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やりたい事をやる為に  作者: 千月 景葉
第一章 黒き森
138/292

142. 妹の評価

お読みくださりありがとうございます。

間が開いてすみませんでした。

漸くこの下りのゴールが見えました。だけど未だ尻切れとんぼなので、後1話綺麗に纏めるために入れるつもりです。……長っ!

よろしくお付きあい下さい。

 暫くして小屋にディルクが戻ってきた。


 心なしか申し訳無さ気な表情だ。


 ガルシアの書物を借りると言っていたのに、手には一冊の書も持っていなかった。


 クロエが椅子に座ってボーとしているのを見て

「クロエ……余り落ち込むな。

 あれは……ライリーは頭が良い。儂もついつい、押し切られてしもうた。

 すまんな、お主を嵌める手助けをしたのは謝る。

 だが、ライリーの言い分にも一理有るからのう。

 お主に悪いとは思うたが、今回ばかりは叱られるのもしょうがないと判断したんじゃよ。

 あれは雰囲気こそ柔らかいが、鋭く相手の弱味を突く容赦のない所がある。

 あの年であれは……まっこと末恐ろしい子供じゃわい。

 まぁ今後はお主も気を付けて……クロエ?

 そんなに叱責がきつかったのか?」

 と彼女の顔を覗き込む。


 クロエはディルクに顔を向ける。


「お主!なんて顔色をしとるんじゃ!

今頃疲れが出てきたか?

 いかんな、直ぐに休んだ方が……」

 とディルクは慌ててクロエを抱き上げようとする。


 そんなディルクの腕を彼女は小さな手でキュッと握り

「先生……バレてます。知ってるんです。何で……何で?」

 と怯えた目をしながら聞き取れない位の声で呟く。


 ディルクはただならぬ彼女の様子に、眉を潜める。


「……何の事だ?何がバレたんだ、クロエ。

 お主、一体何をそんなに怯えておるんじゃ。

 ライリーか?あの子が何を知っていると言うのじゃ。

 解るように話してみなさい」

 と静かに彼女に尋ねる。


 クロエはディルクを見上げ、怯えから目を潤ませて

「ライリーお兄ちゃんは……アタシが転生した人間だって事、知ってました。

 アタシが前世の記憶を持ってる事もバレてるんです!

 おまけに、ジェラルド様と先生がその事をご存じなのまで判ってた。

 何で?!お兄ちゃんに何で知られてしまったの?!

 アタシと先生達を見てたら自然と解っただなんて……そんな話信じられない。

 先生、どうしよう……どうしたら良いの?

 それに追々その話を聞かせろって言ってた。アタシは一体どうしたら……!」

 とまで言うと頭を抱えて唸る。


 ディルクが驚愕で目を見開き

「誠か、それは!ライリーがハッキリとそう言ったのか、クロエ?」

 と頭を抱えた彼女に問う。


 クロエが無言で頷いた。


 ディルクも驚きの事実に暫し顔を青くしていたが、やがて溜め息を吐くと悩む彼女の頭をポンポンと軽く叩いた。


「お主のせいではない。すまぬ、儂等があの子を侮っていたのは確かじゃ。

 ……実は以前、ライリーが儂に思わせぶりな台詞を言ったことが有ってな。

 あの時、儂はあの子に何も答えずに済ませたんじゃが、今にして思えば既にあの時点で見抜いておったのやも知れぬ。

 となれば、完全に儂の油断じゃ。

 お主に気を付けろと煩く言っておきながら、この有り様とはな。

 年は取りたくないのう……。

 ……さて、どうするかな」


 ディルクはそうクロエを慰めると、自分の顎を撫でながら思案し始めた。


 クロエは依然顔を強張らせたまま、ディルクの様子を伺う。


 ディルクは暫く目を閉じていたが、やがて目を開けると

「……致し方あるまいな。想定していたより大分早いが、ジェラルドにも話してライリーをこちら側に取り込むとするか。

 まさかこんな形でなし崩しにあの子に話すことになるとは、思いもよらんかったが……」

 と一つ頷いた。


 クロエは目を見開き、ディルクの腕にしがみつくと首を横に振った。


「だ、駄目……駄目です。お願い、止めて……!

 家族から嫌われたらアタシは……!

 言ったらきっとお兄ちゃんはアタシを嫌いになる……やっぱり気味悪い子だったんだ、って目が変わるわ!

 もう妹なんて思って貰えなくなるっ!

 先生やジェラルド様は人生経験も豊富で、色んな人を見てこられたからこそ、こんなアタシを受け入れて下さることが出来たんですっ。

 でもお兄ちゃんはどんなに賢くても未だ子供なんですよ。

 こんなアタシを受け入れるなんて無理だわ。

 お願いです、お兄ちゃんを何とか誤魔化せませんか?!

 後生です先生、お願いします……!」


 見た目通りの赤子の様にイヤイヤと首を横に振りながら、クロエは悲痛な声を上げる。


 ディルクは苦しむクロエを痛々しそうに見つめると、そっと彼女を慈しむように抱き締めた。


「お主にとって本当に大事な存在じゃからこそ、尚更あの子の反応が怖いのだな。

 ……可哀想に、こんなに怯えきってしもうて。

 儂等の油断から、又お主には要らぬ気苦労を掛けてしもうたの。

 じゃがな、心配せずとも大丈夫じゃよ。

 ライリーはある意味、恐らく前のお主以上に大人だ。

 年齢だけで人を判断してはならんぞ。

 正直儂でも、あれの腹の底は読めぬ。

 そんなあの子が、あんな風に儂等を試すように言葉を投げ掛けてきておるんじゃ。

 以前は儂に、そして今度はお主自身に。

 既にお主の秘密を確信し、受け入れておると考えるのが妥当だ。

 寧ろ儂等がいつまでも兄である自分を、大事な妹であるお主の真実から遠ざけたままにしておるのが、もう我慢ならなくなってきおったのであろう。

 今回の件で、お主を守るためには悠長に構えていられぬと開き直りよったのじゃ。

 寧ろ下手に隠し立てすると、次はもっとキツい手を打ってくるぞ?

 さっきも言うたが、アレは容赦ない所があるでな。

 隠し立てしたら、もっと直接的な行動を取ってくるかもしれぬ。

 ……考えたくないであろう?」


 ディルクはそう言うと、怯える幼女の背中をポンポンと軽く叩く。


 クロエはディルクの言葉を聞いていたが未だ納得がいかず、すがり付くような目で

「で、でも!一度言ってしまったらもう取り返しがつきません!後悔したって遅いんですよ?!

 今回誤魔化したら、仰るようにお兄ちゃんは確かに次の手を打ってくるかもしれない。

 だけど知られずに済むのなら、そんなのは構わないっ!

 どんなに責められても、アタシは嫌われたくないんだものっ。

 だってもしライリーお兄ちゃんが真実を知って、アタシを見る目が変わってしまったら?アタシを嫌いになっちゃったら?!

 嫌だ、そんなの耐えられないっ、無理よ!」

 とディルクの腕を固く握りしめる。


 老教師はハァと溜め息を吐くと、泣きそうな表情のクロエの頭を撫でた。


「お主の不安な気持ちは解らんでもないが……。

 のうクロエ、お主は兄のライリーを信頼出来ぬか?

 元々ライリーはそんな話に恐れをなすような弱い子では無いし、寧ろ普通より相当神経が図太い方だと思うがな。

 自ら進んで確かめようとしている真実から、目を背ける奴ではないぞ?

 それにな、儂は何れ儂とジェラルド以外の信頼が置ける若い者に、お主の事を知ってもらわねばとは考えておった。

 その候補に先ず上がるのは、性格からしても情報を秘匿出来るお主の兄のライリーとなる。

 単にその話が速まるだけの事なんじゃよ。

 元々念頭に置いてあった事なのだ。

 ジェラルドも否とは言わぬよ。

 大丈夫じゃ。きっと良いようになる。そう怯えなくても良い。

 ……誰もこんなお主を嫌うなど出来ん。

 だからもっと兄を信じ、自分を信じてあげなさい。

 真実のお主を知られても、皆離れていったり等せぬから」

 と体を固く強張らせたクロエの血の気の無い頬を優しく撫でる。


 クロエは唇を噛み締めディルクを見つめながら

「……怖いんです、とても。

 先生にお話するときは、先生の優しい目がアタシを安心させてくれた。話すまでの猶予を下さったし、アタシに話す勇気も下さったわ。

 ……でもお兄ちゃんは違う。逃げることは許さないって、全てを見透かすような目をしていた。

 アタシ、本気で恐ろしいと思ったんです。

 好意的に思われてなんかいないんです、きっと。

 今会うのも本当は怖い……次は何を言われるかって。

 お兄ちゃんはアタシをどうしたいの……?どう扱うつもりなの。怖い……」

 と呟くとクロエはディルクから手を離して、自分の体をキツく抱き締めて体を縮めた。


 ディルクはクロエを暫く見つめていたが、何かを決めたように口を引き締めると

「わかった。先ずはお主の気持ちを解さねばなるまい。

 クロエ、今の儂を信用出来るか?この前にあのような失言をしてしまった儂を。

 どうかな?」

 と彼女に尋ねる。


 クロエはディルクを見ながら

「はい。勿論信用し、信頼してます。……だからこんなみっともない姿まで見せてしまってるんです。

 だって先生は温かいもの……。

 前の言葉だって、アタシがあの力の事を言っていなかったからだって解ってるし。だからそんなのはもう良いんです。

 先生が居ない方が怖いです」

 と即答した。


 ディルクが優しい目で頷くと

「儂から見ればお主の方が温かいぞ?儂には子がいないから、お主が自分の娘に思えてならん。儂にとってお主は我が子とも思う大事な存在じゃ。

 だからな、儂の目と勘を信用してくれぬか?

 自分の大事な娘に辛い思いは金輪際させぬから。

 ライリーは確かに難しい性格だが、儂から見ても信頼に足る子だ。

 怖いとは思うが、今回は儂を信用しなさい。

 お主が言うように最悪の反応が返ってきたら、その時は儂がお主を引き取る。

 儂がお主を絶対に守る。

 どうじゃな、クロエ。儂に任せてみぬか?」

 とクロエに言い聞かせる。


 クロエはそのディルクの言葉に暫く目を閉じて葛藤していたが、やがて静かに目を開けて

「……では先生を信じます。先生がアタシを悪いようになさる筈ありませんから。

 わかりました、ライリーお兄ちゃんに話します。

 だけど、時間を置いたら又怖くなる。

 今……今、会って話しても良いですか?

 最悪の場合、アタシをお兄ちゃんから離してください。

 ……お兄ちゃんの負担にはなりたくないから。

 お願いします、先生」

 とディルクに答えた。


「ああ、約束する。だが何度も言うがきっと大丈夫。

 お主の元からアレが離れるとはとても思えぬからな。

 寧ろ反対だと儂は踏んどる。……別の意味で厄介だぞ。

 鬱陶しい程にアレはお主を守るだろう。今まで以上に過保護極まる扱いを受けると思うがな。

 まぁ儂の言ったことを覚えておくと良い。

 儂とてただ無駄に年を重ねてきた訳ではないからのう。

 “亀の甲より年の功”じゃ。

 そうじゃろ、クロエ?」

 と彼女を安心させる様に微笑んだ。


 クロエもそんなディルクにぎこちなくだが漸く笑みを返す。


 ディルクはそんなクロエを見て大きく頷いた後

「さて、ではジェラルドに相談は後回しだな。奴はどうとでもなる。

 お主の気持ちを最優先で行こう。

 儂が今からライリーを呼んで来る。その後此処に闇性結界を張る。良いか?

 ……ほんに油断大敵じゃからな。

 ああ、儂は居ない方が良いか?」

 とクロエに聞く。


 クロエは首を小さく振り

「甘えて良いなら、同席をお願いします。

 アタシ一人ではとても……」

 とすがる目でディルクを見る。


 ディルクはクッと笑うと

「いつものお主では考えられん目付きじゃな。

 その様に気弱なお主を見るなど久方振りじゃよ。

 わかった、側に控えよう。

 だがお主が話している間は儂は口を挟まぬ。

 お主がライリーに自分の口から伝えるのだ。

 じゃあ待ってておくれ。

 直ぐ呼んでくるでな」

 と部屋に彼女を残し、出ていった。


 クロエはその後ろ姿を目で追い、ディルクが完全に小屋を出た音が聞こえると、やがて俯いて小さな溜め息を吐いた。





 程無く又小屋の扉が開く音がした。


 クロエの肩がビクッと跳ねる。


 顔を上げ、口を引き結んで部屋の扉を見つめる。


 やがて扉が開きディルクが先ず入り、次いでライリーが入ってきた。


 極度に緊張した表情のクロエとは対照的に、ライリーの顔には些かの緊張感も無かった。


 寧ろ満足気な表情をしている。


「ライリー、椅子に座りなさい。今から闇性結界を張る。

 それまでは話をしないでくれ。2人とも良いな?」


 椅子に座ったライリーとクロエが頷くと、忙しく準備するディルク。


 向い合せに座った兄妹はその姿を見つめていたが、兄が妹の方に顔を向けると妹は辛そうに下を向いた。


 兄はその様子に少し眉を寄せる。


 やがて結界を張り終えた老教師は、続いて飲み物を2人の前に置くと自分はクロエの後方にある椅子に座り腕を組んだ。


 クロエからは見えないが、ライリーから見ると完全に自分を牽制するために、老教師はその位置に座ったとしか思えない。


 思わず苦笑する少年。


 だが直ぐその笑みを消し、妹に話し掛けた。


「クロエから話があるって事だったよね。何だい?凄く緊張してるみたいだけど」


 クロエは顔を恐る恐る上げる。


 その顔色の悪さにライリーは驚く。


「クロエッ!調子が悪いのか?話なんてしてる場合じゃない、早く休んだ方が……」

 とライリーが腰を上げかけると

「……座って、ライリーお兄ちゃん。アタシは大丈夫。ただ緊張してるだけ……。

 お兄ちゃんさっき言ったよね、アタシの夢の世界の話を聞かせてって。

 ……あれはどういう意味なのか教えてくれる?

 どういうつもりであんなことを?」

 とクロエが静かな声で聞いた。


 再び腰を下ろしたライリーはクロエの問いににっこり笑うと

「言葉通りだよ。

 クロエが過ごしてきたこの世界とは違う所……、じゃんけんぴょんやミサンガやそろばんが生まれた世界の事だ。

 クロエ、君は1才だけど君の心はそうではないよね?

 きっと僕よりずっと大人なんだろう?

 君をずっと見てきたから解る。

 ただ賢いと言うだけでは説明がつかないんだ。

 特に先生やジェラルド様と話をしている君を見てると、頑固なお爺さん達の喧嘩を優しく仲裁している大人の女性にしか見えなかった。

 お2人も完全にクロエに甘えきってたし。

 特に先生の態度が、僕やミラベル達に対するものとは全く違っていたんだよ。

 それで確信したんだ。

 お2人は君の心が大人であることをご存じで、その過去も知っているんだろうって。

 ……だからクロエの表情も本当に安らいでいたんだろう?

 兄弟の僕達に見せるいつもの顔じゃ無かった。父さん母さんにもね。

 正直悔しかったよ。僕は兄なのにってね。

 だから君に聞いたんだ。

 妹の事を知りたいと思うのは兄として当然だろう?

 況してやあんな表情を、君は僕に向けてくれた事は無かったんだから」

 と最後は彼女を少し責めるような口調で語った。


 ディルクは己の脇の甘さや愚かさをライリーに指摘され、自己嫌悪に顔を歪ませると片手で顔半分を押さえ、首を振った。


 クロエは兄の言葉を聞き、一瞬目を閉じた。


 次に目を開けると、彼女の纏う雰囲気が変わっていた。


 ライリーはその変化に息を呑む。


 そこに居るのは姿は確かにクロエだが、その醸し出す佇まいはクロエではなく別の誰かのものだと感じる。


 又、目の表情も違う。

 いつものあどけなさが消え、凛とした大人の目付きになっている。


 勿論、見た目が変わった訳ではない。


 ライリーが受ける印象の話だ。


 だが、彼女を知る者なら誰でも明らかに判る変化だった。


 ライリーは目を見開いてクロエを見つめる。


「凄いね。本当にライリーお兄ちゃんって賢いんだ。

 まさかそこまでアタシを見抜いてたなんて、思いもしなかったわ。

 アタシ程度の頭でこんな賢いお兄ちゃんに隠し事をしようとしたのが、そもそもの間違いって事か。

 本当にアタシって間が悪い癖に無茶するよな……。

 前の時から成長が無さ過ぎ。

 自分の馬鹿さ加減に笑っちゃうわ、ホント」

 と彼女は力無く笑うと背筋を伸ばした。


「先生、これは誤魔化せませんね。鈍いアタシにも漸く認識出来ました。

 全て話します。先程の件、もしそうなったら対処をお願いします。

 ……もう後戻りは出来ませんからね」

 とライリーを見つめながら、彼女はディルクに話す。


「……ああ、わかった。どう転ぼうと儂が対処する。任せなさい。

 お主は思う通りに話すが良い」


 ディルクの言葉を聞き、彼女は軽く頷く。


 覚悟を決めたクロエは兄の顔を真っ直ぐ見つめると、静かに話し始めた。





「お兄ちゃんが言う通り、アタシには秘密があるの。

 先生とジェラルド様が秘密をご存じなのも正解よ。

 アタシはクロエとして生まれる前、別の世界に居たの。

 こことは何もかもが違う、異世界にね。

 元のアタシはその世界で生きて、25才で事故に遭って死んだ娘だったの。

 名前は羽海乃 雅。

 魔法や魔力が全く存在しない世界に在った国、日本の娘だったのよ。

 日本は魔力や魔法は無かったけど、科学が発達した国だったの。

  鉄で出来た乗り物が火の力で空を飛んだり、又電気って云う自然の力を科学の力で人工的に作り、これ又鉄で出来た乗り物をその力で超高速で走らせてたりして、日本の人達は普段生活していたわ。

 勿論アタシもそういう生活をしていたの。

 日本はライリーお兄ちゃん位になると、同じ年の子供達ばかりを集めて学校って所に通うの。

 そこで集団生活をして色んな事を学ぶのよ。

 算学や科学、楽も学ぶし、後運動、裁縫、料理、木工、絵や他国の言葉も習うの。

 学校は義務で9年は絶対に通い、その後は本人の希望でもっと高等教育を受けられる上級学校に進学するわ。

 アタシは幸い最高学府まで通うことが出来たから、合計で16年間学校に通ったわね。

 先生は何人も居て、課目毎に替わって教えてくれていた。

 因みにその学校で使われていたのが、今お兄ちゃんも使っているそろばんや鉛筆よ。

 アタシが考えたものなんかじゃ無いの。

 又遊びもいっぱい有ったのよ。

 学校で勉強の合間に友達とよく遊んだわ。

 その内の1つがじゃんけんぴょんね。

 あっち向いてヒョイみたいな変化系は、それこそ無数にあったんだよ。

 教育に熱心な国だったけど、人々は遊びにも貪欲だったのよね。

 夜は夜で電気の力のお陰で、昼間のように明るいの。

 お兄ちゃんは州都へ行ったとき、色んなお店を見たんでしょう?

 日本はそれ以上のお店が在って、買い物し放題だったんだ。お金は要るわよ、勿論ね。

 おまけに夜もお店は開いてて、それこそ年中無休で商売していたのよ。

 又あの世界でもアタシが居た国の日本は犯罪が極端に少なくて………」

 とクロエは前の世界の事を次々にライリーに話して聞かせた。


 時には身振り手振りを入れ、又ディルクに頼んで紙を貰い図解や表を描いて、分かり易く話していく。


 ライリーは次々に語られる異世界の話に最初は驚いた表情で聞いていたが、次第に興味津々という表情に代わり、終いには目を輝かせながら大きく頷いたり質問をしたりするようになっていった。





 どれくらいの時間が過ぎたのか、やがて日が陰ってきたのにクロエが気付いた。


「もう夕方なのね。アタシの前の世界の話はここまでにしましょうか。

 ……驚いたでしょ。アタシはこんな記憶をもって生まれたから、賢いって思われてただけなのよ。

 ホントはちっとも賢くなんか無い、只の子供なの。

 だから皆を騙してる様で辛いときもあったんだ。

 だけど今ちょっとホッとしてる。漸く真実を家族に話せたから。

 ……気持ち悪いわよね、こんな妹。

 見た目は幼いのに中身は25才のおばさんよ。詐欺だよね、ホントに。

 ね、ライリーお兄ちゃん。

 アタシは平気だから正直に言ってほしいの。

 今の話を聞いてアタシのこと、どう思った?

 ……妹としてもう見られないなら、ハッキリと言って欲しい。

 アタシ、お兄ちゃん達の負担になりたくないから」

 と話を締め括ると兄を真っ直ぐに見つめた。


 ライリーはクロエの視線を真っ直ぐ受け止め、フッと頬笑む。


「せっかく楽しい話をしてくれていたのに、こういう時の時間は容赦ないね。もっともっとお前の話を聞きたかったのにな。

 だって、どんな書物を読むよりもワクワクしたんだ!

 今まで先生はこの楽しさを独り占めしてたんだね。悔しいよ。

 ……で?聞くけど、誰が気持ち悪いの?一体何を言ってるのかな、俺の妹は。

 今の話を聞いて楽しかったし、羨ましいとも思ったし、もっともっと聞きたいとは強く思ったけど、気持ち悪い事なんて1つも聞かなかったし、どう思い返しても思いつかないんだが。

 それに誰が誰の負担なの?

 ……あんまり俺の妹のことを酷く言うと、例えそれが本人であるお前でも兄の俺が怒るぞ。

 言っとくがこんなに可愛くて賢くて、おまけに知識の宝庫な妹を誰が離すもんか!

 お前も変な自己否定をするんじゃない!

 確かにお前の中身は大人なのかもしれないけど、僕からみればお前って結構抜けてるし、子供っぽい所はそれこそ山程あるし、考えられない位食いしん坊だし、案外鈍臭いよね?

 ホントについつい構いたくなる可愛い妹だよ。

 俺がお前を勝手に構いたいんだから、負担なんて思ってる訳ないでしょ。

 何?未だ何か妹として自分を落とす話がしたいの?

 それならそれで、全部否定してやるけど良いのか?

 大体中身が25才で大人だって云うけど、クロエは俺の考えが今の今まで全く解ってなかっただろ?人を見抜く力、全然無いよな。

 8才の俺の方が一枚上手だよ、悪いけど。

 ……正直お前は解りやす過ぎて、全く俺を騙せてなかったんだしさ。

 お前は凄く賢いのに、やることが間抜けすぎて大人には絶対思えない。

 やっぱりお前は俺の妹だよ、どうしたってね」

 とライリーは肩を竦めた。


 クロエは口をポカーンと開けて、兄の結構酷いクロエ評価を聞いていた。


 ディルクが後ろでクックッと笑いを堪えている声が聞こえる。


 兄の気持ちを理解したクロエは次第に頬を真っ赤にし始め、おもむろに両手をその頬に当てると

 「イヤーッ!何かメッチャクチャ恥ずかしくなってきたーっ!

 ライリーお兄ちゃんの言う通りだー!

 アタシ、メッチャ間抜けじゃないのっ!

 悲劇のヒロイン気取って何か色々覚悟したのに、全部意味無しー!

 やだやだ、もう穴があったら入りたい~。恥ずかしすぎるよ~。

 やだ先生、どうしよう!アタシ別の意味で今逃げたいですっ!

 恥ずかしさで今アタシ死ねる気がするーっ!

 お兄ちゃんの顔を……きゃあっ?!なにーっ?!」

 と叫びながら恥ずかしがっていると、急に悲鳴を上げた。


 見るといつの間にかクロエを抱き上げたライリーが、自分の腕の中の彼女の真っ赤になった顔を覗き込みながら

 「逃げたいってなに?もうあんな真似は二度とさせないって言った筈だ。

 学習能力が無いのか、お前は!

 おまけに死ねるとか、聞き捨てならない言葉ばかり言うし。

 おちおち一人で歩かせるのも不安になる妹だよ、ホントにお前は。

 ……仕方無い。家まで抱き上げて帰るとするか。

 ああそれから先生、後から話がありますので良いですか?

 とにかくこのお騒がせな妹を先に家まで連れて帰りますので、結界を一時解いてください。

 又直ぐに戻ります。

 クロエ、余り顔色が良くないのは変わってないから、暫く部屋で休むんだ。

 夕食には起こしてやるから、良いね。

 大体お前の中身は大人の筈だろう?

 なら余り心配させないでくれよ、ちっとも目が離せないじゃないか。

 ……これで俺より年上なんて絶対嘘だ。

 さ、行くぞ。しっかり掴まってろよ」

 と溜め息混じりで話し、ディルクが結界を解くと恥ずかしさの余り両手で顔を隠した妹を連れて急いで帰って行った。


 ディルクはそんな兄妹を微笑まし気に見送る。


 暫くして一人戻ってきたライリーを老教師は迎え入れると、2人は真面目な顔で話し合いを始めた。


 そしてそれは思った以上に時間が掛り、心配したミラベルが声をかけに来るまで続いてしまったのだった。



兄は正直喜んでいます。ほぼ計画通りに妹を監視できる流れになってきたからです。

ただ一つ老教師から聞かされる話には愕然とします。次はそこを書く予定です。

妹は羞恥心の余り、兄の顔をまともに見られません。これからは益々兄に頭が上がらなくなるでしょう。

なるべく早く更新します。

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