違った視点からの助言も期待出来る存在となる娘だ。
勿論兄のお主や当事者のクロエが是と言うことが前提じゃが。どうかの?」
オーウェンは暫く俯きながら顎に手を当てて考えていたが、やがて顔を上げて頷いた。
「妹は口も固いですし、僕としてもクロエの秘密が共有できるのは有り難いです。僕が反対する理由はありません。
だけどクロエは構わないのかい、エレオノーラに打ち明けても?」
「うん、エレオお姉ちゃんは信頼できるもん。初めて会ったときからそう感じてたし、その気持ちは今も全く変わらないわ。
ミラベルお姉ちゃんに打ち明けるときに一緒に聞いて貰うね。
……何か2人がどんな反応を見せるか楽しみになってきちゃった、アタシ」
クロエがそう言ってニシシと笑う。
コレットが口元に手を当てて暫く考え込んでいたが、やがて口を開いた。
「……コリンにも話すの?クロエ」
「え?あ、そうだなぁ……一人だけ知らないって言うのも可哀想でしょ、だから打ち明けた方が良いかなと考えてるんだけど。
母さんは反対なの?」
クロエの言葉にコレットは、口元に当てていた手を頬にずらして、フゥ……と溜め息をついてから話す。
「実を言うとそうなの。ミラベルは問題無いんだけど、コリンはねぇ……。ほら、あの子は元々甘えん坊でしょ?今は可愛い妹の手前、凄く良いお兄ちゃんを頑張ってるんだけど、性質ってそう簡単に変わるものではないわ。
実は貴女が生まれ変わりで心は立派な大人だとあの子が知ったら、きっと元々の甘えん坊の性質が前に出てくると思うのよ。
「クロエは見た目は小さいけど、心はお姉さんなんだから、僕甘えて良いよね!」ってあの子なら考えそうで心配なの。
……悪いんだけど、コリンに話すのはもう少し待ってくれないかしら?
あの子を信用していない訳ではないんだけど、貴女のお陰で今とても頑張り屋さんになってるでしょ。このまま成長していって欲しいのよ。
これは親の我が儘でしかないんだけど」
コレットの言葉にガルシアも苦笑する。
「確かにその心配は解る。俺としてはコリンを信用して打ち明けても良いんじゃないかとも思うが、母の勘は疎かに出来んからな。
……その心配がある内は打ち明けるのを待つか、クロエ?」
父の提案にクロエはコクンと頷く。
「母さんの心配は痛いほど理解出来るもん。アタシに否やは無いわ。
そうね、今のミラベルお姉ちゃんの歳になったら打ち明けるってことでどうかな?それなら母さんも納得してくれるでしょ?」
クロエがそう言うとコレットは笑いながら頷いた。
「流石にその頃になったらあの子もしっかりしてくれてるでしょうしね。良いと思うわ」
「じゃあ決まりね!……コリンお兄ちゃんも賢いから、ある程度は秘密に気付いてる気がするの。だけど優しいから敢えて考えないようにしてくれてると思うのよ。
もう暫くはお兄ちゃんのその優しさに甘えることにするわ。
ライリーお兄ちゃんもそれで良い?」
「母さんの意見に賛成だから、僕もそれで良いと思うよ。
コリンは賢いけど未だ幼いし甘えん坊で当たり前だ。でもせっかく今、背伸びして頑張っているんだからね。このまま成長してくれるに越したことはない。
……だけど多分ミラベルの歳になる前に、アイツなら自分から聞いてくると思うよ。その時は打ち明けてやってよ、良い?」
ライリーの頼みにクロエは大きく頷いた。
「勿論!その時はちゃんと答えるわ。……ライリーお兄ちゃんと同じだね、そのシチュエーションって」
「シチュ……?又新しい向こうの言葉だね、何て意味なの?」
「状況って意味だよ。同じ条件って意味にもなるかな、今の言い回しだと」
「へえ、確かにそうだな。コリンはどれくらいで確信を持つことになるのか、楽しみだ」
ライリーはそう言ってクックッと笑った。
ふとオーウェンがライリーに問い掛ける。
「そう言えばさっき騎士団の事で話があるって言ってたな。一体なんだい?」
ライリーがあぁ、とオーウェンに向くと舌をペロリと出した。
「アレは嘘。君をこの場に呼ぶための方便さ。コリンには気付かれたくなかったから、敢えて騎士団の話って言ったんだよ。すまない」
「そうだったのか。それは別に構わないけど、でもどうして?」
「……恐らくエレオちゃんの話も出るだろうと思ってね。ミラベルとエレオちゃんはずっと行動を共にしている。ミラベルが不審に思っている姿を見て、賢いエレオちゃんが何も気付かない訳無いからな。
君の事もあるし、ミラベルに話すならエレオちゃんにもって流れが来てもおかしくはない。
そうなると兄の君の意見が重要となるからね。だから先手を打ったまでの事だよ」
ライリーが事も無げに話す。
オーウェンがあぁ、と合点がいったと云う顔で頷いていると、フオォと変な声が下から聞こえた。
クロエが驚きのあまり妙な声を上げたのだ。
「フオォ~、何その頭の回転の良さ?!どこぞの名探偵のようだわ!
リアルでこんな少年探偵を見ることになろうとは……世の中は驚きに満ちている。凄いね、ライリーお兄ちゃん!
アタシ何か無くしたり、推理して貰いたいことが有ったら真っ先にライリーお兄ちゃんに相談することにする!その時はその明晰な頭脳でチャッチャッと解決してくれる?」
クロエがキラキラと目を輝かせてライリーに言うと、彼はおでこに手を当てて溜め息を吐いた。
「……クロエ、多分褒めてくれてるんだと云うことは何となく感じたけど、そのタンテイって何?
物を無くしたら僕に相談って……そんな相談だけされても正直困るんだけど。……そりゃ聞くくらいは聞くけどさ」
兄の困った様子に気付かず、クロエが腕組みをしながらウ~ンと考え込みながら
「将来は事務所構えて探偵業をするのも良いなぁ。お兄ちゃんなら絶対名探偵になれると思うんだ。
アタシ事務仕事なら出来るし、喜んでお手伝いするよ!」
とキラキラした目で兄に進言する。
「……だからタンテイって何なんだ?あ、良いよ説明は。何か聞いたら余計に疲れそうだしな。
クロエの話は置いといて、さていつ話す?」
キラキラ目の妹の話を処置無しとばかりに捨て置いた兄は、両親と老教師に尋ねる。
だが兄に冷たくあしらわれたクロエがハイッと手を上げた。
「あのっ!今から母さんとアタシだけ家に戻って、コリンお兄ちゃんをこちらに呼んではどーでしょーか?
あの2人になら母さんとアタシだけで話しても大丈夫だと思う。
……それにコリンお兄ちゃんに又仲間ハズレって思わせたくないの。しょうがない事だけど、可哀想だもん。
だから反対にコリンお兄ちゃんを小屋に呼び出すって体裁にしたらどうかな?
そしてアタシ達は入れ替わりに家に戻って、2人に女の子部屋で話をするわ。
後、コリンお兄ちゃんに何か大事な話をするって事にしてほしいんだけど……何かそんな話のネタない?」
皆がクロエを見てから互いの顔を見合わせる。
ガルシアが顎に手を当ててウーンと考え込む。
「コリンの事を思えば今のクロエの気遣いは有り難いんだが、大事な話か……。何か無いかな、ちょっと待ってくれよ……考えるから」
するとライリーがコクンと頷いた。
「あぁ、なら有るよ。さっきの話だけど、お前の森の付き添いの事を話せば良い。
先ずはミラベルに役目を引き継ぐから次はコリンお前だぞ、って話をする。どうせ後からアイツ等2人には話さなきゃならなかったからな。
それと今後ウチは男手が減るから、小さくても男のコリンは忙しくなるぞって事も言い聞かせるよ。
父さん、それでどうかな?」
ライリーの言葉に父も成る程と頷いた。
「そりゃ良い!確かにお前がここから旅立った後、コリンには家や畑の手伝いを頑張って貰わなきゃならないからな。アイツにしっかり話す良い機会だ。
よし、その線で行こう。先生とオーウェンも適当に口を挟んでください。男同士の話し合いって事で」
ガルシアの要請に2人は笑って頷く。
「じゃあ決まったわね。で、誰があの子を呼びに行くの?」
コレットの問いにガルシアが答える。
「俺が行こう。俺が此方にコリンを連れて戻って来る頃合いを見計らって、コレットはクロエを連れてあちらに戻ってくれ。良いか?」
「解ったわ、ではお願いねガルシア」
コレットに片手を上げてからガルシアが家に戻って行った。
「……姑息なやり方だけど、コリンお兄ちゃんの矜持を守ってあげたいんだ。変な提案を飲んでくれて、皆ありがとう」
クロエが小屋にいた皆を見渡してペコリと頭を下げる。
コレットが屈み込んでクロエを抱き締める。
「いいえ、私こそ貴女に感謝しなきゃ。コリンの事を大事に考えてくれてるからこその提案ですもの。ありがとう」
横でライリーが腰に手を当てて鼻を鳴らす。
「クロエってさ、ミラベルとコリンには凄く優しいよな。なのに僕にはちょっとキツくない?」
「そんなこと無いけど。て言うか、ライリーお兄ちゃんにはこんな手使っても直ぐバレるでしょ。アタシごときが我が家の名探偵を手玉に取るなんて出来る訳無いじゃない。
それよりさ、お兄ちゃんだってアタシには結構遠慮無いよ。自分で気付かない?」
「そうか?これでも僕はお前に気を遣ってるつもりだけど。まぁ言葉は確かにキツいかもな。だって中身は大人なんだし、子供のアイツ等に対しての言葉とは違ってて当たり前だろう?
その見た目にはもう引っ張られ無いからね、僕は」
「別に言葉は一緒で良いんだけど、アタシ。寧ろそうして。……その方が怖くないし」
「え、クロエは僕が怖いのか?」
「たまに、だけど。特に怒られそうな時!……前の世界の綾姉ちゃんより怖いよ」
「なんだ、そりゃ怒るときは怖くて当たり前だろ。こっちだって必死なんだぞ、中身大人に張り合わなきゃならないんだからな。兄として」
「……そこは優しくて良いから。無理に怖くしなくて良いから~。張り合うなんて考えないでよ、頼むから」
「馬鹿。突拍子無い行動をいつするか解らん妹だぞ。お前を兄として止めなきゃならないんだから、こっちも苦労してんだ。嫌ならもっと大人しくなってくれ」
「え~、今でも充分従順で大人しいじゃない、アタシ」
「……ここに居る誰がその意見に同意してくれるんだ?因みに僕は絶対に認めないからな」
「皆同意してくれると思うけど?」
「……周りを見てみろよ。お前から皆目を逸らしてるだろ。それで察しろって、馬鹿」
「ウグッ!……やっぱり全然遠慮がない~!お兄ちゃん、ギブミー優しさ!」
「……意味が解らん」
そんな2人の言い合いを見守っていたオーウェンは、言い様の無い寂しさを感じていた。
(……僕にもクロエとこんな風に話が出来る日がいつかは来るんだろうか。それが我が儘なのは解っているけど、願わずには居られない。
感謝しなければいけないのに、僕はライリー、君が羨ましくてならない。
……はぁ、本当に心が狭いな、僕ってやつは)
自嘲しながら、それでも2人に気付かれないようにオーウェンは小さな吐息を吐く。
ディルクはそんなオーウェンを痛ましげに見つめた。
だが声を掛ける事はせず、ただ背中をポンと静かに叩く。
オーウェンはそれを感じると、心持ち頭を下げて恩師に謝意を表した。
そうこうする内、外からコリンとガルシアの声が聞こえてきた。
「あ、どうやら来たようね。じゃあ私達は戻りますから。後はよろしくお願いします」
「コリンお兄ちゃんをよろしく!じゃあ又後でね~!」
そう言うとコレットとクロエは、パタパタと勉強部屋から出ていった。
入れ替わってコリンがガルシアと部屋に入ってくる。
待ち構えていた者達は真面目な顔をしてコリンを迎え入れ、先程打ち合わせた話を始めたのだった。
変わって此方は森の家の女の子部屋。
戻ってきた母と妹に話があると言われ、ミラベルとエレオノーラは戸惑いながら椅子に座る。
母が促すと、頷いた妹が淡々と驚愕の事実を姉達に話し出した。
始めは表情を変えずに聞いていた姉達だったが、余りの内容に次第に口をポカーンと開けて妹を見つめる。
「……ホントなの、それ?アタシ達をからかってない?」
「そんな……そんな神の奇跡がありますの?クロエが……そんな」
妹が話し終えると姉達は一言呟くのが精一杯という体で呆然としている。
クロエは苦笑しながら肯定する。
「こんな質の悪い冗談、流石に言わないわよ。ホントにホント、嘘じゃないから。あ、コリンお兄ちゃんには内緒にしていてね?母さんからお兄ちゃんには未だ話さないでってお願いされてるの。
それ以外の人はみーんな知ってるんだよ。ごめんね、今まで内緒にしてて。
実はいつ打ち明けようかって考えてたんだけど、今日ミラベルお姉ちゃんの様子がおかしかったからね。多分アタシの秘密に気付いたんじゃないかなって思ったんだ。
お姉ちゃん、さっき縫いぐるみを作りながらアタシに何か聞きたげだったもん、違う?」
クロエの指摘にミラベルはグッと顎を引いた。
「うっ……何となく、ホント何となくなんだけど、クロエが何か大きな秘密をアタシに隠してる気がしたの。それが何なのかは解らなかったけど、でもアンタが只の子供でないことだけは解ってた。
で、気持ちがモヤモヤしてしまって……気が付いたらアンタに八つ当りしてたの。……アタシこそごめんなさい」
そう話すとミラベルはガバッと頭を深く下げてクロエに謝った。
そして直ぐに頭を上げて興味津々といった顔で聞く。
「ね、いつから生まれ変わりだって自覚してたの?」
「……実は生まれて直ぐ。この森にやって来る前からだよ。確か森の外の病院で生まれたんだよね、アタシ。母さんに抱かれて馬車に乗ってやって来たのも覚えてる。
ただ未だよく目が見えてなかったから、病院での事はホントに少ししか覚えてないの。大きな部屋に居たのと、後凄く胸の大きな女性に抱かれてあやされて、母さんに渡されたのをおぼろ気に覚えてる位。
スッゴく良い香りがしてて……そう、アナスタシア様と同じ香りがしたんだよ。もしかしてアレは人気のある香水の香りだったりするのかな?凄く優しい香りだった!」
クロエの言葉に顔を強張らせたエレオノーラがガタンッ!と椅子から立ち上がる。
「どうしたの、エレオお姉ちゃん?あ、もしかしてアタシが気味悪くなっちゃった?!ご、ごめんなさい!」
その様子に慌てたクロエがエレオノーラを気遣う。
「あ……いえ、違いますわ。ただ驚いただけですの、ごめんなさい。
それにクロエの事を気味悪くなんて思う筈がありません。だから安心してくださいな」
エレオノーラは何とか微笑みながら又椅子に座った。だが彼女の足はガクガクと震えていた。
(お母様の事を覚えているのね、貴女は。顔は見えなかった様ですけど、まさか香りを覚えているだなんて……。
あぁお母様、この子の言葉を是非貴女に聞かせてあげたいですわ!)
エレオノーラの様子を見たコレットはにっこり笑って声を掛ける。
「この話を聞いたとき私も驚いたの。エレオちゃんも相当驚いたみたいね。足が震えているもの。
でも無理ないわ~、クロエの話はホント衝撃的よね。だからエレオちゃん、私達に気兼ねせず震えたり声を上げても良いわよ?
だって私なんて泣いちゃったんですもの~!ホントに奇跡よね。さぁクロエ、続きを話してあげて」
エレオノーラがどんな反応を示しても大丈夫なように、コレットは然り気無く予防線を張る。
エレオノーラはコレットを感謝の気持ちを込めて見つめ、頷いた。
それからは緊張のとれたミラベルやエレオノーラから矢の様な質問をクロエは受け続けた。
クロエはその質問一つ一つに丁寧に答えていく。
コレットは頃合いを見計らってお茶を用意し、和やかな雰囲気の中、姉2人は妹の話を聞く。
「うわぁ、そんな世界があるんだ~!ねぇねぇ、もっと話聞きたい!服とかも色んなのがあるんでしょ?絵に描いて見せてよ、作れたら作りたいわ」
「そうですわ、もっともっと聞きたいです!あぁ何でもっと早く教えてくださらなかったのですか?!後少しで私帰ってしまいますのに~!悔しいです~!」
「まぁまぁ2人とも落ち着いて。これからゆっくり時間を掛けて話してもらえば良いじゃない。母さんだって未だ全然向こうの料理とか教えてもらえてないのよ?一気に聞いたら勿体無いわ。ね?」
キャーキャーと楽しげに聞いてくる母と姉達を見ながら
(どこの世界でも女は強いわ~。だって聞いて直ぐコレだもの!流石よね、頼もしいったらありゃしない)
と彼女達の逞しさに脱帽した妹であった。
次は実の兄姉と義理の兄が森から離れます。なるべく早く更新します。