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やりたい事をやる為に  作者: 千月 景葉
第一章 黒き森
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148. 朝食での会話

お読みくださりありがとうございます。

2人の滞在中の話に突入です。

少しだけ子供を狙う悪い大人の描写があります。ご了承ください。

「おはよう~お兄ちゃん達」


「ああ、おはよう。あれ、クロエは寝てるの?」


「ううん、起きてる。でも中々目が覚めなくてね、用意が少し遅れてるの。もう来るよ」


「昨日わたくしがぬいぐるみの話で夢中になってしまって、クロエを寝かさなかったのが悪かったのよ。

 ミラベルも眠いでしょ?ごめんなさい」


「ううん、アタシは平気。エレオちゃんこそ大丈夫?」


「わたくしも大丈夫よ、ありがとう。

 でもアレ悩むわよね~。どの子にしようかしら?

 クロエの描いてくれた子達、どの子も可愛すぎるのよね~!

 あの子達がホントに作れるのね、信じられないくらい嬉しいわ!

 だけど早く決めないと、今日中に布を決められなくなってしまうし」


「わかる~!アタシも悩んでるから。ホント可愛いんだもの。

 ね!エレオちゃん、もういっそ、全部作っちゃう?」


「え!それ素敵ー!確かクロエの描いてくれた絵は6種類だったわ。

 ……6つ、作れるかしら?わたくし」


「やれるわよ~。時間は有るもの!」


「ミラベル姉ちゃん、エレオ姉ちゃん!全然顔洗えてないよ!

 ほら、クロエが後ろで待ってるから早く替わったげて!」


「あ、クロエ来たのね~!待ってて、すぐ洗うから!」


「おはよ~、良いよゆっくりで。ふわあぁ~!眠い~……」


「ホントに眠そうだなクロエは。

 お前達、ちゃんと夜は寝ないと駄目じゃないか。……エレオ、お前は話し出すと止まらないから、気を付けろよ?」


「分かってますー!お兄様だって目の下に隈が出来ているわよ?」


「え!ホントか?昨日はちゃんと寝たのに……」


「オーウェン、君に隈は無いよ。エレオちゃんの誘導だ、やられたな」


「何?エレオ!」


「ほらやっぱり、お兄様もじゃない!昨日は寝たってことは、一昨日やその前は寝るのが遅くなったのでしょ?」


「一昨日だけだ!後はしっかり寝ている。なぁ、ライリー?」


「うん、寝てるよ。そんなにコリンが保たないしね」


「どうだか。ミラベル、わたくし達だって寝ているわよね~!」


「ええ、しっかり。だけど昨日はぬいぐるみの事が気になって気になって……」


「貴方達!いつまで洗い場で喋ってるの!早く支度なさい!

 先生も父さんも待ってるのよ!」


「「「は、はいっ!しまった、不味い!」」」


「「「ご、ごめんなさい!今行きます!」」」


 ドタバタ!ドドド……!


(まいあさこうれいですのー!みなさま、とてもなかがよろしくてほほえましいですわ~)


「ここちゃーん!ここちゃんどこなの!朝食よーー!」


(キューッ!い、いけない、わたくしがさいごですのね。

 ははぎみ、いままいりますわー!)


 トトトトト……!




 オーウェンとエレオノーラの滞在が始まって、早4日目。


 ジェラルド達が帰った後、森の動物達の歓迎を受けて感動した2人。


 その夜の夕食の席でまず話し合われたのが、オーウェンとエレオノーラをどう呼び、どんな口調で話をするかだった。


 すると2人から、たっての希望が出された。


(敬語は嫌。様も付けないで。是非名前を呼び捨てにしてもらいたい)


 それを聞いたガルシアとコレットは、最初とても困惑した。


 しかし2人の意志は強固で、森の家では普通の子供で居たいからと大人達に頭を下げた。


 ディルクは大きく頷き

「ふんぞり返る馬鹿貴族の子とは真逆じゃな。よい心がけじゃ。

 筆頭侯爵家令息令嬢なればこそ、人に一線を引かれる辛さを身に沁みて解っておるのじゃろう。

 のう、ガルシアコレット。ここはこの子達の希望を聞いてやろうではないか。

 せっかくの機会じゃ。せめて呼称くらい、変な身分の隔てを無くしてやりたいではないか、そうじゃろう?」

 と口添えして2人の願いを後押しした。


 ガルシア達もディルクの言葉に納得し、了解した。


 結果、オーウェンは呼び捨て、エレオノーラは略してちゃん付けし、エレオちゃん。


 2人がガルシアとコレットを呼ぶ際はオーウェンは叔父さん叔母さん、エレオは叔父様叔母様呼びと相成った。


 1日目は呼び方話し方に慣れず双方ギクシャクしていたが、クロエとコリンが全くてらい無く2人に気軽な口調で話すのを聞いていたら、いつしか他の者も問題なく普段の口調で話すようになった。


 一番時間が掛かったのは側仕え経験のあるコレットだったが、エレオノーラが屈託無く叔母様叔母様と話し掛けるので、次第に態度が解れていき、2日目夜には自然な口調で彼等と話せるようになっていた。


 又2人は部屋を男女別で皆一緒に休めるようにしてくれていたことに、とても喜んだ。


 てっきり兄妹で一室をあてがわれると思っていたからだ。


 コレットが

「だってせっかくですもの。ここは男の子同士、女の子同士で過ごしたいでしょう?

 ガルシアが、2人に滞在を精一杯楽しんでもらいたいって頑張ったのよ~。

 良かったわ、喜んでもらえて」

 と2人の反応に満足そうにしながら話してくれた。


 しかし、やはりと言うか想定内の弊害は出た。


 どちらの部屋も夜遅くまでお喋りが止まず、コレットが

「こらっ!いい加減にしないと部屋を分け直すわよ。早く寝なさい!」

 と叱るのが恒例になってしまったのだ。


 だが、その事すら2人には嬉しく思えた。


 友と時を忘れるくらい楽しいお喋りをして、信頼する大人から温かい叱責をされる。


 これは生まれてから今まで侯爵家令息令嬢として、丁寧だが打算にまみれた応対を周りからされてきた2人にとって、涙が出るほど嬉しいことだった。


 いつも目の前の人の心裏を読まなければならず、常に心許す事が出来ない人間関係。それが貴族というものだ。


 子供でも、いや子供だからこそ言葉巧みに利用されることが当たり前の世界。近寄る者の笑顔を信じてはならない。


 それは全てに於いて心せねばならぬ事。


 幸いにも両親は温かい愛情を注いでくれるが、だからと云って甘えてばかりいられない。


 寄ってくる有象無象の(やから)たちを前に、如何にそつなく振る舞えるか、少しの隙を見せず彼等をあしらえるか。


 ……それを生まれてからずっと求められてきた2人。


 優秀な素養故何とかそれをこなしてきたが、気が付けば友と呼べる人間が作れない自分達になってしまっていた。


 だがそれも立場上、致し方の無い事だと諦めていた。


 そこに与えられたこの状況。


 2人にとって、思い描く事すら許されなかった夢のシチュエーションだったのだ。


 例えこの状況を作ってくれたのが、実の妹だと呼んではならないクロエだったとしても、2人は神に感謝したいと思った。


 そしてその大事な妹はと云うと。


 理想を上回って触れあえば触れあうほど、話せば話すほど、今すぐ実の兄だと姉だと名乗り出たくなる位に可愛くて仕方の無い子だった。


 出来るならインフィオラーレに連れ帰りたい。そう、強く思う。


 だけどそれは許されないし、クロエの事を思えば今のままが一番彼女にとって幸せだろうと解りきっている。


 だから妹や友と共に居られる、この永いようで短い森の家での滞在期間を、精一杯大事に過ごそうと心に決めた。


 二度と来ない夢の様な時間。


 その中に今、オーウェンとエレオノーラは居た。





「全く。貴方達、お喋りは構わないけど、先にやらなきゃならない事はやってからにしなさい。

 さぁ、準備できたわね?では、いただきます」


「いただきまーす!」


 しっかり叱責が入った後、皆で食事前の挨拶をし朝食を囲む。


「今日は畑に朝から行くんだな?全員か?」

 とガルシアが問う。


「そうね、帰ってから裁縫と勉強に分かれるのよ。男の子達は勉強。明日は女の子達が勉強だから。

 お昼は家ね。じゃあ食べ終わったら皆準備を早くしてね?」


 コレットがそうガルシアに伝え、子供達に指示をした後、ディルクが思い出したという風に口を挟む。


「あぁ、夕方に全員でそろばんをやるからの。そのつもりでな」


 エレオノーラがその話を聞きながらニコニコとオムレツを口に運びつつ、感想を漏らす。


「今日も予定が盛り沢山ですわね~。こんなにやることがいっぱいなんて嬉しいですわ!」


「エレオ、家では予定があったら始終文句ばかり言ってたじゃないか。どういう心境の変化だ?」


 オーウェンが一足お先に食べ終わり、口を拭きつつエレオノーラに聞く。


「だって一人でお勉強やダンスの練習しても、つまらないではありませんか。いつもツンとした先生方に囲まれて

「お嬢様、よろしいでしょう。ですがもう少し優雅さをお出しになってくださいませ」

 とか

「お嬢様、そうではございません。もう何度も申しました。お兄様は直ぐお出来になられましたよ。

 お嬢様もお兄様を見習って、努力なされますよう、切に願います」

 ってくどくど言われ続けるのですよ。楽しい筈ありませんでしょう?

 それに比べて、ここでのお勉強は楽しくて楽しくて仕方無いんですもの!」


 エレオノーラの言葉にオーウェンが顔をしかめながら頷く。


「ああ……ダレンか。あのダンス講師、気持ち悪いんだよな。

 クネクネと変な仕草だし、猫撫で声で話すし、何かと直ぐ体は触ってくるし。

 ……エレオ、まさかお前もそんな目に有ってたのか?!」


 オーウェンが顔を強張らせて、エレオノーラに鋭く問い掛けた。


 エレオノーラは大きな目を丸くし、否定の意を込めて首を横にブンブンと降る。


「え、まさか!体なんて触ってきたことありませんわ。

 寧ろあの者は何故かいつもこちらを睨んできて、お兄様の事は手放しで誉めるのですけど、わたくしにはきつい言葉ばかり投げ掛けてくるのですよ?

 それにわたくしの時間は侍女も居りますし。え……お兄様、まさかあの先生って」


「……帰ったら直ぐ父上に言おう。これは危険だ、主に僕が」


 オーウェンが肩を落とし、ガックリと俯いた。


「そ、そうですわね。お兄様には申し訳無いけど、わたくしが標的では無くって良かったわ」


「まぁ……そうだが。だが、今になって僕も寒気がしてきたぞ……」


  (うわぁ……ホントに貴族の世界って感じ~。って、オーウェンお兄ちゃんはダンスの先生に、つまりは狙われてたって話?

 ディープだわ……爛れてるなぁ。モグモグ)


 クロエはパンを口に運びながら、2人の話に耳を澄ませる。


「ねぇ、何でオーウェン兄ちゃんが危険なの?体触られたら何かあるの?」


 目をキラキラさせたコリンが、オーウェンに無邪気に問い掛ける。


「こ、こら!余計な事を、この馬鹿!」


 ライリーが慌ててコリンを黙らせるべく、口を挟んだ。


「ライリー兄ちゃんは分かったんだ!教えてよ、僕わかんない」


「コリン、あんた母さんに睨まれてるわよ?早く食べた方が良いんじゃない?」


 ミラベルが静かにコリンの注意を引く。


「あ!い、今から食べるから!」


 するとディルクが眉を寄せながら、オーウェンとエレオノーラに目を向けて話を始めた。


「……オーウェン、儂が今日にもジェラルドに伝えておこう。他にその様な不埒な講師は居らぬのか?

 ブライアンにしては珍しいな、そんな馬鹿者に気づかぬとは」


「先生、よろしいのですか?助かります。そうですね、今のところ他は大丈夫です。

 そのダレン講師なんですが、恐らく父が王都に出向いていた際に採用した講師であったと記憶しています。確か母が面接をした筈です。

 どうやら彼は、女性に対しては厳格な物言いをする者の様ですから、母も見抜けなかったのではないかと……」


「其奴、今までの経歴を洗った方が良いな。詐称しているやもしれぬ。

 ……喰われた者が隠れ蓑になっていることもあるだろうからな」


「そう、ですね……。もっと早く父上に言えば良かったな」


「いや、これは其方ではなく親の手落ちだろう。アナスタシア嬢は聡いが、少々その手の話には疎いからの。

 やはり講師採用などの際は、ブライアンに面接を必ずして貰うが良かろう」


「はい、僕も以後気を付けます。エレオはどうなんだ?何か気になる事はないのか?」


「わたくしは特に……。あ!講師ではありませんが、一人気になる者が。考えすぎなら良いのですが……」


「フム、畑から帰ったらその話も聞こう。今日の夜、ジェラルドに法具で通信を行う。

 それまでに奴からインフィオラーレに伝えてもらう事柄をまとめておくとするか」


「すみません、よろしくお願いします……」


 オーウェンとエレオノーラがディルクに頭を下げる。


 コレットが苦笑して2人に声を掛ける。


「2人とも大変よね。でも立派ですよ、ちゃんとこなしておられるんだから。

 貴方達も2人を見習って、頑張らないとね。特に文句の多いコリン君はね?」


「え!何で僕?!僕、今頑張ってるじゃないか、母さん!」


「……クロエと同じ時間で勉強したいっていつも文句言ってるでしょ?」


「だってその方が勉強はかどるし、楽しいもん!文句じゃないよ、希望だよ!」


「物は言いようだな。さぁ、皆食べ終わったら畑に行くぞ。俺は先に準備してくる。

 ごちそうさまでした!じゃあ母さんよろしく」


 ガルシアが食後の挨拶をして先に席を立った。


 コレットが頷き、子供達に笑い掛ける。


「さぁ、食べ終わったかしら?皆、良いみたいね。

 では手を合わせて!ごちそうさまでした」


「ごちそうさまでした!」


 声を揃えて挨拶すると、カチャカチャと音を少し立てながら食器を皆で片付ける。


 2人もこの家の者達と同じ様に動く。


 心なしか嬉しそうに。


 外は快晴。但し森の中なので、木立の間から降り注ぐ光のシャワーでの判断。


 次は守るべき地の畑でお手伝いだ。


 エレオノーラにとっては初めての事。オーウェンだって彼女と余り変わらない。


 嬉しい、楽しい!


 そんなワクワクした気持ちに2人は包まれていた。






なるべく早く更新します。

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