149. 森の道中
お読みくださりありがとうございます。
劇的なお話の変化は無いのですけど、優しい話を書きたくて、今話となりました。
草木とも意思を通わせる主人公です。
少しでも雰囲気を感じ取ってもらえたら嬉しいです。
「森って大きいのね……」
思わず呟くエレオノーラ。
「ああ、僕も最初は圧倒されたよ。この森を歩くと、本当に神秘的な何かを感じる。
あ、あそこにここちゃんの仲間達が居る!」
オーウェンが木立の枝に並んでいるチョスの一団を見つけた。
「ああ、あそこに仲間が居るってことはあの木か……クロエ、僕が行こうか?」
ライリーが呟きながらクロエを見る。
「ううん、2人に体験してもらうのに丁度良いわ。ね、オーウェンお兄ちゃんエレオお姉ちゃん。
そこの壺を持ってくれる?そんでアタシと一緒に来て!
ごめんね父さん、待っててね」
「ああ、構わんよ。ここで少しあの子達と遊べば良い。
しかし少し前は喋るのにも気を遣ったんだがな~。クロエの力は凄いもんだ。
守り人の俺の立場が無いな、ハハ!」
荷車に車止めを挟み、ガルシアが笑う。
コリンとミラベルが空かさず荷台に乗り、休憩する。
ライリーは伸びをし、チョス以外に荷車近くに来ていたグーア達に近寄りその背中を撫でた。
「クロエに会いに来てくれたの?あぁ君達は柔らかいね。フワフワだ。
きっとクロエは君達を撫でたがると思うよ」
そうグーア達に話し掛け、ニコッと笑う。
グーア達は翼をパタパタ羽ばたかせ、グァーグァーと嬉しそうに鳴いた。
「フフ、嬉しいんだね。あの子今、樹蜜を貰ってるんだ。それが終わったらクロエに君達を撫でて貰おうね。
だからここで待ってて?」
そう話し終えると、最後にもう一撫でしてライリーは樹蜜を採っている3人に目をやる。
(ああ、このあなですわ。みつをくみだしてくださいませ。
ほどよくたまっておりますわ。
そこにすこしだけのこしていただければ、もりのなかまがよろこびます)
ここが仲間達と共にクロエ達を蜜を出す木に案内し、その蜜が溜まっているムロに導いてそう言った。
「ウフフ、少し前にも貰ったもの。この2つの壺分で十分だよ。
これ、パンケーキに掛けるとほんと美味しいんだよね。メープルシロップをもっと香り高くした感じで。
オーウェンお兄ちゃん、エレオお姉ちゃん。
この穴に溜まってる蜜をその壺に汲んでくれるかな?
普段はこうやって蜜を分けてくれるんだよ。今日はこの木が協力してくれるみたい。いつもありがとうね」
クロエが蜜を分けてくれる木とチョス達に礼を言う。
チョス達がトトト……とオーウェンとエレオノーラの肩に登り、キューッと頬擦りする。
2人はチョス達の可愛い仕草に頬を赤くして喜ぶ。
「こんな、こんな素敵な事……あって良いのかしら。ねぇお兄様、わたくし今なら死んでも悔いはありませんわ」
「エレオ、不吉な事を口にするな。だが、正直僕も今そんな気分だ。
本当にここは心を癒してくれるものばかり……有り難い事だ」
2人はそんな感想を呟きながら、クロエが指し示す木の穴のそこに並々と溜まっている蜜を大事に掬って壺に汲む。
「うん、その位あれば充分だよ。お兄ちゃんお姉ちゃんありがとう。
ここちゃん、みんなありがとね。
木さん、恵みをありがとう」
クロエはそう言って蜜を採取した木を優しく撫でて抱き着く。
「アハハ、太っ腹なんだから。森の皆の分まで貰えないよ~。
フフ、又いつか分けてね?木さん」
笑って木に話し掛けるクロエを訝しげに見つめる、オーウェンとエレオノーラ。
そこにライリーが近寄る。
「驚いたでしょ。クロエは草木とも意思が交わせるらしいんだよ。
今蜜を採らせてくれた木にお礼を言って、多分もっと採れって木から言われたんじゃないかな?
これ、いつもの事なんだ」
ライリーの言葉にポカンとする2人。
「草木とも?そんなことって……。
そもそも草木に感情が有ったのか?そんなこと、考えたことがなかった。
一体クロエの力って、何なんだ……」
「お兄様、クロエはきっと森に愛されているのですわ。
だってこんな可愛い子、愛されるのは当たり前でしょ。
何ら不思議はありませんよ。
だからクロエと話がしたくて、それで森はあの子にこんな特技を持たせたのだわ。
だってクロエはこんな力を持っても、悪いことには決して使わない子ですもの。そうではありませんか?」
エレオノーラは妹を眩しそうに見つめながらそう言うと、微笑んだ。
クロエが木から離れ、トコトコと2人に近寄る。
「お兄ちゃんお姉ちゃんも木さんにお礼を言ってくれる?
優しく撫でてあげてね。きっと喜んでくれるから」
そう話して2人の手を取り、もう一度木の横に立たせる。
「あ、ありがとう。蜜、大事に食べさせて貰うよ。本当にありがとう」
「ありがとうございました、木さん。とても綺麗で滑らかな木肌……きっと蜜も甘くて美味しいのでしょうね。とても良い香りがしましたし。
貴方のご厚意に感謝しながら、大事に頂きますね」
2人は礼を述べて、蜜の木に手を当てて優しく撫で擦る。
「えっ……温かい?そんな、さっきまではもっと冷たかったのに」
「まあ!木さんが解ってくださったのだわ、わたくし達の言葉を。
凄いわクロエ。本当に草木達には意思があるのね!
生きているのね、皆みんな本当に……」
オーウェンは木肌を尚も優しく撫で続け、エレオノーラは木を見上げてホゥ……と感嘆の息を吐く。
クロエがそんな2人を優しく見守っていると、ライリーが後ろから近付いて来て
「2人は僕に任せて。反対側にグーア達が居るんだ。撫でてあげてよ。
クロエと話したがってるんだ」
と彼女に伝えた。
「お兄ちゃんありがとう。じゃあグーアさん達のところに行くわ。
壺は2人の足元に有るから気を付けてね」
そう言って、小さな妹はトコトコと鳥達が待つ方へ走っていった。
木から離れた2人は、ライリーと共にグーア達と戯れるクロエを見る。
いつの間にかガルシアとコリンとミラベルも、彼女と一緒にグーア達の背中を撫でている。
「こんな風に森の住人達と触れあったことは無かったからな……良いもんだな~ホント」
ガルシアがグーアを撫でながら沁々と溢す。
クロエが父を優しい目で見つめながら
「父さんの役目は厳しいものだから……。森の皆は父さんに感謝してるよ。嫌な役目を押し付けてるって、皆とても気にしてたんだって。
本当は父さんともっと早く喋りたかったみたい。だけど、それは許されなかったから……。
今皆が森の恵みをいっぱい分けてくれるのは、実は父さんのためなんだよ。
これまでの感謝と、これからも森の調停役を、守り人の役目を頼みますって気持ちなんだ。
皆、父さんが守り人で良かったっていつも言ってるんだから。
良かったね、父さん。皆からとても信頼されてるもの、アタシも嬉しい」
とガルシアに話す。
ガルシアはクロエの言葉を聞きながら
「……そうか。嬉しいなぁ……俺、森の住人達に嫌われていなかったんだな。
それが解っただけでも有り難いよ。これからも守り人、やっていけそうだ。ありがとうな。
受け入れてくれてたんだなぁ……ちょっと、すまん……」
と声を詰まらせると急に立ち上り、荷車の側まで行って暫く動かなかった。
ミラベルが唇を噛み締めながら
「……クロエ、ありがとう。
父さんは優しい人だから、守り人の役目が辛い時の方が多かったと思う。重い役目だもの。
だけど森の皆の気持ちを聞けて、きっと凄く救われたと思う。
父さんの気持ちを救ってくれてありがとう。アタシ、貴女に感謝するわ……」
と妹に頭を下げた。
クロエは首を横に小さく振った。
「今森がアタシに優しいのは、父さんが守り人の役目を丁寧に果たして来たからこそなの。
人間が皆悪い心を持っている訳では無いと、父さんがコツコツ役目を実直に果たす事で、森の皆に教えてくれたからよ。
アタシの力じゃない。父さんと森の皆の今までの積み重ねなの。
アタシは言葉を伝えただけ。だからアタシに感謝なんて必要ないよ、お姉ちゃん」
クロエは話し終えると腰をあげた。
「バイバイ、グーアさん達。またね」
グーア達に小さく手を振ると、彼等はグァー!とひときわ高い鳴き声を上げた後、おしりを振り振り森の奥へと帰っていった。
「じゃあそろそろ行くか。良いかな、皆」
ガルシアが子供達の様子を見計らって声を掛けると、荷車から車止めを外しゆっくりと進み始めた。
荷台にはさっき2人が汲んだ樹蜜入りの壺が籠に納められて、しっかり乗っている。
よく見るとその横に、何だかホワホワした固まりらしきものもあった。
「父さん、これ何?」
コリンがガルシアに聞く。
ガルシアが笑いながら
「ああ、それは俺じゃないぞ。ライリーがグーア達から貰ったんだ。
どうやら羽毛らしい。
彼等の巣に落ちてた羽毛を持ってきてくれたようだ。
身振り手振りで伝えてくれていたが、洗ってから使えって言いたかったみたいだ。
そうだろう?ライリー」
と息子に後の説明を託す。
「うん、多分そう言いたかったみたい。後、もし未だ欲しかったら言ってくれって。そんな感じだったんだ。
クロエにも言ってたんじゃないかい?」
今度はライリーが末妹に話を託す。
「お兄ちゃん当たり。今お兄ちゃんが言ってた通りの事、アタシグーアさん達から言って貰ったよ。
流石ライリーお兄ちゃん、もう森の皆とバッチリ交流出来てるね」
末妹はウンウンと頷きながら、兄の言葉を肯定する。
「何となく、ね。皆が必死に伝えてくれようと頑張ってくれてるもの。
僕も必死に読み取らなきゃね。
第一、僕らの為になることばかり伝えようとしてくれてるんだから」
ライリーが真面目な顔で応えた。
「森の仲間は優しいよなぁ。守り人やって大分経つけど、今しみじみ感じるよ。
俺達も森の仲間として、彼等に優しく在りたいし、そう在るべきだよな」
ガルシアが嬉しそうに話す。
子供達もウンウンと同意する。
すると木立の上から柔らかな何かが、彼等の頭上に舞い降りて来た。
幾つも幾つも。
「……凄く柔らかい葉だわ。それにとても良い香り」
「この葉は初めて見るな。何の木の葉だろう。若いな、未だ」
「何かに使えるのではないかしら?拾って持ち帰りましょう。ほら、未だ落ちてくるもの」
「そうだな。捨て置くには少々惜しい程の香りだ。何か蓋のある入れ物に入れた方が良い。瑞瑞しい状態で持ち帰りたい」
クロエとガルシアとミラベルが口々に感想を漏らす。
ライリー達はすかさず、舞い降りてくるその香り高い葉を拾っている。
ガルシアが蓋付きの入れ物を出して、子供達から木の葉を受け取って中に入れていく。
「これじゃ畑に中々着かないな。色んな贈り物を受けとるだけで、精一杯だ。
……森との関係が変わるとこうも違うものなのか」
ガルシアは木の葉を入れ終えると、そう呟いた。
「だから言ったでしょ?漸く父さんと話すことが出来て、森の皆は本当に嬉しくてしょうがないんだよ。
だからこの贈り物攻勢になってるんじゃない?
愛されてるね、父さん」
クロエが父をからかう。
ガルシアは少し頬を赤らめ
「こら、親をからかうもんじゃない。
……どうして良いか解らなくなるだろう」
と心なしか荷車を引く力を強くして、そう溢した。
子供達はそんな彼を楽しそうに見つめる。
やがて木立の向こうに大きく開けた土地が見えてきた。
「ああ!あそこがそうなのですね……!」
エレオノーラの感動した声がする。
守るべき地に着いたのだ。
守り人は時に悲しくも狂ってしまった森の動物に、死を与える務めを担う事もあります。
森の生態系を守り、狂ってしまった動物に安息をもたらす役目を負っているのです。
だからこそ忌み嫌われていても仕方無いと、彼はずっと考えていたのです。
そんな彼が、主人公の力で知ることが出来た森の動物達の思い。
どれ程嬉しかったことか。理解されていると知った彼は今後益々森に対して優しく強くなっていくのです。
なるべく早く更新します。