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やりたい事をやる為に  作者: 千月 景葉
第一章 黒き森
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172. コリンの目

お読みくださりありがとうございます。

コリンの観察力に驚かされる回です。彼が実は一番物事を見る目があるのかもしれません。

 オーウェンが部屋に戻ると、コリンが床に座って黙々と木工に励んでいた。


「コリン、木工進んだ?」


 オーウェンが何気無く問う。


「んー、彫りってやっぱり難しいよね。簡単な模様を教えてもらってやってんだけど、ほら、僕は未だ手が小さいし力もないからさ。

 ゆっくり削るしか無くて……。

 これじゃクロエにいつ渡せるか解んないやー」


 オーウェンに目もくれず、ひたすら父や兄の教えを守って木から目を離さず、慎重に彫り刀を動かすコリン。


「そう……。あのさ、コリンに少し聞きたい事が有るんだけど、良いかな?

 木工終わってからで良いから」


 オーウェンはベッドに腰掛けながら、コリンに頼む。


 シュッ……と云う音がして、コリンが手を止める。


「んーーっ!今でも良いよ?

 ちょっと手が疲れたし、少し休憩するから。

 ……あれ?何かオーウェン兄ちゃん、良い事あったの?

 何かさっきまでと顔付きが違うよ」


 コリンが手を止めて大きく伸びをした後、床から立ち上がってオーウェンを見て首をかしげた。


 オーウェンが頬に手をやり

「そ、そうか?自分では解らないけどな……朝はどんな顔してた?僕」

 とコリンに戸惑いがちに聞く。


「朝は目が怖かった。特にライリー兄ちゃんを見る目がね、何か怒ってる感じで。

 まぁライリー兄ちゃんもさ、結構言い過ぎるとこあるから、オーウェン兄ちゃんと喧嘩でもしたのかな~って思ってた。

 それくらい怖かったよ、うん」


 腕組みをしたコリンは、ウンウンと大きく頷きながら答える。


「……そうか。喧嘩なんかしてないんだけどね。

 僕はそんなに余裕がなかったのか……。叔母さんの言う通りだ。

 第三者の目線を知ることは大事だな、ホント」


 自嘲するように呟くオーウェン。


 ベッドに座ったオーウェンの横に寝転んだコリンは、又伸びを1つすると彼に向かって話を促す。


「アー疲れたぁ~ふぅ!

 で?聞きたいことってなぁに?

 僕で解ることなの?」


 コリンはムクッと起き上がるとオーウェンを見て、胡座を組む。


「コリンの家族皆……いや、僕やエレオ、先生やあの双子も含めてだな。

 コリンが自分以外の人をどんな風に見て感じてるかを聞きたいんだ。

 こんな言い方じゃ訳が分からないかな?

 例えばコリンから見て、僕がどんな奴に見えてるか知りたいんだ。

 あ、別にどんな事を言われても大丈夫だよ。

 実は自分の観察力に自信無くしちゃってね。

 賢くて考え方が柔らかいコリンの見方をちょっと参考にしたいんだ。

 どうやら僕は考えが固いみたいだから……。

 構わないかな?」


 頬を掻きつつ、恥ずかしそうにコリンに頼むオーウェン。


 コリンは首をかしげる。


「へ?僕が皆をどう見てるか知りたいの?何でまた……。

 兄ちゃんって変なこと聞くね~。大体僕は未だ3歳だよ。

 そんなにイチイチ細かく皆の事見てないって。

 まぁ悪口なら幾らでも言えるけどね。

 そんなんで良かったら言うけどさ、参考になんてなるの?」


「うん、どんな表現でも構わないよ。悪口なんてちょっと面白そうだし。

 コリンの目の付け所を知りたい。

 僕とは違う見方してそうだから、凄く参考になる。

 悪口でも大丈夫だし、好きなところとかそんなんでも良いよ?

 ほら、クロエとか叔母さんについてだと悪口なんて無いんじゃない?

 コリン、あの2人には凄く優しいし」


 オーウェンがコリンに誘導を掛ける。


 コリンはパァッと顔を輝かせて頷く。


「僕、クロエの事なら幾らでも褒められるよ!母さんは怒ると怖いから、時々本で読む怖い魔女に見える~。あ、今の母さんに言っちゃダメだよ!

 ……悪口言ってホントに兄ちゃん皆にバラしたりしない?」


「言わないさ、勿論!

 僕が無理に聞いてるんだしね。

 でも気になるなら、クロエだけでも良いかな。

 僕は君の見方を知りたいだけだし、コリンもクロエの事なら話しやすいんでしょ?

 変な負担は掛けたくないし。

 それなら良い?」


 コリンは大きく頷いて笑う。


「うん!それなら大丈夫!

 んー、どう話そうかな。話したいことが有り過ぎるな~。


 クロエってさ僕の妹なんだけど、妹って言うより実は姉って感じなんだよね。僕にとって。

 だって色んな事を教えてくれるし、兄ちゃん姉ちゃんより絶対クロエのが賢いんだもん!

 クロエは必死に隠そうとしてるけど、バレバレ。あの子の賢さは僕達子供とは全然違うから。


 完全に父さんや母さんみたいな大人の賢さだと思うんだ、僕。


 あ、勿論めちゃくちゃ可愛いし、もう何でも面倒見てあげたくてしょうがないんだよ?


 だけどさ、オーウェン兄ちゃん絶対に内緒にしてよね?

 あのね僕見ちゃったんだ……クロエが大人になった姿。


 僕が魔力暴走起こしたとき、クロエが助けてくれたのは兄ちゃん聞いてる?

 クロエが倒れた僕を必死に励ましてくれたんだけど、その時にね……見えたんだよ。


 クロエに重なるように、優しそうでスッゴく綺麗で、見たことない黄色の可愛い服を着た黒髪の女の人を。


 アナスタシア様も綺麗だけど、違うの。もう少し若い女の人で、クロエと顔が大分違うのに、僕はあの人がクロエの大人になった姿だって感じたんだ。

 僕は直ぐに気を失ったみたいで、その後は覚えてないんだ。


 次に気が付いたら熱が引いてて、クロエが笑ってた。

 もうあの大人のクロエの姿は見えなかったの。


 その後クロエは母さんを呼んでくれて……家の外で倒れるように眠ってたらしいの。あんな小さい体で僕を必死に助けてくれたから、疲れきってしまってたんだ。


 クロエは僕にとって可愛い妹だけど、命の恩人でもあるの。


 だから僕はクロエの言うことは全て信じる。だってクロエは僕を助けるために命を懸けてくれた。

 僕はクロエに優しくない兄だったのに……。あんな優しい子居ないよ。


 ああ見えてミラベル姉ちゃんも実はとっても優しいんだよ?でも違うんだ。


 クロエの優しさは何か違うんだよ……。母さんや姉ちゃん、父さんや兄ちゃんとは全然違うんだ。

 アナスタシア様もお優しかったけれど、それとも違うし。


 クロエの優しさはね、ホントに優しく僕に入ってくるの。何か言葉もそうだし、あのときの手もそうだった……僕の体は楽になるし、気持ちも優しくなっていくんだ。


 だけど、クロエはいつも全力で助けてくれるから、自分の体を痛めてしまうんだ。


 クロエは妹で僕が守らなきゃいけないのに……僕って情けないよね。


 だから勉強もお手伝いも鍛練も全て頑張るの。誰よりも強く賢くなって、これからは僕がクロエを守るんだ。

 誰にもこの役目は譲らないよ、クロエは僕の大切な妹で僕の小さな女神様なんだもの!


 ……オーウェン兄ちゃん、目が飛び出て口が空いたまんまだよ。まさか今の話聞いて、僕をバカだと思ったとか?」


 コリンは話を止めると、頬を少し赤らめ口を尖らせながらオーウェンを睨む。


 オーウェンはハッとし、慌てて口を閉じて首を激しく横に振る。


「ち、違う違う!バカだなんて思うものか!

 ……ただ驚いただけだよ、君の目の鋭さに。3歳とかそんなの関係無いんだな……ホント、自分が嫌になる。


 僕は一体今まで何を見ていたんだろう。


 コリン、君はスゴいよ。僕よりもずっと人をしっかり見ている。

 クロエをそこまで理解して、そして心から受け入れている。君は洞察力もあって、懐まで深いんだ。

 ライリーの兄弟だけあるな、心が強い。僕なんかよりずっと。


 ……うん、凄く参考になった。ありがとうコリン。

 君の話を聞いて、僕に足りないものが少しわかった気がする。


 僕は目の前の事柄をそのまま受け入れる事が中々出来ない。


 有り得ないとか、そんな筈がないと自分が理解できない事柄は先ず拒絶する。

 最初に心に壁を作ってしまうんだな、自分の価値観を守るために。


 つまりは臆病者なんだよ僕は……コリン、君と違ってね。


 僕は先ず、先入観やこうあるべきと思い込んでる自分の凝り固まった価値観を壊さなければならないようだ。


 ……それが一番難しいんだけどさ。


 目の前の出来事をそのまま受け入れて、素直に判断する。

 違和感を感じるには、それが出来ないと話にならない。


 基本の根底はこの世界での常識。


 僕が培ってきた僕個人の好き嫌いが反映された常識ではなく、あくまでも周囲の人間が平均的に持っている常識。それを持たなければ。

 それに照らし合わせて違和感を感じとる、か。


 思ってた以上に難問だな、参った。


 でも何かスッキリしたな!


 僕は優秀じゃない、ごく平凡な子供なんだって初めて素直に思えたよ。

 コリン、君のお陰だ。ありがとう。

 協力してくれて感謝するよ」


 オーウェンはそう話すと、ニカッと笑った。


 今まで見せていた大人びた笑顔ではなく、子供らしい明るい笑顔。


 コリンは目を丸くしてオーウェンを見つめる。


「何?コリン、驚いてるみたいだね。どうかした?」


「あ、うん……兄ちゃんのホントの笑顔って初めて見たから。

 いつもカッコつけた笑顔しか見たことなかったから」


「ええっ!そうなの?!僕、そんなにカッコつけてた?!

 なんでそう思ったの?」


「ライリー兄ちゃんがそうだったから。昔の優しいだけのライリー兄ちゃんの時だけどね。わかるんだ僕、そういうの。


 今は違うけどさ。今のライリー兄ちゃんの笑顔って悪い笑顔なんだよ~。でも本当の笑顔だってわかる。


 ミラベル姉ちゃんのはずっとホンモノだけどね。ミラベル姉ちゃんは嘘が嫌いだからなぁ。

 格好いいけど、僕が怒られやすくなるからちょっと困るんだ。


 クロエはいつも周りを包むような暖かい笑顔だよ。

 僕、クロエの笑顔が一番好き。


 だけどね、たまに……ホントにごくたまにクロエは遠くを見てるときがあって。

 その時は僕、クロエに声を掛けられないんだ。

 何だか声を掛けたらクロエが消えちゃう気がして。怖いんだ、とっても。


 ……オーウェン兄ちゃん、お願いがあるの。クロエを一緒に守ってくれない?


 ライリー兄ちゃんもミラベル姉ちゃんもクロエを守ってくれる。

 だけど、クロエは僕達だけじゃたぶん守れない。


 遠くを見るクロエは、僕だけじゃ引き留められない位……違う人に見える。

 何なのかは分からないけど、あのクロエを見ちゃうととっても不安になるんだ。


 僕はクロエと離れたくなんかない。

 だから……クロエを一緒に見ていて欲しいんだ。


 オーウェン兄ちゃんとエレオ姉ちゃんは信頼出来る人だから、お願いだよ。

 心配なんだ……本当に」


 コリンはそう言うと唇を噛んで下を向く。


 オーウェンはそんなコリンに驚きながらも、頷く。


「君が言うんだ。クロエを見守る事は必要なんだね、きっと。

 頼まれるまでもないよ。僕もエレオもクロエを守りたい。

 僕もあの子を新たな気持ちで見守ってみるよ。

 安心してコリン。君の願いは僕の願いでもあるから」


 オーウェンがコリンの肩を掴んで頷く。


 コリンは嬉しそうに笑う。


「ありがとう。僕の話を聞いてくれて。オーウェン兄ちゃんに話せて僕、凄く嬉しい。


 実はね、今までもこの話をしたくて堪らなかったんだよ、僕。


 だけど僕は小さいから、皆真剣に聞いてくれるか解らなくて。


 なのにオーウェン兄ちゃんが僕に話をしてくれって頼んでくれるなんて、運が良いよね僕。

 何か利用したみたいでごめんなさい」


 コリンがばつ悪そうに謝る。


 オーウェンは頭を激しく横に振りながら、彼もコリンに謝る。


「コリン、君が謝る必要はない!

 僕だって君を利用したようなものだ。僕こそ運が良い、ありがとう。


 しかし、シェルビー家の子供は皆なんでこんなに出来が良いんだろうな。

 これじゃ自分の価値観に疑問を持つのは当たり前だ。


 うん、色んな人から話を聞こう。


 コリンに話してもらって良かった!

 さて、僕も木工しようかな。

 木工したら何か心が落ち着きそうだ。

 コリンも再開する?」


「うん、僕も何か兄ちゃんと木工したくなった!

 じゃ、休憩終わり~。木工しよっ!」


 オーウェンとコリンは互いを見てニヤリと笑い、ベッドから離れて木工道具に近付いていった。


(……何でクロエだからって深く考えなかったんだろう。


 そう、分かりきった事だったんだ。


 クロエは大人なんだ、行動も考えも。有り得ないが現実の話だ。


 そしてそれは普通、2歳の幼女には起こり得ない筈の話。


 これが“違和感”なんだ……。


 この違和感を無くすには?僕は何を見落としている?


 ……話を聞こう、他の人からも。

 僕のこの違和感を解消するための鍵を探すんだ)




 オーウェンはコリンの隣で彫り刀を動かしながら、考えを巡らすのだった。

なるべく早く更新します。

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