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やりたい事をやる為に  作者: 千月 景葉
第一章 黒き森
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178. 弱味

お読みくださりありがとうございます。

姉達に状況の変化を説明する主人公。しかしその話はいつしか妙な内容に……。

 女の子部屋での事。


 ミラベルは眉を寄せて目を瞑り、暫く自身の中で何やら葛藤していた。


 心配そうにそんな彼女を見守るエレオノーラとクロエは互いに目を交わす。


 やがて意を決したようにミラベルが目を開けると、キッと妹を見つめ唐突に問うた。


「ねぇクロエ。アタシ達に何か隠してない?」


「隠し事?してないけど。何で?」


 全く思い当たる節が無かったクロエは姉に正直に答えた。


 ジィーと顔を近付けてクロエの瞳を覗き込んだ後、小さく息を吐くと何故かミラベルはガックリと首をうなだれ、小声で

「わかんないや……ごめん、クロエ。何かあのお二人の雰囲気が変わったからさ、てっきり何かあったんだと思って」

 と妹に疑ったことを詫びた。


 クロエは手をポンと叩くと

「あーっ!お姉ちゃん流石だっ!忘れてたよ、それ。

 うん、もうね、お二人とも知ってらっしゃるよ。お姉ちゃん達に言い忘れてた~ごめん!」

 と姉達にペコリと謝った。


「エーーッ!何で?!どういう事なの?アタシもエレオちゃんも知らないよ、そんなの!

 お兄ちゃん達も知らないの、それ?!」


「ううん、お姉ちゃん達だけ。何て言うか間が悪かったんだよ。バレたのはアタシがやらかしたからなんだけどね。

 で、あれよあれよと言う間に、さ。……これじゃ何か仲間外れにしたみたいだよね、ごめんなさい。

 アタシ直ぐにお姉ちゃんに言わなきゃいけなかったのに」


 ミラベルは顔を強張らせていたが、一度天を仰ぐと自分の両頬をパンッ!と勢い良く叩くと

「うんっ!少し腹立ったけど、クロエが隠してた訳じゃないのが解ったから良いとする!

 で?一体何やらかしてバレたの、アンタってば?」

 と、頬をじんわりと赤くしてクロエに質問した。


 エレオノーラもうんうんと頷きながら、口は挟まずクロエを見つめる。


「……お姉ちゃんが男前過ぎる。惚れるわ、この気っぷの良さ!男ならさぞかし……いや、言うまい。

 いや、実はね、父さんの書斎で一人言をペラペラと……」


 クロエは姉達に今までの顛末を説明する。フムフムと聞いていたミラベルは途中から片手で顔を覆い始め、最後には両手で完全に顔を覆って大きく溜め息を吐いた。


 エレオノーラは

「あらあら……何てこと……」

 と呟くと片手を頬に当て、ハァと小さな息を吐いた。


「何て言うか……アンタって賢いのにどうしてそう抜けてるのよ。

 魔力暴走の原因の話聞いたときも思ったけど、アンタって実は相当な間抜けだよね……」


 ミラベルが溜め息混じりに感想を告げる。


「グッ……キッツいお言葉。だが事実だから言い返せないわ、アタシ。

 ミラベルお姉ちゃんてば切れ味鋭過ぎます、ウウ」


「何言ってんの、クロエだから未だ多少なりとも気を遣ってんのよ、アタシ。妹相手に致命傷与える暴言吐く筈無いでしょ?

 これがコリンなら拳骨と罵詈雑言よ?お兄ちゃんでも、拳骨抜きで罵詈雑言。因みに父さんなら股間に一発と罵詈雑言。母さんには……勝てないから止めとくけど。

 ね、クロエは妹で特別なんだから」


 クロエはミラベルの言葉に少々引きながら

「……男に容赦ないのが凄く分かりました。アタシ、妹であることに感謝の祈りを捧げたいと思います。

 ま、そう言う訳でバレちゃったの。でもさ、何かホッとしてんのアタシ。やっぱり隠し事するのって性に合わないんだよね。だから直ぐバレたんだと思うし」

 と、腕組みしながら姉達に打ち明ける。


 ミラベルとエレオノーラも頷きながら、ミラベルが

「だね。やっぱり最初っから無理があったんだよね。今さらだけど。

 でもお二人にバレたのに家の中が落ち着いてるって事は、心配していた状況にはならなかったって事だよね。違う?」

 と言い、エレオノーラも

「そうですわね……確かに兄様達も穏やかでしたわ。

 マティアス兄様、今朝までは余裕が全く無いご様子でしたのに、先程の夕食の席では落ち着いて笑ってらしたもの。

 そういう事でしたのね、納得いたしましたわ」

 とモヤモヤがスッキリしたと納得顔だった。


 だが、同じ様に笑っていたクロエが途中で元気を無くす。


 ミラベルとエレオノーラは顔を見合わせて、妹に尋ねる。


「何?未だ何か隠してんの、クロエ?元気無くす位なら、さっさとアタシ達に打ち明けなさいよ」


 ミラベルがズバッと斬り込む。


 クロエがミラベルとエレオノーラを交互に見つめ、やがて俯いてボソッと溢す。


「お姉ちゃん達じゃなくてね、お二人にさ……ほら、森の皆の事。それは未だ言ってないんだよ。

 でもご領主になられる方達だし、やっぱり今言っておいた方が良いよね?

 ハァ、何か隠し事ばっかりでアタシ、自分がスッゴく嫌な奴に思えちゃうよ……」


「へ?あ、ここちゃん達ーっ!暫く会えてなーい!うぅ、何か思い出したらあの子達に会いたくてたまんない~。

 うん、クロエそれは早く言った方が良いよ!そんでもって早くここちゃん達呼ぼう?癒されよう?

 でないとアタシ達が困るよ~、ねぇエレオちゃん?」


 ミラベルが自分の望みを言いつつ両手の拳をブンブン上下に振った。


 エレオノーラも頷いたが、顔を引き締めて小さく首を横に振る。


「お会いしたいですわ~……ってお待ちになって!それは少し違いましてよ、クロエ。

 隠し事とは申しますが、これは大事なことなのです。

 誰しも何の気兼ねも遠慮もなく、又相手の思惑も気にせずに自らを出したいと思うもの……ですがそれはこの森以外では命を縮めるに等しい行為なのです。


 良いですか?僭越ながら私も貴族の端くれ。インフィオラーレではこの森のように、大きな声で笑ったり気軽に友達とお喋りしたりなんて出来ませんのよ。


 ……淑女は気安く口を開くものではないそうですの。そう、教えられてきましたわ。寂しいものですわよね。

 他の方々に見下されないようにと云う私から見ればくだらない理由以外にも、いつ何時私達を狙う輩が甘い顔で声を掛けてくるやもしれないからですわ。


 貴族なんて本当につまらない……。


 いつも表情は控えめな微笑み程度、周りとは殆ど言葉を交わさず、紹介を受けた方にだけ淑女の礼をする程度。

 良くて母の茶会でお会いする御夫人方と来られる御令嬢と少し話をするくらいですから。

 未だ子供ですから夜会などは出られませんし、全てを知っているわけではありませんが……。


 母もこの森で過ごした時間をとても嬉しそうに話してくれましたの。

 いつも殺伐とした人間関係を強いられていましたから、本当に心からこの森の生活が楽しかったのですわ。

 私もこの森でミラベルとクロエに会えて、一緒に寝起きしたり遊んだりお手伝いしたり……、初めて冗談を言って笑い合えて。毎日とても楽しくて。


 でも、それはこの森だから出来たのです。身を守る必要が無い安全なこの森だからこそ、こんなに自分をさらけ出して過ごせているのです。


 クロエ。隠し事を悪いことと思わないで。それは貴女を守るためには必要な事なの。


 先ず人を見定めて状況を見て、周りの信頼出来る大人に相談して、それから少しずつ歩み寄るのです。

 自分をさらけ出すのはこの森の外では、本当に難しいことなんですから。


 ミラベルもよ。貴女は聞いていると思いますが、貴女を手に入れて叔父様や叔母様を脅そうとする者がこの森の外には沢山居ます。

 この森は神域なのですもの。そして守り人足る叔父様は特別な方。

 そしてそんな叔父様の大事な宝である娘の貴女も又、特別なのです。


 貴女(ミラベル)も何れこの森の外へ行儀見習いの為、旅立つ日が来ますわ。

 でも貴女の奉公先は祖父やライモンド伯父様、私の父の吟味に吟味を重ねた所になります。


 貴女……達は貴族ではないですが、貴女達の身は私並みに守られなければならない。

 この森に関わる者は皆、フェリークにとって……いえ、この国にとって重要なの。特に貴女達は。


 だからクロエ、隠し事をする自分を引け目に感じてはなりませんわ。

 それは必要な事。大事なことなのですから」


 エレオノーラはそういうと両手をぎゅっと握り締め、二人を見つめる。


 突然の話にクロエは目を丸くし、ミラベルも最初は驚いていたが、一度目を閉じるとコクンと頷いた。


「うん……母さんから聞いてる。エレオちゃんの言ってることは本当だよ、クロエ。

 アタシも少し前までは考えたことなかったんだけど。お兄ちゃんがもう旅立つから……それで母さんから話をされたの。


 アタシ達はこの森を知ってるから、それだけで狙われるらしいのよ。


 この森は神域だし、豊穣の象徴でもあるらしいの。

 森を出たら色んな貴族がアタシを狙うだろうって……そう聞いたわ。


 勿論お兄ちゃんやコリンもよ。だから2人は騎士団へ行くの。


 でも女の子は……弱いでしょ。直ぐに狙われる。そして利用されるわ。


 そんな奴等からアタシを守る為に、ジェラルド様達がアタシの行く先を考えて下さる。ビックリだけど有り難いよね、本当。


 だからこそ、自分を隠すのはしょうがないの。自分を守るために必要なの。……自分を守ることが他の家族を守ることにもなるから。


 クロエ、今の日々は特別なものなの。エレオちゃんの言う通り、アタシ達はここでしか自分を素直に出してはいけないんだよ。


 いつかは……エレオちゃんの云う悪意のある人達にも立ち向かわなければならないんだから。


 ……ん、何か急に暗い話になったね。うん、又にしようよ、この話は。

 ね、それより森の皆の話!どうする?いつ言うの、エレオちゃんはどう思う?」


 ミラベルは話を無理矢理切り替え、2人に笑顔を向ける。


「あ……う、えっと……か、母さんに相談してくるよ。その方が良さそうだし」


「そう、ですわね。ミラベル、私もクロエの意見に賛成ですわ。その方が良いのでは?」


「そうだよね、ならクロエ、早い方が良いわ。今から母さんに聞いてきたら?アタシ達は部屋で待ってる。

 又どうするか決まったら教えてよ、良い?」


 ミラベルはそう言ってニッと笑う。


「あ、うん。わかった。

 じゃ、じゃあちょっと行ってくるね」


「はーい、行ってらっしゃーい!」


 気まずそうに部屋を出ていくクロエを努めて明るく送り出したミラベルは、扉が閉まると溜め息を吐いた。


「あ……ミラベル。ごめんなさい、私ったら……」


 エレオノーラは苦しそうにミラベルに声をかける。


 ミラベルはブンブンッと勢い良く首を横に振ると、振り向いてエレオノーラにしがみつく。


「違うの……エレオちゃんの言う通りなのに、アタシは未だ全然覚悟が出来てなくて。今の話はアタシこそ心に刻まなければならないのよ。


 クロエの事が無くっても……アタシは父さんやお兄ちゃん達の弱味にしかならないんだもの。


 本当は考えなくっちゃ……もう、お兄ちゃんは森を出るんだ……。

 もうお兄ちゃんが……アタシ、それを考えたくなくて……ゴメン」


 自身にしがみつき、肩に顔を埋めるミラベルをエレオノーラは痛ましそうに見る。


「そう……そうですわよね。だって貴女達はこんなにも温かい家族ですもの。お兄さんを送り出す貴女の喪失感は如何ばかりか……。ミラベル……」


 エレオノーラはそれ以上掛ける言葉を見つけられず、只ミラベルが落ち着くまで彼女を抱き締め続けた。




 クロエが戻って来るまでの僅かな時間、2人の姉は自分達の揺れる心を妹に悟られないように自らに言い聞かせ続けたのだった。

なるべく早く更新します。

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