179. 信用
お読みくださりありがとうございます。出来るだけ端折らないように、スピードアップしていきたいです。
大人達は森の仲間達の事を失念していて、クロエの話を聞いて直ぐに頷いた。
その足で双子を呼び、ガルシアとクロエが説明する。
双子はクロエの秘密を聞いた時以上の驚きを見せた。
暫く声も出せなかったが、漸くリュシアンが口を開いた。
「……僕、達も、彼等にあ、会えるの?クロエちゃん?」
リュシアンの言葉は途切れ、声も掠れている。
クロエが頷くとマティアスが
「……俺、真剣に勉強し直すわ。今までのふざけた考えは全て捨てる。
……この世は俺程度が舐めて考えちゃいけないんだよ。もう一度本をよく読むよ……色んな事を多角的に考えるようにする。
ハァ……駄目だ、動悸が収まんねー……。そんな事があるんだ……」
と胸を押さえて踞った。
ガルシアとクロエは顔を見合わせて2人に問うた。
「いったいどうしたと云うんです?お二人ともそこまで動揺されるとは。マティアス様はともかく、リュシアン様まで……」
「当たり前ですよ、ガルシアさん!
解らないのですか、これは大変なことなんですよ?!
だってそうでしょう?動物達がそこまで知的で意志があるだなんて、誰も考えたことなどありませんよ。
況してや普通に交流して、普段はこの家にクロエちゃんの元に常駐する子チョスまで居るだなんて、奇跡です!凄すぎるな、これは想定外だった……。
うわ……何か体に変な震えが来た……僕の認識も改めなくては」
リュシアンは語気荒くそこまで話すと、マティアスと同じ様に胸を抑えた。
クロエは2人の慌てふためき方に戸惑い、オロオロしながら
「な、何かごめんなさい……言わなかった方が良かったのかもしれませんね。こんなにお二人を驚かせてしまって、アタシどうしよう。
この先いずれはこの地の領主となられる方々と思い、両親と話してお伝えすべきと判断したのですけど……」
と謝った。
2人は申し訳なさそうに謝るクロエに屈み込み、首を大きく横振りしながら否定する。
「違うっそうじゃない!謝らないで、クロエちゃん!嬉しいんだよ僕達は。
こんな大事なこと教えて貰えて……あまつさえ会わせて貰えるなんて。
兄さん、やっぱり森に来て良かったね。僕達は今より前に来ては駄目だったんだよ。クロエちゃんがこの森に居る今だからこそ、僕達はここに来る運命だったんだ……」
「ああ。俺もそう思う。何故あんなにこの森に来なければならないと意固地なまでに思い込んだのか……俺自身不思議だった。今までだってこの森に来たいとは思っていたけど、今回の焦燥は自分でも異常だと解った位酷かった。
……こういうことだったんだな。今より前でも後でも駄目だったんだ。
ライリーが未だこの地に居て、オーウェン達も居て、そしてクロエちゃんが話してくれる状態まで成長してくれた今こそが、俺達に用意されたものだったんだ。
……爺さんや親父が俺達をこの森から遠ざけたのも、つまりは何かの意志が働いてたんだろう。
俺達に選択の余地など有る訳が無かったんだ。……考えるとそら恐ろしいな、壮大な何かの存在を今、生まれて初めて感じたよ」
マティアスが真剣な表情で話す。
ガルシアがそんな2人を見て、頷く。
「恐らくマティアス様の考えで合っているでしょう。私も今貴方の言葉を聞いて、素直に納得出来ました。
……ならばクロエ。明日にでも森に向かいなさい。早い方が良い。
流石に夜は森の時間だからな。今日はもう休もう。……お二人も良いですね?」
2人は大きく頷き、クロエを見て話す。
「ありがとうクロエちゃん。隠そうと思えば隠せただろうに、僕らを信用してくれて嬉しいよ。
……明日、楽しみにしているね」
リュシアンがそう礼を言って、にっこり笑う。マティアスも同じ様に笑って頷く。
「はい、朝私が森に行って話してきます。お二人は家で待っていて下さいね。
森と話をするのは、私一人でないといけないので……ごめんなさい。
では私ももう休みます。マティアス様リュシアン様、お休みなさい。
父さん、ライリーお兄ちゃんに話をしてから寝るわ。良い?」
「ああ、それは構わないよ。朝、母さんと俺に声を掛けるんだぞ?
じゃあお休み、クロエ」
「わかったわ。お休みなさい父さん」
クロエは大人達に就寝の挨拶を済ませるとその場を離れた。
その足でライリーの居る男の子部屋に向かう。
コンコンッ!
「はい、誰……何だクロエか。どうしたんだ?」
男の子部屋をノックすると、ライリーが顔を覗かせた。
「ゴメンねお兄ちゃん、寝る前なのに。あのね、明日森に行きたいの。父さん達には許可を得たわ。
お兄ちゃん、朝からで悪いけど付いてきてくれる?無理ならアタシ一人で行っても……」
「馬鹿。付いていくよ、決まってるだろ。だけど突然だな。
もう、あの2人には隠す必要が無くなったからか?」
「ご明察。そうよ、隠しておくのは未来の領主に対して良いことでは無いでしょ?
急だけど、お二人には時間もあまり無いと思うから……朝からここちゃんやざざさん達に伝えに行くわ。
朝起きて直ぐに行きたいの。急がせるけど良いかな?」
「ああ、僕なら大丈夫。早めに準備する。クロエこそ起きられるか?」
「……頑張る。アタシから言い出して当人が起きられないなんて、流石に情け無さ過ぎるもんね。
じゃ、お願いします。アタシももう休みます、お休みなさいお兄ちゃん。……あ、そうだ」
「ああ、お休み……ん、どうした?」
「……お兄ちゃん、オーウェンお兄ちゃん達と一緒に州都に向かうんだったよね?
もう、決まってるんだよね?」
クロエがライリーをジッと見つめて尋ねる。
「……ああ。そうだよ。オーウェン達が帰る時に、俺も便乗する予定だ。どうすべきか悩んでたけど、今が一番手を煩らわせなくて良いしな。
……その事でどうかしたか?」
「ううん、アタシはお兄ちゃんが知ってる通りの事情があるから、理解してるし大丈夫よ。
ただミラベルお姉ちゃんがね。無理もないんだけど……。
……又時間を見つけて話してあげて?」
「ミラベルか……そうだな。うん、わかった、ありがとうクロエ。……心配掛けるよな、ゴメン」
ライリーがやりきれなさそうに顔を歪めて頭を掻く。
クロエはフフッと笑って小さく首を振る。
「気にしないで。お姉ちゃんとコリンお兄ちゃんはアタシに任せて。多分母さんも暫くは寂しがると思うけど、アタシと父さんが居るし。
お兄ちゃんは新しい世界に飛び込むんだから、後の事はアタシにどーんとお任せを!
さて、ホントにもう寝なきゃ。じゃあねお兄ちゃん、良い夢を」
「ああ、クロエもな。良い夢を」
クロエはライリーに手を小さく振ると、踵を返して女の子部屋に向かう。
(ここ2・3日で本当に色んな事が動き出したな~。そうだ、明日森に行ったら、あの事を相談しよう!
もう、時間がないもの。ちょっと特権使っちゃうけど、こういう時位は許されるわよね?
だってアタシに出来ることはそれ位なんだもの。……前の世界の両親も、こんな気持ちだったのかな。
縫いぐるみももう出来るし、アレならそんなに時間もかからないわ。中身だけが問題だったのよね。
……出来ることなら、実用出来るものが良い。この世界から可能かもしれないし。森さん、良い方法知ってると良いな)
クロエは有る計画を考えながら、女の子部屋の扉を開ける。
「戻ったよ~。……お姉ちゃん達、何してんの?寝ないの?」
「あ、お帰り~。もう寝るよ?ただ縫いぐるみも気になっちゃって。
クロエは縫うのが速いからもう出来るけど、アタシ後1つ残ってんのよ。頑張らないと……」
「ミラベルと私はクロエほど速くは縫えませんもの。私も頑張らないと!ですわ~。
あ、そうそう、どうなりましたの、それで?」
ミラベルとエレオノーラは針を必死に動かしながら、クロエに聞く。
クロエは2人に近寄りながら、口を開く。
「うん、明日朝早く森に行くの。お兄ちゃんにもお願いしてきた。
早く動いた方が良さそうだし。
という訳で、アタシもう休むね。お姉ちゃん達どうするの?」
「うん、この周囲を縫ったら寝るわ。先にベッドに入ってて。エレオちゃんはどう?」
「わ、私も後ここの部分を縫ってしまいたいんですの。ここが縫えたら明日は合わせられますもの!
直ぐに終えますから、どうかクロエは先に休んでくださいな?」
「うん、わかった。じゃ、お先に~!無理しないでね?お休みなさい~」
「「お休みなさい、良い夢を~!」」
テーブルで奮闘する姉2人を残して、クロエはベッドに潜り込む。
この日は色々なことが有ったせいか、程無く彼女は眠りについたのだった。
なるべく早く更新します。