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やりたい事をやる為に  作者: 千月 景葉
第一章 黒き森
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152. 兄姉の苦悩

お読みくださりありがとうございます。

前話から雰囲気ががらりと変り、主人公の実兄が悲痛な気持ちを口にします。

又、空気読まない君が意図しないまま、実姉を苦しめてしまいます。

 2人の滞在が始まってから、森の家の毎日は益々賑やかになり、楽しいものとなっていた。




 だがある時オーウェンとエレオノーラは、自分達の妹とその兄となってくれている少年が2人だけで森に出掛けようとする姿を見て驚く。


「危険だ!森に子供2人で入るなんて無茶過ぎる!

 クロエが森の動物達や草木と話が出来るのは解っているが、だからといって……!」


 オーウェンがそう不安を口にして、彼女を止めようとした。


 事情を知らなければ、(ごく)当たり前の反応だ。


 勿論彼等のこの反応は、森の家の者達全員が想定していた。


 だからガルシアとディルクが、クロエ達の代わりに2人に説明した。


 森と意思を通わせる事が出来るクロエは、時々森から呼ばれる事もあると云う話を。


 勿論そんな森や森の動物達が彼女に無体を働く筈もないので、安全については全く心配無用という事も付け加えた。


 ただ家族としては、幼い娘を一人で森に出すのは心情的に受け入れがたいものがあるので、長兄のライリーをお供にするのを森に認めさせた事も話す。


 大人はその役目を許してもらえなかったのだと言う一言を添えて。


 一人は森の守り人であるガルシア、又もう一人は自身の恩師であるディルクと云う、優秀な大人2人に優しく諭されたオーウェンは、それ以上の不安を口にする事が出来なかった。


 説明を受けた彼は、抱いた不安が完全に払拭された訳でも又大人達の説明に納得がいった訳でも無かったのだが、もう漠然とした不安だけでは諸般の事情を知らない彼が、何も言える筈が無かった。


 心配そうに眉根を寄せて見つめてくるオーウェンに、クロエはトコトコと近寄る。


 そして彼の手を取って、キュッと強く握った。


「ごめんなさい、オーウェンお兄ちゃん達をこんなに心配させちゃって。だけどね、アタシはホントに大丈夫なの。

 勿論守り人の父さんにも森さんの意思は伝わるんだけど、父さんの仕事は今でも沢山有り過ぎて、森さんは父さんにこれ以上負担を負わせたくないらしいの。

 だからちょっとした相談程度なら、忙しい父さんに代わって森の皆とも言葉が交わせるアタシが聞いて貰えないかって森さんから頼まれたのよ。

 娘のアタシとしては、少しでも父さんのお手伝いになるなら、と喜んで引き受けたって訳。

 おまけにライリーお兄ちゃんも一緒に来てくれるんだし、大丈夫大丈夫!

 森さんのご用だって、いつもそんなに時間が掛からないんだから。

 だから心配しないで待っていて、オーウェンお兄ちゃん」


 自分に気を遣って話す妹に、オーウェンは唇を噛み締める。


 見かねたエレオノーラが兄に声を掛ける。


「……お兄様、待っていましょう。叔父様叔母様、先生もクロエのお役目を受け入れておられるのです。

 況してやわたくし達はこちらの事情を知らないのですもの、これ以上は……」


「……ああ、そうだな。声を荒げてしまってすまなかった、2人とも。

 確かに森について僕は余りにも無知だ。そんな僕が口を挟んで良い訳無いよな。申し訳無い。

 でもクロエ、本当に気を付けて行くんだよ?やっぱり心配は心配だから。

 ライリーもな。……この子を頼む」


「あぁ、ありがとう。油断せず気を付けるよ。……大事な妹の事は僕が守るから」


「……頼んだぞ、ライリー」


「あの~お兄ちゃん達?直ぐ帰ってくるから、ホントに!

 別にこのまま旅に出る訳でもないんだよ。

 何だか凄く遠いところに行く時のやり取りに見えちゃうんだけど……」


 兄達の真剣なやり取りに、困惑気味のクロエ。


 ライリーがそんな彼女に眉を上げて言う。


「……お前はちょっと目を離したら何するか解らないから、こんなに心配してくれているんじゃないか。自分を振り返ってみろ?

 前回の滞在の最終日、僕達に突拍子もないイタズラをしてきたお前を、オーウェンが忘れる訳無いじゃないか。

 他にも色々あるぞ?全部言ってたら日が暮れるから言わないけど。

 つまり、彼の今の不安は、そういうお前自身の行動が原因なんだよ。

 少し反省しろ、このお転婆娘!」


 長兄の鋭い指摘に、あぁ~と頭を抱える妹。


「……あ~!そうだっけ。んな黒歴史は覚えてなくて良いよ~!お願い、忘れて~」


「馬鹿、やられた方は絶対忘れたりしないさ。やった当人だけだよ、都合良く忘れちゃうのは。

 お前は賢いのに、無茶ばっかりする考え無しだから。

 とにかくこれ以上皆に心配かけないように、さっさと森へ行ってさっさと帰ってこよう。

 じゃあ、行くよ!」


 ライリーが話を切って、クロエの手を握る。


 彼女も頷き、オーウェン達や家族の方を見て

「はぁ~い、じゃあ気を付けて行って来るね~!すぐ帰るから~」

 と明るく言って、空いてる方の手をブンブンと大きく振った。


「行ってらっしゃい……」


 家を出て森に出る敷地の際に、迎えに来た森の動物達、つまりざざ達がいつものように待っていた。


 ざざがクロエを抱き上げ、家の前に立つ家族にペコッと頭を下げ、森へ2人を連れていく。


 直ぐに木立の中に彼等の姿は溶けていった。


「……大丈夫じゃ。直ぐに戻る。

 そう苦し気な表情をせんでも良い。気持ちは解るが」


 ディルクに慰められて、オーウェンは頷く。


「ここへ来てから楽しい事ばかりなので、つい忘れてしまっていたんですよね。

 ……この森が神域だって事。

 叔父さんを除いて、叔母さんや先生、ミラベル達ですら自由にこの森を歩いたりは出来ない。

 なのにまさか小さいクロエが、森に頼まれてそんなことをしていたなんて。

 叔父さんや先生の言葉を疑ってるわけでは無いんです。

 森の動物達があの子に酷いことをする訳無いのも、解っています。

 でも、得体の知れない不安がどうしても胸にわいてくる。

 ……僕はあの子と同じ魔力を持っているから、他の誰よりもあの子を理解し、又一番近い存在なのは自分だと思っていた。

 だから近い将来、もしあの子に何かあっても同じ魔力を持つ僕ならきっと助けてやれる。

 そんな自負があったからこそ、苦しい鍛練を必死で積んできたのです。

 でもそれは間違っていたのでしょうか?

 僕の力なんかじゃ、あの子には何もしてやれないのかもしれない。

 では一体どうすれば僕は……」


 森を見据え、苦し気に話す彼をディルクはじっと見つめた。


「少し其方とは話をした方が良さそうじゃな。

 他の子供達には悪いが授業を止めて、今からオーウェンと小屋に向かう。……良いな、オーウェン。

 すまんがエレオ、其方も心配だろうが今は2人で話をさせておくれ。

 ガルシア、コレット。エレオを頼んだぞ」


 そう言うとディルクはそっとオーウェンの背中を叩き、項垂れる彼を小屋に連れていった。


 2人を見ていたコリンが、首をかしげながら疑問を口にする。


「何でオーウェン兄ちゃんはあそこまでクロエを守りたがるのかな。

 だって、オーウェン兄ちゃんの妹じゃないのに。クロエは僕の妹だよ?

 そりゃクロエは賢くて可愛い自慢の妹だから、オーウェン兄ちゃんもメロメロになるのはスッゴく解るんだけどさ~。それにしたって……。

 ねぇ、エレオ姉ちゃんは嫌じゃないの?エレオ姉ちゃんがホントの妹なのに、妹じゃないクロエばっかり心配してるあんな兄ちゃん見てて、ムカッとしないの~?」


 コリンに問われ、エレオノーラが唇を噛み締める。


 コリンはクロエの出生の本当の事実を知らないと云うことは、エレオノーラも知っている。


 だけど今のコリンの言葉は、彼女の神経を逆撫でした。


 エレオノーラだって言わないだけで、オーウェンと同じ気持ちを持っている。


 クロエは本当は自分の妹なんだと、この小さな男の子に大声で言ってやりたい。


 だけどそれは口が裂けても言ってはならない禁断の言葉だ。


 エレオノーラの表情を見たミラベルが、慌てて彼女を庇うように前に立ち、無邪気なコリンの口を引っ張る。


「あんたって子はどうしてそう空気が読めないのっ!

 この軽すぎる口を糸で縫ってあげましょうか?

 黒き森は今でこそこんなだけど、少し前までは歩いてる間、喋ることも出来なかったじゃない!忘れたの?

 ジェラルド様より前からその事を何度も聞かされているオーウェンお兄ちゃんが、小さなクロエとライリーお兄ちゃんを心配するのは当たり前でしょうが!

 エレオちゃんだって、2人をスッゴく心配してくれてるのに、あんたはそんなことも解んないの?

 そんな優しいエレオちゃんに、ムカッとしないの?なんて良くも聞けたわね!人の気持ちを苛立たせる天才か、アンタは!

 母さんごめん、この馬鹿を向こうへ連れていって叱ってちょうだい!

 ご、ごめんね、エレオちゃん!早くアタシ達の部屋に行きましょう。

 オーウェンお兄ちゃんはディルク先生の所だし、ね?」


 必死に話すミラベルに、小さく頷くエレオノーラ。


 その横から

「コリンくん?お母さまとちょ~っとお話ししましょうか~。

 さぁ、いらっしゃい!」

 と、母の冷気漂う声がした。


「やだっ!母さんの顔が凄く怖いっ。口は笑ってるのに、目が怒ってる~!

 僕、何にもしてないよね。

 なのに何でそんなに怒ってるの?!解んない~!」


「解ってないから教えてあげるんですっ!良いから来なさい、全く!」

「やだっ!助けて父さんっ!僕のお尻が死んじゃう!」


「コレット、尻は1回で。腫れたら後が大変だ。その他はお前に任せる。しっかり頼んだぞ。

 コリン、お前の何が悪かったのか母さんからみっちり教えて貰いなさい」


 ガルシアがキッパリと最後通牒を突き付けた。


「ええ、任せて。……エレオちゃんをお願いします、貴方」


「やだーーっ!嘘っ、何でなのーーっ!」


 ギャーギャー騒ぎつつ、コリンが家の中の客間へと引っ立てられて行った。


 エレオノーラがその姿をボンヤリと目で追う。


「エレオ、すまない、辛かったろう。知らぬこととは言え、コリンが君にとても酷い言葉を言ってしまった。

 親として躾が出来てなくて申し訳無い。

 本当にすまなかった、この通りだ。あの子を許してやってくれ」


 ガルシアが深々とエレオノーラに頭を下げる。


「叔父様、そんな、頭をおあげ下さいませ!コリンが知らないのは解っておりますもの。

 少し、ほんの少し辛く思っただけですわ……ホントよ、ミラベル。わたくしは大丈夫……」


 ミラベルがフワッとエレオノーラを抱き締める。


「そんな筈無いでしょう……無理したらダメだよ、エレオちゃん。

 コリンは母さんがしっかり罰してくれるからね。

 エレオちゃんは部屋で暫くゆっくりしましょう。モヤモヤを溜め込むのは絶対に駄目。不安や怒りは吐き出してしまおう?幾らでも聞くから。

 父さん、温かいミルクをお願いしてもいい?エレオちゃんを休ませてあげたいの」


 ミラベルがエレオノーラを抱き締めたまま、ガルシアに頼む。


「あぁ、任せなさい。蜜を入れた温かいミルクを部屋に持っていってやる。

 エレオ、ミラベルと暫く部屋で休みなさい、良いかい?」


「ミラベル、叔父様……ありがとうございます。

 お言葉に甘えますわ……すみません」


 小さな声でそう話すと、エレオノーラはミラベルと共に、自分達の部屋へと下がっていった。


 ガルシアは頭をポリポリと掻きながら

「……思ったより早く爆発したか。

 まぁ遅かれ早かれこういう事態にはなってただろうし、こうなったからにはガス抜きをしっかりとしないとな。

 これからもこの問題は付いて回るんだ。おまけにクロエが成長すれば、もっとややこしくなる。

 だから何度か小さな爆発をしながら、上手く気持ちを整理する術を2人には掴んで貰わなければ。

 大きな秘密を守り抜くのはそう容易い事では無いんだ……。

 辛くても堪え忍んでくれよ、オーウェン、エレオノーラ。

 君達のクロエを守り抜くにはそれしかないのだから」

 と自分に言い聞かせるように呟いた。


 顔をあげたガルシアは、その蒼い瞳で森を見据えた。


「森よ、俺達が知らない秘密があるのは解っている。

 ……例え知ったところでもうどうしようもない事もな。

 だがどんなに辛くとも、あの子を守るためにはお前にすがるしかないのが実情だ。

 だから頼む。あの子を守るために血を吐く思いで堪え忍んでいる実の兄姉を、これ以上悲しませることだけはしないでくれ。

 確実に(クロエ)を守ってやってほしい。

 ……その為ならば、俺は何だってお前の言うことを聞いてやるから」

 と彼は唸るように言い、踵を返して家に戻って行った。




コリン君、ここのところ良い子だったんですけどね。実は僕の妹自慢をしたかっただけなんです。

大分ひねくれた自慢の仕方ですけど。

コレット母さん、しこたま叱りました。

彼のお尻には紅葉が、いや大きなヤツデの葉がクッキリと刻まれたとか……。

なるべく早く更新します。

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