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やりたい事をやる為に  作者: 千月 景葉
第一章 黒き森
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147. 秘密の共有

お読みくださりありがとうございます。

森の動物達との触れ合いです。

次は子供達の楽しい日々を書きます。

「ざざさん、森の皆さん、こんにちは。いつも森の恵みをありがとう!

 ここちゃんに聞かせてもらったんだけど、今日は2人の歓迎のために持ってきてくださったんですか?」


 笑顔で森の動物達を出迎えたクロエは、先頭のざざに開口一番、そう問いかけた。


 彼女の後ろでその歓迎の対象である、オーウェンとエレオノーラが目をキラキラさせながら成り行きを見守っている。


(クロエさま、おげんきそうでなによりです。

 はい、ここよりおききしまして。

 われらもクロエさまのだいじなきゃくじんをおもてなしさせていただきたく、みなでいまとれるもりのめぐみをもってまいりましたしだい。

 どうかおうけとりを。

 さぁみんな、クロエさまのごかぞくがおうけとりなさりやすいように、じゅんばんにこちらへはこんできてくれ!)


 ざざがクロエに話す姿を、感動の面持ちで見つめる2人。


 実際には、ざざの“グガガ、グアア、グガ”という声が繰返し聞こえるだけなのだが、何故かその声がとても優しく、愛情溢れるものに2人には聞こえた。


 クロエが笑顔でざざ達を応対する。


「暫く森で過ごされるお2人です。こちらがオーウェンお兄ちゃん。で、こちらの可愛い方がエレオノーラお姉ちゃんです!

 お2人も皆さんに挨拶とお礼が言いたいんだって。

 ほら、お兄ちゃんお姉ちゃん!」


 ざざに話し終えたクロエは1歩下がって、オーウェン達を促す。


 2人は物怖じすることなく、流石侯爵家令息令嬢と周りが感嘆する礼をとってみせた。


「はじめまして森の皆様。御逢いできて光栄です。

 僕はオーウェン、こちらは妹のエレオノーラでございます。僕達のためにこの様な歓迎をありがとうございます。

 暫く守り人殿の家で過ごさせていただく予定です。

 どうかよろしくお願い申し上げます」


「エレオノーラでございます。兄共々どうかよろしくお願い申し上げます。

 皆様に御逢いできて、わたくしとても嬉しいです!どうか仲良くしてくださいませ!」


 2人の丁寧な挨拶に、ざざたちも可愛らしくぴょこぴょこと頭を下げる。


 彼等の言葉は解らなくとも、温かな気持ちは確かに伝わってくるので、オーウェン達の心は感動で満たされていた。


 そんな2人の横からコリン達が顔を出す。


「こんにちは皆さん、いつも恵みをありがとう!

 わあ、今日の森の恵みはいつもより凄いや!

 皆凄く頑張って下さったんだね~。

 母さん母さん、見て見て。

 あんなにいっぱいだよ、嬉しいねっ!」


 コリンが顔を輝かせてコレットに話す。


 ミラベルやライリーもウンウンと頷き、器を抱えたままコリンに同意する。


 コレットは笑顔で器に蜜を移し替え、森の皆にお礼を言っている。


 そうしている内、コレットがある動物の手に傷を見つけた。


「あら?待って!大変、貴方血が出ているわ。今薬を持ってきますから、このまま待っていてください!

 結構深そうだし、化膿しちゃうといけないものね。

 あぁミラベル、桶に綺麗なお水とそれから布を持ってきて!

 あら?あそこのあの子も可愛い尻尾に血がついているわ!貴方もこちらに来てくださいな。

 ……もしかして私達に持ってきて下さった森の恵みを取るときに、怪我なさったのじゃない?だって未だ新しい傷ですもの。

 なんてこと!こうしちゃ居られないわ。皆さんの体を見せてくださいな!

 私達のために無理をなさったのなら、申し訳無いわ。手当てさせて頂かなくては!」


 コレットの言葉にクロエが驚いて、ざざに尋ねる。


「ざざさん、母さんの言うとおりなの?皆、恵みを集めてて怪我しちゃったの?」


 ざざは一瞬躊躇したが、項垂れて答えた。


(いや、その。われらにはこのていどのきず、なんてことはありませぬ。おきになさらず。

 たしかにははぎみのおっしゃるとおりなのですが、もりにはいろいろなけいたいの、くさやきがあります。……なかにはトゲのあるものも。

 ですからめぐみをあつめると、どうしてもちいさなきずはできてしまうのです。

 しかしわれらはかごをうけておりますゆえ、きずもよほどのものでないかぎり、わりあいはやくいえるのです。ですから、どうか……)


 しかしクロエはざざの言葉を最後まで聞いてはいなかった。


「母さん!母さんの言う通りだよ。皆、アタシ達のために集めてくれてて怪我したみたい!

 皆の手当てしなきゃ、早く!」


 コレットに振り向いてクロエが叫ぶ。


 応えるようにコレットが頷いてディルクを見た後、彼女はミラベルと「わたくしもお手伝いしますわ!」

 と叫んだエレオノーラとコリンを引き連れて家に走っていく。


 ディルクはコレットに頷いた後、クロエとざざ達に向き合った。


「では儂がこの子達の体を診よう。

 すまんがクロエ、今ここに居る森の住人達にその場に座ってくれるよう言ってくれぬか。順番に診ていくのでな。

 小さな怪我でも放ってはおけぬ。傷が化膿すれば、森では中々治せぬ筈。

 クロエ、頼むぞ」


 クロエがディルクの言葉を聞いて、そのままざざに伝える。


 ざざは固辞しようとしたが、クロエが腰に手を当てて

「だめっ!手当てしなきゃ!

 でないとアタシ、これからざざさん達と遊べなくなっちゃう。

 ……だって遊んでても、今この子は無理してるのかもしれないって考えちゃうようになるでしょ?

 だから怪我したり、辛いときは無理しないで欲しいんだよ。

 それに薬の材料だって、ざざさん達から貰ったものも多いんだよ?

 お願いだから、先生に診て貰って。そしてアタシ達に手当てさせて。

 ね、ざざさん!」

 と強く言い張る。


 自分達が守護する巫女に強く言われれば、彼等に選択の余地はない。


 ざざは仲間を見回すと

(……おおせのとおりに。みんな、クロエさまのおっしゃるとおり、すわりなさい)

 と指示をし、自らも座る。


 クロエは安心したように頷くと、ディルクを見た。


「ではクロエ。儂の先に歩いておくれ。儂と共に彼等を診て、儂の言葉を彼等に伝えておくれ」


「はい、分かりました。

 じゃあライリーお兄ちゃんとオーウェンお兄ちゃん。アタシと一緒に先生の指示を聞いて、母さんに伝えてくれる?

 じゃあ始めましょう!早くしないとね」


 その後ディルクの診断を聞いて軽傷はコレットが治療し、化膿しそうな傷や以前の傷で状態の良くないものはディルクが治療していった。


 幸い彼等の負った傷で重いものは無く、消毒と化膿止め等で対処出来たのでクロエ達もホッと胸を撫で下ろしたのだった。


「良かったわ、誰も大きな怪我をしてなくて。

 これからは無理しないでね?

 森の恵みはとても嬉しいけれど、その為に皆が無理して怪我するなら、アタシ申し訳無くて貰えないわ。

 皆、体を大事にして欲しいの。

 どうかお願いします」


 クロエがそう言うと、ざざや森の住人達は口々に申し訳なさそうに声を漏らした。


(はい、そうですな。むりをしないよう、われらもこころします。

 かえってごめいわくをかけてしまうとわかりましたから。

 みなさま、われらをてあてしてくださり、ありがとうございました。

 ではわれらはこれにてしつれいします。

 クロエさま、みなさま、それでは)


 ざざたちは深々と一礼し、その後ゆっくりと森の奥に消えていった。


 彼等が森に帰った後、オーウェンとエレオノーラがクロエに話し掛けた。


「……ここちゃんだけじゃ無かったんだね。森の動物達皆、クロエと仲良いんだ。

 まさかここちゃん以外の動物達と会えるなんて、ビックリしたよ。

 ここちゃんだけでも、お祖父様は目を剥き出しにして

「何故、森の住人がクロエの肩に乗っとるのだーー?!」って叫んでたんだもの。

 これを知ったら腰を抜かすだろうな……」


 オーウェンが遠い目をして言った。


 エレオノーラは、胸の前で祈るように両手を握りしめて

「夢を見ているようですわ……。まさか動物達と人が言葉を交わすことが出来るなんて。

 クロエは本当に凄いのね。

 わたくし、尊敬しますわ!」

 と感じ入った様子で呟く。


 クロエは照れ臭そうに笑っていたが、直ぐにスッ……と表情を引き締めた。


「たまたまそういう特技がアタシにはあったみたい。

 ……でも2人にお願いがあるの。

 アタシが森の皆と喋れる事、森の皆と交流がある事、森を出たら絶対に言わないで!

 この森と森の皆と、守るべき地を守るためなの。

 勿論ジェラルド様にも、よ?

 ……これは森の中だけの秘密。決して森の外では口にしてはならない。

 2人に教えたのは、2人が子供だったからなの。

 森の皆は子供には優しい。だけど大人にはそうじゃないの。

 例外なのは父さんと母さん、ディルク先生。

 森に永く滞在しているしアタシの保護者だから。……特に父さんは守り人だしね。

 だけどジェラルド様や騎士様、側仕えの方達はそうじゃないから。

 厳しいけど、森の中と外は違うの。外の人には話してはならない。

 実は2人に話すことだってとても危険なの。だって森に居着く訳では無いし、暫くすれば又森の外の人になる。

 本来、森は厳しい所よ。

 だからもし森の外で秘密を話したりすれば、2人に何が起こるかわからないし、森やアタシもどうなるかわからない。

 でもアタシはオーウェンお兄ちゃんとエレオノーラお姉ちゃんを信じてます。

 だから約束してください。

 この森の中の不思議なことを決して口外しないって。

 ……そしてアタシの特技の事も。約束出来ますか?」


 クロエの静かな言葉に2人は顔を引き締める。


 そして真剣な表情になり、大きくコクンと頷いた。


「判った。約束する。両親にもお祖父様達にも話さない。

 この先、例えどんなに心許す人が出来ても森の事や君の事は話さない。

 クロエ、君に誓うよ」


「わたくしも誓いますわ。決してこの森の外では話しません。

 今この場に居られる人達以外には、例え森の中でもこの事は口に致しません。

 全てを守るには、そうしなければなりませんもの。

 信じてくれた貴女や森の方達を裏切る事は、わたくし致しません。

 ……わたくし達を信じてくれてありがとう、クロエ」


 そう言って2人はクロエに礼をとった。


「え?や、やだ、そんなお辞儀なんてしないで!

 2人は絶対信頼出来る人だって解ってるから、最初から皆に会って貰ったんだよ。

 父さん達だって反対しなかったよ。

 ごめんなさい、厳しい事を言ってしまって。

 さぁ、この話はここまでにして家の中に入りましょ!

 アタシ達も母さんのお手伝いしなきゃね」


 クロエは慌てて2人にそう言って、家に体を向ける。


 2人はそんな小さな彼女に従い、同じく家に足を向けた。


 ふと見ると、他の家族は既に森の恵みを抱えて、家の中に運び始めている。


「あぁ、早く3人共手伝って!

 未だ未だ有るのよ。洗い場と台所に持っていって頂戴。

 せっかく森の方達が怪我をなさってまで、持ってきて下さったのよ。

 1つも無駄には出来ないわ!

 だから早く~!」


 コレットが3人を見てそう叫んだ後、バタバタと家に消えていく。


「「「はーーい!分かりましたーー!」」」


 3人は声を揃えて返事すると、直ぐ様手伝いに向かったのだった。


因みに森の中の事をクロエ以外の者が口にすると、声が出なくなります。2人についてもおなじです。子供であれ、大人であれ同じです。

喋って良いのは守護を受けているクロエだけ。

他の者は森の結界を越えると、森の縛りを受けます。森の秘密は、森の外で話すことが物理的に出来ないのです。

森はそこまで人間を信頼していないということです。

因みに今までそんな目に有った人は居ません。

森の中に入る人はジェラルド達によって、厳選されているからです。

上記の事に関しては、クロエは勿論知りません。

だからわざわざ口止めしているのです。

因みに2人も知りません。悪しからず。

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