144. 三度目の春
お読みいただきありがとうございます。
更新が滞りまして、申し訳ありません。徐々にリアルが落ち着いて参りましたので、更新再開致します。
クロエがこの世界に生まれて三度目の春を迎えた。
今年の春は恒例の夏の視察の前に、いつもと違う来客の長逗留予定が入っており、母のコレットやミラベルがいつも以上に張り切っている。
実は昨冬、視察と関係なくジェラルドがオーウェンとエレオノーラを連れ、森にやって来ていた。
但しこの時は僅か2日しか滞在出来ず、帰りにエレオノーラが泣きじゃくった。
「嫌です!帰りません!
だってやっと……やっと来れたのに、わたくしの時はどうしてこんなに滞在が短いのですか、お祖父様!
わ、わたくし……こんなに楽しかったのは生まれて初めてです。だってお友達が出来たのですもの!
どうかお兄様だけをお連れになって。わたくしをこの地に置いてお帰りくださいませ!
わたくしは先生の小屋に居候させていただきますわっ!
もっとここに居とうございます~!ミラベル~クロエ~!」
と子チョスのここを肩に乗せ、ミラベルとクロエにしがみつき、首を横に振りイヤイヤと泣き叫んで抵抗した。
ミラベルとクロエはわんわん泣きじゃくるエレオノーラが何とも不憫でならず、どう慰めたものかと狼狽える。
(エレオノーラさま、おかわいそうですのー!)
ここもキュッキュッと悲しそうに鳴く。
すると横でその様子を見ていたライリーが
「あの……次の視察前に、オーウェン様とエレオノーラ様だけ早めにこちらに来られる事は出来ないのでしょうか?
確かオーウェン様はもう騎士団に入団されるので、お越しになれるのは次が最後になる可能性が高いのですよね?
……でしたら僕達がこんな風に遊んだりして楽しく過ごせるのは、おそらく次が最後になるでしょう。
だからぜひ、お2人だけでもその前から森にお越しいただければ……。
勝手な話をして申し訳ありません。
だけど、このままじゃ……」
とジェラルドに提案をする。
その提案に思いっきり食い付いたのは、なんとオーウェンであった。
「……ライリー、それだよ、それ!素晴らしい提案だっ!
そうですよ、お祖父様。なんで気づかなかったんだろう、今まで!
僕とエレオだけ先に来て滞在させて貰えるなら、一番良い事じゃないですか。
お祖父様はいつもの視察後に僕達を引き取って下されば、州都での執務に支障も来しません。
僕達は側仕え無しで大丈夫、寧ろその方が良い経験になります。
ガルシア殿、コレット殿!
このお願いがこちらにとってご迷惑なのは重々承知しております。又大変厚かましい事も。
ですがどうかお願いします、次の視察前に僕達兄妹を、こちらに先に置いて貰えないでしょうか?!
ライリーの言う通り、何とかギリギリまで入団を延ばしても、僕の訪問はきっと次が最後になります。
この森や家で過ごさせていただいた時間は、僕にとって掛け換えの無い宝です。
……でも後一度しかその時間を過ごせない。
だからこの通りです、お願いします!」
と頭を下げてガルシアとコレットに頼み込むオーウェン。
泣きじゃくっていたエレオノーラも慌ててミラベル達から離れて兄と並ぶと、涙でぐしゃぐしゃになった顔でガルシア達に向い同じ様に頭を下げる。
「お、お願いでございます……お兄様が仰るようにわたくし、自分の事は自分で出来る様にして参りますわ。
今回のように皆様のお手を煩わせたり、何も出来ないままではこちらに来ません。
お兄様と2人で、こちらでお手伝い等も出来る様に自らを鍛えてから参ります!
ですのでどうか……!うっ……」
と最後は又泣き出した。
ガルシアとコレットは互いの顔を見て頷き
「オーウェン様、エレオノーラ様。頭をお上げ下さい。
元々私共は貴殿方のお祖父様から、この地の管理を任されているのです。
そのお孫さんである貴殿方のご訪問を歓迎しこそすれ、拒む筈がありません。
……くだけた話をさせていただくならば、お2人はうちの子達と楽しく遊んだり勉強したりしてくださる貴重な方々なのですから、勿論うちとしてもゆっくりの滞在は大歓迎ですよ。
それに頑張ってお手伝いもして下さるなんて嬉しいお申し出じゃないですか!
ここまで私共を気遣って下さるなんて、却って申し訳ない位です。
いつでもお越しください。そしてゆっくり滞在してください」
とにっこり笑いながらガルシアが応えた。コレットも満面の笑みで頷く。
オーウェンとエレオノーラの表情がパァッと輝いたのとは裏腹に、祖父であるジェラルドが焦り出す。
「待て待て!そんな迷惑を掛けてしまうのは流石の儂も気が引ける。幾らなんでもコレットの負担が大き過ぎるじゃろうが!
……子供が6人じゃぞ?おまけに口煩い年寄りもおるんじゃし……。ガルシア、流石に無理ではないか?」
と首を横に振って否定しようとする。
ディルクがそのジェラルドの台詞に牙を剥いた。
「やかましい、誰が口煩いだっ!
貴様のように、誰ぞの手を煩わせなければ生きていけぬ役立たずと、この儂を一緒にするでないわっ!
儂は自分の事は自分で出来る自立した男じゃからな。
だからエレオも思わず儂のところに居候すると言うたんじゃ!儂を自立した大人だと見抜いておったのじゃ。のう、エレオ。
流石はあのブライアンとアナスタシアの娘よ。人を見る目は確かじゃ、うん。
それにオーウェンも今言うたであろう。自分達は側仕え無しで大丈夫、良い経験になると。
その心意気や、良し!2人共堕落しきったクソジジイに似ず大変よろしい!
自分達をこの自然溢れる清らかな地で鍛えたいと言うその向上心と自立心、誠に素晴らしい!
ガルシア、コレット。
儂からも頼む、健気な2人を是非とも預かってやってくれ。
勿論儂も及ばずながら助力するでな。
……こら、クソジジイ。貴様も何とか言わんかい!この役立たずめがっ!」
と言うと、老教師は杖でジェラルドの腕をビシッと叩く。
「アイタッ!又叩くっ!止めてくださいと何度も言っとるのに~!
乱暴な元上司め!子供達の情操教育に良くないでしょうがっ!
自立した大人と言うより、偏屈で部下のやることにいちいちケチをつける狭量な性格だったから、とうとう自分で周りの事をやるしかなくなっただけじゃないですか!
細かいし、意地悪だし、短気だし、部下はみ~んな大変だったんだから!
結局気の弱い儂が犠牲になって、偏屈者のアンタの小間使いやらされて……あーっ、地獄の日々が蘇る~!」
とジェラルドは腕をさすりながら、老教師を睨み付け悪態をつく。
「貴様があんまり使えんもんだから、しょうがなく上司の儂が引き取ったまで。
消去法で引き取り手が儂しか残らんかったんじゃ、馬鹿めっ!
他の優秀な部下が貴様の怠け毒にやられる前に、元凶を始末せねばならぬでの。
腐った実は周りの健康な実まで腐らせるしなっ!」
とディルクが悪態で返すと、ジェラルドの頬がヒクヒクッとひきつった。
「誰が腐った実ですか、誰がっ!こんなに旨そうな極上の果実など、他にあるかっ。
……ははぁーん、解りましたぞ。儂が余りに優秀で可愛かったもんだから、そういう囲い込みで儂を手中に納めたのですな?
心裏腹な台詞で誤魔化さずとも、優秀な儂には解ります。
いやはや流石は“知恵者”。欲しいものは汚い手を使ってでも手に入れると。
儂は狙われたのか~、あぁ人心を惑わす位、優秀な自分が怖い!」
と芝居がかった口調でディルクを再び挑発した。
周りが困惑する中、ディルクの眉が寄りお互い一触即発のムードが漂うのを尻目に、それを打ち破る無邪気な声がした。
「空気の読めない仲良しお爺ちゃん達はほっときましょ。じゃれ合うのも歳だからその内疲れて止めるよ~。構うと又調子に乗るし。
そんな事より、父さんと母さんはオーウェンお兄ちゃんとエレオお姉ちゃんが早く来るの、大歓迎なんだよね!
じゃあ問題ないじゃない~。
やった、今度は長く遊べるね!何しようかな、楽しみだ~!
ね、コリンお兄ちゃん!楽しみだねーっ!」
とちょっと茅の外に置かれて寂しそうにしていた次兄に抱き付いた。
コリンは急に抱き付いてきた妹に驚いたが、やがてホワッと笑うと頷いて
「うん、そうだよね。皆で遊ぶと楽しいし!
お2人が長く居てくださると僕も嬉しいな。
ジェラルド様、クロエもこう言ってるからお願いします。妹のお願い聞いてあげてください!」
とクロエを抱き締めたまま、ジェラルドに頭を下げる。
妹を目に入れても痛くないと云った様子で見ながら、ジェラルドに頭を下げるコリンに、皆目を見張る。
「いや、分かっては居るが本当にコリンは変わったのう。これではまるで儂一人がわからず屋の爺ではないか。
……やむを得まい。インフィオラーレには儂から話をしよう。其方等の父は余り良い顔はしないと思うが、ガルシア達からも是非と申し出かあったと言えば否とは言わぬだろう。……骨が折れそうじゃがな。
ではエレオノーラ。此度は帰ろうな?これ以上皆を困らせるでないぞ」
とジェラルドは孫娘に優しく声を掛ける。
エレオノーラは嬉しそうに笑って祖父に抱き付く。
「はい!わたくし、自分を鍛えなきゃなりませんもの。ぐすぐすしてなど居られません。
お祖父様、癇癪起こしてごめんなさい。
インフィオラーレのお父様お母様の元に戻りますわ……今は。
でもすぐ又やって参ります、皆様その時はよろしくお願いします」
とエレオノーラはガルシア達を見て、又頭を下げる。
ガルシア達は微笑みながら頷いた。
こんな一悶着はあったが何とか2人は帰り、その後色々とジェラルドが奔走した結果、ライリーの計画(?)通り2人はジェラルドの本来の視察より1ヶ月以上前に来ることになったのである。
そして2人が来る2週間前辺りから、家族と老教師で準備に動き出した訳だが、2つ問題があった。
先ず部屋割りである。
男の子と女の子に分けると3人3人になり、部屋がどうにも狭い。
次にオーウェンとエレオノーラの組合せにすると部屋の大きさは問題ないが、せっかく長逗留するのに些か寂しく思う部屋割りだ。
では兄同士、姉同士、チビ同士ではどうか。
……何故かライリーとミラベルから異論が出た。
オーウェンやエレオノーラと同室になるのは嬉しいけど、コリンとクロエの組み合わせは色んな意味で危険だと云うのがその理由だ。
コリンが
「色んな意味って何?!何でそんなこと言うのさ!2人の意地悪!」
と叫び、クロエは
「……危険じゃないと思うんだけどなぁ。コリンお兄ちゃん優しいのに」
と呟くと兄姉2人から散々それは違うと言い聞かされる羽目になった。
それを見ていた両親は苦笑して、この案はいの一番に却下された。
悩みに悩んだあげく、とうとうガルシアが下した決断が
「……2つの部屋をもう少し広げる。壁を取っ払い男の子部屋横の物置を小さくして、女の子部屋横の乾燥室を小さくすれば何とかなる!
3人3人が1番だろう?
今ある客用寝室を減らす訳にいかないしな。
……時間が余り無いから、直ぐにかかりたい。材木は大丈夫だが、さてどこまで広げるかだな。
早速図面を描くとするか!」
と家族と老教師に話すが早いか書斎にこもった。
家の図面を引っ張りだして半日ああでもないこうでもないを繰り返し、漸く拡張部分を決めると木工小屋に走り材料を切り始めた。
その改装期間、子供達は客用寝室に避難した。
そして1週間掛けずに壁の拡張工事は終了し、各子供部屋にベッドを1つずつ無事増やせたのである。
家側の問題はこれで解決したが、後もう1つの方が難題であった。
森から他言無用とされた、クロエの森の守護に掛かる、森への子供(クロエと付き添いのライリー)だけの外出をどう誤魔化すかである。
前は2日だけの滞在であったから問題はなかったが、今度は1ヶ月以上に渡る滞在となる。何があるか分からない。
これは森にお伺いをたてた方が良いなと、クロエも家族も老教師も意見が一致した。
と言うことで、朝からクロエはライリーをお供に森へ出掛けることにした。
ここが先ず森の仲間へ伝令の為、先触れとして向かった。
それから程無く、肩にここを乗せたお迎えのざざが家の前に現れた。
クロエとライリーは家族に手を振り、森の中へ向かう。
ざざがクロエを優しく抱き上げ腕に座らせる。
ライリーの肩にここが乗り、その横を歩く。
暫く森の仲間達と挨拶したり、差し出される木の実を貰ったりして歩いていたが
「お兄ちゃん、いつもみたいにもうすぐ止まるよ。
悪いけどここちゃんと待っててね。ざざさんと少し離れるから」
とざざの腕に座ったクロエが、ライリーを見下ろしながら言った。
ライリーが心得たように頷き
「ああ、わかってる。森の皆が気を使って顔を見に来てくれるから、全く問題ない。
いつもみたいに動かず待ってるよ。だが、あまり無茶をするな」
といつも通り妹を気遣う。
クロエは兄の気遣いににっこり笑って
「うん、わかってる。ありがとうお兄ちゃん。じゃあね、待っててね!」
と兄に手を振り森の奥へ消えていった。
見送ったライリーは、側にそびえ立つ大木の根元に腰掛けた。
予め森の仲間達が枯れ葉や木の皮を集めて、彼が座り易いように設えてくれている。
「はぁ……何度目かな、こうやってクロエを見送るのは。
何でだろう、無事戻って来るのが分かってても、いつも不安になる。
考えすぎだと分かってるんだが……」
とライリーは頭上の大木の枝や葉を見上げる。
ここが
(ライリーさま、クロエさまはだいじょうぶですの。
でも、だいじにおもうかたをみおくるのがおつらいのはとうぜんですわね。
ああ、ライリーさまをおなぐさめできないわがみがもどかしいですわ……)
とライリーの頬ににスリスリして、キュッキュッと鳴いた。
「慰めてくれてるんだね。ありがとう、ここちゃん。
大丈夫だよ、森の皆が優しいから、寧ろ癒されてる。
ごめんね、気を遣わせて」
とライリーは微笑むと、ここを指先で撫でる。
ここはキュ~と気持ち良さそうに長く鳴き
(ああ、つぼをこころえてらっしゃいますの~!
あなどれないおかたですわ、ライリーさま。わたくしメロメロなのです~)
と尻尾を大きくバタンバタン振り、恍惚とした顔をする。
そんなここを見て、楽しそうに笑うライリーだった。
一方、ざざと森の奥に進んで行くクロエ。
暫くしてざざが歩みを止めた。
それを合図にクロエが辺りに問いかける。
「こんにちは~森さん!少しお話ししたいんですけど、良いですか?」
程無く彼女の脳裏に聞き馴染みのある声が響いてきた。
『元気そうで何よりだ、クロエよ。さて、話をしたいのだな。
場を変えた方が良いか?このままで聞こうか?』
森が尋ねる。
クロエは微笑むと
「このままで構いません。
森さんにお聞きしたいんですけど、今度仲良くしている兄妹が暫くウチに滞在するんですが、この地を守るためにアタシ達がやっちゃいけないことや言っちゃいけないことはありませんか?
アタシ達の為に永く居てくださってるディルク先生が来られたのは、未だアタシが巫女を引き受ける前でしょ。だから父さんもいつも通りの対処で大丈夫だと判断したんですけど、今回は違うから。
アタシが禁忌である筈の森を気楽にお散歩してたり、森の皆と仲良くお話したりしてること、その2人に知られるのはやっぱり不味いですよね?
だからいっそのこと、暫くお散歩もお話に来たりするのも止めた方が良いかなって。
……寂しいけど仕方無いし」
と話す。
すると森から幾つか質問があり、クロエがその問いに答えていく。
主にやって来る2人の人となりに関してだ。
「……あ、それと言い忘れてました。オーウェンお兄ちゃんの魔力ってアタシと良く似てるんです。と言うか、同じですね殆ど。
アタシ1度助けて貰ったんです。その時オーウェンお兄ちゃんの魔力が身体に入って来たんだけど、全然違和感無くって。
で、オーウェンお兄ちゃんは体力使い果たして美味しいお肉を食べ損ねちゃって……。あれは申し訳無かったなぁ。
とまぁ、そんな優しい方なんですよ」
クロエのその答えを聞き、森は又2つ3つオーウェンに対する質問をする。
暫くして森が最初のクロエの質問に答えを出した。
『……ふむ。その2人ならば問題なかろう。普段通りで構わぬ。2人に知られても、森の家の者以外に口外無用とだけ言っておきなさい。
我の外で我の中の営みや禁忌について一切口外ならぬと云う事は、元来からの話。
守り人の其方の父も承知しておろう。
又領主一族に連なる者で有るなら、重みも解っておる筈だ。
其方が気にして行動を抑える必要は無い。安心せよ』
クロエはその答えにキョトンとしてしまう。
「……へ?え、良いの、そんな軽くて?だってとっても好い人達だけど、森の外の人ですよ?
まさかアタシが寂しいって言ったから、気を遣わせちゃいましたか?
アタシにそんな気を遣わなくて良いんですよ!
それよりはこの地の為の判断をしてください。
森さんや森の皆に何かあったら申し訳無いもの」
戸惑いつつ、クロエは森に話し掛ける。
『其方が巫女を引き受けてくれた際、我はこれ以上の枷を其方に課さぬと申したであろう。
あの言葉に嘘はない。
其方を守護する我等が自らを守るが為に、其方を縛るなどしてはならぬ。
森の者達もそう思うておるのだよ。
だから其方は心のままに動けば良い。その来訪者等に我等のことを話すも話さぬも其方次第。
全てはクロエの心のままに』
森が優しく語る。
クロエは暫く眉を寄せて考え込んでいたが、1つ頷くと
「分かりました。
指示された方が気楽っちゃ気楽なんだけど、せっかくアタシに任せるって言って下さってるんだもの。
仰る通り、今まで通りでいきますね。
んー、考え過ぎちゃったかな。家族と先生にもそう伝えます。
そうだ、巫女さま達に変わりは無いですか?どなたか無事務めを終えられたりとか、変化は?」
と森に了承の意を伝え、ふと近況を聞く。
だが森は直ぐに返事を返してこなかった。
「森さん?」
クロエが少し不安になり、もう一度声を掛ける。
『……残念だが、変わりは無い。皆、あのまま褥にて戦いを耐え忍んでくれている。
良い兆候があれば良かったのだが……すまぬ』
森は感情を交えぬ声でそう語った。
クロエは表情を少し翳らせると
「そう、ですか。ごめんなさい、辛い報告をさせちゃって。
又暫くしたら、巫女さま達の元に1度お訪ねしたいです。
……何も出来はしないですけど、お姿をせめて確認したいから」
と気を取り直して森にそう話す。
『ああ、又いつでも言うが良い。さて、兄が待っておるのだろう?そろそろ帰りなさい』
森はクロエを優しく促した。
クロエはコクンと頷いて
「はい。ではざざさんお願いします。
ありがとうございました森さん。守るべき地さんによろしく。
又直ぐ遊びに来ますね。
じゃ、又!」
と森に礼を言って別れを告げ、ざざに連れ帰ってくれるようお願いする。
『ではな、又』
そう言うと森の声は消えた。
ざざはクロエを抱きながら、ゆっくり来た道を戻る。
「ざざさん、聞いてらしたと思うけど、近い内にウチにお客様が来るの。
なるべく森の皆にはご迷惑が掛からないようにしますから、皆にお伝え願えます?」
とクロエはざざに話し掛けた。
(わかりました。なかまたちにつたえておきます。
ですがクロエさま、あまりわれらにきをつかわれませぬよう。
あるじがのべておられたように、われらはクロエさまのためにおります。
クロエさまはおこころのおもむくままに、ごじゆうになさればよいのです。
われらにはそのほうがうれしいのですから)
ざざがクロエに自分達の気持ちを伝える。
クロエはニコッと笑うと、ざざの首に抱きつき
「ざざさん、ありがとう……。
アタシ、こんなに甘やかされて恵まれてるわ。
そうさせて貰います。
でも何かアタシ達のせいで困ったことが起きたら、直ぐに言ってくださいね?
皆さんに我慢なんてしないでって伝えて?」
と謝意を伝えた。
ざざはフッと微笑んだような吐息をし
(……おっしゃるとおりに。
ありがとうございます)
と小さく頭を下げた。
暫く心地好い無言のまま森を歩き、やがてライリーと別れた大木の近くまで戻ってきた。
「あ、ライリーお兄ちゃんが見えてきた!
おーい、お兄ちゃーーん、ただいまー!
お話してきたよーー!」
と彼女はざざの腕に腰掛けたまま大きく呼び掛け、手を振った。
ここがその声に素早く反応し
キュッキューー!とライリーの肩から飛び降り、ざざの元まで走る。
ライリーも立ち上がり、ざさの元に近付く。
「おかえり、クロエ。
じゃあ皆が待っているから帰ろうか。
あ、ちょっと待ってね。さっきここちゃんの友達が、いつもみたいにいっぱい色んな果物や木の実をくれたんだ。
この布に包んで持って帰ろう。
いつも思うけど、ホントにクロエは森の生き物達から愛されてるな。
お陰で僕まで大事にしてもらって、何だか申し訳無いよ」
そう言いながら布に贈り物の森の恵みをまとめ、上手く包むとライリーはそれを抱えた。
クロエはフフッと笑うと
「そうかな?案外ライリーお兄ちゃん自身が好かれているのかもよ?
ここちゃんもお兄ちゃんが大好きだしね、ねぇここちゃん?」
と肩に飛び乗ってきたここにいたずらっぽく言った。
ここはキューーッ!と頷きながら
(そうなのです!あのこたちはライリーさまがすきなのですわ。
ふしぎですの、ライリーさまのちかくはみょうにおちつきますのよ。
もりではじめておうまれになった、にんげんのおこだからでしょうか?
わたしがうまれるまえですから、よくはしらないのですが)
とここはクロエに話す。
クロエは目を丸くし、ポンと手を叩く。
「そうなの?!知らなかった!
アタシは森の外で生まれたらしいけど、お兄ちゃんはあの家で生まれたんだね!
そっかぁ、確かにそれなら森の皆が親近感持っても不思議じゃないね。
なるほどなるほど~」
クロエが一人頷いて納得していると、ライリーが首をかしげて
「何の話?ここちゃんが何か言ったの?教えてよ、クロエ」
と聞く。
クロエはニヤリと笑い
「お兄ちゃんが森の皆にモテてるって話だよ~!
何かお兄ちゃんの傍って落ち着くんだって言ってるよ、ここちゃんやここちゃんのお友達。
凄いね、お兄ちゃん!」
と茶化す。
ライリーは苦笑して
「一応年上なんだから、からかわないでよ。
クロエはこういう時、絶対意地悪になるからな」
と釘を刺す。
その言葉にクロエは自身の頬を両手で挟みながら
「嘘ーっ!アタシ意地悪なんてしないよ!誤解だ~」
と異議を唱えた。
ライリーは首を振り振り
「いや、そこは流石に前の大人の部分が出てるのかもしれないよ。
クロエって、結構からかう材料を手に入れたら容赦ないから。子供の僕にはキツいよ。
……まさかの自覚無しとか?」
とチラリとクロエに視線を向ける。
クロエはブンブン首を横に振って否定する。
「い、意地悪なんてしてない、してない~。ただちょっとからかっただけだってば。
……い、嫌だった?ご、ごめんなさい!アタシ、あの……」
クロエが慌てて言い訳をしながら、ライリーに詫びを入れる。
その様子をじっと見ていたライリーは、急に下を向いて目線を彼女から外した。
「え、やだ。お兄ちゃん、そんなに嫌だったの?
や、ちょっとざざさん降ろして下さい!
どうしよう……?ごめんなさい!もうしないから。ホントにごめんなさい!」
クロエは慌ててざざから降ろしてもらうと、詫びながら兄に駆け寄り顔を覗き込む。
すると唇を噛み締めた兄が我慢しきれずに吹き出した。
「プッ……ハハハッ!もう、クロエはホントに騙され易いんだからなぁ。
少しからかわれた位で僕が動じるわけないでしょ。
だけどホントに25才だったの?こんなにすぐ騙される人、クロエ位だ。
ミラベルより簡単だよ。
何だか前のお前が凄く心配だよ、今更だけど。
ちゃんとやっていけてたの?」
と笑いながらライリーが聞く。
クロエは兄に仕返しされたとわかり、頬をぷーっと膨らませると
「もお!心配して損した!
絶対お兄ちゃんの性格のが、意地悪だっ!
アタシだってちゃんと大人だったんだからね。
騙されたりなんて……そんなにしてない、よ」
と口ごもる。
ライリーは呆れたように片眉を上げると
「……ホントに騙されやすかったんだ。人が良すぎるのも問題だな、先生にも報告しとこう。
クロエの今後のためにも、何か騙されないような教育が必要かもしれない。
僕が横に居れば大丈夫だけど、離れるときもあるからなぁ。
やっぱり相談しよう、うん」
と布包みを抱え直しながら、一人頷いた。
クロエはそんな兄に
「大袈裟だって!大丈夫、同じネタでは騙されないから。
そんな教育なんて必要ないってば。
追々この世界を知ったらしっかりしてきますから!だってアタシ、未だ2才過ぎたばっかだし、ね?」
と説得しようと必死に言葉を重ねる。
しかし兄は妹の声を完全にスルーし
「さ、帰るよ。どうする、歩く?抱っこして貰う?」
とクロエに選択を急かす。
「……ざざさんに抱っこして貰う」
妹は兄の言葉に仕方無く答える。
ライリーは頷き
「じゃあざざさん、妹をお願いします。さぁクロエ、早くして」
と言葉は通じずともざざに頭を下げ、クロエを更に急かす。
「はーい……ざざさん、抱っこしてください」
クロエはざざに両手を伸ばして抱っこをねだる。
ざざは丁寧な仕草でクロエを抱き上げ、ライリーを見て頷いて歩き出す。
ライリーも頷き返すとテクテク歩き出した。
ここはライリーの肩に飛び乗り
(ライリーさまはやはりあにぎみさまだけありますわね。
クロエさま、なぜかさからえないのですもの。
ですがなかがよきことはよろこばしいことですので、わたくしもあたたかくみまもらせていただきますわ)
とキュッキュッと喋る。
「あはは……ありがと、ここちゃん」
と力無くクロエが答える。
「なに?」
ライリーがクロエとここを交互に見る。
「ん……ここちゃんが仲が良いですねって。うれしいって言ってる」
とクロエは答えた。
ライリーがニコッと笑い
「そうか。ありがとう、ここちゃん。
ちゃんと見守ってくれてるんだね、ホントにしっかりしてるなぁ。
クロエもここちゃん見習って、しっかりしないとね。
簡単に騙されるし、心配だよ」
とここを撫でながら呟く。
ここが気持ち良さ気にキュー……と鳴く。
クロエはガックリと肩を落とし
「……はい、精進したいと思います、ウゥ」
と兄に答えたのだった。
なるべく早めに更新します。
一応文章の手入れ(以前ご指摘があった部分)も始めたいと思います。何とか読みやすく出来そうなので。時間は掛かりそうですが。
50話辺りからと申しましたが不器用なので、結局1話目から見ていきます。申し訳ありません。