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やりたい事をやる為に  作者: 千月 景葉
第一章 黒き森
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130. 決意

お読みくださりありがとうございます。

クロエさん、大暴走開始です。やはり命を捨てて、自らの体を張れる人は違います。……家族や教師はたまったものじゃないですがね。


「母さん、父さん……又心配掛けてごめんなさい。……私……」

 と両親に会ったクロエは開口一番、小さい声で謝罪した。

 コレットとガルシアは慌ててクロエに近寄り

「何を言ってるの!クロエ、体は大丈夫なの?!痛いところや苦しい感じは無い?!

 顔色は……大丈夫ね。ああ、貴女が目を覚ましてくれて本当に良かった!

 ……ごめんなさいって言わなきゃならないのは母さん達よ。

 コリンの体調が悪いのは朝から判っていたのだもの。なのに貴女がしっかりしているからって全てを貴女に押し付けてしまったのは、親の私達だわ。……あの子が魔力熱を近々出すかもしれないって事も判っていたのに……ね。

 それに貴女が無茶をしようとしたのも、私が近くにいなかったからでしょう?

 コリンが言ってたの。クロエが母さんを呼ぶ時も、僕が寂しがらないようにずっと気にしてくれてたって。

 ……あの言葉を聞いて、私達は恥ずかしかったわ。貴女の方が余程気配りが出来ているなんて……。

 本当にごめんなさい。どうか許してね、クロエ」

 とクロエの頬を撫でて、コレットは彼女を見つめる。

「すまなかった、クロエ。畑仕事に行きたくないってコリンが言った時点で、俺達が気付かなければいけなかった。

 熱を出したことがないコリンが、発熱の怠さを理解出来る筈がない。

 ……俺達が油断したんだ。

 先生がコレットからの相談で、俺を呼び戻せと言ってくれなければ俺は戻ってこなかったし、コレットも事態を重く見なかっただろう。

 ……クロエと先生がコリンを助けてくれたようなものだ。

 本当にすまなかった!そしてありがとう、コリンを助けてくれて……感謝しているよ。

 クロエが(うち)の子で……良かった」

 とガルシアも膝をつきクロエに頭を下げてから、彼女の頭を優しく撫でる。

 クロエは両親の言葉を聞いて、感極まった表情になったが直ぐに引き締め、唇を噛み締めて下を向き、首を横に小さく振った。

「母さんと父さんに謝って貰う資格なんて私には無いの……。

 先生からお聞きしたわ。私がやろうとした事は危険極まりない事で、1つ間違えばコリンお兄ちゃんがどうなってたか解らないって。……最悪の事態も考えられたって。

 だから……母さん達は私に怒るべきなのよ。ごめんなさい、何も知らないくせに無茶ばかりして。

 これからはしません。許してください……」

 と言って彼女(クロエ)は頭を下げた。

 コレットは激しく頭を振って

「それは違うっ!貴女はコリンの為を考えてくれただけよっ!

 ……ライリーやミラベルなら確かにその方法は取らなかったでしょう。でも貴女はある程度何か感じるものがあったから、敢えてその方法を試してくれたのよね?

 だってその方法で危険な状況になるのはコリンだけじゃない、寧ろ主導する貴女が一番危なかった筈。

 なのに高熱で意識を無くしたコリンを第一に考えてくれた。本当に優しい娘よ、貴女は。

 ……感謝しかないわ。私達が貴女を怒る理由なんて無い。

 貴女が謝る必要は無いのよ?」

 とコレットはクロエを抱き締める。

 クロエは母にしがみつこうと腕を母の背に回そうとしたが、途中でそれを堪える様に手を握り締めてその腕を力無く下ろした。

 その後クロエは母に

「母さん……お願いがあるの。

 コリンお兄ちゃんの顔が見たいの。もう休んでいるのは解っているんだけど、絶対に静かにするから、顔だけ見に行くのを許してほしいの。

 ……駄目かな?」

 と申し訳なさそうにお願いする。

 母はニッコリ笑って

「心配してくれてるのね。分かったわ、良いわよ。

 一緒に行くわ。その後汗だけ流して貴女も休みなさい。

 さ、いらっしゃい」

 とクロエの手を引いて、リビングを出ようとする。

 出る前にクロエは振り向いて

「……先生、本当にすみませんでした。先生、父さんもお休みなさい」

 ともう一度ディルクに頭を下げてから、部屋を辞した。

 ディルクは何か言いたげだったが

「……ああ。ゆっくり休みなさい」

 とだけ、彼女に声を掛けた。

 ……この躊躇を彼は直ぐに後悔することになる。



「……さ、入りなさい。大丈夫、良く休んでいるから起きないわ。

 足元に気を付けてね?たまに玩具が落ちているから……痛っ!……あったわ、やっぱり。さっき拾った筈なんだけど、見落としてたのかしら、全くもう……」

 とコレットが爪先を痛そうにしながら、コリンの木製玩具を拾う。

 クロエは母の言う通り、足元に気を付けながら兄が眠るベッドに近付く。

 コレットが灯りを少しだけ点けてくれた。

 薄暗い中で、安らかな寝息が2つ聞こえる。

 2つ並べたベッドの上で、ライリーとコリンがグッスリと眠っている。

「コリンお兄ちゃん……良かった」

 と言って、クロエはそっとコリンの髪に触れる。

「アタシのせいで、お兄ちゃんがひどい目に合わなくて良かった……。もしコリンお兄ちゃんに何か起こってたなら、アタシ自分を許せなかったわ。

 お兄ちゃん、早く元気になってね。

 ……側に居てあげられなくてごめんなさい」

 と小さな声でコリンに語り掛けるクロエ。

 コレットが痛々しそうにクロエを見つめ、優しい声で

「大丈夫よ。明日には起きられるし、話も出来るわ。

 クロエに会いたがって大変だったのよ~。

 明日はベッタリくっついてくるわよ、この子!

 覚悟した方が良いわよ、クロエ」

 と彼女(クロエ)を励ます。

 クロエは

「……そうね、母さん」

 とだけ呟いて、コリンの髪から手を離した。

「ありがとう母さん。母さんも疲れてるのに無理言ってごめんなさい。アタシもお風呂に入ったら休むね」

 とコリンから目を外すと、コレットに話し掛ける。

「良いのよ。じゃ、行きましょうか。

 お風呂少しお湯を足さないとね。多分ぬるくなってるから……」

 とクロエに話し掛けながら、男の子部屋を2人揃って出る。

 扉を締める前、クロエはもう一度ベッドを振り返り、コレットにも聞こえない程の小声で

「……ごめんなさい」

 と呟いて、部屋を後にした。



 風呂で汗を流し、女の子部屋にコレットと共に入るクロエ。

「じゃあ早く寝るのよ?後で又灯りを落としに来るわね。

 明日は朝ゆっくりで構わないわよ。貴女が1番疲れている筈ですからね。

 お休みなさい、クロエ」

 とクロエをもう一度優しく抱き締めてから部屋を出るコレット。

 クロエは部屋を出る母に

「……母さん、本当にありがとう。じゃあお休みなさい」

 と言ってベッドに上がる。

 母はニッコリ笑って

「ええ、お休みなさい。また明日ね」

 と言って扉を閉めた。

 閉まった扉を暫く見つめていたクロエは、やがて母の足音が遠ざかるとベッドから降り、本棚に置いてある自分の文箱を取る。

 そのままテーブルに移り、中から紙を何枚かと鉛筆を出すと何やら書き始めた。

 何枚かの紙を書き終わると、それぞれを丁寧に折り畳み、テーブルに置いていた文箱を本棚に戻す。

 そして折り畳んだ幾つかの紙を持って、ベッドに戻り枕元に置く。

 次いで衣装行李に近付き、蓋を開けると服を取り出して静かに閉める。

 そして取り出した服に着替えずベッドの中にその服を入れ、自分もベッドに入る。

 そのまま暫く目を瞑り、時を過ごす。

 やがて部屋の外から足音が聞こえ、女の子部屋の扉が開く。コレットである。

 クロエとミラベルのベッドに近付くと、2人の寝息にコレットはフフッと笑みを浮かべ

「良く休むのよ……クロエ」

 とクロエの頭を優しく撫でてから、ミラベルの上掛けを直し灯りを落として部屋を静かに出ていった。

 足音が遠ざかり、恐らく両親の寝室の扉の開閉音が聞こえると、その後は家の中が静まり返った。

 暫くしてムクッとクロエが起き上がり、暗い中ゆっくり音を立てないように予め用意していた服に着替える。

 着替え終わると着ていた寝間着を綺麗に畳み、ベッドから降りた。

 折り畳んだ何枚かの紙と着ていた寝間着を持ち、女の子部屋から出ていこうとするクロエ。

 扉の前で部屋のベッドを振り返り、眠っているミラベルに

「暫く我が儘を許してね、お姉ちゃん。……ごめんなさい、迷惑掛けちゃうけど皆をお願いね。

 ……行ってきます」

 と呟いて部屋を出た。

 洗い場に足音を忍ばせながら向かい、隅に寝間着を置く。

 それからリビングに向かい、暫く部屋を見渡した後、頷いてテーブルの上に紙を一つ一つ丁寧に置く。

 そして辺りを窺いながら、リビングを出て玄関に向かい、静かに靴を履く。

 玄関の扉には鍵は掛かっていない。泥棒なんて森には居ないからだ。

 扉を静かに開け、家の外に出たクロエ。

 紅の季の真夜中は酷く冷える。

 1つ身震いすると、扉を静かに閉める。

 暫く玄関を見つめた後小さく息を吐き、目の前に広がる森を見つめる。

「多分大丈夫……行くわよクロエ。このままだと自分の力が危険すぎて、皆と暮らせない……。

 先生に見放されたアタシの“黒い力”を何とかしないと……。

 アタシの力はアタシが何とかするしかない。

 手掛かりはあの夢と森の意思。“黒い力”を理解する鍵は黒き森と守るべき地にある筈。

 ……そんな気がする。

 きっとなんとかしてみせる。そして家に戻ってくるのよ!……皆、暫く時間を頂戴ね。アタシ頑張るから。

 じゃ、行ってきます!」

 と自分自身に気合いを入れてから家に向かって敬礼し、クロエは森に足を踏み入れる。

 森はクロエを拒絶すること無く、彼女の歩みを許した。

 クロエは自分の足が森に進めることに大きく頷き、顔を上げて森を進んでいく。

 ……やがてその小さな姿は、森の奥へと消えていった。











1歳過ぎの娘の家出の手際のよさ!中身25歳ですから出来るんですがね(笑)

クロエさんサイドの話は後回し。

次は家出を知った家族の大混乱と教師の大後悔の巻です。

なるべく早く更新します。

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