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やりたい事をやる為に  作者: 千月 景葉
第一章 黒き森
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151. 縫いぐるみ作り

お読みくださりありがとうございます。

ホンワカ回が続きます。今話は縫いぐるみ作りの始まりです。

良くあるかしましい女の子の会話です(笑)

 家に着くと荷物を降ろし、手分けして運び込む。


 子供達は先に家に入り、体を清めて昼食の手伝いをする。


 一人ガルシアは荷車をなおしに、小屋に向かう。


 小屋に入った彼は、荷車をなおしながら森の結界の外にある、二重結界を張るジェラルド直轄の影の者と久し振りに通信を行う。


「組織に2人の動きは悟られてはいないか」


  (……恐らく)


「結界を強化。後、インフィオラーレに手の者をやれ。奴等の動きが知りたい」


  (是)


「出来るだけ早く、だ。行け」


  (……是)


 ガルシアはそう言うと黙り、無言で小屋の扉を見て、苦笑する。


「……先生ですね。相変わらず気配を消すのが上手いんだからなぁ。

 何か御用ですか?」


 ニヤリと笑って扉を開けて入ってくるディルク。


「気付いておったか。……奴等の動きが有りそうなのか?」


「……恐らくは。ですがあちらも決定的な手掛りまでは掴めていないでしょう。こちらもそこまで(ぬる)くはない。

 だからこそ、あの方の警護を強化すべきです。この間、狙われるとしたらあの方だ。

 こちらも一応結界は強化させます。

 森が守護を担うから、森に居る限りはあの子を確実に守れる。これは大きい」


 ディルクはガルシアの言葉に頷く。


「そうじゃな。思わぬ味方が出来たのは重畳。

 ……だが、油断はならぬぞ」


「はい」


「さて、腹が減ったの。先に家に向かうぞ?」


「ええ、俺もすぐ行きます。もう片付けは終わりましたから」


「そうか。ではな」


 ディルクが小屋を離れると、ガルシアが自嘲の笑みを浮かべ溢す。


「皮肉なものだ……人間が一番信用出来ず、人間以外が信用出来る味方とはな。……全く反吐が出てくる。

 人間てのは一体どこまで邪な生き物なんだろうな……」


 ガルシアは大きな溜め息を吐くと、気を取り直して家に向かった。





 昼食の席ではオーウェンとエレオノーラが、森や守るべき地、畑仕事などで感動したことを、とても嬉しそうにコレットとディルクに報告する。


 大人達は微笑ましく彼等を見ながら、その話に相づちを打ったり質問をする。


 そして他の子供達も、楽しそうに話す2人に乗っかり、その話に茶々を入れたり笑ったりして、彼等の話を盛り上げた。


 又一生懸命にお手伝いを頑張った2人の食欲は凄く、いつもの倍の量をペロリと平らげて、コレットを笑顔にさせた。


「そんなに食べてくれると作りがいがあるわ~。やっぱり子供はいっぱい動いていっぱい食べて、どんどん成長していかなきゃね!

 でも2人共、解ってると思うけど、食事は良く噛んで食べるのよ~。

 どんなにお腹が空いていても、味も解らない位急いで飲み込むような食べ方は駄目ですからね?

 食事は良く噛んで味わってこそ、貴方達の本当の糧となるのだから」


 だが、コレットのこの言葉に2人以上に真剣に頷いていたのは、シェルビー家食い意地ナンバーワンのクロエであった。


  (母さんの至言だわ。素晴らしい!

 そう、食べ物は味わってこそよね。急いで食べたり、ただ噛まずに飲み込んで味わいもしないなんて、美味しい食べ物に対する冒涜でしか無いもん!……うん、アタシもこの言葉を心に留めて、今以上に食事を美味しく頂かなくちゃね)


 沁々頷く彼女の様子をみて、彼女の考えてる事が手に取るように解った家族は、思わず失笑を漏らす。


 オーウェンとエレオノーラはコレットの言葉に頷きながら、何故かクロエ以外のシェルビー家の者達が、頷くクロエを生暖かい笑顔で見つめているのに首をかしげた。


 ……彼等は、目の前の小さな彼女の食ベ物に対する恐るべき執着を未だ知らない。


 そんな場面もあったりと、とても楽しい昼食の一時を皆で過ごしたのであった。





 その後子供達は少しだけ昼寝をして、女の子はコレットと共に自室で裁縫をし、男の子はディルクの小屋に勉強に向かった。


 ガルシアは農具の手入れと家畜の世話、その後は木工をする予定だ。


 女の子達は浮き浮きと裁縫の準備に取り掛かる。


 ミラベルが自室の白いテーブルに、クロエの縫いぐるみの下書きを拡げる。


「さあ、決めるわよ~!って言うか、全部作っちゃ駄目かな?母さん」


「え?!全部ってミラベル貴女……。6体作るつもりなの?」


 ギョッとするコレットに、ミラベルがエレオノーラとばつ悪そうに笑う。


「うん、エレオちゃんと悩んだんだけどね、どの子も可愛すぎて選べないんだよ~。

 だから、もういっそのこと全部作っちゃおうか!って話になって……駄目かな?」


「叔母様、やはり難しいですか?わたくし、どの子も欲しくなってしまって……浅ましいとは思うのですけど」


 エレオノーラの言葉に困惑して唸るコレット。


「無理とは言わないけどねぇ……。布も有るし。型紙を起こすのは問題ないのよ?

 ただ、大変よ~。大丈夫?」


 訝しむ母にクロエが姉達の言葉を後押しするように提案を持ちかける。


「あ、なら母さん、縫いぐるみの寸法を変えれて作れば良いんじゃない?

 大きいのと小さいのを作るのよ。

 小さいのは紐付けて、ぶら下げられるような形にすれば持ち歩けるしね。

  小さくすれば作るのもそれほど大変じゃなくなるでしょ?」


 クロエの提案にキョトンとするコレット。


「縫いぐるみをぶら下げて持ち歩くの?それ、何の為に?」


「何の為って言うか……単なる自己満足なだけだよ。

 だって可愛い物はいつでも身に付けておきたいと思わない?ずっと肌身離さず持ってたら愛着も沸くしね」


 クロエの説明に首をかしげるコレット。


「そんなものかしら?まぁ寸法変えるのは問題ないけど」


 母とは反対に、妹の説明に食い付くミラベルとエレオノーラ。


「え、持ち歩けるの!縫いぐるみが?!」


 クロエは姉達に苦笑しながら説明を追加する。


「ん~縫いぐるみっていうか、ストラップのマスコットだよね」


 ミラベルが聞きなれない言葉に眉を寄せる。


「すと……すこっと?何なのそれ?」


 クロエはその戸惑いを受け流す。


「ハハ……全部大きいのだと大変だもの。そう言う手も有るって話。

 まぁとにかくまず始めに作る子を決めましょうよ。一番心引かれる子はどの子?」


 話題を切り替えて決断を迫る言葉に、姉達は又迷い始める。


「あう!やはり決めなければならないのね……どうしよう、うぅ!」


「どの子が一番なんて……どの子も一番なんですもの~!」


「これは時間が掛かるわね……。クロエ、一番を決める手だては無いかしら?

 このお嬢さん達に任せると多分何も決められないわ……」


 コレットが溜め息混じりで尋ねた。


 母の言葉にクロエは腕組みをして唸る。


「う~ん……。あ、そうだ!

 ねぇねぇ!2人に聞きたいんだけど6種類の子達の中で、アタシに1番似てるなって感じるのはどの子?母さんも言ってみて?

 ホントに感じたままで良いから!」


 妹の急な質問に、姉達と母は戸惑う。


「え?何、急に!」


「良いから~。感じたまま、難しく考えなくて良いから」


 先ず答えたのはエレオノーラ。


「え~。そ、そうですわね……クロエっぽいのはこの子……かしら?」


「あ、解る。この子って確かにクロエっぽい。何かちょこんとしてるし」


「言われてみればそうだわね。座ってるクロエに何となく似ているわ」


 エレオノーラの答えに追随するコレットとミラベル。


 彼女達の答えに、クロエはフムフムと頷いた。


「そうか……アタシはハムスターのイメージなんだ。う~ん、何となく納得出来るチョイス。

 じゃあ、ミラベルお姉ちゃんは?」


 ミラベルが自分自身を指差して声をあげる。


「え?アタシ?!」


 クロエが頷き、言葉を添える。


「あ、これはミラベルお姉ちゃんを除いた3人で意見出すね。

 ね、エレオお姉ちゃんどう思う?」


 すると母が勢い込んで割って入って、ある下描きを指差して言った。


「あ、絶対ミラベルはこの子よ!」


 直ぐ様エレオノーラが同意する。


「そうですわね!ミラベルの髪に似ていますわ~」


 クロエがその下描きを見て、手をポンと叩く。


「あ、ロップイヤーのウサギね~。ロップイヤーは確かに見た目ツインテールだもんね!」


 ミラベルが又妹の言葉に眉を寄せた。


「ろっぷやー?何それ?」


 妹も慣れた調子で姉の疑問をスルーする。


「アタシがこの子に勝手に付けた名前。深く気にしないで。

 じゃあエレオお姉ちゃんはどの子かな。母さん、ミラベルお姉ちゃん、どう思う?」


 今度は考え考えしながら、コレットが別の下描きを指差す。


「そうねぇ、何となくこの子……かしら。気品あるでしょ、この子」


 ミラベルがウンウンと頷く。


「解る!目元が似てるわ。ちょっとおすましさんよね、この子」


 エレオノーラがその言葉に軽いショックを受ける。


「え!わたくしそんなにツンツンしていまして?」


 クロエがそんな姉に笑いながらフォローを入れた。


「違う違う~!そう言う意味じゃないよ。何て言うかエレオお姉ちゃんは、可愛いより綺麗なんだよね。

 この子を描く時、アタシ綺麗な子を描きたいと思ったんだ。だから目元も綺麗目にしてみたんだ。

 ……うん、アタシもそう思う。この子はエレオお姉ちゃんの雰囲気だ」


 妹の言葉に今度は照れ臭そうにしながら、その下描きを見つめるエレオノーラ。


「……そう、わたくしはこの子に似ているのですね。何だかこの子が1番可愛く思えてきましたわ~」


 ミラベルも自身に似ていると言われた、可愛くデフォルメされた垂れ耳ウサギの下描きを見て、呟く。


「うん、アタシも何だかこの子、ろっぷやーが自分に思えてきた」


 クロエが2人の言葉に思わずズっこける。


「早っ!2人共、その気になるのが早いな~。まぁ決まって良かった。じゃあ母さん、大変だけどこの3つを型紙に起こしてくれない?

 それから提案なんだけど、アタシはハムスター、ミラベルお姉ちゃんはウサギ、エレオお姉ちゃんはニャンコばかりを作るの。3人分だから3体ずつね」


 妹の提案に驚いて声を上げる姉達。


「「へ?おんなじのを3体ずつ?!何で?!」」


 姉達の反応に笑う妹。


「わぉ、声揃ったね!つまりね、おんなじのを作れば段々手も慣れてきて、綺麗に早く作れるようになると思うんだよ。

 それで出来たのをお互いに贈り合うってのはどうかな。ただ作るだけより楽しいじゃない!

 で、最後には皆3種類の縫いぐるみを持てるでしょ?

 楽しんで作るための方法として、良いと思うんだけどな、アタシ」


「「……クロエ」」


 姉達のリアクションが止まったのを見て、しまったと戸惑うクロエ。


「えっと……嫌かな?そんな作り方。せっかく一緒に作るんだから、互いに作り合って、良く出来た子を他の2人に贈るってのも素敵だと思ったの。でも2人は自分で作ったのは自分で持ちたいかしら?

 今のはただの思い付きだし、あまり気にしないで……」


 取り成そうとして言葉を重ねる妹に、姉達は声を合わせた。


「「……良い!それ、良い!そうしましょう!」」


 姉達の激しい同意に仰け反る妹。


「うぉっ?!」


 目をキラキラさせて妹を称賛する2人。


「凄いわ!良く次から次に思い付くわね!どうなってるのクロエの頭って!」


「そうですわ!それもわたくし達の心に響く提案ばかりですもの。

 未だクロエは小さいのに、女の子の気持ちがホントに良く解っていますのね~」


 クロエは若干姉達の称賛に退き気味になりながらも、礼を言う。


「あ、ありがとう……。そこまで感動される事でもないと思うんだけど……」


 コレットがそんな娘達の様子に微笑む。


「フフッ、確かにクロエは発想の天才ね。さぁ、そうと決まったら私は今から型紙をクロエに聞きながら作るわ。

 貴女達は布を選んでおきなさい。

 型紙が出来たら直ぐに裁断していきましょう。

 6体から半分に減ったけど、それでも一人3体作るのよ。皆、気合入れて縫わなきゃね!」


「「「はーい!」」」


 娘達は母の言葉に素直に従った。


 ミラベルとエレオノーラが布を楽しそうに選んでいる姿を見て、微笑むクロエとコレット。


 コレットが共に型紙を作るクロエにも笑みを向ける。


「クロエはホントに子供とは思えないわね……。普通に話の出来る大人の女性みたいってときどき思えてしまうのよ。だからついつい意見も求めちゃうのよね~。

 又ちゃんと的確な答えを返してくれるから頼もしいわ。

 フフッいやだ、母さんったら可笑しな事を言ってるわね、ごめんなさい。

 さぁ、寸法を決めないとね!」


 そんな母の言葉を聞いて、少しヒヤリとするクロエ。


(……そりゃあそうよね。普通こんな幼児、居ないわ。母さんがそう感じるのも、無理無いよね。

 何となくアタシはこんな子なんだって、うちの両親は柔らかく受け止めてくれてるから助かってるけど。

 森の中で過ごしてるから、兄姉以外の子供とも比べられないしさ。

 もし、街中の家庭に生まれ落ちていたら、一体アタシはどうなっていたんだろう。

 ……やめとこ、考えたって仕方の無い仮定の話は。落ち込むだけ無駄だ)


 そう気を取り直して、彼女は母に笑い掛ける。


「うん、確かにアタシって口の成長だけは早いみたい。アハハ。

 まぁコリンお兄ちゃんも中々だって先生が言ってたから、ウチの兄弟って皆そうなのかもね~。

 あ、母さん、縫いぐるみの頭の大きさはこの位にして……」


 クロエはさりげなく母の言葉を受け取って相づちを打った後、話題を切り替えて縫いぐるみの話に入っていく。


 そこからはもう、縫いぐるみの制作に皆没頭した。


 やがて老教師に指示されたライリーが、そろばんの授業だと女の子達を呼びに来るまで、時間を忘れて型紙作りと布の裁断に集中していた彼女達。


「いけない、もうこんな時間!夕食の支度に取り掛からないと。

 貴女達も、直ぐに勉強部屋に向かいなさい。縫いぐるみ作りは又明日よ、さぁ早く!」


「「「ハイッ!」」」


 慌てるコレットの言葉に、娘達も焦る。


 その後、バタバタ勉強部屋に飛び込んできた彼女達に、老教師は苦笑しながら

「やはり時間を忘れて集中しておったんじゃな。……あぁ慌てんでも良い良い。

 ゆっくり準備しなさい、焦ると思わぬ怪我をするぞ?」

 と優しく声を掛ける。


 彼女達もその声で漸く落ち着き、普段通りそろばんの授業に取り組めたのだった。



結局3種類の縫いぐるみを手分けして作ると言うことになりました。

一つ作るだけでも大変なのです。彼女達はその小さな手で、3体ずつ作ることが出来るでしょうか。普通は厳しいです(笑)

なるべく早く更新します。


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