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やりたい事をやる為に  作者: 千月 景葉
第一章 黒き森
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182. 無用の心配

お読みくださりありがとうございます。

さて、そろそろ領主の息子達の話も終わりが見えてきました。

 ざざに連れられ、ライリーの待つ場所まで戻ってきたクロエ。


「お兄ちゃん、おっ待たせーっ!森さんとお話ししてきたよ。

 ……あれ?ね、ここにあった恵みの品々は?もしかしてお兄ちゃん一人で食べちゃったの?」


「お帰りクロエ。……そんな訳あるか!俺はお前ほど食い気は無い。

 森の皆が家の近くまで先に運んでくれてるんだ。クロエが居ないのに未だ自分達の姿は見せない方が良いだろうって。

 でも大方運び終わったみたいだ。お前も戻ってきたし、俺達も家に戻ろうか」


 ライリーはそういうと腰をあげた。


 クロエはざざに抱かれたまま頷く。


「そっか、有り難いね。なら早く森の皆をあの人達に会わせてあげなきゃ。

 ざざさん、家に向かって貰って良いですか?」


 クロエは自分を抱き上げてくれているざざにお願いする。


 ざざはコクンと頷くと歩き出したライリーの歩調に合わせて、森の家に向かう。


 歩きながらライリーは、自分より高い位置のクロエを見上げて尋ねる。


「……森に俺のこと、聞いてきたの?」


 クロエは笑いながら大きく頷く。


「うん、ちゃあんと聞いてきたよ~フフフ!でも未だ教えな~い。

 父さんとお兄ちゃんが揃ったら話すよ。……もしかしたら父さん、先に知っちゃってるかもだけど」


 クロエの含みのある言葉に、ライリーが不安気な目を向ける。


「……父さんが先に?てことは森が父さんに伝えるってことだよな。……一体どんな話になったんだ、心配でたまらないよ」


 クロエはニヤリと笑いながら、指をチッチと振る。


「フフン、悪いお話じゃ無いわよ。悪かったらアタシがこんな余裕ぶっこいてる筈無いでしょ。

 ま、楽しみにしてて?少し父さんはお叱りを受けるかもだけど~」


「父さんが叱られる?な、何でそんな話に?!クロエ、お前は森と何を話してきたんだよ?!」


 ライリーが噛み付くと、クロエはう~んと頬に手を当てて一言。


「何って……森さんの愛は深いなぁって話と、早合点はいけませんって話かな。

 しかしアタシの間の悪さが又ここで災いするなんて。はぁ~ホント厄介だ、雅の頃からの間の悪さ。……うぐ、泣きたい」


 そう呟くとクゥッと唇を噛み締めるクロエ。


 ライリーはクロエの一喜一憂を見つめながら

「……本当にこの子だけは読めない。笑ってるかと思えば落ち込むし。

 はぁ、父さん無事だと良いけど」

と父に思いを馳せるのだった。




 森の家の直ぐ近く、だが家からは見えない大木の陰に、森の動物達が恵みの品々をせっせと運んでくれていた。


 クロエはざざから降りて、必死に運ぶ動物達に走り寄る。


「運んでくれてありがとう!皆大変だったでしょ、いつもお世話になってばかりでごめんなさい。

 ……しかし今日の恵みも凄い量だね~。こんなに頂いて良いのかな、皆の食べる分は大丈夫なの?

 無理してアタシ達に分けてくれてるって事ない?心配になっちゃう」


 クロエが戸惑いの表情を浮かべると、こことここの父である“るる”が慌ててクロエの前に走ってきた。


(そんなことないですのーっ!わたくしたちにもちゃんとありますのー、だからクロエさまはあんしんなさってくださいませーっ!)


(そうでございます!われわれがしょくする“めぐみ”もたんとございますゆえ、どうかそのようにごしんぱいめされますなーっ!)


 クロエの前でくるくる回りながら、心配するなと力説するチョス親子に思わずほっこりする彼女。


「そうなのね、良かった安心したよ。……でもここちゃんとるるさんて、何で慌ててもそんなに可愛いの?はぁ、見てて癒されるわ~」


 両頬に手を当てて悶えるクロエを、いつの間にか横に来ていたライリーがペチンと叩く。


「訳のわからない事言ってないで、早く家の皆に声を掛けてこよう。ざざさん達にあの人達を紹介しなきゃだろ?」


「あ、そうよね!待ってて皆!今あの人達を呼んでくるから~」


 ライリーの指摘に我に帰ったクロエは、彼と慌てて家に戻って中に入る。


 中に入って程無く、今度は家の扉がバターンッ!と乱暴に開け放たれ、中から転げるように双子と森の家の皆が飛び出てきた。


 クロエとライリーも後を追って又外に出る。


「ほ、ホントだ……、森の動物達が目の前に居る……!こ、こっちを見てるよ。本当に本当だったんだ……」


「ああ、兄さん。こんなことって本当にあるんだな……。まさか神域の動物達に会えるなんて、夢を見てるようだ。

 決して穢れた外の人間には姿を見せないと伝えられて来たのに……。

 これが守り人であるガルシアさんと何よりクロエちゃんの力なのか。

 ……素直に感動するよ、奇跡を目の当たりに出来たんだ」


 マティアスとリュシアンは目を見開いて、目の前に並ぶ大小様々な姿の動物達を見つめる。


 彼等はある一線より決して進んでこないが、一様に穏やかな様子で森の家から出てきた人間達を見守っていた。


 遅れて家から再び出てきたクロエは、森の家の皆より前へ進み出て森の動物達に声を掛ける。


「この見た目がそっくりな二人が、皆に紹介したい人達でーす!赤銅色の髪の人がマティアス様、銀髪の髪の人がリュシアン様よ。

 滅多にこの森に来ることが出来ないんだけど、来たら皆よろしくお願いしますね~。

 マティアス様、リュシアン様。こちらが森の皆さんです。勿論全員じゃないけど忙しい中、どうにか集まれる動物さん達がわざわざ来てくださったんですよ。

 いつも皆アタシ達を優しく見守ってくれて、凄く親切にしてくださるの。有り難いお隣さんです~。

 一応挨拶してくださいます?そうね、お辞儀して頂ければ良いかと……」


 クロエの言葉に即座に腰を落とし、胸に手を当て片膝を付いて頭を深く下げ、森の動物達に対し騎士の礼を取る二人。


 クロエは二人の素早い行動に驚く。


「ヒャッ!す、凄……さすがは騎士様だ、素早いし綺麗な所作だぁ。

 皆、お二人をどうかよろしく~」


 すると動物達が各々鳴き声を上げて、彼等なりの返礼をしてきた。


 ここがやって来て

(みな、こちらこそよろしくっていっておりますわ!とてもすてきなかたたちですの。われらもおあいできてうれしいですわ。

 ちなみにわたくし、つきいろのかみのかたがこのみですの~!)

とクロエに話す。


 礼を解き、立ち上がった二人はクロエが子チョスのここと話しているのを見て、又目を見開いて驚く。


「まさか話……せるの、クロエちゃん?子チョスと会話してるの?」


「はい、言ってませんでしたっけ?アタシ、皆とお話出来るんです。父さんも出来ますよ?残念ながらお兄ちゃん達は無理だけど、でも意思疏通は彼等と結構図れてるみたいです。

 因みにこの子はここちゃんと言います。この子のお父さんのるるさんが森の皆の纏め役をされてて、その娘であるここちゃんは伝令役なんです。アタシと森を繋いでくれてるんです。

 つまりはアタシのお友達で、今は寝食を我が家で共にしてるんですよ。

 ね、すっごく可愛いでしょ~!あ、ここちゃんはリュシアン様が好みだそうですよ?月色の髪の方がって今言ってます」


 クロエはここを手の平に乗せて、にっこり笑いながら二人に紹介する。


(きゃー!クロエさまったらいっちゃいましたのー!

 でもあかいかみのかたもすてきでしてよ~)


 キュッキュー!と高らかに鳴くと、先ずはリュシアンの肩に跳び移るここ。


「うわっ!き、来てくれた……か、可愛すぎる……!」


「い、良いなリュシアン!お、俺は好みじゃないのか……哀しすぎる」


 成人した立派な大人であり、クロエの秘密等の話し合いの際は割合冷静に対応していた筈の双子だったが、こと森の動物達に関してはまま子供の反応を見せた。


「アハハ、ここちゃんたら!安心して下さい、マティアス様も中々……と言ってます。この子、ライリーお兄ちゃんも好きなんですよ。もう、おませさんなんだから」


(だってクロエさま、みめうるわしいかたばかりですのーっ!わたくしのたいどはむりないんですのー!)


 キュー!とここはマティアスに跳び移りながらクロエに言い訳をする。


「おませさんて……、いやクロエちゃんの方がおませさんだよ。

 賢いのは知ってるし色々と内情が分かってきても、やっぱり君には驚いちゃうな、ホントに」


 リュシアンが溜め息混じりに感想を漏らす。


 クロエはアッと声をあげると手をポンと叩いた。


「そうそう!ね、母さん、又恵みを皆が近くまで運んでくれてるのよ。いーっぱい有るの!皆で取りに行かなきゃ!」


 コレットが驚いて頷く。


「まぁ!いつも有り難いこと……。じゃあ早速取りに行きましょ。籠を持ってこなきゃ。

 あぁ皆、家の台所に来てちょうだい、籠を取りに来て!さぁ忙しくなるわよ~。

 マティアス様、リュシアン様もお手伝いしてくださいな!先生もお願いしますわ。

 そうだ、ねぇクロエ。森の皆さんの体調はどうなの?前のように怪我してる子はいないかしら、お薬持って来なくて良い?」


「あ、そうね、それ確認してなかった。んーと……あ、居たわ、あの子!なんか前肢隠した!……てことは、他にも居るわね怪我した子。

 母さん、今日もお薬箱と布とお水が要るみたい」


 クロエがコレットに伝える。


 コレットは頷きガルシアと男衆に恵みの運搬を頼むと、ディルクとクロエ達女の子を救護役に任命し、すぐさま動く。


 ディルクも心得たと頷き、動物達に目を凝らす。


「フム……あの子とあの子もじゃな。古傷が有るようだ、化膿しておらんか見ておこう。他は……あの毛の抜けてる子が気になるな。舐めすぎて抜けたか。てことは病変か?

 クロエ、コレットが来る前に先に診始めよう。儂とあの子達の仲立ちを頼むぞ」


「はい、お任せください!じゃ、早速始めましょー!」


 ディルクとクロエが森の動物達に近寄ると、動物達もいそいそとその場に座り大人しく彼等の診立てに協力する。


 運搬を指示され籠を持って小走りに動いていたマティアスとリュシアンは、驚きを隠せずその様子を見つめる。


「本当に信頼関係が築けてるんだ……。夢のような風景だよな、兄さん」


「ああ、本当に。……絶対に外ではこの事を口にするなよ。これはこの神域だからこその奇跡。クロエちゃんが居るからこそなんだ。

 絶対に守るんだ。何を於いても、例え俺達が傷付こうとも。それが俺達領主一族の役目。命懸けて守る。

 ……この風景を見て更に気持ちが引き締まった」


 マティアスの呟きにリュシアンも深く頷いて同意する。


「ああ。僕も今ほどフェリークの家に生まれて良かったと思ったことはない。この役目は遣り甲斐があるよ」


「だな!俺も思う」


 二人は目を合わせてニカッと笑い合った。





 やがて恵みをすべて運び終え、動物達の診察や手当ても無事終わった。


 ざざ達は最後に深く頭を下げ、再び森の奥へと帰っていった。


 クロエ達の元にはここが留まり、ミラベルやエレオノーラ、コリン達とキャッキャッとはしゃいでいた。


 コレットはディルクを労い、小屋で休んでくださいと気遣う。


 ディルクは頷き、昼食は要らない夕食まで休むと言って腰を叩きながら小屋に引き揚げていった。


 ガルシアがライリーに近寄り、頬を掻きながら話があると告げた。


 クロエは二人にトコトコと近寄り、ニヤリと笑って話し掛ける。


「とーうさん?森さんから連絡有ったの?」


 ライリーはクロエを見て苦笑し、ガルシアもクロエを見てばつ悪そうに笑う。


「ああ、有った。……知ってるんだな、お前も。その話も聞きたい、構わないか?」


「うん、勿論!どこで話す?」


「書斎に来てくれ。3人だし、狭くても大丈夫だろう」


「うん、わかった。じゃあ行こう」


 ガルシアはクロエを抱き上げ、ライリーも父のあとに続く。


 ガルシアはコレットや双子、他の子供達に書斎で守り人関連の話をするので暫く近寄らないで欲しいと伝える。


 彼等は大きく頷き、恵みの仕分けや昼食の準備の手伝いを分担するため、話し合い始めた。


 ガルシアはそんな彼等を残して家に入り、書斎へ向かう。


 書斎でクロエは早速ライリーの無用の心配の話と、森の愛溢れる子供達への加護の話をする。


 クロエの話を聞いたガルシアとライリーは飛び上がって驚き、二人して顔を見合わせた。


 ガルシアは椅子にノロノロと腰掛けて、ボソッと呟く。


「知らなかった……そんなにまで俺達の事を思ってくれていたのか。……だが、なんと有り難い」


 そういうと机に両肘を付いて、両手で顔を覆い大きく息を吐く。


 ライリーも半ば呆然としながらクロエの話を聞き、父と同じ様に両手で顔を覆った。


「うわ……凄く嬉しい。それと、父さん……俺恥ずかしい。

 勘違いも甚だしいよ、本当に森に申し訳無い。どうしよう、こんな恥ずかしい思い違いしてたなんて」


「いや、お前は悪くない。俺だ、俺が悪い。……クロエの言う通りだな、聞けば良かった。勝手に考えて、ライリーを不安にさせた。

 だがライリー、良かったな。俺も嬉しい。そうか、森の子か……お前達は森で生まれて育った森の子なんだな。だから心配なんてすることなかったんだ」


 父の言葉にライリーは嬉しそうに頷く。


「うん、嬉しい。これで安心して旅立てる。向こうでも俺、誇りを持ってやっていけるよ。

 俺は森の加護を貰った子なんだから、どんな困難にも負ける筈がない。今の気持ちをしっかり持って励めば、きっと望む自分になれる。

 クロエ、ありがとう。俺、凄く嬉しいよ」


 ライリーはそう言うと輝くような笑みをクロエに見せた。


 クロエも父と兄を見て嬉しそうに笑う。


「良かった、役に立てて!

 さて、アタシちょっと用があるの。自分の部屋に戻っても良いかな?やりたいことがあるんだ。

 台所のお手伝いもしたいんだけど、ちょっと急ぐの。構わない?」


 父と兄は頷いたが、兄が妹の話に気遣いを見せる。


「台所の手伝いは俺もやるから構わないが……何か有ったのか?お前、何か森に頼まれたのか?」


「ううん、違うわ。寧ろアタシが森さんにお願いをしたの。

 だからお兄ちゃんは気にしないで。ホントに個人的な事なの。……内容を言えなくてごめん」


「いや、お前が無理をするんじゃなければ良いんだ。急ぐんだろ?部屋に戻って良いよ」


「そうだな、クロエありがとう。昼食の際は又声を掛ける。早く部屋に行きなさい、疲れただろうしな」


「ありがとう、お兄ちゃん、父さん。じゃあお先に!」


 クロエは片手をヒラヒラと振って、書斎から出ていった。


 ガルシアとライリーはそんな彼女を見送ると、どちらからともなく口を開いた。


「……本当にクロエは凄いな。黒髪の乙女の力は絶大だ」


「だよね。なのに本人は無自覚って言うのが、何ともクロエらしいよ。父さん、さっきの覚えてる?自分は間が悪くて加護をもらい損ねたから、クロエが一番出来が悪いって話。

 ……良く言うよね、全く。無自覚にも程があるよ」


「ハハ、そうだな。あの子は本当に自己評価が厳しい。

 前の世界ってとこは、あの子みたいなお人好しが育つ位穏やかだったんだ。羨ましいな。

 ……だがこちらの世界は真逆だ。だからこそ森もあの子を守りたいのだろう。出生の話も濁してくれている。加護どころの話じゃない。あの子は特別なんだ。

 ライリー、外へ出たら自分を鍛え、見聞を広めろ。そうしていつか、クロエを守ってやってくれ。

 ……頼んだぞ」


「ああ、父さん。言われるまでもないよ。自分を鍛えて必ず戻る。そして俺がクロエを守るよ。

 だから俺が居ない間、あの子を頼むね」


「任せろ。森やコレットや先生と共に、あの子は守り抜く。

 ……あの穏やかな笑顔は曇らせないさ」


 二人は互いに頷きあってから、書斎をあとにしたのだった。

なるべく早く更新します。

次は又新たな人物が登場予定です。

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