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やりたい事をやる為に  作者: 千月 景葉
第一章 黒き森
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177. 口の軽さ

お読みくださりありがとうございます。

再び主人公の口の軽さが露呈するお話です。

懲りませんね、彼女も。

 森の家で昼食をとった後、コリンがクロエの元に来て言った。


「あのさ、マティアス様って案外良い人だよ。さっきまでずっと僕とお話ししてたの。

 何か僕、マティアス様を悪く考えすぎてたなってちょっと反省した。

 とっても面白い人だよ。一度クロエもお話してみると良いよ」


「へぇ、コリンお兄ちゃんが誉めるなんて珍しい。そんなにお話楽しかったの?」


「うん、僕の話であんなに喜んでくれるんだもん。良い人だよ。大体子供の話なんて大人はいい加減に聞くものでしょ?

 なのに目キラキラさせて、いっぱい質問してくるしさ。

 ホントに森の話聞きたいんだなって思ったよ。

 あ、クロエのことも聞かれたけど、魔力暴走の話とめちゃくちゃ可愛いって事くらいしか話してないから。安心して?」


「うぉい?!暴走の話は構わないけど、めちゃくちゃ可愛いってのは恥ずかしいよ……。コリンお兄ちゃん、アタシにめちゃ甘だからなぁ……。嬉しいけど。

 でもそうかぁ。コリンお兄ちゃんにマティアス様がそう見えるなら、間違いなさそう。

 うん、アタシも話してみたいかも。

 後からお話してみよっかな?」


「うん、良いと思う。だけど一人では駄目だよ?皆未だ警戒してるもん。マティアス様も気の毒に。

 だから先生か誰か大人に居て貰った方が良いんじゃないかな」


「う~ん、そっか。一気に面倒臭くなってきたぞ……」


「そう?なら、僕に任せてよ。ちゃんとお話しできるようにしてあげる」


「え?何かお兄ちゃん、マティアス様にホント優しいね。よっぽど気が合っちゃったのね~」


「うん……僕も少し前まではいたずらばっかしてて、皆に「コリンは~」って言われてたじゃない?

 マティアス様もおんなじなんだよ。だから力になってあげたいの」


「……お兄ちゃんが良い子過ぎる。何でこんなに良い子なんだろ!もー、大好き!」


 廊下で話をしていて、感極まったクロエは思わずコリンに抱き付き、スリスリと兄の胸に顔を擦り付けた。


「わっ、わ~っ?!ク、クロエってばくすぐったいよ~っ!

 と、とにかくしばらく待ってて!直ぐにお話出来るようにするから~」


 顔を真っ赤にして焦りながら、自分にすがり付いてきた妹を何とか離したコリンはその後直ぐに客間に入っていった。


(客間に……誰かいたかしら?先生は小屋に戻られた筈。大人って誰のことなんだろう?)


「クーロエ!こっち来て~!マティアス様とリュシアン様が居た。

 僕、母さん呼んでくる~。先に客間で待ってて!」


「え?!お二人ともいらっしゃるの!お、お兄ちゃん……」


 クロエがまごまごしていると、ニッコリ笑ってコリンが足早にクロエのもとに走りよってきた。


「だーいじょーぶ!もう気にしなくて良いみたいだから!

 でもクロエのために母さん呼んできてあげる。でないと怖いでしょ?」


「え、う、うん。コリンお兄ちゃん、何か……積極的だね?」


「セッキョ……?良く分かんないけど、僕、マティアス様にはクロエを分かって欲しいんだ。

 リュシアン様はもうクロエの事知ってるんじゃない?さっきマティアス様にクロエとお話ししてあげてってお願いしに行ったら

「あ~絡み手か……兄さんらしいな」

 ってリュシアン様が言ったんだけど、マティアス様が

「コリンに失礼だろ。そんな事するか!騎士団じゃないんだ、汚い手は使わない」

 とか怒って言ってた。

 何となくリュシアン様はクロエと話したんじゃないかなって思ったの。そうじゃない?」


「え?うん、良くわかったね!

 ……実はね、父さんの書斎で本読んでるの見られてたみたいで。アタシがペラペラ一人言喋ってるの、聞かれちゃったんだ。

 又やらかしちゃったんだよ、アタシ」


 クロエの告白にコリンは目を丸くしたあと、理解できたとばかりに軽く頷いた。


「そうだったの……。でもさっきのリュシアン様は何か悔しそうだった。心当たりある?」


「う~ん……単にマティアス様がアタシと喋るのが面白くないんじゃない?」


「何それ、自分はクロエの事知ってるのに?やっぱり変わってるね、あのお二人は。まぁそんなのはどうでもいっか!

 クロエ、もう一度聞くよ。マティアス様とお話ししてあげてくれる?」


「うん、良いよ。コリンお兄ちゃんの頼みだしね!」


「ヘヘ、クロエは優しいからなぁ。でももし嫌なことを聞かれたり言われたりしたら遠慮なく話やめて良いからね!クロエにそんな事するのは僕が許さないんだから!」


「やだもう~お兄ちゃんたら、カッコいい!流石アタシのお兄ちゃん!」


「そ、そう?僕今カッコいい事言えたんだ?へへ!

 じゃ、じゃあ母さん呼んでくるから!客間で待っててね」


 そう言い置くと、コリンはコレットのいる台所まで走っていった。


 クロエはそんな次兄の背中を見送ったあと、客間に近付き中を覗き込む。


「クロエちゃん、怖がらなくて良いよ。兄さんも僕も君を取って食いやしないから」


「あ、リュシアン様……。入っても?」


「もちろん。君の家なんだから、遠慮なんかしないで?」


「は、はい……マティアス様も、良いですか?」


「うん。寧ろ気を遣わせてごめんね、クロエちゃん。

 コリンが俺を気遣ってくれたみたいだね。……そんなつもりなかったんだけどな。あの子は聡い子だね」


 それには曖昧に笑って返答せず、クロエは客間の彼等の前に近付く。


「コリンお兄ちゃんがマティアス様とお話ししてあげてって……。

 マティアス様、アタシとお話をしたいんですか?」


 単刀直入に切り出したクロエにマティアスはコクンと頷いた。


「そうだよ。聞いたと思うけど、コリンにはさっきいっぱい話をして貰ったんだ。

 彼と話をして、俺は自分の考えが本当に固くて独り善がりだったと気付けた。

 本当に気が合う奴なら、年齢なんて関係無いんだって心底思えたよ。

 それくらいコリンとの話は楽しかった!

 そんなコリンが君を凄く誉めてたんだ。とても大事なんだね、妹の君の事。

 素敵な兄妹だよね、だから君とも話してみたくて。

 君が嫌じゃなかったら、だけどね?」


 マティアスはそう言うと問い掛けるようにコテンと小首をかしげた。


 リュシアンが顔を歪ませてクロエに忠告する。


「……成人した兄さんが何やってるんだか。そんな仕草は女の子か、コリンみたいな年端のいかない子だけの特権だよ。見せられたクロエちゃんの目が腐ったらどうするの。

 クロエちゃん、お喋りするの嫌なら嫌って言って良いんだよ?なんてったって兄さんは変り者だから。

 気なんか遣わなくて良いからね」


 リュシアンの言葉にマティアスが頬を膨らませて抗議する。


「ひっど!一応俺、お前の兄貴なんだけどぉ?!もっとコリンとクロエちゃんみたいになれない?

 それにお前はクロエちゃんとさっきお喋りしたんでしょー?

 なら俺だってお喋りしたい~。偏屈なお前が楽しく話出来る子なんだろ?なら、コリン並みに優秀って事じゃないか!第一、お前は俺よりも愛想無しで有名なんだし?」


 二人のやり取りを見ていたクロエはクスクス笑い出した。


「仲良いんですね、お二人は。アタシもマティアス様とお喋りしたいです。

 リュシアン様、心配してくださってありがとうございます。でもマティアス様はリュシアン様のお兄様だし、コリンお兄ちゃんとも仲良しみたいだから、アタシ怖くないです」


 クロエの言葉にマティアスは嬉しそうに頷いて

「ほら!ほらね!聞いたか、リュシアン!

 クロエちゃんはやっぱりコリンの妹だ~。ちゃんと見る目あるんだよな。お兄さん嬉しい!」

とはしゃいで弟に訴える。


 マティアスのはしゃぎようにリュシアンは心底嫌そうな顔をして頭を振る。


「……これを兄だと認めたくない。優秀な筈なのに、やることの馬鹿っぷりがそれを打ち消す。

 ……クロエちゃん、本当に無理しないでね」


 そこにコレットが入ってきた。


「あら、マティアス様にリュシアン様。クロエとお話をなさりたいんですって?

 コリンがそう言ってたんですが……」


「え、コレットさん。どうして?」


「コリンが、クロエがお二人を怖がるといけないからって、母さんが一緒に居てあげてと」


「コ、コリン~。俺を信頼してくれてたんじゃないのか~?」


「これで正解、コリンはしっかりしたお兄ちゃんなだけだ。妹をむざむざ変り者兄弟の前に一人で居させたりする訳無いよ。

 ……却って僕のコリンに対する評価は上がったな」


 そんな双子の前に母と娘は腰掛ける。


「母さん、お兄ちゃんは?」


「僕がクロエに頼んだんだから、付き添ってもらう母さんの仕事は僕がやるよって、今野菜を洗ってくれてるわ。後、お風呂も洗ってくれるみたい。

 だからクロエは心配しないで?」


「お兄ちゃん……なんて健気なの、もう!」


 母子の会話にリュシアンはニコニコ笑い、マティアスは目を丸くする。


「コリンは今コレットさんの代りに家事をしてるんですか?」


「ええ。コリンもそうですが、家の子供達は皆良く私やガルシアの手伝いをしてくれます。

 それにオーウェン様もエレオノーラ様もですわ。

 この森の家では“働かざる者は食うべからず”なんですのよ」


「な、それは少々厳しい……。コリンは嫌がらないのですか?」


 マティアスが少し戸惑い気味に問う。


「……少し前までは嫌がっておりました。私もガルシアも無理に手伝いをやらせたりはしませんでしたし。

 ですがクロエが魔力暴走で倒れた際、ウチは本当に光が消えたようになったんですの。コリンはクロエに全く会えなくなって……そんな苦い経験があの子の中の何かを変えたのでしょう。

 今ではすっかり面倒見の良い賢いお兄ちゃんですもの。ね、クロエ?」


「うん!コリンお兄ちゃんもライリーお兄ちゃんもミラベルお姉ちゃんも、皆アタシにすっごく優しいの!アタシ、幸せだよ~」


 クロエの笑顔に少し切なそうにマティアスが顔を歪める。


 リュシアンがそんなマティアスを見咎めて、小さく首を横に振る。


 マティアスは小さく息を吐くと、先程までと変わらない能天気な笑顔を浮かべる。


「そう……。じゃあコリンがくれたこの時間を大事にしないとね!

 あのね、俺はクロエちゃんの話したいことを聞きたいんだ。家族の事でも、森や守るべき地の事でも何でも良い。俺に話して聞かせて?

 ……どうだろう、駄目かな?」


 クロエはマティアスの要望に目をパチクリさせた。


「……変わってる、確かに。マティアス様ってやっぱりリュシアン様に似てるなぁ。双子だけある。

 分かりました、じゃあ何でも良いなら話をしますけど……。

 そうだなぁ、あ、コリンお兄ちゃんが考えた遊びの事とか。

 あれでね、凄く楽しいことがあったんですよ!実はね、ジェラルド様……」


 クロエがマティアスの要望通りに話を始めた。コレットはどのような話をクロエが口にしようが、止める気は無かった。


 既にリュシアンはクロエの事を知っているし、遅かれ早かれマティアスにもその時が来るからだ。


 リュシアンも同じ気持ちだし、状況は当のクロエの心ひとつと言ったところだった。


 そのクロエはマティアスに自身の秘密を伝える気があるのか無いのか……。とにかく口が回り始めると止まらない彼女のお喋りが続いた。


 マティアスは最初こそ目を丸くしたが、コリンと同じく飛び抜けて優秀な幼子なんだと気持ちを切り替えて、彼女のお喋りを聞く。


 だが、流暢なお喋りと楽しい失敗談に笑うだけで、彼女の話には何ら特筆すべき秘密の匂いは感じられなかった。


 そう、マティアスは思っていた。


 だが、話終わる直前に彼女が発した言葉がマティアスの意識を変えた。


「……ね!アタシったら今でこそこんなに喋れるんですけど、本当に舌っ足らずな時は苦労したんです。

 今ならポンだってちゃんと言えるし、ピョンなんて名前にならなかったんだけど……」


 元来はきちんと優秀なマティアスがその言葉を聞き逃す筈は無かった。


 しかし彼は表情を変えずにクロエの話に耳を傾ける。


 クロエは自らの失言に気付かないのか、話を止めない。


 だが、人とは一度失言すると気付かぬ内に(たが)が外れるのだろうか。彼女はその言葉を皮切りにポロポロと失言を繰り返し始めた。


 途中、漸く不味い言葉を発したと気付いた様だが、話を止めると余計に怪しまれるかと口を閉ざさなかった。


 内心、バレても良いやと開き直ってしまってもいたのだろう。


 だから、止めの一発の失言を見事に出してしまった。


「……だけどこんなに大人の人でも遊びに夢中になるなんて思わなかった。テオ様もそうだったし、あの英国紳士っぽいシュナイダー様だって!

 シュナイダー様ってホントに中世の騎士って感じで、アタシが学校で習った世界史や小説の中の騎士様のイメージそのままなのに。

 お二人のじゃんけんピョンでやり合うお姿ったら、もう!

 本当の騎士さ、まって……こんな……あ、あれ……アタシ、今……」


 クロエは口を押さえる。


 マティアスの目は完全に見開かれて口は開いたままだ。


 リュシアンは苦笑いしながらクロエを見つめ、コレットは

「……貴女は別の意味で淑女教育が必要だわね、クロエ」

 と溜め息を吐いた。


 マティアスはゆっくり口を閉じて唾を飲み込み、再び口を開く。


「クロエちゃん、君……君は一体。

 それにあの手遊びはコリンじゃなく、本当は君が考え出したんだね?

 だけど、学校でって……、君は一体どこの誰なの?

 君は、見た目通りの小さな女の子じゃないんだね?」


 マティアスの驚愕にリュシアンが

「んー、コレットさん。クロエちゃんはこのままだと危険ですね。

 時間は有りますから、彼女に淑女教育を徹底的にお願いします。でないと法具が出来ても、外に出せない」

 とおでこをトントンと指で叩きながら眉を寄せてクロエを見る。


 コレットも頷き

「そのようですわね。流石にこれ程危機感が無いとは私も思いませんでしたわ。今はマティアス様だったから良かったものの、他の者だったら大変でした……。

 先生にも相談して、貴女の意識改革が必要だと申し上げます。良いわね、クロエ?」

 と、肩を縮める娘に伝える。


「……はい、調子に乗りました……バレても良いやって思ってたせいで、とんでもない事まで口にしちゃった……」


 クロエの言葉にマティアスは思わず腰を上げる。


 リュシアンがそんな兄を手で制し

「ここじゃ不味い。先生の元で話をする。思ったより早かったな……もう少し兄さんが苦労するとこ見たかったのになぁ。

 コリンが味方に回ったのが大きかったか。

 あ、言っとくけど、今の話は先生の元へ行くまで他言無用だからね?

 ……家族の中でも未だ知らない子が居るんだ、コリンとかね。

 平和な家庭に無用な波風、兄さんも立てたく無いだろう?」

 と兄を牽制する。


 マティアスは肩を落とすクロエと自分を見るリュシアンを交互に見ながら、やがて

「わ、わかった……。先生の元で話、だな?」

 と再び腰を下ろした。




 その後、急遽小屋で朝と同じ“会議”が持たれ、マティアスはクロエの秘密を知った。


 彼は話を受け入れながらも

(俺ってやっぱり頭固い……。もっと視野を広く持たねーとなぁ。

 世の中どんな驚きがあるか解ったもんじゃない。身近でこんだけあんだからなぁ。

 本気で俺も気持ちを切り替えねーとな……)

 と今までの自分を反省したのだった。

なるべく早く更新します。

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