表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
やりたい事をやる為に  作者: 千月 景葉
第一章 黒き森
137/292

141. 妹への罰

一応兄の怒り編はここまでなんですが、爆弾発言をぶっこんでくれたので、後処理を次で致します。

長いです。

 クロエは目の前のライリーに恐る恐る目をやる。


 ライリーは深緑の髪に真紅の目をしている。


 とても端正な顔立ちをしているので、下手したら女の子に見える程だ。


 だが彼は切れ長のとても理知的な目をしている為、今のように感情を露にするととても鋭い目となり、非常に恐い。


 況してや目の色が真紅な彼は怒った際、まるで怒りの炎を目に宿している様に見えることから、大人でも怯んでしまう程の凄まじい眼力をみせる。


 つまり今のライリーの相手をするのは、大人でも恐い筈だとクロエは思う。


 俯いた末妹が、チラッチラッと時折兄の方を見て様子を窺っているのに、彼は全く表情を和らげようとはせず、ひたすら末妹を睨み付けている。


 兄は末妹の言葉をじっと待っているのだ。


 クロエも自分から理由を話さなければ、この膠着状態が変わらないとは解っている。


 だがこの賢い兄が納得出来る様に、今回の家出の理由を話すことが出来る自信が、実は彼女には全く無い。


 何故なら根本的に、家出の理由が彼女の勘違いに基づくものだったからだ。


(……皆なし崩しに許してくれたから、油断してたなぁ。ライリーお兄ちゃんって普段は優しいけど、こう言う時は父さん達より誰より厳しい人なんだよね……。

 先生まで説得しちゃうんだから、どんな8才だよ。

 うっ……目が、目が怒りに燃えてるよ~!

 雅の時には周りに居なかったタイプだ。対処方法が全くわかんないっ!

 そういや違うタイプだったけど、かっちゃんも7才なのにしっかりしてたなぁ。ある意味似てるよね、この2人。

 大人を喰っちゃう位優秀で、大人を黙らせる位迫力有って、大人ビビらすなんてお手のものなんだからな……。

 イカン、怖さの余りつい現実から逃避してしまう。

 いい加減に何とかしなきゃ。

 泣き落とし誤魔化し全部駄目……だけどダンマり決め込んでも埒が開かない。

 あの様子じゃ多分黙り対処も有るみたいだし。

 さて、どうしよう。

 正直に言うしかないか……だけど余計に火に油を注いじゃいそうだよねぇ。

 八方塞がりって気分だ。

 だけど心配掛けたのはアタシなんだから……ええい、ままよっ!当たって砕けろだ!)


 クロエは一つ頷き、クッと顔をあげる。


 相変わらず目付き鋭く睨んでくる兄を直視し、思わずゴクリと唾を飲み込む。


(うえぇ~やっぱり恐いよーっ!……オムツ要るかもしれない、チビっちゃうかも。

 だけど今俯いたら、もう顔なんて絶対あげらんない。

 覚悟決めろ!いけ、アタシ!)


 クロエは一瞬目を閉じ、一つ息を吸うと

「わかった。うまく言えないかもしれないけど、家出しようと考えた理由を説明します。

 一番の理由は……アタシが持つ黒い力が怖くなったこと。

 万が一にもこの力が暴走したらって考え始めたらもう恐くて……アタシの力に皆を巻き込みたくなかったの。アタシのこの黒い力は……普通じゃないものだったから。

 初めてこの力を認識したのはあの魔力暴走の時よ。

 ……アタシの中に真っ黒な穴が在って、助けてくれようとした母さんの魔力を呑み込もうとしたの。

 あの時は母さんを助けるためにアタシ……あの穴に飛び込んで死のうと思った位だった。

 ああ、今は森さんがあの力の事を教えてくれたから大丈夫。

 でもあの時はそんな知識は無かったから、あの黒い穴がアタシの大事なものを全て奪い尽くす恐ろしいものにしか見えなかった。

 でも魔力暴走から回復してからは、あの力の存在は体の奥底には感じていたんだけど、穏やかな毎日の生活の中で、次第に記憶から薄れていってしまっていたのよ。

 ……コリンお兄ちゃんが倒れたあの時までは。

 いつも元気なコリンお兄ちゃんが意識を無くして、アタシの目の前で苦しんでいるのを見て、居てもたっても居られなくなって!

 必死で助ける方法を頭の中で考えて……その時に自分の中のあの力の存在を思い出したの。

 あの時はコリンお兄ちゃんを助けようと必死だったから、あの力を恐いなんて考える余裕すら無くて、ただコリンお兄ちゃんを助けたい、体を楽にしてあげたいってそれしか頭に無かった。

 幸い上手く力が働いて、コリンお兄ちゃんも気が付いてくれたまでは良かったんだけど……アタシは又あの力と向き合わなければならなくなった。

 その後先生の話を聞いて……正直打つ手を無くしたと目の前が暗くなった。

 見放されたと思ったし、アタシは……異常な子供なんだって改めて思い知らされた気がした。

 だけどね一つだけ……たった一つだけ思い付いた手があったの。詳細は……父さん達に口止めされてるんだけど、鍵はアタシが以前見た夢の中にあったの。

 その夢の内容で、もしかしたらアタシの力について黒い森が何かを知っているかもって思える部分があった。

 全然不確かだし、寧ろ危ない思い付きでしか無いって事は、今なら解るわ。

 でもあの時は……アタシも混乱して狼狽えていて……。誰かに頼るって気持ちすら持てなかった。自分の考えを誰かに聞いて貰うなんて、思いもしなかったわ。

 寧ろ誰にも知られたくなかった位よ。

 だってこんな力……恐いでしょ!皆がアタシを化け物みたいに見る様になるかもしれないじゃない。

 只でさえ……アタシは変な子なんだもの。それくらいは自覚しているわ。

 だから、家族にそんな風に見られる位なら……アタシは死んだ方がましだって思った。

 家族を信頼していない訳じゃないわ。

 アタシは変な子過ぎるし、その上恐ろしい力まで持ってしまってて……こんな子、気味悪がられても可笑しくないでしょ。

 そう、余りにも……アタシの力が強すぎて理解を越えるものだったから、言っても家族を苦しめるだけだと思ってしまったの。

 実際この力が大事な家族を傷付けるような物だったなら、アタシは多分帰っては来なかったと思う。

 そのくらい……アタシは切羽詰まってたの。

 夢を手掛りに、なんとか力の把握と操作を身に付けるためにアタシがしなければならないことを考えたの。

 それが黒き森の意思に触れるために、アタシが森に出ていく事、つまり家出だったのよ。

 ……そんな無茶、家族に言えば当たり前だけど反対されるわ。

 アタシが家族を大事に思うのと同じくらい、アタシも家族に愛されてる自覚は有るし。

 だからこそ、ライリーお兄ちゃん達にも絶対に言えなかった。

 だって言ったら

「妹を失う位なら、妹の力で死んだ方がましだっ!」

 って事くらい、お兄ちゃんなら言うでしょう?

 アタシを絶対に離そうとはしなかった筈。

 どれ程アタシの力が気味悪くても、アタシが異常な子であっても、ライリーお兄ちゃんやミラベルお姉ちゃん、コリンお兄ちゃんはアタシを見捨てたりしないでしょう?

 アタシを恐いなんて、絶対にアタシの前では言わないわよね。

 だけど月日が経てば……わからない。だんだんとぎこちなくなってきて、ある日アタシを化け物を見る様に見るかもしれない。

 そんな事を考えてしまった時点で、もう駄目だと思った。家族をそんな風に疑心暗鬼に見る様になる前にアタシは……家を出なければならないと思った。

 その後は皆の目を盗んで家を出たわ。手紙を書いたのは、無駄に皆を疲れさせたくなかったから。

 只でさえアタシの家出で皆を振り回すのよ。

 極力それ以上無駄な力を使わせたくなんか無いもの。

 父さん母さんと先生は保護者だから、きっと自分を責めるわ。

 悪いとは思ったけど、ライリーお兄ちゃんとミラベルお姉ちゃんに支えてもらうしかないと思ったから、手紙に書いたの。

 全てを押し付けてごめんなさい。

 ……今話した事が全てよ。

 嘘や誤魔化しはしていません。

 ライリーお兄ちゃん……本当にすみませんでした」

 と話終わると、彼女は深く頭を下げた。





 頭を下げた妹を兄はじっと見続けていた。


 クロエは賢い。そして優しい。


 妹だが、妹ではない存在。


 ライリーにとっては唯一無二の存在である彼女。


 彼にとっては自分の命より守りたいと思う人だ。


 彼女は無自覚だが今の理路整然足る話を聞けば、誰だって彼女が見た目通りの1才児だとは考えたりしないだろう。


 家族も老教師も皆内心解っている。


 黒髪でなくともこの子は特別な存在なんだと。


 恐らくこの世界の中で、彼女ほど特別な人間は居ないと思える位に。


 でもクロエは強いようで実は弱いところがある。


 何故か自分をいつも卑下してしまうのだ。


 黒の力の事だってそうだ。


 彼女は強大な力を持つのに、絶対に自慢したりはしない。


  寧ろ皆に迷惑を掛ける厄介な力だと、周りに気兼ねさえするような子だ。


 もし黒の力を持ったのが仮にコリンだったなら、きっと彼は周りに自慢していたことだろう。


「僕強いんだよっ!」とかなんとか言って。


 下手したらその力で暴れていたかもしれない。


 ミラベルならどうだろうか。


 多分家族に相談して力を使えるように努力した上で、何かに役立てようとするだろう。


 クロエとは少々異なるが、ミラベルも優しくて賢い子だから。


 では自分ならどうか。


 多分自分は一番クロエに近い考え方をする。


 家族に相談などせず、何とかして自分一人で解決しようとするだろう。


 同じ様に家出をしていたかもしれない。


 だから彼女の話は凄く理解出来たし、実のところ納得もしていた。


 しかし受け入れることは出来ない。


 ライリーはクロエを失いたくないからだ。


 だからどんなに家出の理由について、自分が理解し納得がいっても許すつもりはない。


 今回の事を利用して、罰という意味合いで彼女を逃がさない手立てを講じるつもりなのだ。


 実のところ、ライリーにとって一番嫌だったのは、クロエがどんな訳があろうと彼から離れていったことだった。


 ライリーは彼女に執着しまくっているのである。


 彼には正直彼女の力なんてのはどうでもいいものだ。


 彼は彼女さえ無事なら、後はなんとでもなるしどうでもよいと考えている。


 仮にクロエのその力が暴走したとして、誰が巻き込まれようが森がどうなろうが、彼には知った事ではないのだ。


 究極クロエさえ無事なら、ライリーにとっては構わないのだ。


 しかしそこまで彼女クロエに固執しているなんて事は、口が避けても言ってはならない。


 周りは異常な執着だとして、きっと彼女と自分を離そうとするだろう。


 絶対にそんなことはさせない。


 だからこの気持ちは隠し通す。


 あくまで優しい妹思いの兄として、何とか彼女を自分に縛り付けるのだ。


 その為にはなんでもやるし、利用する。……彼女の優しさすらもだ。


 彼は頭をフル回転させ、彼女を自分に縛り付ける方策を考え続ける。


 一番良いのは情に訴える事。


 彼女の優しさに漬け込むのだ。


 今回の件で自分は兄として酷く辛い思いをしたと傷心を強調し、家族の心を守るためにも今後は何にせよ自分を連れていくように約束させるのだ。


 彼女が帰ってからの言動やこれまでの様子を考えると、恐らくだが森はクロエの言うことなら全て聞き入れる可能性が高い。


 クロエさえ丸め込めば後は上手く事が運ぶ筈だ。


 ならこれからも一人で動こうとするクロエに、必ず同行出来る様に話を持っていくのが一番だ。


 建前は彼女を守り、家族の不安を少しでも減らすためと言う事で。


 父は守り人だから、何かと末妹にくっついてばかりも居られないし、母も家を守らなければならない。


 長兄の自分が妹のお目付け役には適任だと言うことにして。


 ……自分で言うのもなんだが、普段から保護者達の信頼を得るために、そつなく動くように心掛けている。


 感情だって制御し、実は好戦的な性格を思慮深く優しい性格に擬態させてたりもするのだ。


 それもこれも全てはこういった時に自分の意見を通すためだ。


 クロエに関することで、自分を茅の外に置かせたりなんか断じて許さない。


 彼女を守るのは自分でなければならないし、彼女は誰にも渡さない。


 自分が異常だと云うならそれでも全然構わない。


 当の彼女に知られて嫌われなければ問題ない。


 大事なのは自分がクロエを失わないために、打てる手は全て打つことだ。


 さて、どう話を持って行くか。


 表情を変えずに彼は末妹を見つめつつ、理論を構築させる。


「……お前が無事で良かった。

 ねぇクロエ。僕が一番何に怒っているのかが解るかい?」

 と少し表情を和らげてクロエに問うライリー。


 頭を下げていたクロエは、口を開いた兄の声が思いの外柔らかいものだったので

「えっ?」

 と思わず目の前の兄の顔を見るために、頭を上げた。


 先程まで怒りに燃えていた真紅の目は、もうそこには無かった。


「今、お前が言った理由。理解は出来たし、優しいお前なら家を出ると言う結論に至ってしまったのはしょうがなかったと思うよ。

 普段からお前と過ごしていれば、そりゃお前ならそう考えるんだろうなって想像できる。

 今の話には幾つか秘密も有るんだろうから、実際はもっと思い悩んでいたんだろう?

 僕は兄なのに、気づいてやれなくてごめん。

 ……僕だってまだ子供だ。

 そんな僕に相談なんてしたところで、解決なんて無理だとお前も思うだろうから、何でなにも言わなかったって今僕がお前に言ったところでどうしようもないって解ってる。

 だけどね、僕が一番怒っているのはそんなことじゃないんだよ。

 ……僕が怒っているのはお前が自分の命を軽んじたことだ。

 どんな理由があるにせよ、お前は自分の命を捨てようとしたんだ。

 だってそうだろう?

 1才児が普通、森でどうやって過ごせる?

 誰の助けもなしで、生きていけるわけないじゃないか!

 況して夜は動物達の領域。

 賢いお前が知らない筈は無い。

 そんな森へお前は身一つで出ていった。

 ……事実だけ見れば、完全に自殺行為だ。

 お前は動物達に襲われていても不思議はなかった。

 解ってるのか、お前はたったの1才なんだよ。

 家族で一番守られなきゃいけないんだよ、お前は。

 一番最後に生まれたお前は、先に生まれた俺達が絶対に守らなきゃいけない存在なんだ!

 どれだけ賢かろうが、お前は俺達に守られることに甘んじなければいけないんだよ!

 ……自惚れるな。おまえは妹なんだ。

 今は一番小さくて弱い存在で良いんだよ。

 でなきゃ何のために家族の俺達が居るんだ。

 俺は父さん母さんから弟妹を頼むって言われて育った。

 だからミラベルもコリンも俺の出来る限り、守ってきたつもりだ。

 父さんは黒き森の守り人だし、母さんは家を守らなきゃいけない。

 長兄の俺が弟妹を守るのは当たり前だ。

 だからお前は俺を守るんじゃなく、俺に守られなきゃいけない。

 俺を守ろうなんて金輪際思うな。

 妹のお前は兄の俺を盾にし、俺の後ろに隠れるんだ。

 それが優しく賢いおまえにとってどれだけ辛いことでもだ。

 二度と家出なんて許さない。一番幼いお前が家族を守ろうなんて考えるな。

 お前は守られる辛さに耐えなければいけない。

 今後は俺がお前の外出には必ず同行する。

 父さんにも承諾を得る。

 森からも認めさせる。

 お前の言うことならどうせ森は許すんだろう?

 だから森にそう願え。

 勿論守り人の父さんと同じ様に色んな誓約があるんだろう?

 そこまで踏み込むつもりはないし、どうせ俺には解らない筈。

 ただ、お前は俺を同行させるだけでいい。

 せめてお前の側に居られる間だけでも、俺は妹のお前を全力で守る。

 どれだけお前が嫌がろうとそうしてもらう。

 ……それが今回の家出の罰だ。

 解ったか、クロエ」


 真紅の目を真っ直ぐに妹に向けて、ライリーはそう言い放った。


 クロエは兄の話を暫く呑み込めずキョトンとしていたが、やがて彼の言ったことを理解出来ると、目を剥き出しにして異論にうってでた。


「お兄ちゃん!何を言ってるの?気は確かなの?!

 確かにアタシは妹だし、守られなきゃいけない立場なのはお兄ちゃんの言う通りだと思う。

 アタシみたいな1才児が家族を守るなんて、お兄ちゃん達の矜持に関わるってのも理解できるよ。

 ……うん、凄く失礼な事だし堪えがたいことだよね。

 改めて事実だけを言われると、身に詰まされるよ。

 だ、だけどね!罰ってそれはどうかな~って思うの!

 だってこれからは、必ず出掛ける時には父さんに言うって約束したよ?

 それにここちゃんの仲間達が、アタシを迎えに来てくれるし。

 お兄ちゃんに面倒を掛けるのは……あの……だから……そ……うぅ~」

 と次第に彼女の声は尻すぼみになっていく。


 ライリーの真紅の目が又怒りで光り出したからだ。


「罰ってのは誰だって嫌なものだろう?

 お前が不満に思うのは当たり前だ。それでこそ罰だ。

 だけどこれは兄として譲れない。

 先にやらかしたのはクロエ、お前なんだからな。

 父さんの事なら大丈夫。

 必ず説得してみせる。

 因みに父さん達が心配するからって説得は、意味がないからやめておけ。

 1人より2人で出掛けた方が家族は安心するだろう?

 俺はお前より、大人達から信頼を得ている自信がある。

 お前程ではないが、8才という年齢にしてはしっかりしていると思うしね。

 母さんやミラベルを安心させてやりたいんだ。

 だからこの罰を受け入れろ、クロエ。

 撤回はしないからな?」


 怒りに紅く目を光らせながらも、口元は穏やかな笑みを浮かべて話すライリーは、クロエにはまるで雅の頃、遠足で見た炎を背負う不動明王に見えた。


(嘘だぁ~!こんな8才、反則だーっ!

 大体、そんな話森が許す訳……無いことも無いかも。

 そ、そうだ!ここちゃんは反対す……しまった、ここちゃんはライリーお兄ちゃんが気に入ってたっけ!

 と、父さんは……駄目だ、絶対にこの策士に丸め込まれる気がする~!

 か、勝てる気が全くしない……。

 せ、先生は……あ……既に今回はお兄ちゃんに協力してるじゃん!

 落ち着け、未だ森が許すか解らないもの。お兄ちゃんの思惑通りに上手く行くとは限らない。

 ……ここは敢えて退け、アタシ。

 様子を見るんだ。よ、よし!)


 クロエは顔を引き締めて兄を見ると

「た、確かにお兄ちゃんの言う通りだね。

 先に心配を掛けたのはアタシだから、罰を課せられても文句言っちゃいけないよね。

 ……ごめんなさい。

 母さん達を安心させてあげたいってお兄ちゃんの言葉が、身に刺さるよ。

 ……わかりました。森さんやここちゃんに聞いてみます。

 ……だけどもし森さんに許してもらえなかったらどうしたら良い?

 アタシへの罰は無しになるのかな?」

 とおずおずと尋ねる。


 ライリーは片眉を上げて妹をチラリと見ると

「その時はその時。お前を見守る別の方法を考えるさ。

 だけど今回の件に関してのお前への罰は、何らかの形で与えなきゃならないからな。

 全く何もお咎め無しにはならないよ。

 もしそうなっても覚悟はしておいてね、クロエ」

 とニッコリ笑った。


  兄の綺麗な笑顔にひきつる末妹。


  「さて、僕の話は終わりだ。

 今日父さんが帰ったら僕から話をする。

 クロエは僕の同行を了解済みだと言うからね。

 それで良いね?異論は無いよね。

 後から騒ぐのは無しだよ?

 お前が僕に追い詰められるだけだから。

 ああ、良い機会だからもう一つだけ言っておきたい。

 いつかお前に聞きたいことがあるんだ。

 ……お前の夢の世界について。

 未だ話をする気にはなれないだろうから、追々で良いよ。

 じゃ、先生を呼んでくる。ここで絵を描いて待っていて。

 又後でね、クロエ」

 と爆弾発言をさらりとかまして、ライリーは勉強部屋から出ていった。


 クロエは顔を青くして

「……え、今なんて?お兄ちゃん?!ちょっ、ちょっと待って!

 今の、今のって……まさか?!」

 と慌てて椅子から降りて兄を追おうとしたが、兄は既に外への扉を出ようとしていた。


 廊下でクロエが

「ライリーお兄ちゃん!待って!

 今の言葉は一体……、アタシに何を……?」

 と兄に慌てて尋ねると、ライリーはフフッと笑いながら

「……ジェラルド様と先生が知っているお前の世界の事さ。

 ああ、立ち聞きなんてしちゃいないよ。

 そんな卑怯な事はしない。

 お前とあの方達を観察してたら、自然と解る。

 安心して。他の家族は誰も気付いてない。

 知っているのは僕だけだ。

 ……この話は又追々にね。

 じゃあ行くね?ああ、鍵閉めるんだよ~」

 と片手をヒラヒラと振り、ライリーは扉を閉めて出ていった。


 一人残されたクロエはヘナヘナ~と廊下に座り込んだ。


「嘘……ライリーお兄ちゃんが何で知ってるの……?

 そんな、本当にアタシを見ているだけで気付いてしまったって言うの?

 一体お兄ちゃんって何者なの?!」


 クロエは兄が出ていった扉を見つめながら、初めて兄を心底恐ろしいと感じていたのだった。

ライリーは正直手に負えない位賢い少年です。多分ディルクも敵いません。クロエなんて軽く手玉に取られてしまいます。腹黒だし(笑)

彼は設定上、ストーカー(笑)以外にもう一つ秘密があります。未だ先々に顕在化する話ですが。

さあ、クロエさんは軽くパニック状態です。

なるだけ早く更新します。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ