表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
やりたい事をやる為に  作者: 千月 景葉
第一章 黒き森
150/292

154. 魅惑のお菓子

お読みくださりありがとうございます。

急に書きたくなった小話です。

美味しいです、アレ。

 台所で林檎を見ていたクロエがハァ~と1つ、大きな溜め息を吐いた。


「あらクロエ。林檎が食べたいの?切ってあげましょうか?」


 その溜め息が聞こえた母のコレットが、末娘に声を掛ける。


「え、あ、ううん。大丈夫。ただ見てただけだから。

 何かお手伝いしようか?」


「まぁありがとう!そうね~今のところは大丈夫よ。

 未だ夕食まで間があるし、クロエ以外は皆剣の練習してるんでしょ?

 見に行かないの?」


「うん、さっきまで見てたから。今は皆素振りしてる。

 アタシが居たら場所取っちゃうしね、だから家に戻って来たの」


「そう、じゃあ暇なんだ。

 そうね、時間があるなら縫いぐるみ縫うと良いかなって思ったけど、クロエ一人で針仕事は流石に危ないしね~。

 やっぱりお手伝いしてもらおっか。ここちゃんのご飯の木の実と保存食用の木の実に分けてもらうわ。

 待ってね、出してくるから」


 母がそう言って食品庫に向かう。


 クロエは椅子に座って待った。


 直ぐにコレットは、籠にいっぱいの木の実を抱えて戻って来た。


 クロエの前に置くと、次にコレットは2つの壺を出してきた。


 壺には料理用と書かれた札とここちゃん用と書かれた札が、それぞれ貼られている。


「いつも通り頼むわね。綺麗なのはここちゃんのご飯だからね~!」


(わたくし、かけてたりちいさいきのみでじゅうぶんですのに!

 ははぎみはいつもきをつかってくださいますの~。

 なんだかもうしわけないですわ……)


 ここがキュウ……と小さく鳴いた。


「母さん、ここちゃんが良い木の実ばかり貰って申し訳無いって言ってるよ。

 ここちゃんの仲間がくれるのに、ここちゃんが遠慮することないんだよ。

 それにこの料理用の木の実はどうせ砕いて使うんだもの。

 欠けてたり小さいのが却って良いんだよ、ね、母さん」


 クロエはコレットやここと話しながら、手際良く木の実を仕分けていく。


「クロエは仕分けるの速いわね。ミラベルも中々だけど、何でそんなに速いの?」


 コレットが夕食の仕込みをしながら、何気に尋ねる。


「う~ん、お豆とか剥いたりしてたしね。それでかな?」


 クロエも何気なく答えた。


 コレットがえっ?と振り返る。


「お豆を剥くって……私、クロエにやらせたこと有ったかしら?」


 首を捻るコレット。


 クロエが可愛く小首をかしげて、母に笑い掛ける。


「本物はやったことない。母さんがやってるのを見て、自分でお豆剥くの想像してた。だって楽しそうだったんだもん。

 だから手を動かす練習だけはバッチリ出来てたの~」


 コレットが呆れたように

「楽しそう?!汁で手が真っ黒になったりするのよ?豆はすぐ飛び散るし!大変だったのに。

 やだ~、子供から見てたら楽しそうに見えてたのかしら?

 豆剥きは寧ろ溜め息ものなんだけどな……」

 と言って又首をかしげる。


 クロエはウフフと笑って

「そうなの?楽しそうに見えたんだけど。

 じゃあ今度からアタシがやったげる。母さんもその方が良いでしょ?」

 と提案する。


 コレットが笑いながら

「じゃあ次からお願いしちゃおっかな?

 お豆の季節になったらお願いね~!」

 と答えて、又仕込みに集中する。


 クロエはそんな母に笑いながら頷く。


 ……しかし笑顔とは裏腹に、今クロエの心中は冷や汗ダラダラのパニック状態であった。


(こんのバカバカバカッ!アタシのバカッ!何サラッとヤバイこと言ってんのよ~!

 お豆剥いてたのは雅の時じゃん!

 お祖母ちゃんの手伝いして剥いてたのを、つい思い出しちゃって~!

 油断しちゃダメ~。バレちゃう!

 ワケわかんない言い訳もその内通用しなくなるわよ、ホント気を付けなきゃ。

 ……アレの事考えていたから、かな。

 だって食べたいんだもん。

 何でかな、急に思い出したんだよね、アレ。

 作るのは簡単なんだけど、今のアタシには作るところまで持っていくのが簡単じゃない。

 こんな小さい子に作らせてくれる訳……無いもんなぁ、ハァ~。

 あぁ、今無性にアレが食べたい~っ!)


 クロエは心の中でそう叫ぶと、仕分けしている木の実をギュウ~と力任せに握り締める。


(クロエさま!きのみがおてのなかでつぶれそうですわ。

 おてをいためてしまいますよ、ちからをぬいてくださいませ?)


「あ、いけない。つい力が入っちゃった。大丈夫、割れてないや。

 まぁアタシの力じゃ、木の実はびくともしないけど。

 この綺麗な子はここちゃん壺行き~っと。

 ハァ~……」


 ここの注意でハッとしたクロエが、手の中の木の実をここ用の壺に仕分ける。


(クロエさま、どうなさったのですか?とてもせつなそうなおかおですわ~。

 なにかなやみごとですの?わたくしでよければ、おききいたします!)


 ここがクロエを気遣う。


 クロエがここににっこりと笑った。


「アハハ、ありがとう。悩みごとじゃないよ~。

 ただ、夕食何かな~って考えてただけ。お腹空いたもの!

 今おやつ食べると夕食に響くでしょ?だから溜め息吐いたの」


(そう、ですの?すごくなやましげなおかおでしたから……。

 クロエさま、もしなやみごとがおありなら、ぜひわたくしにうちあけてくださいませね?

 わたくしももりのなかまたちも、おちからになりますから!

 クロエさまのおそばにいるからにはわたくし、いのちがけでおやくにたつしょぞんですのー!)


 キューッ!と高らかに鳴いて意思表明をするここ。大変、健気である。


「いのちがけって、大袈裟だよ~。

 でもありがとう。ホントに悩み事なんか無いから安心して?

 お腹減ってるだけだもん」


 クロエとここの“会話”を聞いていたコレットが

「そんなにお腹が空いてるの?やっぱり何か摘まむ?

 口寂しいときってあるものね~。

 何かないかしら、待っててねクロエ」

 と慌てて保存食を探す。


 クロエは焦って

「母さん、大丈夫だよ!待てるって!待った方が夕食もっと美味しく食べれるし。

 何かここちゃんと母さんを心配させちゃってごめんね」

 と母を止める。


 コレットが心配そうに

「そう?じゃあなるべく早く夕食にするわ。待っててね、母さん頑張るから!」

 と切り替えて、夕食の仕込みに猛然と取り掛かった。


 クロエが顔をひきつらせながら

「あ、ありがとう母さん。怪我しないでね?」

 と母に礼を言う。


「可愛い娘のためですもの、任せて!出来るだけ早く食べれるようにしますからねっ!

 クロエ、木の実の仕分けが終わったらそのままにしておいてね。

 仕込みがある程度終わったら仕舞うから~!」


 鼻息荒くコレットが台所を所狭しと動き始めた。


 こうなると彼女は止まらない。


 きっと今日の夕食は気合いの入ったものとなること間違いなしだ。


 クロエは申し訳なさそうに母を見る。


(口からでまかせばっかり言ったせいで、母さんに忙しい思いさせちゃうなぁ……。ごめんなさい、母さん!

 アタシの溜め息の理由は別にあるの~!

 だけど言えないよね、あんなもの作りたいだなんて。

 この世界にあるとは思えないもん。

 きっと変に思われちゃう……)


 木の実の仕分けを終え、彼女はテーブルの上に置かれた赤い果実に目を向ける。


 艶々なお肌をした、真紅の魅惑の果実がそこに鎮座している。


 コレットが切りましょうか、と言ってくれた前の世界では極ポピュラーな果実、林檎。


(あぁ、“りんご飴”……食べたいなぁ~!)


 そう。今、何故かクロエは無性にりんご飴が食べたくてしょうがなかったのだ。


 前の世界では屋台などで良く見かけたりんご飴。


 りんごを棒にぶっ刺して、溶けた飴に潜らせ、飴が固まるまで待って食べる。


 ひじょーにシンプルな作りだが、お祭りなどでワクワクする子供心を鷲掴みにし、哀愁の大人心をくすぐる些か大きめの紅い宝石(?)とも称されるお菓子。


 ある意味お祭りのマドンナ的存在かもしれないお菓子。


 始めはテーブルの林檎を見て、クロエはふと思っただけなのだ。


(あ、綺麗な林檎!真っ赤だな~。

 あそこまで綺麗だと、めっちゃ美味しそうなりんご飴が出来そう。

 ルビーみたいに輝いて綺麗だろうな~)

 と。


 しかし頭にそのビジュアルを思い描いたのが不味かった。


 次第に色んな思い出が彼女の頭を巡り、固まった飴を歯にカンカンッ!とぶつけて割れ目を入れてから齧るイメージが鮮烈に甦ってしまったのだ。


 ガリ、シャリッ!


 飴のへしゃぐ感触と林檎を齧る感触が渾然一体となり、口の中に甘酸っぱい香りと甘味が広がる。


 甘くてジューシーで香り高い、素敵な美味しいりんご飴。


 と、ここまで想像してしまうと今度は食べたくてしょうがなくなってしまったのだ。


 この世界には蜜がタンマリあるので、飴に関しては蜜飴を作れば問題ない。


 林檎もある。


 刺す棒くらい、木工小屋に行けば腐るほど落ちてる。


 作るための材料は完璧揃っていた。


 ……問題はどうやって作らせて貰うか、だ。


 クロエは取り敢えず、作らせて貰う為の交渉をシミュレーションしてみた。


「母さん、りんご飴作りたい!」


「りんご飴って、なにそれ?」


 ……はい、終わり。続いてtake2。


「母さん、アタシお菓子作りたい!」


「あら、どんなお菓子?」


「林檎を使ったお菓子!」


「まぁ!どんなお菓子なの?」


「林檎を1個そのまま棒にぶっ刺して、飴を掛けたヤツ!」


「ダメ!何なのそれ?!意味わかんないわ!」


 ……はい、又駄目~。


 ビジュアルがビジュアルなだけに、なんと説明したものかと頭を抱えるクロエ。


 そうこうしている内に、剣の練習を終えた兄姉達が家に戻ってきた。


「クロエ、台所に居たんだ!偉いわね、母さんのお手伝いしてくれてたの?」


 ミラベルが声を掛ける。


「うん、木の実の仕分け。もう終わったよ」


「クロエはホントに良い子ですわね~。いつの間にか居なくなってると思ってたら、お手伝いに戻っていただなんて、驚きましたわ」


 エレオノーラが笑って誉める。


「でしょでしょ~!クロエってホントに良い子なの!僕の妹って出来すぎ~!」


 コリンが嬉しそうにエレオノーラに同意する。


 エレオノーラもコリンに頷き答える。


「わかりましてよ、コリン!自慢するのわかりますわ~!」


「エレオ姉ちゃん、流石解ってる!気が合うね~僕達!」


 何故かクロエを誉め殺しながら、手を取り合う2人。


 良く見るとエレオノーラの肩にここが移動し、キュッキューッ!と大きく頷きなから2人に同意していた。


(うつくしいきょうだいあいですのーーっ!コリンさまもエレオノーラさまもわかっておられますわ!)


 ここは2人の肩を行ったり来たりしながら、とても嬉しそうだ。


「ア、アハハ……ありがとう。そこまで大したお手伝いしてないけどね……」


 退き気味に礼を言うクロエ。


「あぁ、貴方達!お風呂の準備とかお願いして良いかしら?

 母さん、早く夕食作りたいの。

 ミラベル、エレオちゃん、台所のお手伝いお願い!

 クロエはゆっくりしてなさい。お腹が空き過ぎてフラついたら大変だもの」


 コレットの言葉に姉2人が即座に動く。


 兄達はお風呂の準備に走る。


 クロエはアハハと力のない笑みを浮かべて静かに台所を辞した。


(いたたまれない……!嘘なんて吐くもんじゃ無いよ、ホント。

 りんご飴作りたいって考えただけで何でこんなことになったんだ?

 でも浅ましいアタシ、やっぱりりんご飴食べたい~!

 こうなったら先生に助けを求めて……!)


 手をポンと叩き、ディルクの小屋に向かおうと直ぐ様玄関に走るクロエ。


 玄関で靴を履こうと屈んでると、ヒョイと彼女を誰かが抱き上げた。


「こら、どこへ行く?」


「ピャアッ!あ、あの、先生のとこに……。下ろしてお兄ちゃん!」


 いつのまにやらライリーが、末妹の後をつけてきていた。


「もう夕食だぞ。先生も直ぐこちらに来られる。待ってなさい」


「あ、あう……。よ、呼びに、先生を呼びに行こうと思ったの。ま、待ってます、ハイ……」


 ライリーはクロエをそっと下ろすと、ジィーッと妹を凝視する。


「な、何?お兄ちゃん怖いよ、目が」


「……何隠してるの?」


「何も!何も隠してないよ、ホントに。疑り深いなぁ、お兄ちゃんは」


「……ふぅん、なら良いけど」


「ア、アタシ部屋に戻る!大人しくしてるから!」


 そう言ってクロエは反転して家の中に戻ろうとした。


 すると又ヒョイと抱えあげられた。


「プギャ?!」


「……ったく、待ってろ。

 ミラベルーーッ!オーウェンーーッ!ちょっと先生のとこに行ってくる!後、頼んだぞーーっ!

 それと、クロエ連れてくからっ!」


 玄関から声を張り上げるライリー。


 すると台所とお風呂場から

「解ったーっ!」

「任せてーーっ!」

 と声が返ってきた。


「あの、ライリーお兄ちゃん?」


「又なんかやらかしたんだろ?早めに片付けといた方が良いからな。

 今から一緒に小屋に行ってやるから」


 ライリーは溜め息混じりにクロエに言うと、彼女を抱き上げたまま外に出る。


「な、なんにもしてないって!“未だ”!

 ちょっと先生に相談したいことがあっただけ!

 アタシ歩くし。下ろしてお兄ちゃん~」


「……お前の靴を持ってきてない。大人しくしとけ。

 で?相談って何?僕じゃ駄目なの?」


 ライリーが歩きながらクロエに問う。


「……恥ずかしいもん、言いたくない」


「恥ずかしいって何?何か変なことなの?」


「変なことじゃないけど……やっぱりクロエだって笑われそうだし」


「……あぁ、前の世界の食べ物か飲み物だな。何か思い付いたんだ?

 作りたいんだろ、クロエ?」


 言い当てたライリーに、目を剥くクロエ。


「っ!な、な、な、何で解るの?!」


「……お前を知ってたら誰でも解るよ。食い気の塊だろうが。

 でも、いつもならアッサリ母さんに作り方を伝えて作ってもらうのに珍しいな。

 何でわざわざ先生に相談までするんだ?」


 ライリーが首をかしげる。


「ちょっと、見た目がね……何ともワイルドなのよ、そのお菓子」


「ワイルドって……確か何だっけ?前にも聞いたような……」


「荒々しいと言うか、無骨と言うか、そんな見た目なのよ。でも宝石のように綺麗なお菓子でもあるの」


「……ごめん、全く想像できない。無骨な宝石って、それお菓子か?」


 疑いの目をクロエに向けるライリー。


「……だから母さんに説明できなくて、先生に相談しようとしてたのよ」


「……なるほど。相談した方が良いな。僕も全く解らない」


「甘いんだよ~!凄く美味しいんだから!ただワイルドな作り方するし、見た目も……」


「作り方まで……いったいどんなお菓子なんだよ、それ」


「……絵に描いて説明するから」


「つくづく不思議な世界だな、前のお前の世界って……」


「そう、かもね。……何かごめん」


 頭を掻いて申し訳なさそうにするクロエに、ライリーが片眉を上げる。


「謝ることじゃないだろ、別に」


「いや、何となく」


「何だよ、それ。変な奴だな」





 2人は取り留めの無い話をしながら、足早にディルクの小屋に向かったのだった。


何故かこの話が続きます。

次で締めますからね、すみません。

余談ですがはちみつ飴って黄金糖なんですかね、味。

はちみつ飴食べたこと無いです。

なるべく早く更新します。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ