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やりたい事をやる為に  作者: 千月 景葉
第一章 黒き森
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186. 衝撃

お読みくださりありがとうございます。

うん、なかなか進まない、不味い。でも5000文字。ここで又切ります。

「ところでライモンド様。明日御帰還なさるとお聞きしておりますが……」


 今まで口を閉ざしていたガルシアがライモンドに尋ねる。


 ライモンドは申し訳なさそうに苦笑しながら頷く。


「すまない。流石にこの歳で休み無しで馬を夜通し駆けるのは、とても無理なんでな。

 突然押し掛け、先に厄介を掛け通しの息子達共々、其方やコレットに更に多大な迷惑を掛けているのは重々承知しておるが、どうか一晩頼まれてくれないだろうか」


 ガルシアが首を大きく横に振ってライモンドの考えを否定する。


「いえ、そう言う意味ではないのです。この地の視察にライモンド様がお越しになられたのは何年ぶりかと思いまして。

 このお二人がお生まれになってからは1度御越しいただけただけで、後は多忙を極めておられましたから。森や、守るべき地を随分御覧になられておられないでしょう。


 なので、もし諸事情が許されるのであれば折角の機会ですし、後2・3日此方に滞在なされてはどうですか?

 私も領主の貴方様に今のこの地を是非御覧いただきたいのです。


 ……最後のライモンド様のご視察時は、未だ未だゆっくりこの地を見ていただける状態ではありませんでした。何せ私も掘っ建て小屋で寝起きしてましたからね。一晩で懲り懲りだと貴方も仰っておられたのを思い出します。

 今はこのように快適な住環境を整えて頂いてますから、あの時のような事はありません。ご視察もしっかりなさっていただけるかと。


 如何ですか、ライモンド様?」


 ガルシアの申し出にライモンドはポカンと口を開ける。


「え?うむ、それは確かにそうだが……。私とてこの地をゆっくり視察したいと予々望んでいたのだし、その申し出は願ったりかなったりではあるんだがな。

 だが此度は急ぐ余り側仕えも連れずに来てしまったし、コレット一人に負担を掛けてしまうのが分かっていて、流石にこれ以上留まるのは余りにも不遜であろう?

 我等は早々に引き揚げ、出来るだけ早く負担を減らしてやらねば、仕事に手を抜くことをせぬ彼女が体を壊しかねない。

 残念だが又の機会に……」


 ライモンドが残念そうに断ろうとすると、マティアスが父を止める。


「親父。俺はガルシアさんの言う通り、親父は是非視察をすべきだと思う。こんな機会は滅多に無いんだぜ?

 もう何年も爺さんの報告位でしかこの地については聞いていないんだろう。それは俺達のせいでもあるから偉そうな事は言えないけど、だけど今回の機会を逃すと又何年も視察なんて無理だ。

 親父の立ち位置はそう軽々しく動けるもんじゃない。それくらい俺達も分かってる。

 だからこそ、利用出来る機会は有効に利用すべきだよ。

 この地は他の土地とは違う、フェリークにとって特別な地だ。なのに領主の親父が何年も視察していないなんて、本来はあってはならないんだよ。


 なあ、2・3日何とか都合をつけてこの地を視察出来ないのか?大変なのは分かってるけど、自分の目で見られるこの機会を絶対逃すべきじゃねーよ!

 なぁお前もそう思うだろう、リュシアン?」


 兄の熱心な意見に、リュシアンも同意して頷く。


「うん、この件に関しては完全に兄さんの言う通りだと僕も思うよ。是非父さんは無理を押してでも、この機会に視察を行うべきだ。

 それに父さんが危惧しているコレットさんの過大な負担の事だけど、それを少しでも軽くすべく、あらゆる手伝いをこの家で過ごしてる皆は率先してやってる。もちろん僕達も。だってコレットさん曰く“働かざる者食うべからず”だからね。

 家事を頑張って手伝えばコレットさんは助かるし、僕達も申し訳無さが軽減する。双方共に良いことでしょ?

 どうせどんなに体制を整えて来たとしても、必ずコレットさんには迷惑を掛けてしまうんだから、ここは開き直って甘えても良いんじゃない?


 ……それに父さんは母さんの突然の演劇鑑賞にも付き合えるんだもの、少しの休みを作る位の事お手の物なんでしょ?

 知ってるよ、母さんのお目当ての役者が突然穴を埋めるために舞台に立つ日、当日でも何とかして休みを作って連れてってるって。ホント母さんに甘いよね、父さんは。

 まぁ今回は初めから無理矢理作った休みに2・3日又足すんだから若干キツいとは思うけどね。


 でも元々この地の視察は領主の大事な仕事なのに、理由があったとはいえ何年もしていないんだから、何を置いても優先されるべき務めだと僕としては思うけどな。父さん、違う?」


 リュシアンらしからぬ多弁振りに、ライモンドは驚く。


「リュシアン……本当にお前はリュシアンか?私はお前がこんなに喋るのをもう何年も見たことがないぞ。

 この森は一体どんな魔法をウチの息子に掛けたのだ……いつもは二言三言で口を閉ざすお前が。

 普段は少し皮肉混じりの言葉を発するだけのお前が!」


「……必要なら僕だって喋るさ」


(……リュシアン様もエライ言われようだな。だけどライモンド様ってやっぱりこの二人の父だよね。見た目は麗しいのに……うん、変わってるわ~)


 クロエは3人のやり取りを聞きながら、血は争えないなと頷く。


「父さんと兄さんが似すぎてて嫌になるよ。やっぱり兄さんの馬鹿は父さん譲りなんだよね。

 なら、母さんの腹黒もまさか……兄さんに?」


 リュシアンが兄をチラリと見やって、呟く。


 それを聞き逃さなかったマティアスが

「だから親父達の駄目なところは全部俺にって、疑いの目を向けんなっ!

 馬鹿は俺にかもしれんが、腹黒は間違いなくテメーに行ってるわ!」

 と弟に怒鳴る。


 ディルクがハァ……とこれ見よがしに溜め息を吐き、ライモンドを嗜めた。


「遊ぶな、この馬鹿者共が。全く息子達と絡めると思ったら、直ぐにふざける。こういうところはお主も馬鹿父譲りじゃの。溺愛はわかっとるから、いい加減ガルシアの申し出に返答せぬか。

 ……どうするのだ、領主よ」


 老教師が返答を促すと、ライモンドはフッと笑ってガルシアに向き直る。


「……守り人殿からの折角の申し出、おまけに息子達からの心強い助言を貰ったからな。ありがとう、提案通りに視察を行うこととする。

 すまぬが妻君にもう2・3日厄介を掛けるが、よろしく頼む」


 そう言ってライモンドは右手をガルシアに差し出した。


 ガルシアは笑って頷きながら、その手を握る。


「此方こそありがとうございます、どうかゆっくりとご視察ください。私も家族も精一杯お世話させていただきます」


 すると二人の周りで歓声が上がった。


「よっしゃあ!やっぱリュシアンだな。気持ちいい位、親父がお前の言う通りの動きをしやがったぜ!

 これで俺達も、この森の滞在期間が延びた!やったぁー!」


「全く手の掛かる人だ、少し水を向けたらこうなるのに。

 本当は視察したいくせに、格好つけて変な意地を張るんだからな。

 まぁこれで僕達も視察終了まで後少しこの地に留まれる。……ホッとしたよ」


「ちょっと待て……お前達、まさか狙いはそれか?!」


 双子の反応に父は思わず突っ込みをいれる。


「え、今更?何言ってんの、そんなの決まってるでしょ。僕達がここに居たいから、父さんを足止めしたんだよ。だって僕は出来るだけこの地を長く味わいたいんだからね。

 今度森に来るまで今回の思い出で耐えなきゃならないんだから、気持ちを蓄えなきゃ……勿論その為の説得さ」


 リュシアンがけろりと答え、マティアスがウンウンと頷く。


 息子の言葉に、ライモンドはガックリと肩を落とす。


「……視察出来るのは嬉しいが、息子達が冷たい」


「仲が良くて何よりじゃ。さて、視察の件じゃがな、少々お主が仰天する事実があるんじゃよ。

 それもあってガルシアはお主を引き留めたんじゃ」


 落ち込んでいたライモンドが首をかしげて恩師を見る。


 双子は互いを見て

「あぁ、アレか!」

「そうだね、アレだ。アレを父さんに見せるのは……何だか勿体無いな」

 とヒソヒソ話す。


 しかしライモンドは又それを聞き洩らさず、息子達に

「何だ?又何を隠している?」

 と追求する。


 だが息子達はふてぶてしくも視線を父から反らし、彼の問いに答えない。


 ライモンドが息子達を睨み付けてると、ガルシアが笑いながら彼を宥める。


「ライモンド様、お二人は森の秘密に関わることなので口を閉ざしているのですよ。だから先生も匂わせただけで詳細は仰らなかったでしょう。

 ……これについては私かクロエのどちらかしか、お伝え出来ない事柄なので」


 ライモンドが慌ててガルシアに顔を向ける。


「其方とクロエだけ?いや、勿論其方は守り人だから理解(わか)るが、何故クロエが?」


「……それは私も口に出来かねます。クロエにお聞きください」


「……どういうことだ?」


 心底戸惑った様に首をかしげるライモンドに、クロエが近寄って服をツンツン引っ張る。


「えっと、ライモンド様。あのですね、アタシ何故か森さんから守護を受ける事になりまして。その守護のお陰で、この森の意思とお喋り出来る様になっちゃったんですよ。

 ……アタシの言ってること、解ります?」


 エヘヘと笑いながらクロエがライモンドに話す。


「守護?森の意思と喋る?え、え?何だってそんなことになったんだ?!

 と言うか、喋る?森が喋るのか、本当に?!

 ガルシア、この子の言ってることは本当なのか?!」


 ライモンドは屈み込んでクロエの肩を掴むと、ガルシアを見上げて噛み付くように聞く。


「はい。意思を感じとる事が出来ると私は今まで貴方に説明していました。が、実は本当に森は私達二人には語り掛けて来るのですよ。

 これも森の秘密に関わることなので、今までは言葉を濁していたのですがね。


 ……クロエは自身の力についてある時期悩んでいました。恥ずかしい話、私達両親はそれに気づかなかった。

 悩み抜いた末、この子は何故か森にその答えを求めました。……その時の事はクロエのみが知る事ですが、結果この子は森の守護を受けて戻ってきたのです。悩みについても解決出来たのか、とても晴れやかな表情をしていました。


 で、その恩恵の副産物と言いますか、なんと言いますか、守り人である私ですら驚く事が起こりまして。

 これについては目で見てもらう事が一番でしょう。

 クロエ、頼めるかな?」


 ガルシアがクロエに頼む。


 ライモンドに肩を掴まれて戸惑っていたクロエは、父の言葉に頷いた。


 ライモンドが手を離すと、クロエはトコトコと部屋の外に出ていく。


 暫くして戻ってきた彼女はニッコリ笑って

「いいよ、父さん!ここちゃんに頼んだから、もう皆家の前に来てくれてると思う。

 ライモンド様、すみませんけど森の家の前に来て貰って良いですか?

 今から紹介したい仲間がいるんです」

と告げた。


「仲間?一体誰だ、この森に私が知らない者がいると言うのか?」


「そうですね、未だご存じないと思います。だってあの子達も初めてライモンド様にお会いするんですから」


「あの子……達?まさか子供が居るのか?!それも複数?」


「あぁ、子供は確かに複数居るかな~?でもその親も居ますよ、勿論」


「この森は結界が働いているから、守り人以外が入るのは事実上不可能な筈!守り人の家族と先生、そして守り人から許しを得た我等以外の者に、森が侵入を許したと言うのか?!

 ゆゆしき事態だぞ、それは!」


「うーん、許しを得る必要無いんですもん、あの子達は。

 ま、とにかく会ってくださいな。質問はその後に……ね?」


「許しを得なくても良い、だと?……全く意味が解らない。どういう事なんだ……」


 クロエは苦悩するライモンドの手を握ると、外へと連れ出す。


 苦悩し続けるライモンドは彼女に導かれるがまま、外に出た。


 そして森の家の前に立つ、クロエの言う“仲間達”の姿を見て、ライモンドは自身の顎をカコーンと落とす。


「な、え……ま、まさか仲間って……、え、そんな筈……」


「はい、彼等がアタシの、いえ森の仲間でありお友達の、森に棲む動物さん達でーす!

 森の守護を受けるようになって、彼等とも話が出来るようになったんです!とっても良い子達なんですよ~。

 だからライモンド様も、彼等をよろしくお願いしますね?

 皆、この方がこの森を含んだこの地域の領主、ライモンド様です。

 今後ともよろしくお願いね~」


 いつも通りの呑気な紹介をし、クロエはニッコリ笑う。


 動物達はペコリと会釈し、各自挨拶するかのように鳴き声を出す。


 顎を落としたライモンドが我に還るまで暫しの間があり、やがて彼は

「エーーーーッ!ウッソーーーーーッ!!」

 と言う、良い歳をした領主にあるまじき驚きの声を辺りに響かせたのであった。


なるべく早く更新します。

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