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やりたい事をやる為に  作者: 千月 景葉
第一章 黒き森
161/292

165. 選択

お読みくださりありがとうございます。

秘密を暴露するか否か、主人公達が悩みます。

ちょっとパニックにもなります。

 小屋に入ると直ぐ様ディルクは結界を張った。


 クロエは不安そうにその様子を見る。


 ライリーも表情を強張らせている。


 ディルクは結界を張り終えると、漸く兄妹の座る位置までやって来た。


 座れとの指示以外は終止無言、それだけに2人の不安は膨らむ。


 小さな小屋のリビングのソファーに座る2人の前に椅子を持ってきて、ディルクはドカッと腰を下ろした。


 しかし座った後もディルクは腕組みをして目を瞑ったまま、中々口を開こうとしない。


 兄妹は顔を見合わせて頷きあった後、兄がきっぱりとした口調で尋ねた。


「先生、緊急の案件とは何なんですか?」


 ディルクはその問いに答える前に、クロエを見て問い掛けた。


「……今日、リュシアンと直接会話したか?」


 クロエはその問いに戸惑いながらもコクリと頷く。


「朝の挨拶と、後は書斎の前でも少し話しました」


「書斎の前……。どのくらいの時間話した?」


「ほんの少しです。書斎から出たらリュシアン様と鉢合わせしちゃって。アタシビックリして、殆どまともに喋れなかったんです。

 母さんがその時卵を小屋に取りに行ってて、家にアタシ一人だと危ないから僕と一緒に居ようかって言って下さったんですよ。

 アタシは母さん直ぐ来る?ってあの方に尋ねて。

 そしたら直ぐ母さんが戻ってきて、リュシアン様は良かったねってアタシに仰って、母さんに訳を話した後お部屋に戻られたんです。

 だからアタシはホントに殆ど喋っていないんですけど……あの、何か?」


 クロエは困惑した表情で怖々聞く。


 ディルクはクロエの話を聞いた後、又問い掛けた。


「……書斎で図鑑を見とったのか?その後、軽い運動をしたか?」


「えっ?何で知って……。は、はい。み、見てました、植物図鑑。

 それから体がなまってるなと思ったので、ラジオ体操を少し……。

 え?あ、ま、まさか?!」


 クロエはハッとする。


「そうか。……図鑑を見ながら前の世界の歌を歌ったのだな?」


「……は、はい、すみません……」


 淡々と聞き出すディルクに、縮こまりながら小さな声で返答するクロエ。


 2人のやり取りでおおよその状況を掴んだライリーは、手を顔に当てて首を小さく横に振る。


「やはりあの時、無理にでも戻れば良かった。……僕の失態だ」


「いや、どうやら儂は見立て違いをしてしもうたようじゃ。

 昔の狼藉に囚われて、奴等を警戒せよと皆に言うたが、それがそもそもの誤りよ。

 今後の事を考えれば、奴等を懐柔するべく動かねばならんかったのじゃ。

 今でこそジェラルドやライモンドがこの地を統治しておるが、近い将来奴等に代替わりするのは決定事項だ。

 性格こそああじゃが、能力・素養に関しては文句の付けようが無い奴等じゃしな。

 であるのに、そんな奴等を敵視する様な振る舞いは愚策でしかない。

 この地の未来の統治者達に喧嘩を売るに等しい行為じゃ。

 今を見極めねばならぬのに、凝り固まった価値観で愚かな手を打ってしまった。……全く儂も感覚が鈍ってきておるわい。

 本気で隠居を考えねばのう」


 そう言うと溜め息を吐くディルク。


 師の思いもよらぬ言葉を聞いて、クロエとライリーは又顔を見合わせた。


「え、先生?アタシの事、お怒りではないのですか?」


「……怒る理由がない。実はリュシアンに釘を刺されてな。

 クロエちゃんを叱らないでくれと。

 自分が盗み見てしまったのだから、彼女は何も悪くない。

 楽しそうに図鑑を見ていたのを覗いてしまって、本当に申し訳無かったとも言っておったぞ。

 ハァ……もう、言葉を濁しておってもしょうがないな。

 ハッキリ言おう。

 クロエ、お主の秘密はリュシアンに完全に見抜かれてしまっておる。

 もう誤魔化しようが無い。

 まさかお主を少し盗み見ただけで、ここまで秘密を暴かれるとは思わなんだ。

 奴の能力を過小評価してしまった儂の誤りよ。

 ライリーの時もそうじゃったが、老いぼれの凝り固まった思考では、若くて柔軟な思考に勝てぬようじゃ。

 心底情けないわい」


 ディルクはがっくりと頭を垂れる。


 クロエとライリーは噛み付くようにディルクに聞く。


「み、見抜かれたって、一体どこまでですか?」


「クロエの知能が高いことを見抜いただけでは無いのですか?!」


 ディルクは言いにくそうに顔をしかめていたが、やがてクロエを見つめながら静かに話した。


「ほぼ全て、だ。クロエ、お主の中に若くて可愛らしい、賢い大人の女性が潜んでいますねと話しておった。

 その上、違う(ことわり)で生きてきた人だと、生まれ変わりだろうとまで言うておったんじゃ。

 あれだけしか情報を得ておらぬのに、ここまで真実に迫ってくるとは思わなんだわ。

 あの子は昔から恐ろしく洞察力に長け、優秀極まりない子供であったが、成長と共に益々能力を高めたようじゃ。

 ……まぁそんなことはどうでも良い。

 問題はリュシアンにどう対応するかなんじゃよ。

 明日朝、あの子の考えに対しての返答をせねばならぬのだ。

 勿論、知らぬ存ぜぬを貫く手もあろう。しかし今後の事を考えれば、それは上手くない手だ。

 軽んじられたとあの子が判断した場合、これから先何か協力を求めたくともリュシアンは背を向けるだろう。

 あの子はある意味純粋な性格だ。故に考え方も簡潔明瞭。

 真摯に向き合えばあの子も向き合ってくれる。

 少しでも邪な気持ちであの子を謀ろうとすると、その悪意を何倍にもして返してくる。それも感情を交えず淡々と。

 元来人に対して余り興味を持たぬ質だしな。

 そんなあの子が自ら動いてこちらの反応を求めてくるのは、寧ろ驚くべき事なのだ。

 さて、どこまでクロエの事を語るべきか……。

 お、おい……クロエ?どうしたっ?!しっかりせんか!」


 ディルクは慌ててクロエに近寄る。


 ライリーがクロエを見ると、彼女はカタカタ震えながら手を握りしめていた。


 顔色を無くし、今にも倒れそうなほど息遣いが荒い。


「クロエ!どうしたんだっ!」


「あ、アタシ……まさかこんなことになるなんて思ってなくて……。

 アタシの事を全て知られた……?

 ど、どうしよう……どうしたら良いの?殆ど知らない人になんて!

 アタシ、皆に迷惑掛けてばかりなのに、そのアタシの油断でこんなことになるなんて!

 大体、アタシの事をよく知らない人達が理解出来る話じゃ無い!

 あぁ……ホントに馬鹿だ、アタシ。脇が甘いって、考え足らずだってあんなに先生やお兄ちゃんに言われてたのに……こんなことにっ!

 アタシ、このままここに居たら、もっとあの人達に追及されるわ……そしたら皆に、家族に嫌な思いをさせてしまう。

 それよりもこの事で、か、家族が秘密を知ったら、皆アタシをどんな目で見るようになるのか……。

 や、やっぱり気味悪いって思うわよね?

 いやだ……そんなの考えたくない!

 そうだ、アタシが居なきゃあの人達だってこれ以上の追及は出来なくなる……!

 よ、よし、森に隠れるんだ……アタシはここに居ちゃ不味いっ!

 大切な家族に嫌われる前に……知られたら終わりなんだからっ!」


 会ったばかりの青年に、自身の秘密を知られたショックでパニックに陥ったクロエは、ブツブツ呟きながらソファーから降りて小屋を出ていこうとする。


 そのショックの強さからか顔を強張らせ、その目には師や兄の姿が全く写っていない。


 正気を失った様子に驚いたディルクとライリーが慌てて彼女を止める。


「イカン!落ち着くんじゃ!馬鹿なことを言うんじゃないっ!」


「クロエ!しっかりしろっ!森に行くなんて許さないぞっ!」


 2人でクロエを抱き止めて、必死に落ち着けと言い聞かせる。


 離してと叫び、2人の制止から暴れて逃れようとする彼女を、ライリーがきつく抱き締めて抑え込む。


「俺が守ってやる!何があっても、今度こそお前を守る!だから落ち着くんだっ!

 又森に消えようなんて考えるな……頼むから!」


 ライリーの説得に、暴れていたクロエが少し動きを緩めた。


 その事に気付いたライリーが更に言い募る。


「それに家族の誰も、こんなことで大事なお前を嫌ったりしないっ!絶対に!

 忘れたのか、俺が前に言ったことを!全力でお前を守るって約束しただろ!思い出せ!

 だから目の前の問題から逃げるんじゃないっ!」


 その言葉を聞いて、漸くライリーの腕の中で大人しくなったクロエ。


「……お兄ちゃん、アタシ……」


「良かった……少し落ち着いたな。

 とにかく座ろう?大丈夫だ、何もお前一人に対処させる訳じゃない。

 俺も先生も一緒に考えるし、お前に辛い思いはさせない。

 だから森に消えようなんて考えるなよ。

 ……あんな思いはもう二度とゴメンだからな」


 ライリーはクロエを抱き締めていた腕の力を少し緩め、彼女の目を覗き込んで静かに言い聞かせる。


 クロエは兄の目を最初ぼんやりと見ていたが、少しずつ目に生気を戻し始めた。


「……お兄ちゃん、ゴメン。な、何か頭の中がごちゃごちゃになって……。

 でも、ありがとう。アタシを止めてくれて。

 だけど、どうすれば良いんだろう?

 未だ今はあの方達を信頼なんて出来ないよ。殆ど喋ってもないのに。

 先生やお兄ちゃんの時みたいには考えられない……。

 良い案が全く思い付かないの。

 お2人がどんな方かもアタシは未だよく知らないから。

 ……でも誤魔化すことは既に無理って……。

 それにいずれは森も含めたこの辺りの領主様になられる方達なのよね?

 確かに無視できないし、下手に小細工なんてしたらとんでもないことになりそう。

 やっぱり正直に言うしかないの……かな?」


 兄の腕の中で何とか落ち着きを取り戻したクロエが、ともすれば泣きそうな目で見上げながら、その兄の腕を自身の震える小さな手で握りしめつつ呟く。


 兄は痛々しそうにそんな妹を見ながら、優しく抱き締めてソファーに再び座る。


 2人の様子を見て胸を撫で下ろした老教師が口を開く。


「すまんな、クロエ。怖がらせてしもうたの。

 ……じゃが儂はリュシアンになら、打ち明けても良いと思うんじゃ。

 もう1つ、あの子が言っておったことを思い出してな」


「リュシアン様が何を……?」


「マティアスには今この話は聞かせない、と。

 儂等がお主の秘密を必死に隠そうとしていたことも、既に2人は気付いておったそうなんじゃが、その上でリュシアンだけがお主の秘密を知り得たのであって、兄は何ら気付いていないから、兄には聞かせる必要がないそうじゃ。

 お主の秘密を聞くのは知り得た自分だけで良いってな。

 マティアスが知りたがっても、マティアス本人でクロエの秘密が何なのかをつかまない限り、今のまま儂等はマティアスには隠し通して構わないらしい。

 リュシアン曰く、兄に簡単にクロエちゃんの秘密を知らせるのは許さないとさ。

 あやつ等双子は本当に変わっとるわ!」


 苦笑しながらディルクがリュシアンの言葉を伝えた。


 クロエは呆気に取られた様に口をポカンと開ける。


「え?お兄さんのマティアス様には話さなくて良いんですか?

 まさか双子でも、お2人の兄弟仲は良くないのですか?」


「いや、仲は良いぞ?ただ、あやつ等は本当に変わっておってな。

 リュシアンは簡単に教えるのは互いのためにならぬと、兄を突き放しておるらしい。

 クロエの、いやこの家の大事な秘密は自身で苦労して掴めと言う事の様じゃな」


「何ですか、それ?!宝探しみたいな言い方じゃないですか!」


「お、正にライリーの表現通りじゃ。多分あやつ等にはクロエの秘密は宝なんじゃよ。

 ……あやつ等はこの森に本当に来たがっとったんじゃ。

 元々小さい頃から神聖な森と教えられてきておるのじゃしな。

 そんな森で住まう者達には、ある種特別な何か秘密があっても不思議ではあるまい?

 クロエだけではない。

 リュシアンはライリー達も不思議な子供等だと言っておったよ。

 ……クロエが一番気になるとは云え、見ているのはこの家や家族、森も全てとのことだ」


 ディルクはライリーに抱き締められたままのクロエに優しく話す。


「……未来の、領主。……だからですか」


「……そういうことだろう」


 クロエはディルクの言葉を聞いてゆっくり呟いた。


「……先生は、お兄ちゃんは……あの人を……どう、思うんですか?」


 ディルクは優しく笑いながら

「儂は、か?リュシアンは変わっておるが良い奴だと思っとるよ。リュシアンの性質は一部儂に似たところも有るでな、何となく親近感がある。

 まぁ加えて言うなら、マティアスも良い奴なんじゃよ?ただイタズラ好きで、性格が少しひねておるだけじゃ。

 ……味方にして損は無い双子ではあるよ」

 と彼女に自らの考えを伝えた。


「そう、ですか……。ラ、イリーお兄、ちゃんは……?」


 クロエは兄にもたどたどしく問い掛ける。


 ライリーは腕の中の妹の頭を撫でながら

「……大丈夫か、クロエ?

 あぁ、僕もリュシアン様なら話して良いと思う。マティアス様なら、ちょっと躊躇するけどね。

 ……僕も自分でクロエの秘密に気付いたから。きっとクロエをしっかり見ておられて、本気でお知りになりたかったんだと思う。

 覗いて秘密を知ったことを詫びられてもいた様だし、きっと味方になってくださるよ」

 と優しく答えた。


 クロエは2人の答えを聞いて小さく頷いた。


「……そう。2人がそう感じているなら……リュシアン様、信じてみる。

 ……先生、アタシ……打ち、明ける……こと……に、します」


 そう言うと、クロエの体からガクッと力が抜けた。


「お、おい?!クロエ?」


「気力が尽きたか……。無理もない、心は大人とは云え、未だ2歳の体なんじゃしのう。

 ……この世界に来てから正直、気の休まる時がこの子には少な過ぎる。

 儂等はこの子を守れていない。

 すまぬな、クロエ……。

 ライリー、この子は今日ここで休ませよう。今からガルシア達にそう話してくる。

 ……暫くこの子を任せるぞ」


 ディルクはそう言いながらクロエの頭を撫で、腰をあげた。




 ディルクが森の家に向かった後。


 2人きりになったライリーは、腕の中で眠る妹を見つめる。


「……俺は口ばっかりだな。君を守るには子供過ぎて……力も無くて。

 悔しいな、早く大人に……君に釣り合う位になりたいよ。

 そうしたら……君は僕を頼ってくれるかな、クロエ……」


 そう言うと唇を噛み締め、腕の中の妹を少しだけきつく抱き締めたのだった。

前の世界でもそうでしたが、基本的に自分に自信がないクロエ。自分をさらけ出すことには、物凄い恐怖を感じます。まぁ誰しもそうなんですが。

パニックに陥った後、自分で考えることを一時放棄しちゃった感じです。

兄はそこまでにならないと頼ってくれない妹に歯痒い思いを感じると共に、自分の無力を痛感しています。

なるべく早く更新します。

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