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やりたい事をやる為に  作者: 千月 景葉
第一章 黒き森
153/292

157. 2人の青年

お読みくださりありがとうございます。

新しい登場人物×2です。

さて、どんなことになりますか。今話は少しだけ登場です。


 客用のベッドの準備をしていると、ディルクが子供達に声を掛けた。


「すまんが準備が終わったら、客間にもう一度集まってくれ。

 ……打ち合わせしておきたいことがある。大事なことだ。

 奴等が着いてからでは遅い」


 そう言うと老教師は慌ただしく

「コレット!悪いがお前さんも客間に頼む。ガルシアには着き次第、儂から言う」

 と声を掛けながら、台所で客用食器を出しているコレットのところに行った。


 子供達は手早く掃除とファブリックの交換を済ませ、コレットもミラベル達とランチの支度をある程度済ませてから、ディルクの指示通り客間に集う。


「すまぬ。だが大事なことだ、皆に協力を願いたい。

 ……クロエの事だ。この子の聡さや能力の全てを、奴等に悟らせてはならぬ。隠すのじゃ。

 奴等は恐らくライモンドが駆け付ける迄の間、ここに巣食うだろう。

 早くて3日。遅くて5日だ。

 その間クロエは余り喋ってはならぬ。何か聡いことをすれば、奴等は其方に目を付けてしまう。

 その後は奴等の玩具となるのは間違いない。面白いものには目がないのだ。

 何を仕出かすか、クロエをどんなことに利用するか、想像がつかん。

 だからクロエ、其方は奴等が居る間、2歳児らしく振る舞え。

 決して絵を描いたり縫いぐるみを縫ったりはするな。

 喋りも片言位で抑えよ。

 コレットや儂、兄姉にまとわりつき、一人になるでないぞ!

 出来れば人見知りと言うことで、奴等を見たら直ぐ大泣きしてくれると助かる。

 悪いがオーウェンとエレオノーラは奴等を引き付けてくれ。

 クロエは人見知りで泣き虫だと奴等に吹き込むんだ。

 コリン、其方も得意の遊びで奴等を引き付けてほしい。

 大事な妹が奴等にからかわれるのを見たくはないであろう?

 クロエを守るため、じゃんけんぴょん等でお主の賢さを奴等に見せ付けて、妹に目が行かないようにするのじゃ。

 特に遊びで奴等を負かしてくれると尚良し。遠慮は要らん、存分に叩きのめせ!

 ライリー、ミラベルはクロエを監視しなさい。

 普段からクロエの子守りは僕達の役目だからと、奴等がクロエに接近し掛けたら、直ぐクロエを回収するように。抱き上げて隠せ。

 良いか皆。奴等は今までこの森には居なかった部類の人間だ。

 いわゆる問題児と云う奴だ。

 舐めてはいかん、少しでも甘い顔を見せれば、奴等は直ぐにその者をイタズラの標的にするぞ。

 この中で確実に狙われるのはクロエだ。……何せ突っ込みどころ満載の面白娘だ。こんな2歳児はどこにも居らぬからな。奴等にとっては興味が尽きぬ極上の餌でしかない。

 おまけに逃げ足が遅い。奴等から逃げるには致命的だ。

 だから周りで庇わなくてはならぬ。

 其方等は皆幼いが、非常に優秀で思慮深い。だから節度ある行動をとる。見ていて何ら心配ない子等だ。

 だが、奴等は違う。

 類い稀な優秀さやその整った容姿、他者を丸め込む口の巧さを、全て人をからかう為に注ぎ込む、残念な奴等なのだ。

 アレ等は人生は楽しければそれで良いという、とても単純且つ難儀な信条の元に行動する。

 大袈裟だと感じるだろうが、奴等はそれほど自重が出来ぬ、体は大人で心は子供という厄介な難物なんだ。心してくれ。

 何か質問はあるか?」


 ディルクの真面目な表情から放たれた、とても人扱いとは思えない来客達の評価と、彼らに対する物凄い警戒に、子供達は唖然とする。


 だがコレットとオーウェンは大きく頷き

「ですわね、気を付けますわ」

「仕方ありません。確かにクロエが1番危ない。気が重いですが、やります。

 この子にあんな思いはさせたくない」

 とディルクの提案に同調した。


 コリンがオーウェンの様子を見て

「オーウェン兄ちゃんがやるなら、僕もやるよ!クロエを守るんだ。

 僕がこれから来る人達と遊んで、勝ったら良いんですね?

 クロエを絶対に玩具になんかさせない!僕、やります」

 とこぶしを握って決意する。


 するとエレオノーラが首をかしげながら

「あの~……そんなに酷い方達ではありませんわ。いつもお優しい兄様達ですのよ?

 わたくし意地悪やイタズラなんてされたことございませんし。

 先生、考えすぎではありませんこと?」

 とやんわりディルクに反論する。


 そんなエレオノーラにオーウェンがキッと向き直り

「お前はお祖母様に似ていて、あの人達も無茶ができなかっただけだ。

 と言うか、側仕えと僕が必死にお前が被害に遭わないよう、庇いまくってたんだよ!

 お前がイタズラに引っ掛かる前に側仕え達が犠牲になっていたんだ!

 僕も同じ目に遭ってた。

 母上は

「まぁ、仕方無い子達ねぇ~。オーウェン、わたくしが叱っておきますから許してあげて」

 って困ったように仰るだけだし!

 途中からは僕も抵抗し出して、漸く少しマシになったんだ。

 あの人達が騎士団に入って、どれだけの人が安堵したことか。

 使用人達は大喜びしていたと聞いている。

 勿論屋敷の者達は皆、あの人達が好きだ。だが出来れば、元気で留守にしてくれると有り難い。

 精神的に早く落ち着いて欲しいよ。大人になってくれたら……ハァ」

 と彼女に今までの経緯を話し、ガックリと肩を落とす。


「オーウェン、苦労したんだな……。解りました。先生とオーウェンの話を信じた方が良い。

 クロエをそのお2人から何とか庇います。ミラベル、良いな?」


 ライリーがガックリと項垂れたオーウェンの肩を労るように叩きながら言い、ミラベルを見る。


 ミラベルも頷き、クロエを見た。


「……どうやらアタシも気合いを入れないといけないみたいね。

 クロエ、アタシやライリーお兄ちゃんから離れないでよ?

 極力喋っちゃダメだからね。

 先生、アタシもクロエを守りますから」


 クロエはオロオロしながら、周りを見る。


 恐る恐るクロエは

「アタシ、自分のことくらい何とか出来るよ。そんな、まるで敵か何かと闘う訳じゃ無いんだし。

 先生、警戒し過ぎ……」

 と言ったのが不味かった。


「「甘いっ!」」


 口を揃えて彼女に言ったのはディルクとオーウェン。


「大体お主はいつも物事を軽く考える癖がある。奴等を知っている儂が言ってるんだ、言う通りにしなさい!」


「クロエは家族、それに僕達や先生しか知らないから。

 あの人達は君が知らない未知の生物だ。だから経験者の言うことは聞いておいた方が良い。

 わかったかい、クロエ?」


 真剣な2人から諭されてしまうと、クロエも頷かざるを得なかった。


「では、もう少し対処法を伝授する。

 ああ、コレット。クロエを連れて席を外しておくれ。

 今の口調からしたら、又この子はやり過ぎとかなんとか言いかねんからな」


 ディルクの言葉にコレットが頷いた。


「分かりましたわ。さぁクロエ、台所に行ってましょ」


 クロエが口を尖らせて、文句を言う。


「え?何か仲間外れみたいで複雑~……。アタシも一緒に聞いちゃ駄目ですか?」


「駄目。時間がない。早く行きなさい」


 すげないやり取りのあと、仕方無く諦めたクロエはコレットに抱き上げられて客間を出ていった。


 扉が閉まるとディルクは子供達に向き直る。


「黒の乙女の伝承やそれらしい話をあ奴等がクロエの前でするかもしれん。

 もし、少しでもその素振りを見せたなら、クロエを直ぐにその場から離せ。

 どんなやり方でも構わん。あの子に黒の乙女の話を聞かせてはならん。

 解るな、皆」


 ディルクの話に皆はハッとする。


「ガルシアが道すがら、あ奴等にある程度その話はしている筈だ。

 だが、クロエが普通の赤子だと上手く思い込ませた場合、どうせあの子には解らないだろうと、あ奴等はその話をし出すかもしれん。

 だから其方等もその可能性を頭に置いておいてほしい。

 ホントに厄介な事になったものだ。

 ジェラルドにはこの責任を取らせないとな!」


 ディルクが舌打ちをする。


 オーウェンも頷いて

「お祖父様、余りにも後先考え無さ過ぎです。僕としても言いたいことは山程有る。

 今度お会いしたら、覚悟していただかないと」

 と物騒な口調になる。


 エレオノーラを除いた客間の皆が、腕組みをしてウンウンと頷く。


 エレオノーラのみが

「兄様達、何でこんなに酷く思われてるのかしら……。

 わたくしには本当にお優しくて素敵な兄様達なんですけど……」

 と戸惑っていた。


 程無く客間の外からバタバタと足音が聞こえた。


 コンコンと客間の扉がノックされ

「どうやらお着きになられたようですわ、皆出てきて下さいな」

 と扉越しにコレットが声を掛けて、扉は開けずに玄関に向かった。


 ディルクと子供達も客間を出て、家の外に向かう。





 外に出ると既に家の前には馬に乗ったガルシアと、こちらもそれぞれ馬に乗った初めて見る青年2人。


 一人は赤銅色の髪で、もう一人は銀髪の髪をしていた。


 エレオノーラが駆け寄り、笑顔で声を掛ける。


「マティアス兄様、リュシアン兄様!お久し振りです!

 お会いできて嬉しいですわ!」


 すると馬を降りながら2人の青年も笑顔で言葉を返してきた。


「もしかしてエレオか!見違えたよ、何て事だ。

 本当に美しくなったな!従妹なのが残念だよ」


「エレオ久し振り。相変わらず元気そうだね。……オーウェンも」


 赤銅色の髪の青年は満面の笑顔で、エレオノーラに挨拶と共に賛美の言葉を送る。


 銀髪の青年は無表情、抑揚の無い声で挨拶をした。


「ウフフ、マティアス兄様はいつもお世辞ばかり仰るんですから。

 リュシアン兄様のお静かな声も相変わらずですわね。

 まさかこの森にお越しになられるなんてビックリしました。

 でも兄様達、余り宜しくありませんことよ。

 全くの連絡無しで森に来られたのですって?

 叔父様も叔母様も先生も大わらわだったのですよ。

 騎士として、又領主の令息として恥ずかしく自覚の無い行動ですわ。

 わたくしが申し上げることでもありませんが、皆様にお詫びなさいませ?」


 エレオノーラの言葉に子供達と老教師は目を丸くする。


 まさか唯一彼等を擁護していたエレオノーラが、彼等を叱責するとは思わなかったからだ。


 赤銅色の髪のマティアスが苦笑しながら、頭を掻く。


「あ、あぁ。確かにとても失礼なことをしたと思う。申し訳無い。

 ガルシアさんにもとても叱られたよ。

 “私の全力をもって排除しますよ”って脅されたし。

 でもまともに父上にお願いしても、この森には来させて貰えないから……。

 お祖父様にもすごく止められたんだけど、今、オーウェンとエレオノーラがこちらに滞在してるって聞いて、もう我慢が出来なかったんだ。

 僕達だってもう成人したんだし、昔とは違う。

 今後の事もあるし、一度はこの森に訪れておきたかったんだ。

 でないと領主の息子として、1番死守しなければならない神域の事を知らないなんて、あってはならないだろう?

 だからお前達が居るのなら、僕達も一緒にって考えちゃって……。

 冷静になったらコレットさんにとんでもなくご迷惑を掛けてしまうことに思い当たった。

 コレットさん、お久し振りです。

 そして、本当にすみません、ご迷惑お掛けします……」


 話し終えたマティアスはコレットに詫びると腰を折って深く頭を下げた。


「うん……。僕もマティアスを止めるべきだった。

 だけどやっぱり森には来たかったから、マティアスの無茶な計画に乗ったんだ。

 普通に考えて、僕達のやったことは罰せられる事でしかない。

 ガルシアさん達には申し訳無いと思うよ。

 本当にごめんなさい……」


 銀髪のリュシアンも静かな声でそう言うと、兄と同じ様に腰を折って深く頭を下げた。


 ガルシアが苦笑しながら妻や子供達、老教師に言う。


「道すがら脅しまくって、叱り飛ばしたんだよ。

 お2人は領主のご令息だが、森の外の人間には変わりない。

 今回は流石に、守り人として看過できない行動だったからね。

 こんなことは2度と許されない。

 だけど領主代理でここの長であるジェラルド様から口添えされれば、今回だけは森に迎えざるを得なかった。

 少しの間だけ、滞在することになるだろう。

 お2人とも心しておいてください。……次はありませんよ」


 ガルシアの穏やかだがキッパリとした言葉に2人は背筋を伸ばし、ウンウンと頷く。


「では馬を休ませてあげましょう。さぁこちらへ。馬小屋に案内します」


 ガルシアが笑いながら2人を馬小屋に案内する。


 2人は従順にその後に従う。


「……結構普通っぽいけどな?

 本当にそんな破天荒な方達には思えない……」


 クロエがそう溢す。


 しかしディルク、コレット、オーウェンが首を横に振る。


「アレで皆誤魔化されるんだ。

 気を付けろ。柔らかい印象だが、柔らかいのは奴等の頭の中身だ。

 柔らかすぎて、既に万人には理解できない位だ。

 丁寧な言葉で話し笑いながら、やることは物凄くえげつない。

 ガルシアも分かっているが、今は様子見だ。

 皆、心して行動するように。

 特にクロエ!お主が1番心配だ!

 さっきの注意を忘れるな」


 ディルクの指摘に不貞腐れるクロエ。


「大丈夫だって言ってんのに……、ねぇ?」


 しかしクロエの呟きは皆にスルーされてしまったのだった。

なるべく早く更新します。

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