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やりたい事をやる為に  作者: 千月 景葉
第一章 黒き森
127/292

131. 混乱の朝

お読みくださりありがとうございます。

ぶっ飛んだ結論に至ってしまったクロエの行動を知った家族と老教師が大慌ての大混乱です。


 時を少しだけ遡る。



 小屋に戻ったディルクは、自分がクロエにとった言動を酷く後悔していた。

「そんな力は知らない、知らない力の使い方は教える事が出来ないなどとなぜ言ってしまったのか。……あれは無い。言ってはならんかった。あんな言い方をすれば、クロエは儂から見放されたと考えてしまっても不思議はない。

 それに儂の態度は悪かった。あんな冷たい話し様をせずとも……!

 い、いや、あの態度になってしまったのは単に儂はアレに嘘を吐かれたと早合点して、拗ねたせいだと認めなければ……。ハァ、何と情けない!

 口に出したら尚更恥ずかしいっ!この年になってこんな態度しか取れぬとは……。

 クロエは未だ1歳じゃぞ。中身は大人だが、この世界を知らぬと言う意味ではやはり子供じゃ。治癒魔導とて頑張れば出来るかもしれないと考えてもおかしくはない。

 元々あれは頭が良い。コレットの言う通り、クロエにしてみれば多分ある程度の勝算があっての行動だった筈なんじゃ。

 恐らくあの黒の力にしても、多分黒の乙女となり得る者だけが持つ力なのであろう。悪しき力の筈がないのだ。

 なのにあんな突き放す様に!

 己の愚かさに涙も出んわ……。

 くそっ!儂の後悔などはどうでも良い。

 それよりクロエにどう詫びるかじゃ。壁を作ってしまったあの娘の心を解きほぐすは至難の技ぞ……!

 信頼を崩してしもうたは儂だ、詫びるのは当然。だが問題は、どう話せばクロエが素直にその詫びの言葉を受け入れてくれるかだ。すまなかったと詫びるだけでは駄目じゃ。大体それは既に言うたしのう……。

 ウム……、仲良くしてくれていた優しく可愛い娘に嘘を吐かれたと早合点したひねくれ爺が、年甲斐も無く拗ねてつい意地悪な態度を取ってしまいました、大人げなくてすまん!あの強大な力も実はある程度の心当たりがあるし、儂自身は使えぬが、お主の力の使い方や危険度などは協力して今後共に考えていけば良い、お主は一人で頑張らなくとも儂がついておるから心配しすぎるでない。ドーンと頼るが良いぞ~と、まぁこんな感じかの?

 い、言い方は所々気持ち悪いから変えるとして、今の内容ならアレも安心したじゃろうか……。あーっ、何で儂はっ!」

 とディルクは頭を抱え、掻きむしる。

「……時間が経つほど益々拗れる。直ぐにでも行動すべきじゃが、もうクロエは休んでしもうたしの……。

 明日朝1番に謝罪し、今後の事を話し合おう。

 あの子は意固地な娘ではない。誠心誠意謝ればきっと理解してくれる。

 しかし結局はあの子の優しさ頼みとはな……ハァ~」

 と言ってガックリと肩を落とす老教師だった。



 翌朝。



 先ず異変に気付いたのはミラベルだった。

「フアァ~……!クロエ、朝だよ~……って、あれ?居ない。

 あ、昨日はあっちの部屋でそのまま寝たのかな。

 ん?まさか……あのまま起きなかったの?嘘っ!又目が覚めないなんて……やだ!

 か、母さんに聞かなきゃ!早くっ!」

 と慌ててベッドから降りて、着替えもせずに女の子部屋から飛び出すミラベル。

「母さん、母さーん!クロエ、目が覚めてないの?!

 未だあれから眠ったままなの?!母さん、どこ!」

 と叫びながら、先ず洗い場を覗いた。

 そこには既に起きたライリーがいた。

「おはよう、ミラベル。どうしたんだい?クロエは寝てるのか?

 ああ、そうか昨日は疲れたからゆっくり……」

 とミラベルに話し掛けるが、彼女がその言葉を遮るように

「おはよっ!母さん居る?

 クロエは昨日部屋で寝てないのっ!まさか未だ目を覚ましてないのかもってアタシ心配で……ってお兄ちゃん?!どこ行くのっ?」

 とライリーに母を探している訳を話すと、途端彼はミラベルの横をすり抜けて食堂に居るだろう母の元に走る。

「母さん、クロエは!目を覚まさなかったのかっ?!どうなのっ?!」

 とライリーは凄い勢いで母に食って掛かる。

 コレットはきょとんとライリーを見て

「お、おはようライリー。乱暴ねぇ~驚くじゃない、もう……。

 クロエなら昨日ちゃーんと貴方達が寝た後、目を覚ましたわよ。

 勿論あの子達の部屋でいつも通り休んでるわ。只凄く疲れてるだろうから、今日はゆっくり……。

 あら、ミラベルおはよう。クロエは良く寝てるかしら?

 それならそっと寝かしておいて……」

 と驚きながらも彼に昨日の状況を説明し、次いで食堂に飛び込んできたミラベルにもにこやかに話し掛ける。

 ミラベルは戸惑いの表情を浮かべ

「え?クロエ、昨日部屋に戻ってきてたの?気づかなかった。

 で、でも今あの子ベッドに居ないわよ!アタシが起きたときにはもう居なかったもの。

 ……あ、トイレかな?アタシ見てくるっ!」

 と言って食堂を飛び出し、トイレに向かうミラベル。

 しかし彼女がトイレに着く前にそのトイレの扉が開き、中からガルシアが出てきた。

「え、父さん?ねぇ、父さんの前にクロエがトイレ使ってた?」

 と朝の挨拶も忘れて、ミラベルはガルシアに尋ねる。

 ガルシアは慌てた表情で早口に聞いてくるミラベルに目を丸くし

「おはよう、ミラベル。どうしたんだ、そんなに焦って?

 クロエなら見てないぞ。お前の横で寝てただろうに。

 俺が来たときにはトイレには誰もいなかったよ。

 一体何でそんな……ミラベル?!」

 と話すとミラベルは身を翻して自分の部屋に走る。

「クロエッ!……やっぱり居ないわ……ベッドだって冷たいし。あ、まさかお兄ちゃん達の部屋に?コリンが心配で見に行ってるのかも!」

 と呟き、ミラベルは男の子部屋に行こうと自分の部屋から飛び出そうとする。

 すると部屋にやって来たライリーとぶつかった。

「あうっ!お、お兄ちゃん、ごめん!

 クロエお兄ちゃんの部屋かも!コリンが心配で見に……」

 とミラベルがライリーに話し終わる前に、今度はライリーが自室に駆け込む。

「クロエ、居るのか!……居ないぞ、一体どこへ……!

 コリン、コリン!ああ、すまない起こして。ここにクロエが来ていたか?」

 とライリーは未だ眠っていたコリンを軽く揺すり、起こして尋ねる。

 コリンは目を擦り

「……ン、おはようお兄ちゃん……。クロエ……?クロエ起きたの?!

 ねぇ兄ちゃん!クロエに会いたい!どこにいるの?

 部屋なの?僕今から行って良い?!」

 と起き上がって兄に質問しながら、ベッドから出ようとする。

 ライリーは顔を強張らせ

「来てない?じゃあクロエは一体どこに居るんだ?!

 ミラベル、早く家中を探せ!

 父さん、母さん!大変だっ!クロエがどこにも見当たらない!居ないんだ、どこにもっ!」

 と自分の部屋から飛び出したライリーは、大声でクロエが居ないことを家族に伝える。

 ライリーの真剣な様子に両親も顔色を変える。

「馬鹿なっ!家以外にクロエが行けるところなど無いぞっ!

 もう一度しっかり家の中を探すんだっ!寝惚けてどこかの部屋の隅で寝ているのかもしれない。とにかく家中探せ!

 ミラベル、どこへ行くんだ?!」

 とガルシアが家族に指示すると、ミラベルが玄関へ走り出す。

「小屋!先生の所かも!」

 と父に叫ぶミラベル。

 するとライリーが

「僕が行く!ミラベルは家の中をしっかり探してくれっ!

 他の小屋や先生の所は僕に任せろ!」

 とミラベルの横をすり抜けて、靴を履くと扉を開けて飛び出していく。

「わかった!お願い、お兄ちゃん!」

 とミラベルは気持ちを切り替え、家の中を見回す。

 既にガルシアやコレット、コリンまでクロエの名を呼びながら、家の中を探し始めていた。

 ミラベルは客間に目をやり

「そうだ、客間を見てない!

 父さんの言う通り、あの子ったら寝惚けて客間に……?」

 と呟きながら、急いで客間に入る。

「クロエッ!……クロエ、居ないの?!お願い、出てきて!

 ここにも居ないの?ねぇっ!隠れてないで早く出てきてっ!

 ……え、何これ?何の紙なの、これ……?」

 と客間を探しながらクロエを呼ぶミラベルの目に、テーブルの上に置かれた何枚かの紙が写った。

「何なの、この紙?……名前が書いてる。

 先生、父さんと母さん、ライリーお兄ちゃん、アタシ、……コリンにまで?

 何なのよ……やだ。とにかく、あ、アタシ宛のを……」

 と恐る恐るミラベルは自分宛の紙を取り上げ、折り畳まれているそれを広げる。

 中には鉛筆で書かれた文字。

 綺麗な文字で横に真っ直ぐ書かれている。

 見覚えのあるその筆跡はクロエのものだ。

 ……ミラベルはその紙の中身を読んで血の気がひいた。

「嘘……ク、クロエ……何でっ?!た、大変……母さん、母さんっ、母さーんっ!

 来てっ、早く来てーーっ!!」

 と紙を握りしめその場に立ち尽くしたまま、ミラベルは母を呼ぶ。

 直ぐにコレットとガルシア、コリンが客間に駆け込んできた。

「どうしたのミラベルッ!クロエが居たの?!」

 と血相を変えたコレットがミラベルに近付く。

 しかし娘の尋常ではない顔色と震える体に気が付いて、コレットは足を止める。

「……何があったの?その手の紙は何?……ミラベル?」

 と静かな口調でミラベルに問う母。

 ミラベルは目を見開いたまま母に紙を差し出して

「……ク、クロエから……アタシに」

 とだけ言うのがやっとだった。

 コレットは眉を潜めてミラベルから紙を受けとると、その中身を読む。

 コレットの顔が見る間に驚愕し、隣で様子を窺う夫に

「た、大変っ!ガルシア!クロエが、クロエが森に……!」

 と紙を示して震える声で話す。

「何っ?!クロエが森にとはどういう事だ?!コレット、解るように言ってくれ!」

 とガルシアがコレットの肩を掴む。

 その横でコリンがテーブルの上にある紙を見つめて

「この字はクロエだ。何でクロエが紙に僕らの名前を書いて、こんなところに置いてあるの?

 “コリンお兄ちゃん”へ?……これ、僕にだ。

 えっと何………え、ええっ?!

 だ、駄目だよクロエ……危ないよっ!早く連れ戻さないと!」

 と中身を読み、狼狽える。

 コレットとガルシアもテーブルの上に置かれた自分達宛の紙を手に取り、2人して読み出す。

 読み終わったガルシアは

「……結界の揺らぎは無かった。森からの知らせも何も……。おかしい!クロエが森に出ようとしたら何らかの反応がある筈だっ!

 それが無かったという事は……まさか森が?

 コレット、俺は今から森に出る。お前達は家にいろ!

 先生とライリーにもここに居るよう伝えてくれ!

 ……有り得ないが、状況から見て森がクロエに力を貸しているとしか考えられない。

 ……これから伺いをたてる!」

 と顔を強張らせたまま、客間を急いで出ていった。

 コレットはその場にへたり込み、紙を握りしめたまま

「どうして?クロエ……貴女が危険な筈無いのに。

 何故、自分をそんな風に思ったの、どうして……!」

 と呆然と呟く。

 コレット、ミラベル、コリンが皆血の気の引いた顔で居ると、ライリーとディルクが慌てて客間に駆け込んできた。

「父さんが客間に行けと!何があったんだ、皆?!

 ……何だ、その紙は。先生宛と僕宛もある。クロエの字?!

 クロエが書いたのかっ?

 ……な、何て事を!あのバカはっ!

 父さんは、だから森に……。森に入ってしまったら僕等は勝手に動けない、探しようが無いっ……くそっ!」

 とライリーはクロエの“手紙”を握り締め、吐き捨てるように悔しがる。

 その横でガックリと膝をつき、顔を覆い肩を震わせるディルク。

「儂のせいだ……。儂があんな言い方をしたから、クロエがこんな事を……。

 すまない、クロエッ!何故、直ぐに儂はあの子に詫びなかったのだっ!ここまで追い詰めてしもうて、さぞ辛かっただろうに……!

 すまない、一体どうすれば……っ!」

 と絞り出すようにクロエへの詫びを口にしたあと、踞るディルク。

 ライリーはディルクの肩を抱き

「先生のせいじゃありません。……僕の手紙にそうあの子は書いてます。

 先生が自らを責める様なら、僕に違うと言って欲しいと。

 ……ただ、僕等に昨日あの子と何が有ったのかだけ、話してくださいませんか。

 父さん以外、どうせ僕等は動けない。待つしかない。

 ……森の中は人の領域では無いのだから“守り人”に任せるしかありません。

 ……母さん、取り敢えず落ち着こう。皆、椅子に座ろう。

 僕が何か飲み物を淹れてくるよ」

 とディルクをソファーに座らせたライリーは、お茶を用意しに台所に向かおうとする。

 しかしコレットが

 「いいえ、ライリー。私が行くわ。貴方は先生に付いていて差し上げて。

 ……ミラベル、コリン。先ずは着替えてらっしゃいな。父さんが帰ったら、直ぐに動けるように、ね?

 私は軽く摘まめる物と飲み物を用意して持ってくるから。

 ……良いわね?皆」

 と言って腰を上げたコレットは、ミラベルとコリンを促して客間を出ていった。

 ……ディルクは頭を抱えて俯いたまま、声を出さない。

 ライリーは俯くディルクの背を擦りながら

(馬鹿クロエ!何でこんなにぶっ飛んだ行動に出るんだっ!

 帰ったら相当叱らなきゃならないな……。

 だから泣きを覚悟して何としても無事に早く戻ってこいっ!……頼むから)

 と唇を噛み締めるのだった。
















補足を2つ3つ。

手紙の詳細は書けたら書きますが、ミラベルにはコリンと両親を頼みますとの内容が、ライリーにはディルクのフォローを切に願う内容が書かれていました。ライリーは内心ディルクを問い詰めたい気持ちも有りますが、恩師の心痛め様に寧ろ今はぶっ飛んだクロエに怒っています。

雅の頃から慌てんぼな所があるクロエ。家族や先生に迷惑をかけない→一人で何とかする→一時、家を出て頑張る、と言う見事(?)な三段論法を打ち立て、修行のつもりで森に向かいました。

後の混乱は手紙を書いたから理解してくれるだろうとの手前味噌。

ライリーお兄ちゃんの最大級の雷が落ちることが確定しました。

なるべく早く更新します。

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