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やりたい事をやる為に  作者: 千月 景葉
第一章 黒き森
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173. マティアスとコリン

お読みくださりありがとうございます。

少年達のところに青年がやって来ます。

 オーウェンとコリンが木工に集中していると、部屋の扉がノックされた。


 コリンが扉を開けると、マティアスがそこに立っていた。


「突然すまない。今忙しいかな?君一人?」


「いえ、オーウェン兄ちゃんも居ますよ。オーウェン兄ちゃんに御用ですか?」


「うん……いや、君ともちょっと話が出来たらなって……。駄目かな?」


「いいえ、僕なら大丈夫です。オーウェン兄ちゃんにも聞いてみますね……って、うおっ!

 兄ちゃん後ろに居たんだ、驚いた!」


 コリンが真後ろに立ったオーウェンに気付いて飛び上がった。


「ハハ、コリン悪い。

 ……別に構わない。とにかく部屋に入ってよ。適当にベッドでもどこでも座って。

 コリン、木工道具を片付けとこうか。無くすと大変だしな。

 ライリーに叱られちまうし」


「うん、わかった。

 でも今日は何か妙な日だな~。何で皆僕と話したがるんだろう?

 あ、マティアス様、ここに座ってください。僕のベッドでごめんなさい」


 コリンが自分のベッドを指差してマティアスを手招きした。


「ああ、すまないな。ありがとうコリン。

 ホントに賢い子だな、君。君の兄貴も凄いけど、君も負けてない。

 ね、何であんな桁の計算が出来るの?嫌にならない?」


「え?なる訳ありませんよ。そりゃ使うのが指だけとか、他の計算器とかだったら嫌になってたかもしれません。

 こんなに計算好きになったのはそろばんのお陰ですよ。そろばんは玩具とおんなじだもの、僕にとって。

 計算の答えが間違わずに出せたら、スッゴく気持ち良いんです。だから楽しいんですよ。

 あの珠のパチパチって音も何だか落ち着くし。

 この頃は数字を見たら指が自然に珠を弾くんです。……ほら、こんな風にね。もう癖になっちゃって!

 おまけに難しい問題は未だ未だ有るんだから、そろばんって幾ら練習してもし足りないんです。

 頑張れば頑張るほど、自分の頭も手も思い通りに動くようになってきたし、数字も早く読み取れるようになってきたんですよ。

 だから勉強は楽しいです!」


 コリンはそう言い切ると、ニッコリ笑った。


 そんなコリンを、オーウェンが頼もしそうに見守る。


 マティアスは少なからず驚いていたが、真面目な顔でコリンに又問い掛ける。


「あの手遊びも君が考えたんだろう?どうしてあんな遊びを思い付けたの?

 ちょっと信じられないくらいあの遊びは完成度が高いし、簡単な癖に凄く呑めり込む要素もある。

 君が考えたのなら、まさしく天才だよ。

 俺は君より色んな物を見てきたし、勉強もそれなりに出来る方だと思う。

 だけど俺はイタズラは色々思い付いたけど、あんな遊びは考え付かないし。先ず考えようとも思わなかった。

 ね、何が切っ掛けであんな遊びを考えたの?

 それが凄く気になるんだ。良ければ教えてくれないかな?」


 コリンとオーウェンは内心慌てた。


 クロエの事は目下口止めされているからだ。勝手な判断で暴露する事は出来ない。


 コリンは笑顔のまま、オーウェンをちらりと見る。


 オーウェンはマティアスに見えないように手で合図を送る。


(マティアスには悪いけど秘密だって言って……わかるかな、コリン?)


 コリンはオーウェンの否定的な仕草を見てとると、スッ……と真面目な表情に変わった。


 そしてマティアスを見つめながら、少し顔を歪め答え始めた。


「えっと……ごめんなさいマティアス様。

 何で思い付いたのか、実はよく覚えてないんです、僕。

 あの後色々あって……考えた遊びは忘れなかったけど、考え付くまでの事は頭からすっかり抜けちゃってるんです。

 あの遊びを思い付いた後、暫くしてクロエが倒れて、僕はあの子に会えなくなった。……折角あの子と楽しく遊ぶ為に考えたのに、出来なくなってしまったんです。

 だからあのクロエが倒れた魔力暴走の時期の出来事は、妹が死ぬかもって気持ちが凄く苦しかったからホントに思い出したくなくて。

 お話出来なくてごめんなさい……」


 声を次第に小さくしながら言うと、最後に下を向いたコリン。


 マティアスは慌ててコリンに謝る。


「す、すまない!そうなのか、それは俺が悪いことを聞いた!

 コリン、今の質問は忘れてくれ。そんな思いをしたのなら、そりゃ思い出したくないよな。

 俺の気配りが足らなかった、本当にごめん!」


 マティアスが必死で謝る横で、オーウェンはコリンの機転に舌を巻く。


(……コリンが怖い。凄すぎる、マティアスが見事に誤魔化された!

 ライリーも巧いが、あれを見て育ったコリンはもっと上手(うわて)だ。

 人との接触も交流も無いに等しい森で生まれ育った筈なのに、何故こんなに言葉が巧みなんだ?


 ……やはりクロエか。あの子に心酔してるからな、コリンは。その影響か?

 幼くても女性は口は立つ。ミラベルも舌鋒鋭いし。


 だが機転を利かせられるのは又別の話だ。コリンは恐ろしいほどに空気を読める子だ。


 クロエの影響だとすると、当然クロエも人あしらいが巧いと云う前提になるけど、どうだろう?

 ……そうだ先生とお祖父様!あの2人をあの子は巧くあしらっていた。


 間違いない、やはりクロエの影響だ。


 しかし、クロエは何故赤子なのにそんなに人との交わりに長けている?

 赤子……だが中身は大人か……。外見とは違う中身……大人の心……。


 まさか……本当にあの子の心は大人なのか?


 落ち着け、クロエの行動を落ち着いて思い出すんだ。

 クロエは色んな事を思い付く。物しかり、遊びしかり。

 それも今までに無いものばかりを、だ。


 だが、冷静に考えたら本来有り得ない話だ。


 一つ二つの発明なら、奇跡と考えることを良しとしても。

 だが、それ以上となると……奇跡なんかじゃない、あの子が端から持っている知識だと考えるのが妥当だ。

 そんなに次から次へと完成度の高い物を発明出来るなんて、どう考えてもおかしい。まして2歳なんだ。


 それも物知りの先生や思慮深い大人である叔父さん叔母さん達でさえ知らない絵の技術を見せ、見たことのない新しい道具達を産み出した。

 ……今まで聞いたこと無い遊びも思い付いて教えてくれた。まるであの子だけこの世界とは違う進んだ世界を知ってるみたいに……。


 待て!……違う、世界……だと?!


 馬鹿な……クロエの心は……魂は違う世界の者、なの……か?

 し、信じられないが、だが……違和感が無くなるんだ、そう考えると。

 赤子でも、魂が経験豊かな大人で、それも違う世界を知っていると馬鹿な仮定をしたら……すべて説明がつく!


 だとすると……既にその事実をライリーは見抜いている?リュシアンもか?

 だから人払いして、事情を知る者だけで小屋で話を……?


 ならば先生は間違いなく知っている。叔父さん叔母さんも既に知っていると考えた方がいい。


 そうかっ!叔母さんの言葉は、この事を自分で突き止めろってことだったんだ!


 実の妹の秘密を兄の僕が知らなくてはあの子を守るどころではない。

 だが事実を教えるだけでは、到底僕は受け入れられないと思われたんだ。

 無理もない、あんな事で八つ当たりするようなガキなんだから、そう思われて当たり前だ。


 後この事をコリンに知られてはならないのは、妹が自分より大人なんだと知ったら彼が傷付くかもしれないからか。

 ……だから配慮してくれと僕に頼んでおられたんだ、叔母さんは。


 だけど、多分コリンはほぼ見抜いている。しかし根が素直で(クロエ)が大切な彼は、何度も生じた筈の疑問に直ぐ様蓋をしながら、あの子を盲目的に信じぬく事を無意識に選んだんだ。

 自分(コリン)の反応がクロエを傷付けるかもしれないと、無意識に計算したのかもしれない。


 ……しかし凄いな、この(コリン)は。ライリーもだが。


 さて、この推論に到達した僕が次に取るべき行動は何だ?

 いや、それより一番重要な事は……僕はクロエを受け入れられるか否か、だ。


 うん、気持ち的には全く問題ない!クロエはクロエなんだから、可愛くて堪らない妹だって気持ちに変化なんて起きないや。

 寧ろこれが正解ならば、クロエに色んな話が聞きたいと思うし。

 あの子の存在は本当に奇跡なんだ……。そんなあの子が妹なのが、信じられないくらい嬉しい。


 こうしちゃいられない、叔母さんに先ず会うんだ。話をしないと!


 だが、細心の注意を払わなければな。僕がコリンに迷惑をかける訳にはいかないし。

 この推論に辿り着けたのは、間違いなくコリンのお陰なんだもの!)


 オーウェンが一人考え込んでいるのを見て、マティアスが眉を潜める。


「おい、どうかしたか?顔が変だぞ……青くなったり赤くなったり、体の具合が悪いのか?」


 コリンもオーウェンを心配そうに見ていた。


「ん?あ、いや……大丈夫だ。何でもない。

 コリン、マティアス、すまないが少し席を外すよ。

 コレット叔母さんに話が有るんだ。直ぐに戻るから。

 構わないかな、コリン?……マティアスも」


 オーウェンは2人を見ながら腰を上げる。


 コリンは頷きながらウンと返事をした。


 マティアスは首をかしげながら

「俺も構わないが。コレットさんに話って、やっぱりお前えらくここの夫婦には懐いてんだな。

 女性に自分から話をしに行くなんて、珍しい」

 と余計な一言を添える。


「何言ってんの?アンタやっぱり馬鹿なのか?

 まぁ確かに叔父さん叔母さんのことは、両親並みに信頼してるけど。

 僕だって用事があれば、女性だろうが男性だろうが話をしに行くくらいするよ。ホントに馬鹿は何言い出すやら。

 じゃあ行ってくる」


 マティアスを呆れた目でチラリと見てから、部屋を出ていった。


 コリンはマティアスに向き直り

「これで僕だけになりましたけど、未だお話します?

 僕は暇だから大丈夫ですが、マティアス様は退屈じゃないですか?」

 と首をかしげながら尋ねた。


 マティアスはコリンを見て頷く。


「うん、君ともっと話がしたい。凄い子だからね、君って。

 ねぇ、君の目で見たまんまで良いから、森や守るべき地の話をしてくれないかな?

 よく行くんでしょ?君も。俺は1度も見たことが無いし、どんな風景なのかすら教えて貰ってないんだ。

 君は小さいけど頭が良いし、素直な君がいつも感じてる通りに話して貰いたいんだ。良いかな?」


「はぁ……変わってますねぇ、マティアス様も。ま、僕で良ければ。

 森と守るべき地の話ですか?

 確かに父の手伝いでよく行きますよ。遠くに山々が見えて、凄く綺麗な小川が流れてる素敵な場所です。

 う~ん何を話そうかな?

 あ、魔晶石の話をしましょうか!

 あれって畑で見つけて、良い物はジェラルド様にお届けするんです。知ってました?

 あのね………」


 コリンは身ぶり手振りを交えながらマティアスに思い付くまま話をする。


 マティアスはコリンの話に次第に引き込まれていく。




 オーウェンが部屋からでた後、青年と男の子はすっかり仲良くなり、色んな話をして盛り上がったのだった。


なるべく早く更新します。

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