140. ライリーの怒り
2話目です。これがまた長い~!3話目は少々お待ちくださいねー!
食堂で遅い朝食を皆で取りながら、家族はクロエに家出の後の行動について色々と聞いた。
彼女も自分が一番悪いと云う事は重々承知していたので、詫びを入れながら出来るだけ誠実に、家出した後の色んな出来事を話した。
だが始まりの地の事や、特に巫女の事については全く言葉にしなかった。
あの力については、森からこの後も時折指導とレクチャーを受ける事になったとだけ説明する。
極めて珍しい力だが、過去にもこの力をもっていた人が居た事、又この力はクロエが気付いていなかっただけで、既に彼女が自由に操作出来ていたのだとある事例により知った事、そして悪しき力ではないと教えてもらって心底安堵出来た事などは話した。
しかしこの力は巫女だけが持つ力で、自分が実は次代の巫女であるなどと話せばどうしたって、その巫女が担う役割の内実を話す必要が出てくるからだ。
……もし話せば、今クロエを愛して慈しんでくれている優しい家族や老教師達周りの人々が、その事で酷い悲しみや怒りに囚われ、森やかの地とどんな状態になるのか彼女には想像もつかない。
始まりの地が言った通り、どう考えても巫女の役割は、この世界を存続させるための犠牲にしか聞こえないものだ。
自分勝手だとは思うがクロエだって、もしミラベルやコレットが巫女になると言えば、命懸けで何としても止めるし、と思う。
……だから却って自分で良かったなと、彼女は心から思ったのだ。
仮に黒髪が巫女の条件だとするなら、未だ世界が狭い赤子の考えで恐縮だが、自分自身を除くと多分あのアナスタシアが一番巫女に近いんじゃないかと思える。
前世の自分からすると意外だが、オーウェンお兄ちゃんの様子からして相当黒髪の人って珍しいみたいだし、況して女性限定となると……とクロエは思う。
ならば絶対アナスタシアにはそんなことはさせられない。
こんな役は転生した自分がすべきだと、彼女は勝手に考えてしまっている。
勿論転生したのは別に悪いことじゃないし、記憶が有るのだって自分の意志がそうさせた訳じゃない。
……クロエ=雅はなにも悪くなんか無いのだ。
しかし何だか前の記憶があることで、とてもズルをして生きている気持ちがどうしても消す事が出来ないクロエ。
これが馬鹿な考えだとも解っている。
でも理屈じゃない、彼女の矜恃がそれを許さない。
実は優秀でも何でもないのに、ただ前の記憶があるだけで賢い子だとチヤホヤされている現状が、真面目な彼女をずっと苛んでいる。
生まれつき持ち得た力で、生物は悩んではいけないと何かで聞いたことがあるが、彼女にはそれが出来なかった。
……しっかりガッツリ悩んでしまっていた。
だから彼女にとって、巫女は図々しい自分の贖罪にピッタリの役目だ、とカッチリと音を立てて心にハマってしまったのだった。
……真面目故の悲劇だと云えるかもしれない。
或る意味それはとても日本的な考え方であり、彼女は転生し姿が変わっても中身はしっかり日本人のままだったのだ。
だから巫女の話に連動する“始まりの地”という名称も、敢て伏せることにした。
極力この件については、誰にも言わずにいるつもりだ。
偶然たぐいまれな力を持ってしまったが故、神秘の黒き森が一介の只人であるクロエに興味を示しただけなんだと、家族や老教師には説明した。
勿論老教師や父はそんな話を信じてはいないだろう。
現に二人はクロエの話に眉を潜めている。
だが既に巫女は自分だと決定しているのだ。これは覆せ無い事実。
ならば話さない方が、無駄に家族や老教師を悲しませずにすむ。
寧ろ巫女の事など周りは誰も知らないままの状態で、自分は最初決めた通りにやりたいことをやりながら、皆とこのまま幸せな月日を過ごして成長していって、何れ来るその時を迎えられたら良い。
それが一番理想的だ。
又自分が大人になり、巫女の役目を果たせる頃には、きっと今とは周りも状況が変わっている筈。
その頃なら、もし万が一周りが巫女と云う存在を知り、それがクロエだと解っても、今よりは彼等もそれを受け入れられ易くなっているんじゃないかと思う。
……誰もこの世界を終わらせたくは無いだろうから。
……知らぬままなら一番、周りが知るとしても、クロエが巫女として動くその直前までは大事な人達には隠し通してみせよう。
そう彼女は決意していた。
だから、他の者と意思を交わせないかの地はともかく、森自身や森の眷属達にも巫女という呼び方はしないでくれと言ってある。
彼等はクロエの要請に、何の躊躇いもなく頷いてくれた。
森の眷属達は、次代の巫女の彼女の願いには従順に従う。
当の彼女は知るよしもないが、それがかの地と森の至上命令。
巫女となるその日まで、彼等は命を棄ててでもクロエを守護する。
もし彼女が望むなら、皆こぞって我が身を差し出すだろう。
巫女とはそれ程崇められる存在なのだ。
因みにクロエは、彼等に巫女として崇められる事に関しては気にしないでおこうと決めている。
彼等に無茶なお願いをしないようにクロエさえ気を付ければ、彼等に迷惑はそれ程掛からないだろうと思うからだ。
……それに可愛い彼等とは、是非是非仲良くしていきたい。
巫女になることで一番嬉しかった変化は、彼等と話が出来るようになった事だ。
……それだけで、何かもう全てが報われる気がする。
可愛いもの好きの彼女には、何よりのギフトだった。
ビバ!森の仲間達!ビバ!巫女の力!
クロエの中では、そんな感じで森の眷属達は受け入れられていた。
色々と複雑な思いが交差しながらも、表面上は穏やかに朝食が終わった。
ミラベルとライリーとコリンは、老教師と共に小屋に向かう。
お昼まで、彼等にこの3・4日まともに出来なかった勉強を教えなければと、反省したディルクは考えていた。
子供達も喜んでそれに従う。
コレットはクロエとここをお風呂にいれた後、ガルシアに一人と一匹を引き渡す。
コレットはここの生活道具をいそいそと用意するために、その後はお昼まで裁縫室に籠った。
ガルシアはクロエとここを抱き上げると、女の子部屋に入り、彼女達をベッドに下ろした。
「さて、森から聞いたがここちゃんはこれから我が家の家族として一緒に生活するってことで良いんだね?
……既にコレットが先走って、君の生活用具を何かと作り始めているんだが、必要な物とかあれば俺かクロエに言って欲しい。
……ああ差し迫って、非常に聞きにくいのだが、君のトイレはどうしたら良いのかな?」
とガルシアが悩んだ末、言葉にする。
ここは
(といれってなんですの、もりびとどの?といれってたべものですか?)
と首をかしげる。
クロエが父の戸惑いに気付き、ここに説明する。
(ああ、ようたしですね!そうですわね……わたくしたちはきのあなや、ウロにねどこをつくるのはもりびとどのもごぞんじですわよね?
だからふだんはねどこのいりぐちから、こう……おしりをだしまして、ようをたすのです。
ですがクロエさまともりびとどののねどこ……いえでしたわね……わたくしのものでよごしてはいけませんし。
おそとにいければよいのですが、よるにではいりはごめいわくをかけてしまいますわよね。
よろしければ、クロエさまたちのようたしのところをおしえてくださりませ。
そこでわたくしもやりますわ。がんばります!
わたくしはクロエさまにつかえるものとしまして、クロエさまのせいかつにあわせていくしょぞんでありまする。
だからもりびとどの、いまからあんないしてくださりませ!)
とガルシアの肩に乗り、催促する。
ガルシアは少し笑ってここに頷き
「わかった。じゃあここちゃんは今から俺と生活に必要な物について話し合おうか。
クロエはしばらく休みなさい。又後から起こしに来るからね。
……クロエ、一つだけ話しておきたい。
俺はジェラルド様に引き取られてから、偶然森に見出だされて守り人となったんだ。
既に森からはお前だけには守り人の俺の役目について、全てを話しても構わないと誓約を変えられている。
だがお前には、俺とは違う森の眷属達の守護が付くと聞いている。
つまりは俺より重要な何かをお前は背負った筈だ。
だが俺にはそれを聞く資格は無い。
……それは守り人の領分を超える。例え親子でもだ。
話すならお前からだが、俺は聞こうと思わない。
その事でお前を追い詰める気は無い。
だから俺も必要な事以外は、お前には守り人の事を話さないでおくつもりだ。
その方がお前も気が楽だろう?
俺もお前もある意味似た者同士だからな。
ああ、これからお前は何かと、森や守るべき地に一人で行くことが増えるのだろう?
そう森から聞いている。
その際はここちゃんが動いて、森の眷属達が迎えに来るのだったか?
でも一応出掛ける際には、俺に必ず声を掛けてからにして欲しい。
勿論父親としてそこは譲れないと云うこともあるが、一応守り人なんでな。
異なる2つの立場からもお願いしたい。
良いかな?クロエ」
と彼女の目を見つめながら、静かに話をする。
クロエは少し顔を強張らせたが、やがて小さく笑うと
「……流石父さんだね。ありがとう。そう言ってくれて嬉しい。
父さんに嘘はつきたくないから、有り難くその提案に乗るね。
……確かにアタシは父さんの言う通り、森や守るべき地とある約束をしました。
だけど話せない事がいっぱいあるの。ごめんなさい。
仮に父さんが無理にでもその事を聞き出そうとしていたら、アタシはどうして良いか解らなくなってしまったでしょうね。
でも父さんはやっぱり違うね。
アタシが何も頼まなくても全て理解してくれて、その上でアタシが1番気に病まない方法を言ってくれた。
……敵わないや、本当に。
うん、出掛けるときは必ず父さんに言うからね。
約束します。もう勝手な家出はしません。
……本当にありがとう、父さん」
と頭を下げた。
ガルシアはフッと笑い、クロエをフワッと抱き締める。
「本当は心配でたまらない。出来ることならお前の役目を俺が引き受けて、お前を自由にしてやりたい。
……だが、お前は恐らく俺なんかより、ずっと賢くて強い子だ。
森はある意味冷酷だ。その冷徹な迄の合理性でお前を見出だした筈。
俺なんかが心配して、お前の役目を引き受けるからと森に進言したとしても、何の意味もないだろう。
それは俺が一番解っている。
……だから昔、ジェラルド様が守り人になった俺を心配して色々と手を打とうとしてくれた事が有ったんだが、全て裏目に出てしまってな。……間に入った俺は本当に大変だったんだ。思い出したくもない。
グレース様の説得もこれ又大変だった。
だから俺はその轍を絶対に踏まない。
お前を困らせたくは無いからな。
だけどお前が困ったり、役目が辛いと思うなら、いつでも頼ってくれよ?
俺はお前の父だ。守り人より父でありたい。
例え森から追い出されようが、何が起ころうが最終的には娘のお前を守る。
だから、本当に逃げたいときは俺に言うんだぞ。
……それを約束してくれ、クロエ。
お前はコレットと俺の、大事な娘なんだからな」
と優しく語りかける。
クロエは胸がいっぱいになって、ガルシアにしがみつくと
「心配かけてごめん……話せなくてごめん……。
父さんは世界一の父さんだよ……アタシには勿体無い位、素敵な父さんよ。
こんな面倒ばかり掛けて、悪い娘だよね、アタシ。
だからアタシも頑張る。大事な父さんや母さん、皆を……。
ううん、もし辛くなったら必ず父さんに言うよ!約束する。
だから父さんも、これから森さんと交渉したりするときはアタシを頼って?
アタシも父さんの役に立ちたい。
だって大好きで大事な父さんなんだもの!」
と若干涙声で話す。
ガルシアはフフッと笑うと
「クロエが味方ならば、怖いものなしだな。
もし森と揉めそうな時はそうさせて貰うか~!
だが森が反則だーって文句を言いそうだな、ハハッ!
さて、話し込みすぎたな。
さあ暫く休みなさい。ここちゃんはお昼まで預かるからな。
良くお休み、クロエ」
と彼女をベッドに寝かせると、ここを肩に乗せたガルシアは小さく手を振って部屋から出ていった。
……廊下から、肩に乗ったここを見て嬉しそうに父に話しかける母の声がした。
「フフッ、ここちゃんは人気者だね。母さん嬉しそう。
……父さんはアタシの事情がある程度解ってるんだな。
でも幾ら理解ある父さんでも、やっぱり巫女の事だけは言えないよね。……ごめんなさい。
だけどそこも父さんも理解してくれてる。……有り難いな。
敵わないよね、本当に。
凄いよ、父さんも母さんも。
……アタシは本当に恵まれてるわ。
だから巫女になったら皆を守らなきゃ。これはアタシにしか出来ないんだから……!
さあ、父さんの言い付け通り、しっかり休もうっ!
お昼ご飯まで休んで、ご飯しっかり食べるんだもんね~!
おやすみなさい~……グゥ」
と呟くと、クロエはベッドに潜って目を閉じた。
そして昼食までグッスリと休んだのだった。
「ク~ロエッ!起きて、お昼だよ~!
あれ?起きないね。
ここちゃん、クロエったらお昼食べないのかな~?
起きないとアタシとここちゃんが食べちゃうぞ~。どうする~?」
とクロエの耳元で、明るい笑い混じりのミラベルの可愛い声が聞こえた。
すると“ここ”まで
(クロエさま~!じつはびっくりなさるおしらせがあるのですよ。
はやくおきてくださりませ~。あねぎみがおまちでしてよ、クロエさま~!)
と耳元で話し掛けてきた。
クロエはハッと目を覚ますと
「食べます!起きます!
もうお昼かぁ~。早いな。
アハハ、ここちゃんはお姉ちゃんとすっかり仲良しさんだね~。
ミラベルお姉ちゃんは優しいから、直ぐ仲良くなれたでしょ?自慢のお姉ちゃんなんだから~!
お姉ちゃん、ここちゃんと仲良くしてくれてありがとう!
アタシ嬉しい!」
とベッドに座ってニッコリ笑う。
ミラベルは頬を赤くし
「もうっ!直ぐにそんな風にアタシを持ち上げるんだから~!
でもここちゃんはとっても可愛くて賢いから、アタシじゃなくても誰だって好きになるよ~。
アタシこそクロエにお礼言いたいわ!ここちゃんを連れてきてくれてありがとうっ!
可愛いクロエや可愛いここちゃんと一緒に、これからアタシはこの可愛いお部屋で過ごせるのよ……!夢みたい~!
ああ、クロエが妹でアタシ本当に幸せよっ!
最高の妹よ~、アタシ世界一幸せーっ!」
と叫びながら妹に抱き付くミラベル。
クロエが
「大袈裟だな~アハハ!
お姉ちゃんは可愛すぎるんだから、もう!
ね、ここちゃんもそう思うでしょ?」
と横で見守っているここに話し掛けるクロエ。
ここは大きく頷くと
(クロエさまのつぎにおかわいらしいですわ!
ミラベルさまはほんとうにすてきなあねぎみで、すてきなおじょうさまです!
わたくし、ミラベルさまとおあいできてほんとうにうれしいのですよ。
クロエさまのおはなしをいろいろときかせていただいたり、かわいいものへのねついもすばらしいのです!
きっとこのかたとはきがあうとおもいましたの!
だからわたくし、うれしくて~)
とここは大きくキュッキュッ!と嬉し気に鳴く。
クロエは益々嬉しそうに笑うと
「ミラベルお姉ちゃん!ここちゃん、お姉ちゃんと気が合いそうだって喜んでる~。
可愛らしくて素敵なお嬢様で素晴らしい姉君だって褒めてるよ~」
とミラベルに教えた。
それを聞いたミラベルは、元々少し赤くなってた頬が真っ赤になった。
「どうしよう……嬉しすぎて倒れるかもしれない、アタシ。
ああ、駄目!こんな話をしてたら時間を忘れちゃうわっ!
うう……悲しいけど、食堂に行きましょう。
大丈夫よ、これから沢山時間はあるからっ!
今までも素敵な毎日だったけど、これからはもっと素敵な毎日が始まるのね~!
ハァ~……どうしよう。幸せ過ぎると胸が痛くなるのね。
アタシ初めて知ったわ……」
と胸を押さえ、おでこに手をやりフラリとよろめくミラベル。
そんな2人と1匹に声を掛けて来たのはコリン。
「クロエ起こすのにいつまで掛かってるの?!
だから僕がここちゃんと起こしに行くって言ったのにーっ!」
と扉を開けて近付いて来た。
「解ってます~!今行こうとしてたのっ!
もう、コリンのせいで素敵な時間が終わったわ。
アンタってば五月蝿いから!
クロエ、立てる?
五月蝿いの来たから食堂に行きましょ!
ここちゃん、アタシの肩に乗って?」
といそいそと肩を差し出すミラベル。
すると一段下がった位置に何故かもう一つ肩が差し出された。
「ここちゃん、僕の肩にお出で~!同じ人とより、違う人とも話しながら食堂に行こうよ。
だって皆と仲良くなりたいんでしょう?ここちゃんは。
なら、次は僕と話しながら行こうよ。
お姉ちゃんはどうせクロエと同じ部屋なんだし、幾らでも話す機会はあるよ。
第一僕だって君と仲良くなりたいんだから~!ね、どうかな?」
とここに話し掛けるコリン。
ここは頷きながら
(たしかに!ミラベルさまもうしわけありません。
コリンさまともりかいをふかめなければなりませぬゆえ、しょくどうへはコリンさまのかたにのらせていただきまする~!
では、しつれいして……)
とここは直ぐ様コリンの肩に乗った。
コリンがニヤリと笑って、得意気にミラベルを見ると
「やったね~!先行くよ~!
ああ、クロエをちゃんと連れてきてあげてね。
大事な妹、頼んだよ~」
と部屋をスキップしながら出ていった。
ミラベルがショックを受けた顔をして
「嘘っ!コリンに負けた?!
そ、そんなぁ~ここちゃ~ん!」
と両頬を押さえてムンクの叫び状態になる。
クロエはクスクス笑いながら
「コリンお兄ちゃんは上手いからなぁ~!ここちゃんもやられちゃうよね。
じゃあお姉ちゃん、アタシと手を繋いで食堂に行こう?
アタシじゃ不満だろうけど、我慢して?」
とミラベルに手を差し出す。
ミラベルは苦笑しながら
「不満なんかある訳無いでしょ?大好きな妹なんだから。
じゃあ、行こっか~」
と手を繋いで2人も部屋を後にした。
食堂では皆既に席に着いていて、目の前には何故か色んな木の実や果物が山のように盛られていた。
「うわっ!凄い量だね。
いつもは一気に出さないのに、どうして?」
とクロエがコレットに聞く。
するとコレットが笑いながら
「ここちゃん、クロエに説明よろしくね?」
とここに話を振る。
ここが頷き
(クロエさま、じつはわたくのなかまがクロエさまにと、いーっぱいきのみやくだものといった、もりのめぐみをいえのまえにもってきてしまいましたの!
まだまだたーくさんありますのよ。だからいっぱいたべてくださいませね?)
と、胸を張る。
尻尾も嬉しそうにブンブンと振っている。
クロエはここの話を聞き
「スゴーい!ここちゃん、森の皆にスッゴい愛されてるんだね~!
アタシに気を遣ってくれて、有り難いな~!
ここちゃん、森の皆に又お礼言わなきゃね!」
とここにお礼を言う。
コレットがニコニコしながら
「本当にいっぱい持ってきてくださったのよ。
昼からジャムやお酒や保存食を作らなきゃ~!
ミラベルに手伝って貰わなきゃ駄目ね!
良いかしら、ミラベル?
ああ、先生の鍛練が終わってからで構わないけど……」
とコレットがミラベルとディルクに聞く。
2人が頷くと、ここが
(まあ!ははぎみが“おりょうり”なさいますのね!
わたくし、みてみたいのです。クロエさま、よいでしょうか~!)
とクロエに尋ねるここ。
クロエは頷いて、母にここのお願いを話す。
母は嬉しそうに頷くと
「勿論よ~!何だか娘が増えたみたいで嬉しいわ!
ここちゃん、昼からよろしくね」
とはしゃいだ声で答えた。
ミラベルも顔をパァ~ッと輝かせて、感動している。
ここがキュッキュッ!と大きく鳴いて、頭をペコリと下げた後、何故か飛び上がって体をクルンッ!一回転させた。
余程嬉しかったのだろう。
皆がそのここを見て楽しそうに笑い、昼食は本当に温かい雰囲気の中、皆がもう食べれないと言うくらい新鮮な果物や木の実を堪能し尽くして、終わったのであった。
昼食後、ガルシアはコリンを連れて畑に行き、ミラベルは結局ここと一緒にコレットのお手伝いのため台所へ向かい、鍛練は無しになった。
ディルクは何故かクロエを心配そうに見ていたが
「じゃあ、クロエの授業をしようかの。……そう言えばライリーは木工をするんだったか。
それならライリー、お主が木工小屋に行く次いでに、悪いがクロエを先に儂の小屋に連れて行ってやって貰えんか?
ガルシアの書斎から本を何冊か借りてから、儂も向かうでな。
すまんなライリー、クロエも良いかね?」
と、ライリーとクロエに指示をした。
ライリーは真面目な表情で
「はい、お安いご用です。
でも、本を運ぶのに僕が手伝わなくて良いんですか。
何ならお手伝いしますよ?」
と申し出る。
ディルクは首を横に振ると
「……いや、何冊か調べてから選びたいんじゃよ。だが、ありがとうな。
少し時間が掛かるかもしれんが、クロエは小屋で絵を描きながら儂を待っていてくれ。
植物の資料化をしたいのでな。ガルシアの方がそちら関係は蔵冊が多いからのう。
じゃあ、頼んだぞ。儂は書斎に向かうからな。
……ライリー、クロエをくれぐれも頼む。……すまんな、クロエ」
と話すと、ディルクは腰をあげて先に食堂を出ていった。
クロエとライリーはディルクを見送ると
「じゃあ、小屋まで送るよ。洗い場に行って歯を磨いたら行こうか?良いかい、クロエ?」
と笑いながら妹に言う。
クロエも笑って
「うん、わかった!ありがとう、ライリーお兄ちゃん!
じゃあ先に洗い場だね。行こう!」
と答えた。
2人は汚れ物を持って仲良く洗い場に行き、洗い物と歯磨きを済ませると
「母さん、クロエと小屋に行ってくる。後、先生が見えるまではクロエと小屋の勉強部屋に居て、先生が来られたら僕は木工小屋に行くから。
ああ、それと先生は今父さんの書斎に居らっしゃるんだよ。
少ししたらお茶をお願いしても良いかな?
何だか幾つか調べものがあるみたいなんだ。
悪いけど頼める?」
と、ライリーはクロエを連れて台所のコレットのところに顔を出して、予定と頼みを話す。
するとミラベルが
「じゃあ、アタシが持っていくわ。任せてお兄ちゃん!
お兄ちゃんはクロエをお願いね!
クロエ、ここちゃんはアタシと母さんに任せておいてね。
ここちゃん、クロエに挨拶する?」
とここに聞くミラベル。
ここはミラベルの肩から
(クロエさま、しばらくはなれてしまいますが、どうかおゆるしくださいませ。
これもみなさまとなかをふかめるための、じゅうようかつひつようなしれんでございますの!
……けっしておいしいものねらいではありませぬ。
こちらはあにぎみのライリーさまでしたわね。
まあ!なんとりりしいかたなのでしょう。コリンさまとはまたちがったふんいきのかしこそうなかた!
クロエさまのごきょうだいは、みなさまステキなかたばかりでわたくしもうれしいですわ~!
ライリーさま、クロエさまをどうかよろしくおねがいいたします)
とここはライリーに頭を下げる。
ライリーはここのキュッキュッ!と言う挨拶に戸惑い
「……ここちゃんは何て言ってくれてるの?
教えてくれないかい、クロエ」
とクロエを見る。
「フフッ、凄くお兄ちゃんを褒めてるよ~!
凛々しくて賢そうな素敵な方ですねって。
ここちゃんは、ライリーお兄ちゃんがタイプなのかも知れないね。
コリンお兄ちゃんの時より、誉め言葉が多かった~!」
と笑って説明する。
ライリーは頬を少し赤らめて
「……買い被り過ぎだよ。
だけどありがとう、ここちゃん。僕を気に入ってくれたのなら、素直に嬉しいよ。
だってこんなに可愛いここちゃんに好かれるなんて、光栄だもの。
これからもクロエや僕達をよろしくお願いします。
じゃクロエ、そろそろ行こうか?
……どうしたの、じろじろ僕を見て」
とクロエを見て首をかしげるライリー。
「……やっぱり凄いわ。ライリーお兄ちゃんって。
天然の女殺しだよ。……これは凄すぎる。
普通さらっと言えるか?あんな台詞。
……優秀な人は、全てにおいて優秀なんだわ。
改めて出来が違いすぎるよ、全く……」
と腕組みしつつ、ブツブツ呟くクロエ。
ライリーはそんな末妹の様子に苦笑しつつ
「何を馬鹿な事を……。
さあ、行こうか。じゃあミラベル、頼んだからね。
ああ、ここちゃんも味見と言って余り食べ過ぎないようにね?
お腹壊しちゃ駄目だよ。また後でね」
と、クロエを抱き上げて台所を出ていくライリー。
彼等の後ろから
(!なぜばれたのです~?わたくしのやぼうがー!
うっ……あなどれませぬ。
ライリーさまはかしこすぎるのですわ~……)
とここが叫んでるのが聞こえてきたのだった。
家を仲良く後にした2人。
楽しくお喋りしながらディルクの小屋に入ると、ライリーはいつもの通り中から鍵をかけた。
「……?お兄ちゃん、先生が来るのに鍵は掛けない方が良くない?
本だってあるし……」
とクロエが首をかしげて、ライリーにそう助言する。
ライリーはクロエに振り向くと
「……大丈夫。先生の調べものは大分時間が掛かるからね。
さて、勉強部屋に行こうか。
クロエは絵を描くんだろう?
準備しないとね」
と彼女を抱き上げて、勉強部屋に向かう。
クロエは頷いて部屋の前で彼から下ろされると、大人しく部屋に入った。
すると続けて部屋に入ったライリーが、何故か勉強部屋の扉にも中から素早く鍵を掛け始めた。
流石にこれにはクロエも驚いて
「お兄ちゃん?!何で鍵まで掛けるの!
一体どうしたの。何かあるの?!」
と慌ててライリーに近付いて、彼の腕をつかもうとする。
ライリーはそんな彼女を抱き上げると無言で机に向かい、彼女を椅子に下ろした。
次いで自分も向かい合わせに座る。
「暫く部屋を先生から借りたんだ。だから先生はここには来ないよ。
先生は難色を示してたけど、最終的には僕の気持ちを理解してくれた。
だからさっきも君が不審がら無い様に、芝居までしてくれたんだからね。
鍵を掛けたのは君を逃がさない為だ。だってこれから君と大事な話をするんだからね。……絶対に逃がさない。
良いね、覚悟してクロエ。
……話は今回の家出についてだ。言っとくが誤魔化しや泣き落としは効かないよ。
……妹があんな事をしでかして、兄の僕が怒ってないとでも思ってたの?
今回の件については、父さん母さんには君に負い目がある。
先生もしかりだ。
ミラベルとコリンは、見ていて胸が張り裂けそうになるほど君を心配していた。
それをずっと見ていた僕は、とてもこのまま君を許してはやれない。
僕が納得出来るよう、君の家出に至った経緯を話してくれ。
賢いお前が何の考えも無しにあんなことをしでかしたなんて、幾ら僕でも思っちゃいないさ。
お前が悩んで悩んで……、悩み抜いた末でのあの行動だったって、子供の僕の頭でも理解はしているつもりだ。
……だからこそ聞きたい。
どんな理由があってあんなことをしたんだい?
納得が出来たらお前を許すし、こんな卑怯なやり方でお前を騙してここに閉じ込めたことを何度だって詫びる。
……最低だからな、こんなのは。
だけど兄の僕としては、形振り構っちゃ居られないんだよ。
あの日の事は忘れない……1才の大事な妹があの夜の森に自ら姿を消したんだぞ?
ご丁寧にあんな置き手紙まで、全員の分を余裕で書いてくれてね。
……あれでお前は準備万端だったんだとわかったんだ。
あんな手紙で俺が納得すると、お前は本気で考えていたのか?
……舐められたものだな、兄としての俺も。
……人を馬鹿にするのもいい加減にしろっ!あんなのは絶対に許さない!
一体どんな理由があったんだ!さあ言ってみろ、クロエッ!」
と初めてクロエに声を荒らげるライリー。
「お、お兄ちゃん……。そんな……待って……」
とクロエは初めて見る兄の本気の怒りに只茫然としてしまったのだった。
(ひぃぃーっ!や、やっばりライリーお兄ちゃんはこわいよーっ!誰か助けてーっ!!)
彼女の助けを求める、声にならない声が家族や老教師に届くことはなかったのだった。
3話目も出来るだけ開けずに投稿します~!