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やりたい事をやる為に  作者: 千月 景葉
第一章 黒き森
141/292

145. 楽しい生活の始まり

お読みいただきありがとうございます。


今回は主人公の実兄姉2人が来る直前のお話です。

久し振りに兄弟のやり取りを書いた気がします。気張らず楽しく書けたので、皆様にも楽しんで頂けたら嬉しいです。


 懸念も取り払われて、いよいよオーウェンとエレオノーラがやって来る日。

 ガルシアがいつも通り、森の結界の際まで出迎えに向かった。





 コレットに指示されて、玄関から廊下の仕上げのお掃除をしている兄弟4人は、2人の来訪が楽しみなあまり、ペチャクチャとお喋りが止まらない。


「久し振りだから、ワクワクしちゃうな!会うのが楽しみ~」


 クロエが言うと、同じ様に楽しみにしている兄姉達もウンウンと頷きながら同意する。


「今度は長く居て貰えるもの!一緒に色んな事出来るよね。何しよう?

 野原でピクニックは外せないわよね。後、料理も一緒にしたいし。

 そうだ、エレオ様と何か作りたいな。何か3人でお揃いの物手作りしたい!

 ね、クロエ。エレオ様が来られたら提案出来るようにしとかない?

 勿論アタシも考えるけど、クロエはこういうの考えるの得意でしょ?」

 とミラベルは拭き掃除用の雑巾を持ったまま、クロエに問う。


 同じく雑巾を持ったクロエが頷いていると、桶の水を換えて来たライリーも

「……へぇ、良いねそれ。

 完全なお揃いは流石に恥ずかしいけど、僕達も木工で3人だけの物を何か作りたいよな、コリン。

 お前ももう大分慣れてきたしね。どうだい?」

 と弟に聞いてみる。


 姉妹と同じく雑巾を持っていたコリンはパァッと顔を綻ばせると

「兄ちゃん、ホントに?!わぁ、やりたいやりたい~!

 時間も有るから丁寧に作りたいな。

 父さんに教えて貰って、模様の彫りもしてみたいよ、兄ちゃん!」

 と雑巾を握りながら力説する。


 ライリーは笑いながら

「大きく出たな?難しいぞ、僕も彫り刀は中々使いこなせなくて、大変だったんだから。

 でもやりたいことは良いことだし、父さんに頼んでみるか。

 1か月以上時間があるんだからやれるだろう。

 オーウェン様は器用だから、きっとお前と同意見だと思うよ。

 となると、毎日少しは木工の時間が欲しい所だ。

 先ずはオーウェン様に聞いてみてからだな」

 と1人今後の算段をする。


 そんな風に楽しくこれからの予定に胸踊らせていると

「ほれ、手が止まっとるぞ皆。

 コレットがもう見に来る頃合いじゃないか?

 なるべく早く済ませて、あの2人を出迎える用意をせにゃならんのじゃろ?

 さぁお喋りは後じゃ後じゃ。

 動いた方が良いぞ」

 と客間からディルクが笑顔で4人に注意する。


 4人はその指摘に慌て始める。


「はいっ!しまった、母さんが来る前に終わらせないと。お前達、やるぞ!」


 ライリーが桶を弟妹の間に置いて発破を掛ける。


「「「はいっ!」」」


 と弟妹も声を揃えて返事し、テキパキ動き始める。


 老教師は笑顔でウンウンと頷きながら、静かに客間へ下がった。


(何かこういうのって、良いなぁ。凄く幸せ~。

 心があったかくなるやりとりよね。何気無い日常の幸せって感じ。。

 あぁ、アタシこんな雰囲気が一番好きだわ。

 いつまでもこんな家族で居られたら良いな)

 と考えながら、クロエは四つん這いになって廊下をキュッキュッと拭きつつ、ウフフと笑う。


 ライリーがそんな末妹を見て

「楽しそうだね。クロエってそんなに廊下磨きが好きだったっけ?

 なら決まりだな。これから廊下磨きがクロエの仕事だ。

 母さんに言ってあげるよ」

 と真面目な声で提案する。


 クロエはギョッとし

「ち、違う違う~!さっきの話が楽しかったから、つい笑顔になっちゃったの!

 廊下磨き嫌いじゃないけど、お兄ちゃんのは勘違いだから~!」

 と雑巾を振って兄に抗議する。


 クッと笑ったライリーはクロエの頭をポンと叩くと

「冗談冗談。わかってるよ、大丈夫。

 お前があんまり楽しそうだったから面白くて、つい。

 だって雑巾動かしながらお尻振って拭いてんだもの。

 ここちゃんの尻尾みたい」

 とからかう。


 クロエはお尻を押さえて

「え、アタシお尻フリフリしてた?!うわ、恥ずかしーっ!」

 と手をバタバタさせ、焦る。


 コリンがアハハと笑うと

「クロエなら可愛いから良いじゃないか。兄ちゃんが言う通り、可愛いここちゃんと良く似てるし。

 もしこれがミラベル姉ちゃんなら……、うわっ!」

 と叫ぶと膝立ち姿勢から尻餅をつく。


 見るとミラベルがコリンを横から

「フンッ!」

 と鼻息荒く、ヒップアタックをかましていた。


「アタシが何?言ってごらんコリン。……泣かせてやるから」

 と姉は雑巾を桶につけて洗いながら、弟を脅す。


 弟は尻を擦りながら

「いったいなぁー、もおっ!

 見たろ、クロエ。

 乱暴な姉ちゃんがお尻を振り振りしても可愛くないし、寧ろ誰かがとんでもない目に合うんだ。

 可愛くもない上に乱暴なんだから、怖いだけだよ!

 クロエとの違いはここだよ!イタタ……ったくホントに乱暴なんだから」

 と顔をしかめて言った。


 ミラベルはそんな弟をフフンと鼻で笑い

「これはアンタ限定。口汚い愚かな弟には罰があって当然でしょ。

 アンタがアタシの名前を言う時は、どうせ悪口なんだから。

 弟思いの健気な姉としては、愚かな弟を良い子にすべく当然の躾をしたまでよ。有り難く思いなさ~い」

 と雑巾をパンッ!と拡げながら言う。


 コリンはグッと顎を引くと

「姉ちゃんの見た目はここちゃんよりざざさんだよ!

 ゴツいだけじゃないか。

 ……いや待てよ、あの親切なざざさんが乱暴なゴツい姉ちゃんに似てるなんて言ったら、余りにもざざさんに失礼だ。

 ざざさんの場合はゴツいんじゃなくて、頼もしいんだからな。

 じゃあ、もっと他にこの乱暴な姉ちゃんにピッタリな表現は……」

 と小さな声でブツブツ言う。


 ミラベルはその言葉を聞き漏らさず、直ぐ様反撃とばかりに

「おっと失礼、手が滑った~!」

 と歌うように言うと、雑巾をコリンの顔に向けビュッと投げる。


 ビタンッ!


 見事にコリンの顔に貼り付く雑巾。


「ブハッ!何すんだ、姉ちゃん!汚いじゃないかっ!」

 と雑巾を顔から剥がしながら、叫ぶコリン。


 しかしミラベルはパタパタとコリンに近寄ると、自分の雑巾を奪うように取り上げ

「ホントホント!アタシの雑巾が汚れちゃうわ。

 せっかく洗って綺麗にしたのに。ごめんね~雑巾ちゃん」

 と雑巾に声を掛ける始末。


 コリンがキィーッと歯軋りし

「なんで雑巾に謝ってんだよ!謝るなら雑巾をぶつけた僕にでしょ、乱暴姉ちゃんめっ!

 良いかいクロエ、ぜーったいミラベル姉ちゃんを見習うんじゃないぞ。

 大事な妹までこんな乱暴者になったら、兄ちゃん悲しくて泣いちゃうっ!」

 と地団駄踏んで悔しがり、最後に何故かクロエに向かって懇願した。


 ミラベルが口を歪めながら

「アンタこそ大事な妹に失礼な事言わないでよ。

 上品で優しいアタシが心ならずもこんな事するのは、愚かで口汚いバカ弟のアンタにだけだって言ってるでしょーが!

 ライリーお兄ちゃんやクロエには絶対しないわよっ!

 アンタも2人みたいな良い子になんなさい。

 でも、ま、無理か。

 アンタは元から性格がひねくれてんだもんね~、フンッ!」

 と腰に手を当てて、弟に言い放つ。


 その言葉にコリンは又々悔しがり、ギャーギャー捲し立てる。


(うわぁ、口が達者な姉にやり込められる弟……どっかで見た光景だわ~。懐かしい!

 アタシが前の姉弟を忘れずに居られるのは、この2人のせい……否、お陰だね。

 あぁ、いつの世も何処の世界でも、こういうやり取りは不変なんだわ~。何だか嬉しくなっちゃう!)


 ニコニコと2人の喧嘩を見守っている末妹に、長兄が近寄り

「もしかして懐かしい?今、そんな顔してる」

 と小さな声で言う。


 末妹はハッとして兄を見上げる。


 兄はわかってるよとでも言いたげな、優しい顔をしていた。


「……うん、ちょっぴりね。

 前の姉弟もあんな感じで仲良く喧嘩してたんだよ。

 勿論、戻りたい訳じゃないわ。

 でも忘れてしまうのは寂しいの。だからこんな風に共通点を見つけると、何だかとても嬉しくて」

 と末妹も小さな声で応えた。


 すると兄は又頭をポンポンと叩くと

「大丈夫。忘れないさ。

 その記憶のお陰で、今のお前が居るんだし。

 お前が変わらなければ、問題ない。

 ……それに忘れられる訳が無いよ。

 だってほら、目の前の2人が忘れさせてくれそうに無いだろ?

 だけど流石にそろそろ2人を止めないとまずいかもな、全く……」

 と言って溜め息を1つ吐くと、末妹から離れて2人に近寄る。


 未だギャーギャー言い合ってる弟妹に対し、ライリーは殊更にこやかに

「……2人とも、そろそろ止めようか。僕に本気で止められたくなければね」

 と話す。


 するとピタッと声が止まった。


「ア、アタシは別に何も。

 さ、さぁコリンに構ってる暇は無いわ、道具を早く片付けちゃいましょ~。

 あ、クロエの雑巾貸して?お兄ちゃんの桶もね。

 アタシ洗い場に戻してくるわ!」

 とミラベルが慌てて動き出す。


 コリンがその言葉に便乗して

「じゃ、僕のも~」

 とミラベルに自分の雑巾を渡そうとすると

「バカッ!アンタもアタシと来んのよっ!

 早くアタシのハタキを持ちなさい、ほら、さっさと立つ!

 ……もしやアンタ、お兄ちゃんに怒られたいの?」

 とハタキを目の前に突き出しつつ、そう問うた。


「まさかっ!止めてよ、そんな恐ろしい事言うの!

 僕だって怖いものは怖いんだからっ!

 兄ちゃんに今怒られたら、僕泣き腫らした顔で、お2人と会う事になるじゃないかっ!

 そんな事になったら、姉ちゃんのせいだからね!」

 とコリンはブルブル頭を横に振り、姉が差し出すハタキを奪い取りながら悪態をついた。


「何を言ってるんだ。いい加減に……」

 とライリーが幾分低い声で口を開くと

「「わーっ!ごめんなさい!戻してきまーすっ!」」

 と弟妹は慌てて謝り、洗い場に走り去った。


 クロエはクスクスと笑いながら

「流石だね、ライリーお兄ちゃん。

 お兄ちゃんの言葉を聞いた後、お姉ちゃん達の切り替えの早さったら。

 見てて楽しいよ、フフッ」

 とライリーに話し掛ける。


「……こういうのって疲れるんだよ、僕。

 そうだ。ね、今度はクロエがあの2人を止めてくれないか。

 25才だったんだから、こんな仲裁お手の物でしょ?」

 とライリーはクロエを軽く睨んで、不貞腐(ふてくさ)れたように言う。


「あ、それは無理。アタシがやっても意味無いよ。

 多分2人はアタシを自分の味方にしようとして、益々言い合いが激しくなると思うから。

 アタシが止められるのは、せいぜいあのお爺ちゃん達位だよ」

 と肩を竦めてクロエが言った。


 ライリーは顔をしかめるとおでこを押さえて

「……確かに。その様子が見える気がする。

 アイツ等普段はああじゃないのに、何でか4人集まるとこうなるな。

 大した理由もないのに」

 と又1つ溜め息を吐く。


 そんな兄をクロエは優しく見つめながら

「フフッ、ミラベルお姉ちゃんもコリンお兄ちゃんも甘えてじゃれてるだけだよ。

 ライリーお兄ちゃんが居る時だけなんて、解りやすくて良いじゃない。

 お兄ちゃんなら頼って甘えても許してくれるって安心してるから、普段やらないこともしちゃうんだろうね。

 アタシもその気持ち解るなぁ。

 まぁ頼られるお兄ちゃんは大変だと思うけど。……頑張れ?」

 と小首を傾げて茶目っ気たっぷりに励ます。


 ライリーはクロエをチラリと見ると

「安心して甘えられる存在、か。

 ミラベルはともかくコリンに関しては、あの性格だから充分周りにも上手く甘えられてると思うんだけどね。

 まぁ一番上ってこんなものなんだろうな。

 ……そうだ、クロエは確かお姉さんが居たんでしょ。

 やっぱり甘えたりしてた?」

 と彼女に()り気無く質問した。


 クロエはうーんと唸りながら腕組みをすると

「お兄ちゃん、聞きたいの?アタシの前の話」

 と兄を見上げる。


 ライリーはクロエの言葉に頬を若干赤らめつつも

「そりゃあね。大事な妹の事だもの、知りたいよ。

 ね、どうだったの?」

 と更に突っ込んできた。


「えっとね、前のお姉ちゃんは……」

 とクロエが話そうとすると

「ライリー、クロエ!貴方達もそんな所で喋ってないで、掃除が終わったのなら早く手を洗いにきなさい。

 ミラベルとコリンはもう洗ってるじゃないの。

 もうすぐお着きになるわよ」

 とコレットが洗い場から2人を呼んだ。


「あ、はーい!ライリーお兄ちゃん、この話は又今度ね。

 手、洗いに行こっ!」

 とクロエがパタパタと洗い場に走る。


「はぁい。……なんでこういう時ばっかり邪魔が入るんだろうな、ホント」

 とライリーは口を尖らせて小さく毒づくと、末妹の後を追った。





 手を洗い、身だしなみを各自整えて出迎える準備を終える。


「……そろそろ家の外に出てお待ちしましょう。

 もうお着きになる頃合いだわ。

 さぁ皆、表にね」

 とコレットが子供達と老教師を促して、玄関の扉を開ける。


 程無く森の向こうに馬の影が見え始めた。


「母さんの言う通りだ!もうあんなに近くまで来てるよ」

 とコリンが興奮したようにその方向を指差す。


 子供達は急いで家の敷地ギリギリまで出迎えに走る。


 クロエはスゥーと息を吸うと

「オーウェンお兄ちゃーん!エレオノーラお姉ちゃーん!待ってたよーっ!

 いらっしゃーい!」

 と大声で叫び、両手を大きく振る。


 兄姉もそんな末妹につられるように

「「「いらっしゃーいっ!!」」」

 と大声で叫んで、手を千切れんばかりに振る。


 すると森の向こうから

「ごきげんようーーっ!約束通り来ましたわーーっ!

 今度こそいっぱいいっぱい遊びましょーーっ!よろしくーーっ!」

 と負けないくらいの大声で返事が返ってきた。


 馬の向こうに見える馬車から顔を覗かせて声を張り上げている少女と、その横から同じ様に顔を覗かせてこちらを見ている少年が見える。

オーウェンとエレオノーラだ。





 これが、これから始まる彼等の楽しい生活の始まりだった。



気づいた方居らしたでしょうか。ここちゃんが出ませんでした。実は今、ここちゃんは外出中なのです。

理由は次で解ります。とても可愛い理由です。


なるべく早く更新します。

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