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やりたい事をやる為に  作者: 千月 景葉
第一章 黒き森
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188. 至福の視察

お読みくださりありがとうございます。長いです。切れませんでした。

 翌日から始まった視察の3日間はあっという間に過ぎた。




 初日は森の視察と探索に重きをおいていたので、食事は家に戻ってとる事にし、コレットとディルクを除く皆で森を日が暮れるまで視察した。


 勿論視察途中にはあちらこちらから森の動物達が顔を出し、肩に乗ったり足元にやって来たりと領主親子を狂喜させた。


 最初は立ち止まって木々の説明をガルシアがしようとすると

「よく考えたら森の中で話は厳禁ではなかったか?!……ガルシア、これは流石に不味いのではないのか?」

 とライモンドが心配そうに尋ねた。


 ガルシアはにっこりと笑うと

「そうですね、ライモンド様のご心配は最もです。今でも夜でしたらこうはいきませんがね。

 実はクロエが森の守護を受けてから、森の中で話したりするのも大丈夫になったのですよ。勿論動物達を怯えさせてはなりませんから、大声で騒いだりはしゃいだり、喧嘩をしたり等は絶対駄目ですが。

 こうして普段通りの会話や説明等は問題ないのです。どうかご安心ください」

 とライモンドに優しく説明した。


 ライモンドは目を丸くして傍らでチョコチョコ歩いている小さなクロエを見る。


「なんと……凄いものなのだな、森の守護とは。神域での理がこの子の為に書き換えられたのか……クロエ、其方のお陰でこのような視察が叶ったこと、感謝するよ」


 クロエはライモンドを見上げてにっこり笑う。


「いいえ、アタシの存在なんて切っ掛けを作っただけに過ぎません。

 元々父さんが守り人として森の皆から信頼を得ていたからこそ、こうなったんです。

 皆、父さんともっと仲良くなりたかったんです。だけど色んな壁が在ったから父さんも皆もどうすることも出来なくて……。

 なにも知らなかったアタシは、ただその壁に穴を開けてしまったんです。そしたら、あっという間に壁なんて無くなっちゃいました。

 ……壁なんて最初から必要なかったのかもしれませんね。

 まぁアタシは、この外を知らないからそんなことを考えてしまうんですけど」


 その言葉を聞いたライモンドが、クロエを見て苦笑する。


「壁が必要ない、か。確かに今の森の中ではそうであろうな。

 しかしそもそも壁は神域を、この森に棲み生きる者達を守るために在るもの。壁が見据えるは外の悪意だ。

 如何に結界があろうと、不測の事態はいつ起こるか分からない。森の意思はその危険を何としても排除したくて、守り人にも一定の枷を強いたのだろう。……守り人とて元は外の者なのだからな」


 ライモンドの言葉を聞いてクロエは眉を寄せる。


「……やはりこの外の現実は厳しいものの様ですね」


「うむ。其方に話すのは恥ずかしいのだが……未だ未だこの外は未開の地だと考えて貰いたい。其方が知る世界とは全く違う、粗暴で強欲で姑息な者達が跋扈する混沌とした世界だ。

 身分が幅を利かし、持つ者が持たざる者達を虐げる。

 又、身分だけではない。魔力も虐げる者達の刃となっている。

 身分を持たない者達が顕現可能な魔力を持つことは殆ど無い。貴族と云われる者達が独占しているのだ。

 それとて強欲な其奴等が年月を掛けてそういうモノにしていったのだがね……欲とは恐ろしいものだ、本当に。

 ああ、話が逸れてしまったな、すまない。

 つまり、だからこその壁なのだよ。大事なものは十重二十重に壁を立てて守らねば、とても守りきれぬほどにこの世界は荒々しく強欲で醜悪だ。

 其方もその事をどうか心しておいて欲しい。其方の見目も知恵も力も、そして心根すらも、この世界の強欲な者達には垂涎の獲物なのだから」


 ライモンドはクロエに真っ直ぐな目を向けた。


「ライモンド様、子供達の前でも有りますから余りそのような話は……」


 ガルシアが少し焦りながら注意する。ライモンドもその言葉にハッとして口を押さえる。


「親父、クロエちゃんも戸惑ってるじゃねーか。いくらこの子が賢いからって、そんな話を急にしたら吃驚するに決まってるだろ~。

 ゴメンなクロエちゃん。ウチのおっさん、昔から娘が欲しくてしょうがないもんだから、可愛い子に話し掛けて貰うとつい調子乗るんだよ。

 辛気クッサい話は置いといてさ、ほらあそこ!あの子達ここちゃんの仲間だよね………」


 妙な空気を察したマティアスが口を挟んできて、この会話は途切れたのだった。


 その後、森の視察を終えて家に戻る途中、サービス精神旺盛な森の動物達が、いつもの“恵み”をたんまりと家の近くに用意して待ち構えていた。


 これを見た領主親子が再び狂喜乱舞してしまい、3人揃って動物達に感謝の舞を舞った事以外は、概ね穏やかに1日目の森の視察を終えたのだった。




 2日目はメインの守るべき地の視察である。


 これは全員揃っての視察となった。いつも通りではあるが、ほぼピクニックである。


 コレットは娘達(クロエは寝ていた)と早朝から畑近くで食べるお弁当を大量に作り、ガルシアが荷車にそれを積み込んだ。


 昨日1日掛けて視察した森を、動物達に見守られながら全員で機嫌良く歩く。


 途中休憩を入れると、すかさずグーア等の森の動物達が足元に近寄ってきた。


 護衛のテオがしみじみと溢す。


 「信じられないくらい森の動物の皆さんとの距離が近くなりましたね。この事を知ったら、ジェラルド様もさぞ驚かれる事でしょう」


 ライモンド達がテオを見て聞く。


「父は知らないのか?確か来たのはそれほど前では無かったろう?」


「はい。此方に最後に来られたのはつい最近です。が、オーウェン様とエレオノーラ様を此方にお連れした際も、ジェラルド様はこのように森の皆さんとは触れ合う事が出来ませんでした。

 私とてジェラルド様の護衛として何度か此方に来させていただいてますが、このように触れ合えたのは初めてです。だからとても嬉しいです」


 そう言ってテオは微笑んだ。


 ライモンドは何故と問い掛けるようにガルシアを窺う。


 ガルシアは頬を掻きながら苦笑し、説明する。


「そうなんです。ジェラルド様は未だ森の動物達と会えていないのです。あぁ、ここちゃんとは顔を会わせているんですがね。

 理由は……ただ未だ外から来る大人達に明かして良いものかどうか、守り人の私が決めかねていたからなんです。

 だからジェラルド様には大変申し訳無いことをしたなぁと、実は今反省しているんですよ」


 ライモンドはポカンとする。


「……何と。ではあれほど視察を繰り返しているにも関わらず、父は未だこの様に眷族の皆様からの祝福を受けていないと云うことか。

 これは面白い!父より先んじることが出来たのは僥倖!ハハ、ガルシアよ、でかした!」


 そう言って現領主はカラカラと笑った。


「いや、ライモンド様、そこは褒められても困りますが。

 とにかくですね、守り人の観点から領主家族と、領主が特に信を置く護衛騎士や側仕えまでは視察の関係上、この事を明かしても良いと判断しました。

 ですからジェラルド様も次に森に来られた際には、森の皆を紹介するつもりです。

 勿論この件に関しても外では他言無用です。知る者同士であったとしても、闇性結界を張り他に知られることがないように願います」


「あいわかった。無論承知している。ここでの事はどんな微細な事であれ、フェリークの最重要機密だ。他言などは決してせぬ。我が妻もその事を理解しておる故、森については一切聞いてはこぬよ。

 お前達も解っているな?すでにお前達は知る側に立ったのだ。これからは森の誓約をその身に纏うと考えよ。良いな?」


「ええ、解ってます、父さん」


「ああ、了解だ。この森の事は領主一族でも直系のみが知る極秘事項、誓約があって当たり前だ」


 リュシアンとマティアスがそう応えて頷く。


 マティアスの近くに居たコリンが

「外ってそんなに怖いの?もしかして森の皆を奪いに来たりしないかな、大丈夫なの?」

 とそっとマティアスに尋ねる。


 マティアスはコリンの目の前に屈み込み、彼の目を優しく見ながら答えた。


「あぁ、確かに怖いよ外は。でも既に森はそれを知ってるから結界を張っているんだ。だから安心して。森の動物達は守られているよ。

 それに外は確かに怖いけど、怖いばかりでもないんだよ?色んな人が色んな環境の中、皆必死に生きている。ここと同じくらい綺麗なものもあるし、ここには無い汚いものもある。楽しいことも辛いこともいっぱいある、複雑で面白い所でもあるんだ。

 そして森を守るためにはそんな外を知る必要があるから、この森が在るフェリークの領主一族である俺達は今騎士として頑張っているんだ。

 だからコリン、君もいずれ大きくなったら外においで。外から森を見て、その価値を知ることも大事だから」


「……あのね、兄ちゃんももうすぐ外に行くんだ。マティアス様、兄ちゃんは大丈夫かな?」


「ライリーなら大丈夫さ!あの子は俺より強いよ。外の奴等に負けるとは思えないね。君の兄ちゃんなら、絶対に外に行っても大丈夫だ。俺が保証する」


「ホント?なら僕、マティアス様の言葉を信じるよ。だからマティアス様、兄ちゃんをよろしくお願いします」


 コリンはそう言うと、ペコリと頭を下げた。


「よし、任せろ!よろしく頼まれた!……ク~ッ!しっかし何て可愛い弟なんだお前は、このこの!」


 兄思いのコリンの言葉にキュンキュンしたマティアスがコリンの頭をこれでもかと言う位ナデナデした。


 ……そんなやり取りをしながら守るべき地に向かい、漸く到着すると感動の余り領主親子はその場に立ち尽くす。


 父は久方ぶりに見るその地の変わらぬ美しさに、息子達は初めて見たその地の美しさに、ただただ圧倒されるのみ。


 そんな3人の感動を知ってか知らずか、老教師が立ち尽くす3人の背中を順番にバン!バン!バンッ!と叩いて、毒を吐く。


「ほれ、お主等もボケーッと突っ立っとらんで、さっさと足を動かさんかい。ガルシア達が畑に行けんじゃろうが。

 ……ったく、親子でおんなじ反応を見せよってからに、大概に間抜けな絵面じゃて。

 リュシアン、父と兄につられてどうする。……お主も案外似とるのう、この2人に」


 リュシアンはハッとして、頭をブルブルと振った。


「あ、余りに美しいので……しまった不覚だ、僕としたことが」


 そんな3人を子供達は父や母と共に荷車を押す姿勢で待っている。


 リュシアンはそれを見て、慌てて父と兄に進言する。


「ほら行くよ!皆に迷惑かけてるし、早く!」


「か、感動に浸っていたい……大袈裟じゃなく、今日私は感動のあまり天に召されるかもしれない……」


「あーもう!こんなポンコツ父さんは要らないって、天も直ぐに返品してくるよ!下らないこと言ってないでさっさと歩いて。ほら兄さんも何してるの!」


「俺はここで眠りたい……きっと目覚めた時、今の俺より綺麗で賢い俺になってる気がする。端っこで良いから、ここで一泊できないだろうか?」


「バカなの?!兄さんの汚れと馬鹿をこの地に清めて貰うなんて、この地に仇なすつもり?汚い馬鹿だって自覚があるなら、体が溶けるまで洗って猛勉して出直して。何なら今からでも戻る?嫌なら馬鹿なこと言ってないで歩くんだよ、ほらっ!」


 リュシアンが感動で涙目になった2人を叱咤しつつ、何とか荷車の方へと連れてくる。


 彼等を待っていた者達は、そんな親子の姿を生暖かい目で笑いながら見守る。


 追い付いた3人を交えて畑まで進み、荷車を止める。


 皆で昼食を心行くまで堪能した後、ライモンドはガルシアやディルクに説明を受けながら視察が可能な範囲を隅々まで見て回る。


 マティアスはコリンとミラベル、エレオノーラ、そして何故かテオと共に小川に猛ダッシュ。宝石箱のような小川の美しさにただうっとりと見惚れる。


 リュシアンはライリーやオーウェン達に不思議植物の説明をして貰い、花達をじっくりと観察する。


 クロエはいつも通り画材を持って来ていて、花を観察しながら絵を描く準備をしていた。


 そんな彼女の肩にはここが乗っている。


(おもいですか、クロエさま?わたくしおりたほうがよいですね)


「ごめんねここちゃん、気を遣わせて。近くで遊んでて良いよ。さてと描きますか~!」


(いえ、わたくしはクロエさまをみまもるのですわ。さぁ、がんばってかくのですの~!)


 ここと会話しながら鉛筆を持つクロエ。そして暫く無言で腕を動かす。


 ここは大人しく傍らで控えている。


 絵に夢中のクロエの背後にリュシアンやライリー、オーウェンが近付く。


 描く邪魔をせぬよう、遠巻きに彼女を見つめる3人。


「いつもこうなのかい、彼女?」


「はい。図鑑を作るんだって少しずつ絵を描き貯めているんです。

 実のところ父や僕達も、この地にどれだけの種類の草花が有るのかは解ってないんですよ。だからクロエの“仕事”は僕等も楽しみなんです。

 あの絵で描いてくれるから、この地にどんな花や草が有るんだろうって本当に目で解るんですから。

 ……勿論森の家でしか見られない図鑑なんですけどね」


「その図鑑、いつか又森に訪れた時の楽しみになるよな。僕も騎士団に入るから暫くは来れないし」


「そうだね。僕もとても興味がある。是非図鑑の作成過程でも、その絵達を拝見したいな。……後から頼んでみようかな」


「僕ももうすぐこの地を離れますからね。リュシアン様がご覧になられるなら、その時次いでに僕も一緒に見せて貰おうかな」


「ライリー、それ僕も加えてよ。僕の方が相当長い間来れなくなるんだからね」


 そんな話をしながら小さなクロエが絵を描く姿を見守っていた。


 それから暫くしてクロエがウーンと伸びをした。


「限界だーーっ!あー、もう手が辛い。まぁこんなとこかな。色指定も終わったし、ここちゃんお待たせ~!さてと、蜜柑でも食べに行こっか?」


 クロエはここに話し掛けながら、ヨッコラショと立ち上がる。


 画材を持ち上げようとすると、横からスッ……と大きな手がそれを優しく取り上げた。


「あ、リュシアン様。ありがとうございます。もう視察は良いのですか?」


「どういたしまして。視察は未だ途中だよ。クロエちゃんが絵を描いていたからついつい見入っちゃって。

 それはそうとミカンってなに?食べ物なの?」


「え?やだ見てたんですか、恥ずかしい。蜜柑ですか?……あ、そっか、その話は未だしていませんでしたね。じゃあ畑まで戻りましょうか。道すがらお話しします」


 クロエは蜜柑や林檎など、前の世界の果物が森の“不思議な力”で畑で取れるようになった経緯を説明した。


 その話を聞いたリュシアンは目をキラキラさせ始めた。


「異界の果物?!そ、それは凄いな……是非食べてみたい!」


「勿論食べていただきますね。あ、あの……言いにくいんですけど、ミラベルお姉ちゃんやエレオお姉ちゃん、コリンお兄ちゃんとテオ様には御内密にお願いしますね。

 4人には前の世界の話をしていないので……すみません」


 クロエは顔を曇らせてリュシアンに小声で頼む。


 リュシアンはコクンと頷く。


「解ってる、安心して。ほら、そんな風に可愛い顔を曇らせないで?

 まるで僕がクロエちゃんを苛めてるみたいだよ。そうだね……じゃあ。

 その“変わった”果物は何種類か有るの?この森特産って事だからね、楽しみだ~!

 ……こんな感じで話せば問題ないでしょ?」


 リュシアンがウインクしながらクロエに尋ねる。


 クロエはリュシアンにフワッと笑って頷く。


「はい、とても良いです!それなら問題ないです~。フフ、リュシアン様って実はお茶目さんですよね。ディルク先生に似てる」


 クスクス笑って感想を話すクロエ。


「そお?自分では解らないけど、そうなのかもね」


 笑顔になった幼女を見て、安心した彼は輝くような笑顔を見せた。


 クロエはリュシアンの笑顔を見て

「ウハァ眩しいーっ!麗しすぎますね、リュシアン様!目が痛い~。

 ……ここに綾姉が居たら(かぶ)り付いてるぞ、きっと。リュシアン様絶体絶命、貞操の危機だったな。

 いやぁ日本人には耐性がない麗しさだわ、気を付けないとな。鼻血出しかねんわ、アタシ」

 とブツブツ呟く。


 リュシアンがクロエの呟きに首をかしげていると

「……妄想です。前の世界のこの子が喋っているんです。気にしてはいけません。こういう時が度々あります。慣れてください」

 とライリーが溜め息混じりに説明する。


「妄想?うわ、気になるなぁ~!妄想の詳しい中身を是非聞いてみたい!」


「……多分聞かない方が良いと思います。以前こんな風になった時に僕が追求したら、この子は恥ずかしさの余りのたうち回って息も絶え絶えになってしまったんですよ。

 ヘタな追求は、この子の魔力暴走を引き出しかねません。……危険です、とても」


「……それは怖いな。わかった、聞き流すよ」


「クロエ……何か僕この子に付いていけるか心配だ。……もっと僕も大人にならなきゃ!」


「オーウェン、この部分だけは付いていけなくて良いと思うぞ。

 僕もこの妄想だけは追求しないって決めてる。……知らない方が良いことも有るって先生が教えてくれたしな」


「……え、そうなの?先生は何を知ったんだろうね……怖いな」


「……あー、先生聞き出したんだ、ずるっ!」


 妄想クロエを見守りつつ、3人はそんな話をする。


 程なく畑の中の果樹園に着いた。


 クロエがライリー達に取って貰った果物をリュシアンとオーウェンに小声で説明する。


 オーウェンは改めて異界の果物と聞いて、思わずジーッと手の中の蜜柑を見つめる。


 リュシアンは早速教えて貰ったように皮を剥いて、試食する。


「……ウッマ!これ旨いよ!ものすごい果汁だね、これは良い!

 残念だなぁ、この外で食べられないのが!……しょうがないけど」


 最大の賛辞を述べながら、次々に他の果物も口に運ぶ。


 リュシアンが全ての果物を旨い旨いと食べていると、ライモンドやマティアスがやって来た。


「それっ!旨いよなーっ!俺、この果物の為だけにでも、ここに通いたい~」


「いやぁ驚いた。こんな果実がこの地には有るんだな!

 流石は神域だ、果物も素晴らしく旨い!」


 興奮しながら捲し立てる父と兄に頷きながら、試食の手は止めないリュシアン。


「……おまっ!どんだけ食べてんだよっ!俺そこまで食わなかったぞ!」


「や、蜜柑旨くて~。手が止まんないわ、ホント困った困った」


「おい!少しは父にも分けんか!私も蜜柑が食べたいぞ!」


「駄目、これは僕のです!食べたいならクロエちゃんやライリー君、ガルシアさんに頼んでください!」


「グッ!何と心の狭い息子だ!」


「何とでも言ってください。あー、旨い止められなーい!」


 親子で情けない言い争いを繰り広げ、子供達からこの日何度目かの生暖かい笑いを取る結果となった。


 やがて帰る時間になり、名残惜しさの余り再び涙目となったライモンドとマティアスをリュシアンが無理矢理追い立て、一行は守るべき地を後にした。


 ライモンドは帰る道中

「これは……いや、出来るのか?だが……そうだ、諦めきれぬ。では、どう……問題は……そこを……」

 と意味の解らない独り言をブツブツ呟き、周りの者達は首をかしげた。


 マティアスとリュシアンは肩を竦めて

「やっぱりなー。こうなるって、そりゃ!」

「これはしょうがないよね。さてさて、どうなることやら……」

 と、父の妙な様子に訳知り顔で頷いていた。




 最終日は領主親子とガルシア夫妻そしてディルクと、大人ばかりで話し合いが持たれた。その中でライモンドが爆弾発言(?)をし、ガルシア達が酷く驚く場面があった。


 だが彼の話に納得したガルシア達は直ぐにそれを了解し、今後の予定について出来るだけ細部を詰める為の話に移行した。


 最後の夜は再びコレットの心尽くしの晩餐が食卓を埋めつくし、皆で名残を惜しみながら舌鼓を打った。




 そして最終日4日目の朝。


 領主親子がこの森を後にする時が迫っていた。

なるべく早く更新します。

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