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やりたい事をやる為に  作者: 千月 景葉
第一章 黒き森
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190. 姉の疑念

お待たせしました。お読みいただけて嬉しいです。

「……静かになったよね~、領主様達が帰られてから」


「ええ本当に。……あらいけない、やっぱり大きく縫いすぎていますわ。気を抜くと縫い目がすぐ粗くなってしまいますわね。え、と……ハサミは……」


「はい、ここだよエレオお姉ちゃん。そんなに粗いの?……あ、これは確かに。うん、ここからここまでやり直した方が良いかな」


「ですわね。クロエはその縫い方が出来るのが羨ましいですわ。一気に進みますものね。布地の方を動かすだなんて、私にはとても……」


「そうよ、なんでそんな縫い方出来るの?……イタッ!あたた、又刺した~。うう、血が~」


「ああ、ほらこれを使って押さえて。ミラベル、貴女はクロエの縫い方を真似ては駄目よ。そのくらいなら直ぐ血は止まるから、ちょっと休みなさい」


「はーい。後少しだからクロエのやり方でバーッと縫っちゃえ~って思ったんだけど、これがホントに難しくて……」


「う~んミラベルお姉ちゃん、無理は駄目だよ。アタシは偶々何でか出来ただけだし。慣れない縫い方したら、指先穴だらけになっちゃう」


「ギャッ!それは嫌~。解った、止めとく。……でもなんだかんだ言って3人とも縫いぐるみ作れたし。アタシもエレオちゃんも後縫い合わせたら出来上がりだもん。頑張ったよね!」


「ええ、貴女達ホントに良く頑張ったわね。母さん正直無理じゃないかって考えてたもの。貴女達を見くびっていたわ、ごめんなさい。

 ミラベルもエレオちゃんも最初の手つきは見ていてハラハラしたけど、今はスイスイ縫えてるもの。

 やっぱり“慣れ”よね、何でも取り組んでみるのが一番って事ね!」


「ありがとうございます叔母さま。叔母さまとミラベルとクロエのお陰ですわね。私は初めてでしたのに、優しく教えてくださったから嫌にならずに取り組めたのですわ」


「あ、エレオちゃん、アタシは除けて。アタシはエレオちゃんと変わらなかったもの。クロエと母さんだよね、先生は。アタシ、お陰で(つくろ)い物にも自信がついたわ!

 縫いぐるみに比べれば何てこと無いもん。破れ、つぎあて、何でも来いよ!」


「おぉ、お姉ちゃんカッコいい!でもつぎあてって難しいよ?上手く引きつれないように、縫い目を緩過ぎずキツ過ぎず調整しなきゃならないから」


「え、そうなの?……ねぇ、何かクロエ詳しいね、やったことあんの?」


「あ、う、うん。ちょっとだけ母さんにやらせて貰って……」


「……ふうん、そうなんだ。知らなかった」


「……ミラベル、貴女の指そろそろ血が止まったんじゃない。縫うの再開したら?」


「え、あ、ホント。じゃあ始めるか」


(た、助かった~。母さんナイス!)





 領主親子が帰った後。



 女の子部屋で久し振りにゆっくりと、縫い物にせいを出す娘3人と母が居た。


 オーウェンとエレオノーラの帰領も近付いてきたので、一人三体と云う縫いぐるみ作りの仕上げに取りかかっていた。


 既にクロエは三体仕上げており、その後は母や姉達の

「それ何?」

 と云う問い掛けの目線をスルーしつつ、何やら小さな袋状のものを沢山作り始めていた。


 末娘の実情を知る母は

(成る程、領主様にお贈りした物はあの袋を使った物なのね。やはりあちらの世界の物なのかしら。

 ……その内この子が教えてくれるでしょうから、今は見守ることにしましょうか)

 と突っ込んで聞かない事にした。


 ミラベルは聞きたくてウズウズしていたが、母の無言の圧に今は渋々突っ込みを封印している。


 残るエレオノーラは、元々淑女足るものは余り詮索せぬものと躾られているため、興味はあるが我関せずを装っている。


 クロエも雰囲気は読んでいるが、誰からも突っ込みがないのを幸いにスルーを決め込んでいた。


(一人で隠れて作る時間が取れないんだもん、開き直って作るっきゃない。難しいものじゃないけど、数があるからなぁ。

 あぁ、ミラベルお姉ちゃんの視線を感じる……ごめんね、お姉ちゃん。

 今言うのは出来れば避けたい。やっぱり贈り物って渡す時にどんな物が言いたいし。だから許してね)


 心の中でミラベルに詫びながら、表面上は淡々と縫い物をするクロエ。


「……だけど、エレオちゃんとももう少しでお別れかぁ。寂しいな」


 ボソッとミラベルが呟く。


「だ、駄目よミラベル!……あ、遅かったわ」


「あ、しまった!」


 ミラベルが口を押さえたが、時既に遅し。その呟きが発された途端、エレオノーラの手が止まってフルフルと震えだした。


 みるみる間に彼女の目から大粒の涙が溢れ出す。


「……ウッ……帰りたくありません~。このままこの森で叔母さまやミラベル達と居たいですぅ~ふぇぇ~!」


 そこまで言うとエレオノーラはウワーンと手で顔を覆って泣き出した。


「あああ……マズったなぁ。ごめんねエレオちゃん。この話になるとエレオちゃん泣き出しちゃうの解ってたのに……未だ何日か先だし、お願いだから泣かないで?」


「そうよ、エレオちゃん。ご両親からお許しを頂いたら、次の緑か青の季に又いらっしゃい。今回と同じ様に、視察前に此処にお連れ頂いたら良いわ。もうここはエレオちゃんの別宅みたいなものでしょ?私達も貴女を待っているから」


「グスッ……お、叔母さま、本当に?私信じましてよ?来年も絶対に参りますからっ!」


 エレオノーラはヒックヒックとしゃくりあげながら、ミラベルが涙を拭かせるために慌てて渡した端切れを握り締めつつ宣言する。


 コレットはウンウンと優しく頷きながら慰める。


「それにね、貴女のお母様もエレオちゃんが居なくてきっと寂しがっておられるわ。……もう一月近くも離れているんですもの。早く可愛い子供達にお会いになりたい筈よ?

 そろそろお傍に戻って差し上げなきゃね」


 エレオノーラはその言葉を聞いてシュンとしてしまった。


「そう……ですわね。お母様、インフィオラーレで寂しく思ってらっしゃるかも。……私は我が儘ですわね」


「大丈夫、エレオお姉ちゃんは我が儘なんかじゃないよ。だって楽しい時間が終わるのは誰だって嫌だもん。そう言いたくなるよ~。

 だけど楽しい時間って、もう少しこのままで居たいなぁって頃合いで終わるのが実は良いらしいんだ。

 少し名残惜しさが残る位が良い引き際なんだって。そうしたら後から思い出した時に素敵な思い出ばかりが浮かんでくるって聞いたよ!

 素敵な思い出が力になって、次会う機会まで頑張れるし、次来る事が頑張った自分へのご褒美にもなるわ。そう考えれば暫しの別れは悲しいことじゃ無いから、だから泣かないで?」


 クロエがニコニコしながらエレオノーラにそんな話をした。


 幼女なりに彼女を力付けようとしたんだが、その言葉を聞いたミラベルとエレオノーラが目を丸くしてクロエを見る。


「……ねぇクロエ、そんな話誰から聞いたの?先生?」


「クロエは時々驚くような話をしてくださいますわね……まるで何度もそんな経験をしてきたかの様ですわ。

 私やミラベルよりずっとずっとお姉様みたい」


「っ!……そ、そうかなぁ?あ、だけど今の話は先生から聞いたんだ。だから全部受け売りだよ~、エヘヘごめん」


 ばつ悪そうに笑いながら言い訳をするクロエ。


「……先生、そんな話をクロエとはしてるんだね。アタシ聞いたことがないよ」


「そ、そうなんだ。アタシって先生にこの世界の事をいろいろ聞くから、先生が旅の話をしてくれるの。その次いでに聞いた話なんだよ」


「……“この世界”って不思議な言い方するよね、クロエ」


「……え?世界って言わない?」


「普通言わないわよ。フェリークとか領地の名前や国の名前は言うけど。世界なんて言うの、クロエ位だよ」


「そ、そうなのか~。やっぱり小さいから言葉を上手く使えないんだよ、アタシ。お姉ちゃん達を見習わなきゃね」


「……アタシ、クロエは充分使えてると思ってるけど」


 ミラベルはそう突っ込みを入れながら、妹を凝視する。


 クロエは変わらぬ笑顔で姉を見ながら内心叫んでいた。


(オーマイガッ!何てことを言うんだアタシはっ!ボロ出しまくりじゃん、ホント馬鹿なの?アタシは何度豆腐の角に頭ぶつけても変われない馬鹿なのか?!

 どうすんだよ、今日のお姉ちゃんはいつもよりしつこいぞ~。何でアタシの口はこう軽いんだよっ!ええぃ、間抜けな自分を殴ってやりたい~)


 笑顔だが冷や汗ダラダラのクロエと、不審を抱いて妹を凝視するミラベルを見たコレットが口を挟む。


「良いじゃないの、別に。何も問題ないわよ。クロエは今、父さんの書斎に有る本や先生がお持ちの本を良く読んでるから、そう言う言い回しをしてしまうんじゃないかしら?

 因みに父さんも良くこの世界って言ってるわよ。守り人だからかしら、外の話をするときなんかに聞いたりするわ。

 さ、お喋りも良いけど手も動かしなさいね。ほら貴女達の手、さっきから動いてないわよ?」


(本日2度目の救いの手……母よ、貴女に感謝します~!だけどミラベルお姉ちゃんの目は完全にアタシをロックオンしてる。

 賢いお姉ちゃんの事だし、前からアタシの事妙だと思ってたに違いないしなぁ。このまま何も聞かないままでは居てくれないわよね。

 さぁ再びのピンチ……なんだけどさ。どうしたもんかな……何かもう、このパターンのピンチに慣れ過ぎちゃってて、当のアタシにバレる事についての危機感が全く無いんだけど。

 正直ずっと黙ってるつもりなんて無かったから、いつ言うのかって時期だけの問題だしね。

 ……頼りになるブレインの方々に相談してみるか。うん、それが良いそれが良い。

 一人でブツクサ悩んでもしょうがないしな!)


 一頻(ひとしき)り考えた後、そう結論を出して一人納得するクロエ。


 そんな妹をチラリと見ながらミラベルは何かを言おうとしたが、思い直して唇を噛み締めた。


 少しぎこちない空気の中、女性陣はひたすら針を動かしたのだった。




 さてその後。



 女の子部屋を出たクロエは、丁度木工小屋から戻ってきた父や兄達と廊下で鉢合わせした。


 彼女はパタタッと駆け寄り、父のズボンの裾をツンツンと引っ張る。


「父さん、ちょっと良いかな?……話があるんだ」


 父はクロエの顔を見て直ぐに頷いた。


「じゃあ書斎へ行こうか?」


「出来たら先生や母さんとも話したいから小屋が良いんだけど。……実は相談があるの」


 2人の会話を聞いていたライリーが割って入る。


「あ、じゃあ都合良い。僕も話があるんだよ。父さんクロエ、僕も同席して構わない?出発前に話し合っておきたい案件なんだ」


「俺は構わないが、クロエはどうなんだ?」


「良いよ。お兄ちゃんの意見も聞きたいし」


 そんな3人にオーウェンが居心地悪そうに声を掛ける。


「僕とコリンは先に部屋に戻ってるよ、良いかな?」


「あ、騎士団の話もあるんだ。オーウェン、君も同席してほしい」


「え、僕もかい?良いのか、憚る話だろうに」


 オーウェンが驚いて聞き返す。


 ライリーが頷いて答える。


「コリンすまない。ちょっと込み入った話になるんだ。悪いけど部屋に戻っててくれるかい?」


「又僕だけ仲間はずれなの~?クロエに関わることなら僕も知りたいのに。兄ちゃんはズルいや。

 でもクロエを困らせたくないからしょうがないか。クロエに免じて兄ちゃんの言うこと聞いたげるよ」


 兄の言葉にちょっと頬を膨らませて僻みながらも了承するコリン。


 そんなコリンを心配したクロエが、トコトコと近付いて彼の手を握って謝った。


「コリンお兄ちゃん、ありがとう。ごめんね、嫌な思いさせて」


 可愛い妹の謝罪に大慌てしたコリンは、彼女に対して首をブンブンと横に振って言い募る。


「クロエが謝ること無い!僕が拗ねたのが悪いんだから。クロエはなんにも悪くないからね。

 僕こそごめん!お前のお兄ちゃんなのに直ぐ拗ねて。情けないよ。

 安心して。ちゃんと部屋で待ってるからさ」


 コリンの言葉にクロエは笑う。


「情けなくなんかないよ。だけどコリンお兄ちゃんはホントにアタシに優しいね。ありがとう、お兄ちゃんだーい好き!」


 嬉しそうにクロエはペタッとコリンに抱き付く。


 コリンはそんな妹に相好を崩す。


「も、もう~解ったから!ほ、ほら、クロエはお話ししなきゃいけないんでしょ?早く行きなよ、ね!」


「うん、直ぐ戻るからね!」


 コリンはクロエの返事に嬉しそうにコクンと頷くと、自分の部屋にスキップしながら入っていった。


 「コリン、お前はクロエに甘過ぎだって。……まぁ聞いてやしないだろうけど」


 ライリーは弟の将来が少し心配になってきた。


 「コリンお兄ちゃんってホント良い子!父さんお兄ちゃん、コリンお兄ちゃんはマジで天使だよ!素晴らしいったらないね、あぁアタシ妹で幸せだ~!ブラコンになりそうよ、ホントに。

 ……前の世界の弟の聡とエライ違いだ。奴にコリンお兄ちゃんの爪の垢を煎じて飲ませてやりたいぞ、うん!」


 「何か前の世界の弟って人に僕は同情するよ。……苦労してたんだろうなぁその人」


 「……そうだね、僕も何となく分かるよ。前の世界で振り回されてる弟さんの様子が……」


 「……否定できない」


 クロエがコリンを褒め称えていると、何故か父と兄達はそう言って溜め息を吐いたのだった。


遅くてすみません、なるべく早く更新します。

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