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やりたい事をやる為に  作者: 千月 景葉
第一章 黒き森
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1-17 勧誘

お読みくださりありがとうございます。


お兄ちゃんが賢すぎます。


主人公トホホです。

 晩餐と言っても堅苦しいものではない。


 ライリーやミラベルも同席するし、クロエはラックに入って共に居る。


 本日“大活躍”だったコリンだけは疲れてしまって夢の中なので、寝室だ。


 コレットも同席しても良さそうなものだが、そこは元側仕え見習いなので、自身の矜持が許さないのであろう。


 主への給仕は元側仕え見習いとして、真摯に行うのがコレットの矜恃。


 自身が食べながらなど、許せないのである。


 気合いが入るのは毎回の事であるが、今回の訪問は尚更だ。


 会話には勿論給仕に支障を来さない限り入るつもりだが、先ずは主に美味しく料理を食べていただくのが第一なので、ガルシアやライリー、ミラベルにその辺りは任せる考えだ。


 家庭的だけど、決して失礼な事がないようにもてなすつもりである。




 コレットの采配のもと、晩餐は始まった。


 先ずは軽い前菜が出てきて、食前酒が振る舞われ、乾杯をした。


 晩餐は終始和やかな雰囲気で、コレットの素朴ではあるが心尽くしの料理の数々に皆美味しそうに舌鼓を打った。


 特にメインはガルシアが仕留めた鳥の一種であるグーアの丸焼きで、コレットが森で取れた果実と蜜で作った甘いソースをかけて食するのだが、女性陣はおろか男性陣にも好評であった。


 晩餐の最後に供されたデザートは、花蜜と果実をかけたガレットだった。


 お茶と共に皆でデザートを楽しんでいた際に、ジェラルドが突然ライリーに尋ねた。


「のうライリー。其方、騎士になる気はないか?」


「え?ジェラルド様、僕が騎士に、ですか?」


 ライリーは父のガルシアが騎士であったこと、又ジェラルドも騎士であったことを知っている。


 だが自分はこの地で父と共に働いて、いずれは父の後を引き継いで管理人兼守人になるつもりだった。


 この地が好きだし、家族を守るのは長子たる自身の役目だと考えていたからだ。


 だから他の仕事に就くなど考えたことは無いし、騎士についても同様だ。


 未だ妹弟が小さいし、両親を支えていかなければと云う気持ちが強い。


 そんな事情もあるのに、自分がこの地を離れるなんて有り得ない。


 ライリーはジェラルドの目を真っ直ぐ見つめて答えた。


「何故僕を騎士にと思われたのですか、ジェラルド様。

僕は将来父の仕事を継ぎたいので、騎士になりたいとは考えていないのですが」


 ライリーのしっかりとした返答に、ジェラルドはウムと頷く。


「父の仕事をしたいと其方は言うが、この地しか知らずして管理し守ることは出来ぬぞ。

他の土地がどの様であるのか、又どの様な脅威が外にはあるのか、他の土地の人々はどんな考えを持っているのか、1度は外の世界を自分で知る必要がある。分かるかの?」


 ライリーはジェラルドの顔を目をそらさずに見つめながら小さく頷く。


「況してやこの地は其方等以外、子供はいない。

同世代の者と交流も持たなければ見聞も狭くなる。

凝り固まった視野では、万が一敵方に己の守りを突破されても、守りのどこが穴であったのか等は判るまい。

守る者は常に視野を広く持ち、考えは柔軟であらねばならないのじゃ。

その為にも其方さえ良ければ州都の我が邸宅で基本的な勉強をした後、騎士見習いを目指してはどうかの」


 ライリーが視線を外さないまま、ジェラルドに話す。


「外の世界を知らねばならないというのは分かります。他の子供とも付き合うことが大事なことも。

ですが、僕に騎士になれというのは何故なのですか?騎士にならなくとも、外の世界を知ることは出来ると思います。見聞を広げる事も出来ます。

僕はこの地を永く離れるのは嫌です。騎士になれば、恐らく簡単にはこの地に戻れないでしょう。

こんな考えの僕に騎士が出来るとは思えないのですが」


 ジェラルドはライリーの話を黙って聞いていた。


 ライリーは自身の考えをはっきり述べた後、ジェラルドに深く頭を下げて詫びた。


「子供の僕が偉そうにわかった風な話をして申し訳ありません。ジェラルド様」


 ジェラルドはライリーを嬉しそうに見る。


「其方は誠に7歳とは思えんな。然程(さほど)厳しく教育された訳でも無いであろうに、のうガルシア、コレットよ。

ワシは子供に対して話をするにも、噛み砕いて解り易くしたりはせん。今ワシがした話も、本来7歳の子供には理解出来るものではあるまい。言い回しも堅苦しいであろうからな。

だが其方は全く問題なく理解したばかりか、ワシに怖じ気づく事無く自身の考えを理路整然と話すことすらやってのける。

ワシは元騎士で団長を務めた事もある。それ故この国を守り、延いては我が領地を守る為、これはと見込んだ者をその守りの要となる騎士にしたいと常に考えて行動しておる。

ライリー、其方は非常に見所がある。是非とも我が手元に置き、ガルシアのように鍛え、学ばせたいのだ」


 ジェラルドがライリーを諭す。


「それにな、ライリーよ。今すぐではないのじゃ。

団の騎士見習いは12歳からだ。その前に9才から我が邸宅に住まい、そこから貴族の子も通う学舎に通い、基本的な学問を納め、騎士を目指してみないか。費用はワシが持つ。

どうかの。考えてみてはくれぬか」


 ジェラルドの話を聞き、ライリーは黙した。


 暫く目を伏せ、静かに自分でその提案を呑むか否か深く思考している。


 ガルシアとコレットは冷静な目でライリーを見ていた。


 実は二人ともジェラルドからは、ライリーを騎士にしてはどうかと何度も薦められていたのだ。


 せめて州都の彼の邸宅で学ばせる事だけはさせてみたいと、それはそれは熱心に話をされている。


 基本、二人はライリーを縛り付けるつもりは無い。


 ライリーの考えはいつもしっかりしている。


 助言が欲しいときは、ライリー自身がはっきりと聞いてくる。


 変に気を回さなくとも、ライリーは1歩必ず先の手を打ってくる。


 だから二人は彼のやりたいようにさせようと端から決めていたのだ。


 やがてライリーは顔をあげ、ジェラルドを真っ直ぐ見つめて答えた。


「暫く考える時間をください。ジェラルド様の仰りたいことは未熟ながら理解出来たつもりです。

ですが直ぐには答えを出せません。ご無礼をしているのは分かっていますが、何を優先して将来どうすべきなのか、もう一度考えを整理したいのです。

もし許されるなら、いつまでに御返事すれば良いのかお聞かせください」


 ジェラルドはニヤリと笑う。


「いつでも構わぬ。其方の将来に関わる話じゃ。考えが定まれば申せ。色好い返事を待っておるぞ。」


「ありがとうございます」





 クロエは目を丸くして、今の二人の会話を聞いていた。


(マジか?今のが7歳児の会話か?何なの、この世界は!

そんなに早く将来を決めなきゃならないの?つか、ライリーお兄ちゃん、半端無い。どこまで賢いんだよ!

ホントは中に立派な大人が入ってるんじゃないでしょうね?

まあアタシみたいな例もあるからね。但しアタシの場合、中身残念過ぎるけど)


 彼女は余計な自嘲をしながら、頭の中で突っ込み続ける。


(んで、父母(ちちはは)よ。ナゼに貴方達は全く口を挟まないのですか?7歳ですよ?7歳!まだ子供じゃないですか~!

まさか、そこまでライリーお兄ちゃんを信頼しきっていらっしゃると云うことなんですか。うわあ~カルチャーショックがスゴすぎて、どう頭を整理すれば良いのか分からない!)


 ラックの中でジタバタするクロエは、はたと気付く。


(待てよ?ライリーお兄ちゃんは別格だとしても、ミラベルお姉ちゃんも優秀だよね。大王様はああだけど、物は考え様で悪知恵が働くどこぞのカ○オ君タイプだよ。頭の回転は早いよね。

ヤバくない?アタシ完全に負けてるよ。この世界の子供って兄姉3人しか未だ会ったことはないけど、全員賢いって。

アタシこの世界でホントにやっていけるんだろか?少なくともシェルビー家では、アタシが一番頭の出来悪いの確定したな、こりゃ。

何か前の世界で大人だったっての、ココじゃ全く強みになんない気がする~うぅ)


 小さな頭を小さな腕で抱えジタバタしていると、視線を感じた。


「うおおっ?!」


 目の前にライリーの心配そうな顔があった。


(イカン!ビックリしてオッサンみたいな声出しちゃった!)


 クロエはアワアワと狼狽える。


「クロエ?どうしたんだい?もしかして、具合が悪いのかな。おいで、お熱が無いか見てあげる」


 ライリーがそう言いながら、間抜けな姿を見られてばつの悪そうな顔をしたクロエを抱き上げた。


 心配のあまり難しい顔をして、おでこをくっ付けクロエの熱を計るライリーに、焦った彼女は取りあえずニパァ~と笑いかける。


(ごめん、お兄ちゃん!病気でも何でもないんだよ。

馬鹿な事つらつら考えた挙げ句、自分が兄妹の中で一番馬鹿だと気付いて狼狽えてしまっただけなんだし。

あぁ恥ずかしいったらないわ、もう)


「熱は無いようだけど。母さん、クロエも疲れたのかもしれない。僕心配だから、寝室に連れていくよ。

その方が良いでしょ?」


 クロエを抱き上げたまま、ライリーがコレットに聞く。


 コレットが慌ててやって来てクロエを受け取ろうとする。


「ライリーありがとう、クロエは母さんが連れていくわ。貴方はここに居なさいな」


 しかしライリーは首を振り、寝室に向かう。


「母さんこそ座ってて。クロエのオムツなら僕が替えとくから。すみませんが、これで失礼して下がります。ジェラルド様、アナスタシア様」


 そう言って頭を下げてから、食堂を出ていくライリー。


 ミラベルが心配して

「アタシも手伝ってきます!すみません、下がります」

 と兄を追って食堂を出ていった。




 寝室に向かう途中にライリーが小声で

「ごめんクロエ。ちょっと頭を冷やしたかったから、君をダシに使っちゃった。許してね」

 と、クロエに舌を出してイタズラっぽく笑ったのであった。


次話は明日か明後日投稿します。

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