135. 巫女の力
遅くなりすみませんでした。
大分解っていただける様に表現したつもりではあります。……でもくどい。長い。文下手。ごめんなさい。
又読み返して手を入れますが、何とかそれまでこの文でご容赦を。
「澱?歪み?滅びるって……穏やかじゃ無いな……」
とクロエが聞き返す。
【……我ノ為ニ7柱ノ愛シ子ガ苦シミニ耐エテイル。
我ハ己デ背負ワネバナラヌ重荷ヲ、愛シ子ニ背負ワセタママ……】
と呟くと“地”は黙ってしまった。
代わって森が語りだす。
『……我が話す。
思いが現実の力に変換されるのがこの世界。その力は“魔力”と呼ばれ、その魔力が一定量有れば、その魔力を保持している者の強い思いだけで“事象”が動く。その事象の動きは様々だ。
だがこの世界の全てのモノは、大なり小なり“思い”を持つ。命有る者、又無き物でもだ。だが、その“思い”の力が小さいモノは一定量以下しか魔力を持てぬ。つまりはそのモノは自身の思いだけでは魔力が顕現せず、使うことが出来ぬ。
その保持されるだけの小さな魔力はやがて、そのモノの姿が失われる際にその魔力を周りに霧散させる。
霧散されたソレは、やがて集まって固まり、魔力の塊の“魔晶石”となる。
その魔晶石は成長していくと又、魔力を飽和させる。
凝縮された魔力の塊である魔晶石の魔力は純粋に強い。飽和した時点で周りに影響を与え、あらゆるモノを生み、育む。
それがこの世界の他のモノを育てる力と又なっていく。
……魔力はこのように、この世界を動かす力となっているのだ。解るだろうか?』
と言葉を切り、森はクロエの反応を待つ。
「……つまり、魔力はこの世界の主な動力源という訳ね?!
……その位の理解で勘弁してください。この世界には魔力はなくてはならない物だって事は、この大したこと無い頭でも何とか解りましたから」
とクロエは頭を押さえつつ、かろうじて理解したと答えた。
「……で、澱とか歪みって?今の話には出てなかったですね」
と又聞き返す。
『……大まかに解れば良い。
今言った通り、自身で使えない魔力も何れはこの世界に還元されていく仕組みになっている。
……だが思わぬ事態が起こった。
現世の姿を失った魂は魔力を霧散した上で、輪廻する為にこの始まりの地へ戻りその時を待つ。
しかし、魔力を使えるモノと使えないモノとの間に軋轢が生まれた。
勿論命無き物や、命有る者でも単純な思考の生物達に問題はなかった。又、彼等は魔力自体を生きる為の身体強化位にしか使わぬしな。
……生物の中でも桁違いに思いの力が強く、他の生物には無い“想像力”と云う稀有な能力を持つ“人間”が問題だったのだ。
人間は元々思いの力が強いが、人間と云う括りの中ではやはり強弱がある。
魔力を顕現させ行使出来る者と、力及ばずに魔力を行使出来ない者とに分かれた。
……それが思いの力を歪ませることになった。
行使出来る者は行使出来ない者を見下し、虐げ始めた。
見下され、虐げられた者はその腹立ち、苦しみから思いを澱ませ始めた。
……その澱みが少しずつ少しずつ溜まっていく。
やがてその澱みから一際濃い澱が底で集まり始めた。
澱んだ思いから生まれた澱達。……それは今までに無い力を秘めていた。
……思いの力が魔力と成り、霧散して浮遊する微小な魔力の残子でさえ集まると力を放つ魔晶石と成り得るこの世界で、その澱だけは力を秘めたまま互いに固まらず、ただただ濃い澱と成っていった。
そうして澱が溜まりに溜まった時……コトは起こった。
……澱は澱自身を生んだこの世界自体を膿んで否定し、全てを無にするべく動いた。
全ての命の源である始まりの地を澱で覆い尽くし、呑み込もうとしたのだ。
澱は瘴気を生み、全てを枯らし干上がらせた。
輪廻する為に戻る魂を絡めとり、自らに取り込む。
又輪廻を待ちながら始まりの地で眠る魂を瘴気で襲おうとした。
……命の輪廻が行われなければ、世界はやがて無に帰してしまう。終焉を迎えざるを得なくなるのだ。
だが“始まりの地”にしてみれば、澱とて自らの中で育んだモノで有る故、愛し子と言える。
況して元は魂であり、それも自らの怒りに我を忘れている哀れな者達の成れの果て。
この内乱とも言える事態を自らの責と考えた始まりの地は成す術もなく、ただ滅びを受け入れようとしていた。
だがこのまま滅びの時を受け入れるわけにはいかないと、其方の様に我等と意思を通わす事が出来る者が動いたのだ。
……その者を我等は“巫女”と呼んでいた。
其方と同じ力を持ちながら、強大な其の力を恐れた他の人間からは疎まれ、あろうことか我等への捧げ物とされた娘だ。
だが人間達に疎まれながらも、人間を愛していた気高き娘だった。
娘は其の力をもって澱を自身に封じ、そのせいで娘の器は壊れた。
だが彼女は魂になってもこの空間に留まり、身に封じた澱達の慟哭に耳を傾け、彼等の憤りや拗れた自己否定を解きほぐし、激しい破壊衝動を消す為に尽力してくれたのだ……。長い時間がかかったがやがて澱は、彼女に完全に解され癒されて浄化された。
……巫女のお陰で始まりの地は、世界は救われた。
だが余りにも苛烈なその業を只一人で解きほぐした巫女は、その美しき魂を磨り減らしてしまい、輪廻の流れに乗ることが出来ないまでに疲弊してしまった。
結果、彼女の魂は消滅してしまったのだ……』
と森が言葉を途切れさせた。
「“巫女”様……?まさかあの夢の……?」
とクロエは思わず口にする。
森がクロエの反応を見て
『……あれは今戦っている7柱の1柱だ。……最初の巫女の魂だけはもういない。今褥にて戦い続けているのは2人目以降の巫女の魂達だ。
……既にこの澱の反乱は幾度となく起こっている。最初の巫女が消えた後平穏に見えていた世界だったが、根本的に人間達の対立は解決された訳ではない。
幾度巫女が現れ、幾度澱が浄化されても、時が経てば又澱が溜まるのだ。
この世界に思いの力が強い人間が存在し、その人間同志でいがみ合い憎み合う限り。 ……巫女達の戦いとは剣を取って相手を傷付けるのではなく、自分達人間の魂が生み出した哀しき澱を浄化し、中に囚われていた魂を輪廻の輪に戻し、この世界を存続させる事だ。
……あの繭の中では未だ器がある者も居るが、殆どは最初の巫女のように器が既に無い。
あの繭の中で柱達はただただ哀しみを受け止め、癒し続ける。
各柱達が自らに取り込んだ澱を癒し終われば、その柱も始まりの地で眠りに付き、輪廻を待つことになる。
……だが最初の巫女以降、澱は益々頑なさを増していっていてな、後少しの巫女も居るが、未だに終わらない。
このままではあの柱達も何れ……疲弊して消えてしまうだろう』
と森は力なく話した。
「そんな……!
あ、あの、繭の近くまで行っても良いですか?
せめて巫女様達の姿を拝見して、応援したいです。
……あの夢でお会いした巫女様には特に。
悲しすぎる身の上の方でしたから……」
とクロエは始まりの地と森に願う。
【……進ムガ良イ】
と今まで口を閉ざしていた始まりの地が言った。
クロエは頷くと一歩踏み出す。
するともう目の前には光る繭達が、クロエの周りに円陣を組むように居た。
クロエは驚きもせず1つの繭に近付く。
柔らかく光る繭の中には、クロエと同じような形態の巫女が一人、静かに眠りに付いていた。
その姿には“澱”があちらこちらにへばり付いている。
だが、巫女の表情は静かだ。
戦いと云うが、巫女はとてもそれに臨んでいるような表情に見えない。
静かに、ただ静かに横たわっているその姿。
……綺麗な顔立ちをしている。それにクロエと同じ見事な黒髪だ。
クロエはただ見つめ、繭に手を触れる。
「……貴女はこの使命を受け入れたのですね。……強い方。
どうか貴女の思いが彼等の助けとなりますよう……」
と呟き、目を瞑る。
クロエは一つ一つの繭の前に移動しながら話し掛け、繭に手を触れ、願う。
……中にはあの母となったばかりの黒髪の巫女も居た。
「……貴女はこの事実を知っていらしたのですね。さぞやお辛かったでしょうに。
あの時の貴女の願いは今、この世界が続いていることで叶ったのでしょうか。
……どうか消えないで。使命を終え、輪廻の輪に戻ってください。
貴女が紡ぎ、助けた命と再び会うために……どうか負けないで!」
……全ての繭に話し掛けると、クロエは静かに聞く。
「アタシは……次の巫女ということか。巫女は皆黒髪なんだ。だからアタシもなのね。
……単に地味とか思ってごめんなさい。
そして……この力は澱と対峙する為のものなんだ。
……その澱って、もう溜まっているんですか?」
彼女の問いに森が答える。
『……恐らくはな。だが未だ暫くは我々の前に顕れないだろう。
其方も未だ本当の巫女ではないしな。
力は既に強いが、器が未完成だ。巫女として完全に動くには、中身と器が釣り合いが取れる強さに成るまで、待たねばならぬ。
巫女が現れるまで、何故か澱も動かないのだ。
……あれ等も本音では、“因果”から解き放たれたいのだろう』
「そう……ですか」
始まりの地は静かに問う。
【……我ヲ恨ムカ。其方ハ異界ノ生マレ。コノ世界ノ罪科ヲ背負ウ謂レハ無イ。
ダガ……導クモノガ其方ヲコノ世界ニ連レテキタ時、我ガ世界ノドノ魂ヨリ強キ光ヲ放ッテイタ。
我ハ……其方ノ強サヲ見テ、繭ノ中デ今ナオ苦シイ戦イヲ強イラレテイル愛シ子達ヲ漸ク解キ放テルト……其方ニ全テヲ押シ付ケタノダ。
……其方ハ強サ故、我ガ世界ノ業ヲ理不尽ニ背負オワサレタ。
我ハ恨マレテ当タリ前ノ所業ヲシタノダ……】
クロエは虚空を見つめながら
「確かにそうですね。でも貴方を恨んだりは出来ません。
寧ろアタシは恵まれているから。貴方はアタシの生まれる先の環境を考えてくれたのでしょう?
あんなに愛されて育っていける先に、アタシを導いてくれた。……誰が恨めます?
……お役目は引き受けます。未だ暫くは巫女様達を苦しませてしまうけど、その時が来たら……きっとアタシを使ってくださいね。
大事な人達に澱の害が及ぶのならば、アタシがそれを防ぐために盾になる。
……どう考えても“始まりの地”さん、貴方の選択は正しいと思います。
“2度目の人生”を貰ったアタシが、その盾役に適任です。
アタシは時が来たら巫女として、その戦いにこの身を投じましょう。
お約束します。
さてと、ではアタシが一番聞きたいことを聞いて良いですか?」
と繭から離れ、又一瞬で元居た場に戻った彼女が問うた。
だが、クロエの決意を聞いた始まりの地は、又黙り込んでしまった。
替わって森が応えた。
『何なりと』
クロエは森のその答えに頷いて
「アタシのこの黒の力……巫女だけが持つ力と言うべきかしら。
これは暴走したりしない?アタシの意志に関係無く、大事な人達を襲ったり傷付けたりはしませんか?!
……アタシは一度、この力で母さんの魔力を取り込もうとした。あのまま母さんの魔力をあの穴が吸い込んでいたらと思うと、怖くて堪らないんです!
未だアタシは第二次成長期も迎えていない。二次の方が色々と大変な状態になると聞きました。
アタシの意志に関係無く暴走する力なら、その時が来るまで封印とか出来ませんか?
万が一でも大事な人達を傷付けたくないの!
どうなんですか、教えてください!」
と今までの調子とはうって換わって、切羽詰まった口調となる。
『……暴走などはせぬぞ?巫女の力は端から其方の意のままになる力だ。
大事な人を引き込もうとしたと言うが、それは誠か?
その前に其方、初めて体感した自身の強すぎる魔力に酷く混乱し、そのせいで暴走する魔力を抑えようと自己防衛本能により発動した巫女の力を、その見た目の強烈さだけで悪しきものと早合点し、母の魔力を守るために現れた巫女の力、つまりはその象徴として現れた穴を慌てて塞ごうと考えなかったか?
其方が持ち合わせし、他の魔力。……因みに其方は全ての魔力属性を持つが、正直今の器には強すぎる魔力だ。
其方の巫女の力と暴走した魔力は、全くの別物だと認識せよ。
魔力は皆が持つ思いの力の産物。万物が大なり小なり持つ力だ。
……しかし巫女の力は、特別なものだ。巫女以外が持つことはない。
先程も言ったが、巫女の意に反して決して暴走したりしない。持つ者が最初から制御出来る力だ。
先程の話に戻るが、其方を助けようとした大事な人の魔力が体内に入って来た場合、其方自身が混乱のあまり引き込む想像をしてしまって、運悪くその想像通りに巫女の力が反応し動いてしまった可能性が高いと思うぞ。
……心当たりが有るのではないか?』
と森が静かに例をあげて、クロエに尋ねる。
クロエは暫しその時の状況をを思い出そうと腕組みをし、その内アッ!と声を上げる。
「何か……今の指摘通りの事、しちゃってた気が、凄ーくする。
つまりですね……アタシは思い込みでパニック起こして、挙げ句自分で余計な悪い想像して、母さんを取り込みかけたって事?
……巫女の力、単なるビビりのアタシの被害者?
それって、単に慌てんぼでうっかり者の大間抜けが自業自得の大ヤラカシしたってだけだよね!そう言うことだよね?!
アタシ何やってんのよっ!
やだ~悲劇のヒロイン気取って質問して、答えはアンタこそウッカリ八兵衛だなんて、恥ずかしすぎる…!
それこそ今、あの穴に飛び込んで消えたい気分……ウゥ」
とクロエは頭を抱えて身悶えする。
『……まあ、これで巫女の力に関する懸念は消えたか?』
と森が静かに聞く。
ウンウンッと頭を抱えたクロエが無言で大きく頷く。
『では巫女の力を理解し、いずれ巫女の役目を背負うと言ってくれた其方に、我から伝えることがある』
とクロエが落ち着いた頃合いを見て、森が言う。
「はい。何でしょうか」
とクロエは頭から手を外し、聞く姿勢を整える。
『今この時より、我“始まりの地”の守護を担う“黒き森”は、次代の巫女クロエの守護に着く。
其方がいずれ迎える澱との戦いの時まで、其方の身は我が守る。
これは“始まりの地”の意志でもある。
良いな、クロエ?
……以後よしなにな』
と森が淡々と宣言する。
この爆弾宣言を聞いて
「はい、よろしく。……って、ええっ!えーーっ!!」
とクロエは驚きのあまり、仰け反ってしまった。
後1・2話で何とか締めたいなと思います。フゥ。
なるべく早く更新します。