174. 黒髪の秘密、その1
お読みくださりありがとうございます。
主人公が又一つ、異世界の理を知ることになります。後、醜い欲望も。
長くなったので、区切ります。
オーウェンはコレットに会うと、自分で導きだしたクロエの秘密について話そうとした。
しかしコレットはオーウェンの表情を見て微笑むと
「ここでは差し障りがあります。早い方が良いでしょうから、今からクロエを連れて小屋に行ってください。
小屋に入るまでは今私に仰ろうとしたことは、口にしないで下さいね。
クロエは女の子部屋に居ますから、私が連れてきます。
家の外でお待ちください、そこでクロエと会わせますから」
と言って台所から女の子部屋に向かった。
オーウェンは勢い込んでいたので少し拍子抜けだったが、とにかくコレットの指示に従った。
家の外に出ると、直ぐにコレットがクロエを抱いてやって来た。
「では小屋に行ってください。あちらでお話してくださいね。
クロエ、貴女も良いわね?」
「うん、分かった。じゃあオーウェンお兄ちゃん、行こっか!
アタシ歩くし。下ろしてくれて良いよ」
「いや、抱っこしていくよ。たまには僕が君を抱っこして良いでしょ?
ライリーがいつもやってるの見てて、羨ましくて。駄目?」
「そうなの?確かにライリーお兄ちゃんは良くしてくれてるけど。
結構重いのになぁ、アタシ」
「軽いよクロエは。じゃ、行こう」
「私はこちらに居ますから。それじゃ」
「「はい、行ってきます」」
オーウェンがクロエを抱き取り、小屋に向けて歩き出した。
小屋に着くと張られていた結界は既に解かれていて、難なく小屋に入れた2人。
早速中の4人にコレットの指示で小屋に来たことを話すと、彼等は直ぐにその意味に気付いた。
ディルクは又溜め息を吐きながら結界を展開し、クロエが了承するとリュシアンやライリーが先程交わされた話を再度オーウェンにする。
オーウェンは自分の推論が正しかったことを知り、改めて驚く。
クロエは苦笑しながら認め
「実は今日、このお話ばかりしてたの。
でもオーウェンお兄ちゃんは、今まで見てみぬ振りしてくれてたんだなぁ。
視点を変えたら直ぐ気付くなんて、その証拠だよ。
でもアタシってホント分かりやすいんだなぁ」
と肩を竦めた。
オーウェンは頬を掻きながら
「いや、叔母さんの助言がなかったら僕は未だ気づかなかったと思うよ。
大体頭固いからね、僕は。思い詰め易いし、視野が狭い。思い込むと中々切り替え利かないし。
冷静に君を見れば、もっと早く気付けた筈なのに。
これで優秀だと言われていい気になってたんだから、愚かすぎて笑えるよ」
と苦笑いする。
リュシアンが笑ってそれを否定する。
「充分優秀で切り替えが早いよ、君は。多分今まで気付いてなかったのは、無意識にクロエちゃんを気遣ってのことだったんだろう。
只、優しいだけのことさ。僕と違ってね」
オーウェンはその指摘に頬を赤くした。
「さて、オーウェンが来たから丁度良い。クロエちゃんにも話が有ったんだ。
あのね、さっき君とコレットさんが戻った後、4人で色々話をしたんだ。
今後の事で幾つか君に報告と提案がある。
勿論オーウェンにも関係があることだから、彼にも聞いてもらう。
だけど先ずクロエちゃんには、一つ知っておいてほしいことがある。
黒髪の秘密について、だ。
これについてはオーウェンが誰よりも一番、今まで辛い思いを強いられているから、彼から話をして貰おう。
頼むよオーウェン」
リュシアンの言葉にオーウェンが気色ばむ。
「なっ……?!未だそんな話はこの子にせずとも!」
リュシアンは静かな目で顔を歪めたオーウェンを見つめつつ、話す。
「クロエちゃんの秘密を知ったのに、未だそんな事を言うんだ?
知っての通り彼女は大人なんだ。この世界の暗い側面を知ったところで、理解できない子供じゃない。
寧ろ君とクロエちゃんだけが背負う、この世界の間違った欲望について彼女は知っておく必要がある。
君より彼女の方が危険なんだよ。
分かっているだろう?」
「そ、それはそうだけど……だからと言って!
未だ良いじゃないか、あんな話……クロエに聞かせるのは未だ先で……」
クロエはオーウェンに手を伸ばす。
「アタシを気遣ってくれてるのね、オーウェンお兄ちゃん。ありがとう。凄く嬉しいよ。
何の事か未だ解らないけど、アタシなら大丈夫。ちゃんと話を聞けるわ。
だからお兄ちゃんが今まで辛い思いをしてきた原因である、黒髪の秘密?を教えてほしい。
アタシも黒髪だもん。早めに知っておいた方が良いわよ。
知ったら心構えが出来るわ。
ね、お願い。オーウェンお兄ちゃん」
自分の手に重なった小さな手をオーウェンはグッと握る。
そうして表情を引き締めると頷いた。
「わかった……君がそう願うなら話すよ。
だけど聞いて気分の良い話じゃない、それは覚悟してほしい。
……魔力の話だ。この世界は魔力がものを言う世界だ。魔力には色んな種類があるが、大体の人は持っているだけで行使出来ない。潜在魔力が低いからだ。
又使えたとしても1・2種類と云うのが殆ど。本人の行使力適正の問題もあり、そうそう思い通りに使える代物ではない。
そんな中、貴族は昔から魔力の高い人間同士が結び付き、高い潜在魔力を持った子孫にその家を継がせ、人々に影響力を与える様になっていった。
今では一般人はほぼ魔力を使えない。それが当たり前になってしまった。
そして貴族のなかでも高い爵位を持つ者ほど高い魔力を有し、力の強弱で貴族社会の序列まで決まる様になってしまったんだ。
……ここまでは良いかな?」
オーウェンはクロエに確認する。
クロエはコクンと頷いた。
「さっき僕は、魔力が使える者でも、大体1・2種類だと言う話をしただろう?
だが貴族の中には3・4種類使えたりする、特に高い能力者も居たりする。そういう者は貴族社会で多大な力を持てる。だから高い爵位の家ほど、魔力に固執する。
魔力の高い者を目の色を変えて探し、自分自身や自分の息子や娘と結婚させる。そして魔力の高い跡継ぎを作るんだ。
……実はね、魔力の高さは両親の素養以外に、ある程度見た目でも判断できるんだ。
先ず髪が混じり気がない単色であること。そして濃い髪色で有れば有るほど魔力が高いと言われている。
ただ淡色だが、例外的に金や銀も魔力が高いと言われているけどね。
……その中で最強と言われる色がある。それが僕や君の髪色、黒髪だ」
オーウェンが自分の髪を指差して言う。
クロエは目を丸くする。
「そうなの?!はじめて知ったよ、そんな話」
「うん、黒髪の話は君には未だ早いと皆思ってたからね。
先ず黒髪が最強と言われる所以なんだが、潜在魔力量が異常に高い事が一つ。
つまり魔力が尽きにくい。強い魔法を幾らでも行使出来るってことさ。
そして全魔力属性を持つ。これが一番大きな理由だ。
どんな属性魔法も行使可能なんだ。僕の魔力を調べてみたら、やはりそうだった。どの人の魔力とも反発しない。
つまり君もそうなんだよ、クロエ」
クロエは口をポカンと開けた。
「そ、そうなの?……黒髪はチート魔力の証なの?オーウェンお兄ちゃんもアタシも……。
あ、アナスタシア様も黒髪だ!じゃ、アナスタシア様も?」
「ああ、母さんも高いよ。ただ母さんは完全な黒髪じゃない。少しだけ赤髪がある。だから全属性は持っていない。
今のところ僕と君だけなんだ、この国で黒髪の持ち主は。
……妹もそうだったが直ぐに亡くなったからね。
君はさておき、貴族社会で僕は唯一の黒髪の持ち主として知られている。
……生まれてから此の方、誘拐されかけたり命を狙われたりは日常茶飯事だったんだよ。
召使いが毒を飲ませようとしたり、寝室に賊が押し入ったこともあったかな。
まぁ大体の貴族は黒髪の力を手に入れる為に、僕と自分の娘とを結びつけようと必死に僕に接触を図ろうとする。
これは未だまともなんだ。
中には僕が力を持つことに反感を持つ者達は、僕を亡き者にしようと命を狙う。
それが毒を盛ったり、賊を雇って襲わせりするんだ。
特に能力の高い嫡男を有する家ほど、その傾向がある。
だが幸いな事に僕の家は筆頭侯爵家だから、そうそう無茶な手は打てないんだけどね。
それにもう僕を非合法な手段で手に入れるのは、ほぼ無理なんだよ。
今の僕を取り込んだとしても、既に僕は魔力行使が可能だから、輩達は反撃に遭うでしょ。
僕も黙って拐われたり、殺される気は全く無いし。
そんな起爆装置の作動した爆弾なんか、誰も腹に隠し持ちたくは無いだろう?
今までは両親や祖父母は苦労して僕を守ってくれたが、もう僕は敵を迎撃出来るからね。少しは肩の荷が下ろせたんじゃないかな。
……どうしたのクロエ?やっぱり未だこの話は早かったかな……」
見ると、クロエは口に手を当ててぷるぷる震えている。
オーウェンが済まなそうに言葉を切ると、クロエは首をブンブンと横に振る。
「違うよ!オーウェンお兄ちゃんの今までの苦労を聞いて、可哀想で……!聞くのも辛いよ、そんな理由で狙われてきたなんて……。
凄く苦労してきたんだ、お兄ちゃん。父さんに負けないくらい苦労人だよ~。
ホントに酷い人達がいるんだね、そんな奴等、ギッタンギッタンにしてやりたいよ!
よくも小さなオーウェンお兄ちゃんに……!うーっ!腹立つなぁ!」
彼女は憤慨するあまり、ぷるぷる震えていたのだ。
オーウェンはクロエの言葉を聞いて頬を赤くした。
「僕のために……怒って震えてたの?」
クロエは心外だとばかりに、キッとオーウェンを見て言い放つ。
「あったり前じゃない!こんな優しいオーウェンお兄ちゃんに何てことしてくれてんだって、腹立つに決まってるじゃないの!
うーっ!悔しい!アタシが近くに居たなら、そんな馬鹿者共に飛び蹴りとアイアンパンチお見舞いしてやったのにーっ!
でも、今までお兄ちゃんが無事でいてくれて良かったぁ。
これからはオーウェンお兄ちゃんを守るために、アタシにも何か出来ること有れば言ってね?
力も頭も無いけど、あちらの知識を必死に思い出して頑張るから!」
クロエは拳を振り上げて力説する。
オーウェンはそんな彼女を見ていたが、口元を押さえると顔を赤くしたまま視線を反らした。
「クロエちゃん。君の正当なる怒りを聞いて、オーウェンが感動して泣いてるよ?
このまま見てるのも楽しそうだけど、残念ながら話が進まなくなるから怒りをちょっと抑えて。ごめんね?」
リュシアンがクスクス笑いながら、クロエに頼む。
クロエが周りを見ると、リュシアンだけじゃなくガルシアもディルクもライリーも口元を押さえて肩を震わせている。
クロエと違い、怒りじゃなく笑いを抑えるために震えているのだ。
「あら……やだ。だってあんまり酷い話だったから、つい……。
イカンイカン!落ち着けアタシ……話進まないぞ、大人なんだから落ち着け~。えいっ!(バチンッ!)
はい、もう大丈夫!ゴメンねお兄ちゃん、話続けてください!」
クロエは自分の両頬を両手でバチンッ!と気合いを入れ直すように叩くと、頬をジンジンさせながらオーウェンににっこり笑って言った。
「ク、クロエッ?!馬鹿だな、何で自分のほっぺを叩くんだよ?
あぁ、真っ赤になっちゃってる。
もう、ホントに君は……。
頼むから身体を傷付けないで。僕も皆も心配なんだから!」
オーウェンがアタフタと気遣う。
クロエはニカッと笑うと
「大丈夫!こんなの慣れてます!
あちらの世界の時なんか、姉や弟と取っ組み合いのケンカしてたんだから~。
クロエさんはこんなビンタくらいではビクともしません!
さ、お兄ちゃん、話の続きをどうぞ~」
そう言って、さぁさぁと手を差し出す。
オーウェンはクスッと笑うと頷いた。
「わかった。ありがとうクロエ。
僕のために怒ってくれるなんて嬉しいよ。
だけど、僕よりも君の方が実は何倍も危険なんだよ。
僕は男だ。力も強いし、例え拐われたとしても未だ何とかなる。
……だが、黒髪を持つ女の子の君はそうはいかない。
言いにくいが、君は母体として狙われる運命にあるんだよ。
昔母さんが同じ理由で狙われて、困り果てたジェラルドお祖父様が父さん達に保護を求めたんだ。
僕の父さんと母さんは、母さんの命とその身を守るために婚姻したんだ」
オーウェンの言葉にクロエは息を呑んだ。
なるべく早く更新します。