134. 始まりの地
お読みくださりありがとうございます。
クロエ達の世界の設定の話になります。ややこしいと思われる方、すみません~。
もう、雰囲気掴む位の軽さで読んでください~m(_ _)m
『目覚めたか。クロエ』
耳元で静かな声がする。
「ん……。朝なの?……何だか体が軽いなぁ。
……え?あれ、あれれ?あれーーーっ?!」
と起き抜けにも係わらず、すっとんきょうな声を上げるクロエ。
だが、それも無理はない。
何故か自分の両手が薄く光り、心なしか透き通っている。
それにも驚いたのだが、実はもうひとつの異変が彼女を1番驚愕させているのだ。
……手が大人の手なのである。
よく見れば体のパーツが全て大きい。
そして見たことのある衣服を身に付けていた。
クリームイエローのドレス。
この世界の物ではないそのデザイン。
……前の世界の雅が最期に身に付けたドレスだ。
髪も今とは違う。質感は無いが雅の髪と同じ髪色。
クロエは今、前世の雅の姿に変わっていたのである。
「アタ、アタ、アタシ……何で?!どどど、どうして?!
クロエは?今のアタシの体は何処なの?!」
と彼女は狼狽え、辺りをキョロキョロ見回す。
『心配せずとも良い。今は魂が顕現化しただけだ。
其方は未だ前の器の記憶が強い故、魂が前の器の形をとったまで。今のクロエとして長く生きていくと、次第に今の器の形を取るようになるであろう。
ただ其方は異界渡りをした強い魂故、完全には前の器の形を無くすことはないかもしれぬ。今の器とどちらの形をも取り得る様になるやもしれぬし、混ざる事もあるやもしれぬが。
因みに今の器は、其方と云う稀有で強き魂に耐えうる器ではあるが、如何せん未だ未完成。
この場にあの器ごと連れてくるのは危険だ。
ここは本来生身の人の体では入ってこれない領域なのでな。
今、其方の器足るクロエはほら、彼処で眠りにつかせている。あの中に入れば時がとまる。器は繭の中で保護されておる故、案ずるな』
と何かがクロエに語り掛ける。だがその声には聞き覚えがあった。
「……貴方、銀の鹿さんね。姿が見えないんだけど、どこ?
……彼処のアタシの体は眠っているのね。時は止まってるのか……ふうん、こう見るとやっぱりクロエって可愛いのね。
まじまじと自分の顔や全身を見たのって初めて。
雅の時とは大違い。見てくれって大事よね~。
雅の作りなら、どんなに頑張ってもクロエに勝てないな。
何か不思議……」
と“繭”と伝えられた楕円形の柔らかな光の中で横たわっているクロエの体をしみじみ見ながら、雅の形の魂が呟く。
『……全てを知られていても、狼狽えないのだな。この状況が怖くはないのか』
と声が問う。
「……そうね。転生前から色々有って、不思議関係は素直にそのまま受け入れられる様になっちゃったみたい。
そりゃ少しは驚くけど、否定したりはしない。起こること、在ることはそのまま見た通り感じた通り受け入れるわ。
……だってこの世界では寧ろアタシが不思議の塊なんだもの。そうでしょう?」
と彼女はクスッと笑いながら答える。
『流石は強き魂よ、宥めなければならぬかと思ったが、余計な心配だった様だ。
……我が其方が探していた“森”。守り人と意思を交わしているのは我だ。
異界より渡りし魂よ。よしなに』
と声が自らの正体を名乗る。
「やはり貴方がそうなのね。はじめまして、森さん。こちらに来てから貴方の中でお世話になっています。いつも恵みをありがとう。
こちらこそよろしく。
ね、森さん。ここで銀の鹿さんになることは出来ないの?
何だか声だけだと寂しいわ。せっかく綺麗な姿だったから、あの姿でお話したいな。
無理かしら?」
と魂は茶目っ気たっぷりに、声に頼む。
すると目の前にあの銀の鹿が現れた。
「ウフフ、やっぱり綺麗ね。
ありがとう。
さて、聞きたいことが色々有るのだけど良いかしら、鹿さん?」
と首を傾けて鹿に聞く魂。
鹿は無言で頷く。
魂は笑って
「では先ず……ここ、どこ?」
と単刀直入に聞く。
『……ここは“始まりの地”だ。其方等が云うところの“守るべき地”。
勿論、普段其方等が訪れるあの場所とは少し位相が異なる。
此処はあの場所と重なっているが、質量の有る物……実体が有る物は入れぬ場だ。
意識のみの交流が可能。
あの繭はこの位相とあの地が繋がる狭間に浮かんでいる。
ああ、狭間とは云うが繭は決して何処かへ行ったりはしない。安心しなさい』
と鹿が説明する。
魂(以下クロエでいきます)はポンと手を叩く。
「やっぱりそうなんだ!始まりの地と守るべき地は、同じ地を指してるんだ。何となくそんな気がしたんだよね。
いつから名称変わっちゃったんだろう?少なくとも先生もジェラルド様も父さんも聞いたことが無いって言ってたしな。
ま、これで謎1つ解決ね。
位相とか狭間とかは仙人様の領域!……流しましょう。
じゃ、次の質問なんだけど……」
とクロエが続けて質問をしようとしたら
『待て。その前に我が守護する方と引き合わせよう。
……守護する方は形を持たぬ。
それを含んでもらいたい。
其方の話はその後に。
……では位相を移るぞ』
と鹿がそれを遮り、有無を言わさず場の移動を伝える。
「へ?あ、はい」
と直ぐに頷き、質問を止めたクロエ。
……途端に歪む空間。
『クロエ。着いたぞ。
何でも良い。話をしてみよ。意思が伝わる』
と又姿を消してしまった鹿がクロエに囁く。
「着いたって……。何も変わらないけど、何か居るの?ええと」
【キタカ。異界ノ子ヨ。
アア、ヤハリ導ク者ガ寄リ添ウダケノ事ハアル。
……強ク、シカシシナヤカナ魂。美シイ】
「え!今の声が森さんが守ってる方?!
あの、貴方は森さんが守ってる方だって聞きましたけど、どなたです?
……何とな~く“守るべき地”さん?って気が……」
と質問しながら、自分で予想を口にするクロエ。
……乳白色の空間に暫しの静寂。
やがてその声がクロエに答えた。
【ホウ。見抜クカ。ソウ、我ハ“守ルベキ地”、“始マリノ地”トモ云ワレルモノ。
“始マリノ地”……異界ノ子ノ其方ナラ、“始マリノ泉”ノ方ガ解リ良イカ?
……其方ノ世界デモ在ッタデアロウ】
クロエはその言葉を聞いて暫く考える。
程無く彼女は何かを思い出し
「仙人様が仰ってた、その世界の全ての命の源……!この世界では貴方がそうなのですね!
つまり“始まりの地”はあっちの“始まりの泉”か~。なるほど。
……って、名称そっくりじゃない!何で気付かないかな、アタシッ!
ああー!鈍感だよね、全く!」
とおでこを叩く仕草をしてクロエは悔しがる。
【臆セヌ子ダ。常トカケ離レタ状況デモ、コノ様トハノ。心地好イナ、其方ノ光ハ。流石は“癒ス者”カ……。
其方、我ニ尋ネタイ事ガアルノダッタナ。
……力ノ事カ。
ソレヲ話スニハ、“愛シ子ノ褥”ニ案内シテカラニシヨウ……。
其方ニハ辛イ様ヲ見セル事ニナルガ許シテホシイ……。
其方ノ持ツ力ハ、其方ダケガ持ッテシマッタモノデハナイ。
……コノ世界ノ根元ヲ支エル為ノ、謂ワバ犠牲ノ力トモ云エル大事ナモノナノダ……】
とクロエに“始まりの地”の意思は語る。
“地”が案内すると言った一言で、ただ乳白色でしかなかった今彼女が居る空間が少しクリアになり、奥行きが目に見えるようになった。
……そして、その奥行きの先。
狭間に浮かんでいた幼いクロエの体が保護されている“繭”と表現された物と同じだが少し大きい、柔らかく光る長い楕円形の何かが浮かんでいる。
……その数7つ。
「……あの奥の光は何ですか?」
とクロエは“地”に尋ねる。
【愛シ子ノ褥……其方ト同ジ力ヲ持ッタ我ノ愛シ子達ノ魂ガ休ム褥ダ。
コノ世界ヲ保ツ為ニ力ヲ使ッテ、今ナオ自ラノ中ニ封ジ込メシ“澱”ト戦イ続ケテクレテイル気高キ魂……7柱】
と静かな声で“地”が話す。
「魂が7つ?
つまりはあれは……人なの?」
クロエはその光を信じられない思いで見つめる。
【コノ世界ハ、“思イ”ガ現実ノ力ト変ワル。思イヲ持ツモノハ“魔力”ト云ウ力ヲ持ツ。我ハコノ世界ヲ作リシ折リ、コノ世界ノ条理ヲソウ決メタ。
……ソレ故ニ歪ミガ生ジタ。
マサカコノ条理ノセイデ、コノ世界ガ滅ブ程ノ歪ミガ顕レルトハ……我ハ思イモシナカッタノダ】
……“地”の声が震えた。
なるべく早く更新します~。