136. 守護するもの達
遅くなり誠に申し訳ありませんでした。中々筆が進まず、書いては消し、書いては消し。
何とかマシかなと思える位になってきたのが3日程前。そこから又手直し手直し。
引き続き森や地との会話です。
すっとんきょうな大声を出した後、クロエはハッとする。
「……そうか、アタシに何かあれば大変よね。だって次代の巫女が居なくなるってことだもの。下手したら世界が終わるって話になるわ。
森さんが守護してくれるのはそういうことだからか。
あの!違うから。勘違いしないでね?嫌みを言ってる訳じゃないの。
守護されるような立場に立つのなんて、初めてですもん。
無茶するつもりは無いけど、アタシは結果的に暴走する事多いし。……まあ今の家出もか。褒められたことではないんだけど。
だから、結構守護が大変だと思うんですけど、よろしくね?」
と自分に納得させるように理由を口に出して、森に承諾の返答をする。
そして
「具体的にアタシは何か巫女として動くまでに、鍛練みたいな事やっとく必要あるかしら?もしあれば言っといて欲しいんです。
……アタシ、転生してるでしょう。前の雅の時はやりたいことなんて考えた事無くって、割合何でも惰性で決めて生きてきてたと思うの。
人と争うくらいなら、自分から退くのが当たり前の子だったし、何かとね。
……だって自分の意見を通そうとしたら、人から敵意や悪意を向けられる事、多くなるでしょ?
それ等に立ち向かうって、ホントに気力も体力も削られるし、何より心が辛い。そこまで覚悟して何かをやりあうなんて、前は考えたことすらなかった。
寧ろ楽に生きる為に、我慢する方が良いって無意識でそうしてた、聞き分けの良い子でいた方が楽だったんです。家族や友達に決めると云う“重荷”を丸投げしてたのね。
今思うとそんなドMで依存しまくりな生活、周りは皆優しい人達ばかりだったから出来てたのかもしれないけれど。
別に悪い人生じゃ無かったし、楽しい思い出もいっぱい有るけど、最期にそのとても大切な人達を酷い哀しみや怒りのドン底に突き落として、今なお苦しませる様な死に方をしてしまったのよ。
……アタシは良い子なんかじゃなかった。自己満足の固まりで身勝手な奴だったんだ、って死んでから初めて思い知らされた。
何にも考えずに楽に生きてきたから、最悪な形でツケが廻ってきたんだなって。
……そんな馬鹿が転生したの。
だけど折角転生出来たんだから今度はもっときちんと考えて、この2度目の人生を本当に“生きるために”、先ずはアタシがやりたいことを誰にも遠慮せずやろうって考えたんですよ。
今生で死を迎えるときには
「ああ、アタシやらなきゃならないことはやったし、やりたいことも見つけて頑張ったよね!うん、もっと生きたかったけど、でも前よりは自分で決めて人生を楽しんだよ」
って笑って思える様に。
ま、人様の迷惑にならないようにってのが大前提だけど。
……アタシ気が弱いのはそのまんまだから、迷惑だと解ってる行動は意識して取れないし。
……結果的にそうなってる時はよく有るけど。今回みたいに。……それはそれとして。
勿論今もその気持ちは変わってない。
となるとアタシが巫女として動くまでの期間を有効に使わなくちゃ、でしょ?
引き受けた限りは巫女の仕事はしっかりやりたいし、だけど個人的に決めたやりたいことやるって目標も叶えたいから、予めやらなきゃいけないことや反対にやっちゃいけないことを聞いて、計画的に動きたいんです。
計画立ててもその通りにいかないかもしれないけど、考え無しで時を無駄にするのだけは避けなくちゃ。
ね、どう?何かあります?」
と頬に手を当てて尋ねる。
これについても森が返答する。
『特にない。と云うか、そう身構えずとも良い。
其方は其方のやりたいようにやりなさい。
我が其方を守護する主足る理由は確かに其方の言う通りだが、それだけではない。
……我等は其方を気に入っておるのだ。異界の娘よ。
何をしでかすか解らぬ所も、この世界の者とは違う視点も、全てのモノに優しい所もな。
だから事も無げに辛い役目であろう巫女を引き受けると言ってくれた優しい其方に、その枷以上の重荷を背負わせるつもりはない。
いずれ来るであろうその時までは其方の影となり、其方が進みたい道を進める様に支えよう。
それだけだ』
森がそう答えると、クロエは少しの間黙ってしまった。
やがて
「……ありがとう」
とだけ応えたのだった。
クロエは引き続き質問をする。
「あの、単なる興味なんだけど2・3聞いて良いですか?
守護って実際森さんはどんなことをするの?
そこ、知りたい!」
と興味に目を輝かせながら聞く。
『我は森の者共を統べる。具体的には動植物全て、後命無き物もだ。土水風岩等もな。
それ等を使役し、其方を守る。
森を外れてもそれは変わらない。其方に害なす輩を見つけし場合、その場に居る眷属等と通じて其方の傍からその輩を排除する。
其方が心から助けを求める時、其方がこの世界の何処に居ようと我は必ず其方を守る。
……輩の排除の手立てについては、その時に応じてとしか言えぬ。優しき其方が知る必要はあるまい。……聞くな』
と詳しい守護の方法は教えてもらえなかった。
クロエも森の言葉に不穏な空気を感じ、それ以上は聞かないでおこうと決めた。
クロエは1つ引っ掛かった疑問を口にする。
「……森に居る全てのモノを統べるって仰いましたよね?
では父さんに何故狩りをさせてるのですか?
勿論アタシも無駄な殺生なら許せないけど、生きていくために必要な命のやり取りはあって当たり前だと考えています。……たまのお肉は美味しいし。
だけど森さんなら、森の平定のために父さんに命じて狩りをさせずとも、自らの意のままにこの森で生殺与奪が出来るじゃないですか。
父さんが命を賭けて狩りをする必要なんて無い筈。
なのに何故?」
と不思議そうにクロエは聞く。
『……極力我が手は下さない。
この世界の創造主足る我が主の至上命令だ。
我の力は過ぎたる力。全ての営みを破壊しかねない。
勿論力の調整は出来るが、それでも論外だ。
この世界で生きるもの同士で釣り合いをとるのが本来の在るべき姿。
そこに創造した側が決して入ってはならない。
……だから森の生物達の上に、我が選んだ人間を置く事にしたのだ。
しかし中々その様な者を見つけられずに居た。
……今の守り人は漸く見つけることが出来た唯一の者。
選んだアレは強く優しく、そして賢いからな。眷属もアレならと納得している。
其方と同じく人の中では稀有な存在だ。
……我等が介在して良いのはこの世界を存続させる為、世界を終焉に向かわせようとする澱と唯一対峙できる次代の巫女の其方を守護する一点のみ。
因みに守り人は、我との誓約の上で動く者だから其方とは別の扱いとなる。
其方とアレは我等と通じる事が出来る者達だが、アレを守護はしない。アレは使役する者達を管理する者だ。
権限は有るが、無条件に我等の中を己の意思で動けるわけではない。いざと云うときは我がアレを止めねばならぬからな。
……澱は我等の中に巣食う毒。自らを痛め付け壊すが、自身では排除出来ぬ厄介な猛毒だ。代わって立ち向かってくれる巫女を守ることが、我等がこの“業”に抗う為に出来るせめてもの事。
だから其方は何においても守護せねばならぬ。
アレとて文句は言わぬよ。
これで答えになるか?』
と森が返答する。
「はい、何となく呑み込めた気がします。
……これも深く考えちゃ駄目なんだな、うん。
あ、それから……」
と又質問しようとする彼女に
『……其方は好奇心の固まりだな。やはり前の世界とは色々と勝手が違うせいか?
……まあ良い。次は何だ?』
と森が呆れたように促す。
クロエは頭を掻きながら
「アハハ、しつこくてごめんなさい。
確かに前の世界とは全く違うってのが一番大きいですね。気になる事なら山ほどありますよ、ホントに。
で、前の世界で思い出したんですけど、始まりの地の畑で採れてる前の世界の果実!
あれはどうしたんですか?
元々此方の世界でも存在する果物なんですか?
温州みかん見た時は度肝抜かれましたもん~。
父さんや先生、ジェラルド様も初めて見たって言ってたし。
ね、どうなんですか?!」
と鼻息荒く聞く。
森は珍しく言い淀み
『……あれは、だな……その』
と歯切れ悪い言葉をボソボソを呟いている。
すると今まで黙っていた始まりの地が
【……我ガ其方ノ記憶ノ中ニ在ッタ、アチラノ世界ノ食材ヲ再現シタ。……勝手ニ記憶ヲ見テ済マナイ。
少シデモ其方ノ慰メニナレバト……。其方、食ベル事ガ何ヨリ好キナノダロウ?
ダカラ……】
と答えたが、やがて又次第に黙ってしまう。
クロエは目を丸くし、又暫く固まってしまった。
だがやがてパアッと花が綻ぶ様に笑うと
「気遣ってくれたんですね?!凄く嬉しいっ!
ありがとう!記憶を見られたのは些か恥ずかしいけど、まあ始まりの地さんとその守護の森さんなら、文句言えないや。
そっかあ、そうだったんだぁ、うふふ、遠慮なくいっぱい食べようっと!
……まさか、アレも可能かな。い、イヤイヤ流石にそれは甘え過ぎだわ。止めとこ。
……ん?待てよ。もしやお二方の中でアタシの一番好きな事は、食べる事って認識になってらっしゃる?
うぐっ、確かにその通りだけどちょっと複雑……」
と感謝を伝えたが、途中からはう~んと唸る。
始まりの地が
【……余計ナ事ダッタカ?】
と気遣わしげに聞く。
クロエはブルブルと大きく首を横に振り
「まさか!凄く嬉しいです!
……ただお二方から頂いたアタシが一番好きな事は食べる事だと言う評価がですね、一応女として如何なものかと自問自答してるだけなのですよ。
その評価が間違って無い事は確かなんで、それが却って辛いと言いますかなんと言いますか……。
や、未だ1才だから食べることくらいしか頭に無いのはしょうがないと言えばしょうがないんですけど、中身が一応大人なもので、つい危機感抱いちゃうんです。
乙女心ってのはホント複雑なんですよ、ハァ。
……こりゃこのままじゃ女子力なんて絶対前世と変わらないぞ?非常に焦るべき事態だ。
先生には強がってああは言ったけど、やっぱり女子力は高いに越したことはないんだからね。
……ア、アタシだって1度くらいリア充体験したいよ。イチャイチャしたいよ、ラブラブでハート飛び散らかして、周りから生暖かい目でドン引きされるくらいの仲になりたいんだよ、素敵な男性と!
地味女だったけど、正直恋愛に興味は有り捲りだったんだよ~!
何気にこの性格のせいで、照れを感じて女子っぽい行動取れないのがそもそもネックだったんだ。
綾姉ちゃんみたいに二重人格的な行動、アタシにゃ端から出来ないから雅の時は性格丸出しでああだったんだ。
佐奈だってアタシをディスり捲りだったんだもんな。
女子パワー、アッープ!なんて、相当覚悟して修行しなきゃ、目に見える成果なんぞ見込めんわっ!
何せいっちばん要になる性格は、今もそのまんま前の記憶に引き摺られてるしな、女らしさの欠片も無いって既に今生で誰か(ディルク)に言われた覚えがあるっ、クッ!
……結局ホントに見た目だけになるかも、女子力で唯一アップするのは。
……おいおい残念過ぎるよアタシ、折角恵まれた見た目になったってのに中身の落差が激しすぎる。
ま、まあ未だ1才だし?
これから先の伸び代を期待してだな……って、だ~か~ら~!その伸び代伸ばすのは自分なんだって~うぅ~」
と頭を抱えて自らの残念さに突っこみを入れつつ、ジレンマに身悶えする。
『……よく解らぬが複雑なんだな。まぁ落ち着け。
それより他に聞きたいことは無いのか?』
と森がそれとなく話題を元に戻す。
クロエは顔を上げて
「あ、はい、今気になる事はそのくらいです。ありがとうございます。
ですが、確認をしておきたいことがあります。良いですか?」
と森に話す。
『確認とは?』
「はい、今この場でお話した内容は他言無用でしょうか?
家族や先生には話すと不味いですか?
結構重い内容もありますし、何て言うか……只でさえ1才過ぎたばかりの癖に、あろうことか家出と云うとんでもない行動をとってしまったお馬鹿な子が、こんな奇跡の体験と話し合いの中身を話したら、どエライことになるのは必至ですもん。
まあ実際の話、全てを話して良いとお許し頂いたとしても、個人的に話せない部分もあったりするんですがね。
どうでしょう?」
と伺いを立てるクロエに対し
『言うたであろう、これ以上の重荷を其方に背負わせるつもりはないと。
……口止めなどもせぬよ。
他の者に話したいならば、自由に話すが良い。
賢い其方ならば自ずと周りの様子を察しながら話せる事は話すであろうし、そうでなければ端から口にせぬ筈。
我等は其方の意志を尊重する故、自由にすると良い。
ああ、守り人には我等から其方の守護をする事だけは伝えておく。
何かとアレも心配しているであろうしな。
後、既に其方は我の領域と主の領域にも出入り自由となっておるからな。いつでも徘徊するが良いぞ。
……巫女の褥だけは、行きたいときに一声掛けてくれれば連れていく。
其方の行動を制限する者はこの世界に事実上居ない。
……唯一は澱のみだ。
又其方を守護する際に、我の手足となり動く我が眷属達にも会えるであろう。あ奴等も其方と近しくなりたがっておるからのう。多分直ぐに姿をあちこちで現すぞ。勿論話も可能だ。覚悟しておくのだぞ、クロエよ。
実際、アレ等を抑えておくのはそろそろ限界でな。
これで漸く安心できる』
と破格の待遇を事も無げに話す。
クロエは口をパカッと開けた。
「何、その甘甘待遇?!
良いんですか、そんな簡単にこんなアタシを野放しにしちゃって?!周り文句言わないんですか?……周りって眷属さんと始まりの地さんだ、言わないか。
眷属さん達と会えるのは大歓迎ーっ!話もオッケーなんてグッジョブ!
……前の世界のようにモフれるかしら?居ちゃうのかしら、モフモフ隊!居たらカモンよ、カモンだわっ!
動植物以外に何の眷属さん達に会えるのかな~ウフフ。
……だけど、森さんの守護どころの騒ぎじゃないぞ、コレ。
うわ、やっぱり巫女の役割ってホントに重大なんだ。こりゃ余程気合いを入れないと。
……うん、頑張る。
例え最初の出だしが複雑なモノだったにせよ、この役割はアタシが今納得して改めて引き受けたんだもの。逃げたりしないわ。
あ、単純に聞きたいんだけど、ホントのところ嫌なら巫女の役割からアタシは逃げれるんですか?
確か夢で、あの巫女様がそんな事を話しておられたような気が……」
とクロエは更に爆弾を落とす。
『……可能だ。その場合は何もしなければ良い。共に滅ぶのみだ。其方自身にも等しく終わりが訪れる。
……其方の意志が世界の命運を握るのだよ。
巫女として動く動かないは其方の心次第。
心が伴わずしてやれるものでは無いからだ。
力を与えたのは我等だが、それは其方の魂の力や素養を鑑みての事。意志は我等が動かせるものでもないし、又してはならない。
後は全て其方が自身で決めるのだ。
だが巫女として動かなくとも、我等が其方を敬い守護することに変わりはない。
それが導く者から託された其方に許しも得ずに、其方を巫女として選び力を託した勝手な我等が最低限やらねばならぬことだ。
それに其方だからこそ我等も守りたいのだよ、クロエ。
……其方は言っておったな、自分は自己満足の固まりで身勝手な奴だと。
それは無い。先ずその様な輩は、そんな風に自らを過小評価せぬ。反省などする筈もない。我等がその様な輩を敬う訳がなかろう。
そこからして違うのだ。
安心しなさい、其方は優しく強く慈悲深い。良き娘だ。
他者の目の方が見えるものが多いものだ、信じなさい』
と静かに諭された。
クロエは照れ臭そうに微笑んで
「甘いんだからなぁ、もう。
こんなに甘やかされたら惚れてまうやろ!ってツッコミ入れたい位よ、全く。
……森さんが人なら是非彼氏になって頂きたかった。
こりゃ彼氏探しのハードル上がったな。アハハ」
と早口気味に話す。
不意に始まりの地が割り込んだ。
【……米?ゴ飯?魚。……豆製品ノ醤油ト味噌?海苔……?
コレハ面妖ナ……ダガ食ベタイノカ。
解ッタ、何トカシヨウ。
暫ク待ッテ欲シイ。済マヌナ、クロエ】
と呟く地に
「うわあっ!読まれちゃった!しまったーっ!
そんな駄々漏れなんですか、アタシって!
……し、しかし開き直ろう!た、食べたい!食べたいから待ちますー!よろしく!」
と食い気に負けた彼女は勢い良く頭を下げた。
『主……そこで何を頑張ろうとしているのですか。
巫女の為なら必死ですか、全く。まぁ解りますが』
と森が呆れる。
彼等がクロエの胃袋を押さえようとしたのは正に英断だったのだ。
因みに彼女はこれ以降、度々食物のリクエストを彼等にするようになる。
やはりクロエは食い気が第一の女だった。
なるべく早く更新します!
何とか後2話以内でこの下りを終えたい。大分長いもの。