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やりたい事をやる為に  作者: 千月 景葉
第一章 黒き森
135/292

139. 老教師の覚悟

大変遅くなりました!先ず2話投稿します!

だけどまだ怒り編の頭です。3話目も出来るだけ早く投稿します!

「……むぅ、起ぎだぐない~……お布団気持ぢ良い……ぐぅ」


(クロエさま、クロエさま、おきてくださりませ!

 はやくわたくしをクロエさまのごかぞくにしょうかいしてくださいませ。

 ……みなさまにじいっとみつめられて、いたたまれませぬ~!

 クロエさま~!)


「ミラベルお姉ちゃん、後ちょっとらけ……お願いしますぅ……ぐぅ」


(っ!クロエさま、わたくしのなは、ここでござりまする~もうおわすれですかぁ!

 はやすぎますのーっ!

 ああ、みなさまがわらっておられますよ、はやくはやくおきてくださりませ~。

 なんてねおきがわるいのでしょう~クロエさまぁ!)


「……やだぁ……おねがい……あと 10分~」


(じゅっぷんてなんですの~?!あぁ、まさかこんなにこまったねおきだとは……。

 し、しかたありませぬ!

 クロエさまをおおこしするのも、おつかえするわたくしのおつとめなのですわ。

 ……クロエさま、ぶれいをおゆるしくださいませ。

 では、まいりますっ!)


「ぐぅ……ぐっ?!グググッ!ムガガッ!……っ!ブハァッ!

 な、何っ!息が……って、アレ?」


 ここのファインプレーに依って漸く目覚めたクロエは、一瞬自分が何処に居るのか理解出来なかった。


 何せ目の前に白い毛玉が張り付いていて、周りの様子が全く見えていなかったからだ。


「何これ?白いモフモフ……モフ?えっと……?」

 とクロエが目の前を陣取るその白い毛玉を、ガシッと両手で掴む。


(きゃあ!むたいはおやめくださりませ~。

 ぶれいをはたらきましたことは、いくえにもおわびしますぅ。

 ですがクロエさまをおおこしするには、これしかなかったのですわー!

 どうかおゆるしを~)


 ここがクロエの手の中で、ジタバタ暴れながら詫びを言う。


「……あっ!そっか、ここちゃんだっ!ごめんごめん~。完全に寝惚けてたわ。

 ……あれ、ここって家だよね?アタシ、いつの間に……。

 うっ!アワワワ……お姉ちゃんにお兄ちゃん、先生まで。

 あ、あ、あのっ!アタシ……」

 とクロエはここを手から離すと、自身のベッド周りでこちらを見ている家族と老教師に謝ろうと構えた。


 するとそれを遮るように

「クロエ……この白い子チョス、どうしたの?何でクロエから離れないの?!」

 とベッドに張り付いていたコリンが、身を乗り出して聞いてきた。


 クロエはコリンを見るとエヘヘと笑いながら

「な、何かアタシとこれからは一緒に居るって言ってくれた子なの。だから連れ帰っちゃった……みたい。

 お名前は“ここ”って言うんだって。ここちゃん、コリンお兄ちゃんだよ。

 お喋りしてあげてくれる?」

とここに彼を紹介する。


(クロエさま、わたくしのこえは、ちちぎみのもりびとどのとクロエさまにしか“ことば”としてきこえませぬ……。

 ですが、しぐさでごあいさつはできましてよ!

 あにぎみのコリンさまですのね、はじめまして、ここにござります。

 いごよしなにおねがいもうしあげまする)

 とここはクロエに自身の言葉について説明した後、コリンに向かってペコリ。


 コリンが目を輝かせて

「え、この子僕に挨拶してくれてるの?!凄いや!

 キュッキュッて鳴いてるけど、何て言ってるんだろ?

 クロエは解るの?」

 とここを感動の面持ちで見つめつつ、クロエに質問する。


「うん、解るよ。コリン様よろしくって、ここちゃん言ってる。お兄ちゃん、仲良くしてあげてね?」

 とクロエがにっこり笑って、コリンに答える。


 思わずコリンがここに大きく頷きながら

「コ、コリン様?!

 な、なんかテレるけど……うんっ!ここちゃん僕こそよろしくっ!うわぁ~ここちゃんと仲良くなるなんて、クロエってやっぱり凄いなぁ!」

 と目を益々キラキラさせてクロエを見つめる。


 と、それまで我慢していたミラベルが、とうとうコリンを押し退けた。


「ちょっと退いてよ、コリン!一人だけズルい!

 アタシだってクロエやここちゃんと喋りたいのよっ!

 ねぇクロエ、体は大丈夫なの?お腹は空いてない?」

 と先ず姉らしく、ミラベルはクロエの体調を気遣う。


「うん。ごめんなさいお姉ちゃん、心配掛けて。お腹は空いてるけど、体は大丈夫!

 でもそうだよね。さすがお姉ちゃん、ここちゃんの食事のこと、アタシすっかり忘れてたよ!

 ここちゃん、お腹減ってない?いつもは何を食べてるの?

 これからはここちゃんの食事も用意しなきゃだものね」

 とミラベルに返答しながら、ここに食事について尋ねる。


(はじめまして、あねぎみのミラベルさま!

 ここにござります、いごよしなにおねがいもうしあげまする。

 クロエさま、わたくしはきのみやくだものがすきですわ。じつはととさまが……む、むしもたべろとおっしゃるのですが、わ、わたくしにはむりですのーっ!

 うにうになさってるむしさんを、わたくしはくちにはこべませぬ~。

 ですので、きのみやくだものをいただけると、ありがたいのですわ。

 あら、なんだかおなかがすいてまいりました……わたくしったらはしたない……)

 と、ここが自身のふっくらした毛並みふさふさのお腹を押さえる。


 ミラベルがその様子を見て

「はじめまして、ここちゃん。アタシはクロエの姉のミラベルよ。これからよろしくね!

 どうやらここちゃんはお腹空いてるのね?

 クロエ、ここちゃんはどんな食べ物が好きって言ってるの?」

 とクロエに尋ねる。


「木の実と果物が好きだって言ってるわ。母さん、ここちゃんの食事も用意してくれる?」

 と子供達の後ろで微笑んでいたコレットに声を掛ける。


「ええ、良いわよ。……ガルシアがさっき言ってた通りだわ。

 この白い子チョスのここちゃんは、とっても賢いのね。

 これからはクロエの横にここちゃんの席を作らなきゃ。

 それはそれとして……」

 とコレットはミラベルの肩を叩いて場所を譲って貰うと、クロエをフワッと抱き締める。


 慌ててここがミラベルの所に走り

(すみませぬがミラベルさま!

 ははぎみのおじゃまをしてはなりませぬゆえ、すみませぬがミラベルさまのおかたにのせてくださりませ~。

 しつれいいたしまする!

 ……さすがはクロエさまのあねぎみ。ことばがわからずともどうじないとは、すばらしいですわ!)

 と勝手に彼女の肩に乗り、満足気にキュッキュッと鳴く。


 ミラベルはここが肩に乗ってきたことで、へにゃ~と感動の余り顔がにやけ始めた。


「嘘……可愛いここちゃんがアタシの肩に……!

 ア、アタシ幸せ……、クロエが居てくれてここちゃんが来てくれて……。

 ……アタシが夢見てた、可愛いものに囲まれたいって願いが次々叶ってしまう。

 アタシ、アタシ……今なら何でも出来る気がする~!」

 と若干涙目で呟くミラベルに

(……?ミラベルさまもおかわいらしいですのに。

 でもわたくしのひょうかはともかく、クロエさまはたしかにすさまじいまでにおかわいらしいのです。

 おそれながらミラベルさまとはわたくし、きがあいそうでございますわ!)

 とミラベルの呟きに同意しつつ、キュッ!と頷くここ。


 お互いの存在を認め合うミラベルとここはさておき、コレットはクロエを抱き締めながら

「……心配したのよ、とても。

 貴女をもっと見てなきゃいけなかった。家を出る選択をさせてしまう程、貴女を苦しませてごめんなさい、クロエ。

 本当に私は母親失格だわ。

 ……貴女が無事に帰って来てくれて、良かった。

 貴女にもしものことがあれば、私は……!

 どうか私を許してちょうだい、クロエ。

 本当にごめんなさい……」

 と肩を震わせる。


「母さん……そんな、母さんが悪いんじゃないわ。謝らなきゃいけないのはアタシだもの。

 アタシが慌てんぼでおっちょこちょいだから、先走ってこんな家出なんかしてしまった。アタシが悪かったの。

 本当に心配ばっかり掛けて、悪い子でごめんなさい……。

 母さん、泣かないで。アタシのせいで泣かせてばかりでごめんなさい。

 もうこんな事はしないから……!」

 とあの日抱き締め返せ無かった母にしっかり手を回して、抱きつくクロエ。


 コレットも更に末娘を抱き締める。


 暫く母と娘は無言のまま固く抱き合っていた。


 やがて掠れた声で

「クロエ……すまなかった。全ては儂の愚かさが引き起こした事じゃ。本当にすまない。

 許されることでないのは儂が一番わかっとる。

 儂こそ教師失格じゃ。

 ……此度の件で儂は心底自分が嫌になった。

 ジェラルドに言うて、其方等の教師を辞そうと思う。

 それで手打ちにしてくれぬか、クロエよ。

 本当にこの通りだ。誠にすまなかった!」

 と爆弾発言を混ぜつつ、頭を大きく下げて謝り倒すディルク。


 その言葉を聞いたクロエとコレットは慌てて抱擁を解き、他の家族もギョッとして老教師を見る。


「先生っ?!何を仰るんですか!アタシの家出は、アタシが勝手に勘違いしてやらかした失態ですよっ?!

 何で先生がアタシに謝って、しかも辞めちゃう話になるんですかっ!

 !……まさかこんな馬鹿で面倒臭いアタシの指導など、これ以上は懲り懲りだって云う事ですか?

 そ、それで辞めるって……ア、アタシどうしよう!

 とうとう見放されちゃったの?か、母さん……アタシ先生に見限られちゃった……!

 どうしよう、先生、アタシがそんなに疎ましくなっちゃったんですか……。

 そんな、い、嫌だ、嫌ですーっ!ごめんなさい、先生!

 謝ります!反省しますっ!もう二度と家出なんてしませんから。今から土下座でも何でもします、どんな厳しい罰も受けますっ!……食事抜きでも耐えます!

 だからお願いです、先生!

 馬鹿を見捨てないで下さいっ!

 先生位しか、こんな馬鹿を指導してくれる奇特な人居ませんからーっ!

 本当にすみませんっ!ごめんなさいーっ!見捨てないで下さい!」

 とクロエは慌てふためきながらディルクへにじり寄ると、彼の腕を両手で握りしめて叫ぶ。


 ディルクは目をパチクリしながら

「……いや、あの、だからだな、愚かにも儂は、お主に隠し事をされたと勘違いして、辛く当たってしもうたのだ。

 ……お主は何も悪くない。単に儂が大人げなかったのだ。

 お主はそんな年甲斐もなく拗ねた儂の不用意な言葉で傷付き、又お主自身の力に思い悩んだ挙げ句、最終的にこのような突拍子もない行動を取らざるを得なくなったんじゃろう?

 つまり自分の力の事で、皆に迷惑を掛けたくないと家出をした……違うか?

 儂はまさかこんな年になった自分が、年端もいかぬ幼いお主に意地悪をするような情けない性根の持ち主じゃとは思わなかったのだよ。

 此度は本当に未熟で醜い自分を思い知らされて、儂は申し訳無いやら情けないやらで、とてもお主等の教師をやれるとは思えなくなってしまったんじゃ。

 じゃからなクロエ、お主を見限った等と云うことでは決して……」

 とクロエに己の不徳故の引責辞任だと説明する。


 しかし彼女はブルブルと大きく首を横に振り

「何でそうなるんですかっ!アタシからしてみれば、先生がお辞めになられるのが一番辛い仕打ちになりますよっ!

 未だ鞭で打たれた方がましな位です!

 そ、それにですよ?アタシだけの先生じゃないんです。

 お兄ちゃんやお姉ちゃんはどうなるんですか?!

 寧ろ先生が重視しなくてはならないのは、お兄ちゃんお姉ちゃんでしょう?アタシじゃないっ!

 アタシを教えるなんてのは、元々予定外の筈。

 だって1才だし!まさかこんな変な1才児だなんて予定外も予定外だって、誰でも解るし!

 追々成長してきたら教えるって位だった筈でしょう?

 なのにオマケのアタシのせいで、本来の大事な教え子達まで見放すなんて本末転倒も良いところですよっ!

 これじゃアタシ、大事な先生をお兄ちゃんお姉ちゃんから取り上げちゃう事になるんです。それこそ皆から恨まれちゃいますよっ!

 アタシを少しでも憐れに思って下さるなら、辞めないで下さいっ!

 アタシをこれ以上、兄妹の中の最大のお荷物にしないで下さい~!

 土下座でも何でもしますから~!

 お、お願い、しぇんしぇえ~グッ……グスッ……びええ~!びえ~っ!ビエーーッ!」

 と必死にディルクを止めようと説得する内に感情が高ぶったクロエは、彼にしがみついて世にも情けない大声で泣き出してしまった。


 まさかクロエが泣き出すとは思ってもいなかった老教師や家族は、慌てて宥めに掛かる。


「こ、これ!そのようにビイビイ泣くでない、お主はそんな性格ではないであろうが!

 ……ああ、涙だけじゃなく鼻水までダラダラとっ!可愛らしい顔がなんとまぁ、ここまで崩れるか?


 これクロエ、目も鼻もグシャグシャではないか~!


 ほれ、この布で顔を拭いて……こらっ!イヤイヤして逃げるんじゃないっ!こりゃ、バタバタ暴れるでないっ!聞き分けんか、これっ!

 ったく、お主は赤子かっ!……あ、赤子じゃったわ、クッ!

 ああ!お主、服まで涙と鼻水が……ん?オワッ!儂の服にまで……!

 な、なんと……コレットよ~、どうしたものかのう。

 一向に泣き止まぬ、何とかしてくれぬか~!」

 と泣き止まぬクロエを抱え、心底困り果てた表情でディルクがコレットに泣きつく。


 微笑んだコレットがディルクに

「先生、直ぐに泣き止む方法があるんですけど、先生にしか出来ないんですの。

 如何しますか?」

 と末娘が泣き止む秘策を教えようとする。


 ディルクは慌てて

「!早く教えてくれっ!ああ、もう見てられん~可愛い顔が鼻水でズルズルじゃ……。

 クロエがこんな赤子の様に泣きじゃくるとは、いや、確かに赤子なんだがな。

 ああ、何をすればこの子は泣き止むんじゃ、コレット?!勿体ぶらずに教えてくれ!」

 と彼女に早く教えるように頼む。


 コレットはニッコリ笑うと

「簡単です。これからも子供達の先生を続ける、と仰れば良いのですよ。

 それで全ては解決ですわ!

 クロエは泣き止む、子供達も喜ぶし、私達も安堵します。

 ……私達には到底理解出来ない、先生の引責辞任と云う馬鹿げた考えを取り消して下さるだけで良いのです。

 さあ、このまま意地を張られますと、クロエの可愛い顔が見るも無惨に腫れ上がりましてよ。それは余りにも可哀想でしょう?

 だから早く馬鹿げた考えを取り消して下さいませ?」

 と半ば脅しのように老教師に辞任の白紙撤回を求める。


 ディルクはグッ……と顎を引き

「いや、しかし……仮にも一度決意した事をだな……。

 ……お、おいっクロエ!

 こ、これ!これだけ泣いて、未だ涙が出るのか?!泣き止みなさい、これっ!」

 とコレットの提案を退けようとした途端、又更に火が着いた様にギャンギャン泣き喚き出した幼女に慌てる。


(泣いて喚いて暴れて、とにかくなんだってやってやるー!

 先生を引き留めるのに、形振なりふり構って居られるかーっ!

 なにがなんでも、先生を辞めさせてなるものかっ!

 アタシの目が開かなくなろうが、声が潰れようが知るもんかっ!

 1才の赤子のアドバンテージ、フルに活用してやるーっ!

 母さんもっと先生を脅してっ!お兄ちゃんお姉ちゃん、もっと先生に縋り付かなきゃ駄目だよっ!)


 クロエの気持ちが通じたように、コリンとミラベルが両脇からディルクにしがみ付いて

「先生、辞めないで下さい!」

「何で辞めちゃうんですか!僕もっと勉強教えて欲しいです~!」

 と甘え出す。


 何故か“ここ”まで、ディルクの肩に乗り頬にスリスリしてくる。


(せんせいさま、くろえさまやあにぎみあねぎみのおきもちをくんでくださりませ~!スリスリ~!)


「おおっ?何で子チョスまで儂にすりよってきとるのだ?!」

 とディルクが戸惑っていると

「先生、恐らくジェラルド様も先生の辞任をお認めにはなりませんよ。

 あの方の事です、きっとのらりくらり逃げてなし崩しに先生は慰留されるに決まってます。……想像できるでしょう?

 諦めて僕達の先生をお続け下さい。

 第一、先生に罪があるのなら僕達にも等しく妹を止められなかった咎があります。

 ……特に両親は、先生の言葉で居たたまれない思いをしている筈です。

 先生なら解って下さいますよね。

 ……だから僕達を見捨てるような発言は即刻取り消して下さい!

 クロエを早く泣き止ませないと、後が大変です。

 何も食べさせてないんですから、下手したら気を失いかねません。

 脱水症状が出たらどうするんですか?又熱を出しますよ。

 涙を早く止めないと。声も心なしか嗄れてきていますし……」

 とここでとどめとばかりに、非常に冷静な長兄のライリーの説得の言葉が入った。


 ディルクはライリーをばつが悪そうに見つめる。


「……解った。そこまで冷静に言われてしもうたら、儂は何も言い返せぬわ。

 クロエ、すまんかった。辞めることは止めることにする。

 ……よく解らん言葉になったの。

 つまり、儂はこれからもお主等の教師を続ける。

 聞こえたか?

 聞こえたら早く泣き止み……?」

 とディルクは途中で言葉を止めた。


 ブンッ!ヂィーーーンッ!


 ……既にクロエが泣き止んで、ディルクの差し出していた布を手に取り、鼻を思い切り咬んでいたからだ。

「あー、鼻がづまっだ~!先生が中々続げるっで言っで下ざら無いがら、鼻がズルズルれずよ~!

 ヤバイ、目もヂガヂガずる~!腫れでるよね~、嫌だ、もう。

 でも流石ライリーお兄ぢゃんだわ~!上手ぐ説得出来で良がっだぁ!」

 とクロエは鼻を拭き拭き、アッケラカンと話しだす。


 ディルクはガックリ肩を落としながら

「そういう奴だわ、お主は……。何で一瞬でも普通に泣いていると信じ込んでしまったのやら。

 お主はそれでこそ、お主じゃよ。……却って安堵してしもうたわ。

 ……まぁ良い。どうやら儂も冷静さを欠いていたようじゃ。

 ライリーに指摘されて気付いたが、あの馬鹿が素直に儂を辞めさせる訳無いわ。

 儂の嫌がる事なら喜んでするあ奴なら、確かにのらりくらり逃げるわな。

 はぁ、何か悩んでおったのが馬鹿らしくなってきおった。

 ああ子チョスよ、もうスリスリは止めぬか。儂はもう大丈夫じゃからな?

 何だか腹まで減ってきおった。コレット、何か……」

 と少々頬を赤らめて、早口でコレットに食事を頼もうとした。


 するとコレットが

「やだ!いけないっ!皆の朝食まだだったわっ!

 早く用意しなきゃ!

 ガルシア、ミラベル、コリン!早く手伝って!

 ライリーはクロエを連れて、先生といらっしゃい!」

 と慌てて食堂に走り出す。


 母に呼ばれた子供達と、妻に呼ばれた夫も食堂に走り、何故か子チョスも彼等に付いて走り出した。


(おうちをたんけんですのーっ!もりびとどの、おまちくださりませーっ!)

 とクロエ以外で言葉の通じるガルシアの後を追う。

 

するとライリーが

「クロエ、ちょっと待っててくれないか?直ぐに済むから。

 先生、今日の予定についてなんですが……」

 と部屋の隅にディルクを連れていき何やら話をする。

 

ディルクが

 「……!いや、しかし…………お主が……まぁ確かに…………。

 う、うむ…………それは…………。……解った。だが余り…………。

 ……仕方あるまいな。任せる」

 と時折クロエをチラチラ見てはライリーと話をしていたが、やがて一つ溜め息を吐いて少年に頷いた。


 ライリーは何かを認められたにも関わらず、全くニコリともせずに

 「……では、午後はそのようによろしく。ミラベルには僕が伝えます。

 コリンは父が共に畑に連れていく予定ですから」

 と、何故か老教師に念を入れる。


 クロエが首をかしげながら見つめていると

 「ああ、すまない。待たせちゃったね。さあ食堂に行こうかクロエ。お腹減ったろう?

 ちゃんと食べていたのか?

 皆待ってるから、早く行かないとね」

 と彼女を抱き上げて食堂に向かおうとするライリー。


 さっきまでの真面目な表情から優しい笑顔になったライリーを見て

(あれ?ライリーお兄ちゃん、今回はアタシを怒らないんだ。

 何だ、警戒して損した。アタシを見る目も優しいし、言葉も明るいし。はぁ、どっと拍子抜けした~。

 アハハ、アタシったら何だかマゾっぽいな。

 ……お兄ちゃんに怒られるのを覚悟してたもんな。

 まぁ何となく物足りない気もするけど、精神的にはライリーお兄ちゃんに怒られない方が良いに決まってるしね。

 ……何だかお腹すいたな~!)

 と胸を撫で下ろしたクロエ。


 「うんっ!お腹すいた~!

 ……心配掛けてごめんね、お兄ちゃん」

 とクロエがライリーに詫びると

 「……今は先ず食事と休息だ。クロエは朝食を食べたら汗を流して、午後まで休むんだよ。

 午後からはいつも通りの生活に戻ろうか。良いね?」

 と彼は微かに笑いながら、彼女の詫びについて言及せずにこれからの予定の指示をする。


 クロエが大きく頷くと、彼女の頭をクシャリと撫でてから

 「……よし。さあ、先生まいりましょう。皆待ってますからね!」

 とディルクを呼ぶ。

 

老教師は苦笑しながら

 「……まぁ自ら蒔いた種だ。仕方無いと諦めよ。お主の健闘を祈るぞ。

 ……多分勝ち目は無いだろうがな」

 と2人に聞こえないように呟くと、彼も食堂に足早に向かったのだった。


次も連続投稿してますーっ!

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