表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
やりたい事をやる為に  作者: 千月 景葉
第一章 黒き森
124/292

128. コリンの異変

お読みくださりありがとうございます。

長くなりました。時が少し進んでおります。

 森もいつもの生活に戻っていた。



 視察から時を経て季節は既に紅の季、クロエの前の世界で言う秋に入り、景色も様変わりしている。

 こちらの世界にも紅葉がある様で、森の木々の中には色鮮やかな葉を(まと)う物も多く見受けられる。

 守るべき地も心なしか秋風が吹き始め、花達は相変わらず美しく咲いていたが、少しずつ花のラインナップが替わり始めたようだ。

 クロエとミラベルも父と兄の畑仕事に週1・2度付いていき、かの地でクロエは花の絵を描いたり、花や草、森の葉を採集して標本にしたり、自分に出来ること(やりたいこと)をさせて貰っている。

 ミラベルもクロエに倣って絵を描いたり、採集のお手伝いをする。花達についてはミラベルの方が詳しいので、ミラベルがクロエに説明をしつつ楽しく時を過ごしていた。

 男兄弟のライリーとコリンは、畑仕事の手伝いが中心でガルシアと共に精を出している。

 お陰で筋肉がしっかりついてきて、食事量も次第に増えてきた男の子達は、日に日に大きく成長している。

 肌も日焼けし、逞しくなった感がある。

 反して女の子は裁縫での物作りや、新たに料理のお手伝いも始めた。それは森の家でコレットに教わる。

 女の子の活動エリア的に余り日に焼ける事がなかったので、男の子とでは肌色が全く違ってきた。

 まあ美白は大事だし、とクロエが言うと何故かコレットも大きく頷く。

 近頃彼女の肌に小さなシミが出来て、お肌の曲がり角を越えたコレットは随分それを気にしているようである。

 ……どこの世界でも女性の悩みは同じなのである。



 又学習についてもしっかりとカリキュラムが組まれ、教師のディルクが丁寧に教えている。

 先ず九九は、何と子供達全員暗記が修了した。暗唱を毎日やらせた結果、瞬く間に覚えてしまったのだ。

 又クロエが進言して、九九表を作って壁に貼ったり、進捗度が一目でわかるように、各人の暗記の進み具合を勉強部屋の壁にぶら下げた黒板に書き記したりしていた。

 その進捗度の記録を見たコリンが、面白がって意味もわからずに暗唱を進めていくので、ライリーとミラベルが焦って追い掛ける結果となってしまったのだ。

 お陰で思いの外、九九の暗記を早く終えることが出来たのだ。

 九九を覚えると相乗効果で、算盤(そろばん)の習得スピードが格段に上がった。

 子供達の算盤の習得スピードは驚くべき物で、その習熟度に併せての計算能力の向上も目を見張るものがある。

 ディルクは内心子供達の成長に舌を巻いていた。

 老いて益々好奇心旺盛であるディルク自身も算盤(そろばん)の習得を頑張ってはいるが、中々子供達の様にはいかない訳で、正直老いた我が身を呪わしく思う今日このごろである。

 そんな3兄弟を頼もしく思いながら、末妹であるクロエはディルクにこの世界の地理や仕組みなどを系統立てて学んでいた。

 正直前の世界の常識がある彼女にとって、この世界の常識やしきたりには眉を潜めるものも多いが、日本も一昔前はそうだったのだろうと理解に努める。

 そしてディルクに対して“日本語”も教え始めた。これはディルクのたっての希望であって、暗号にも使えるからとクロエに頼み込んだからだ。

 間違ってもシェルビー家の者達には見せるわけにいかない、日本語の平仮名・片仮名・漢数字・アラビア数字各表を作り、ディルクはイキイキとその勉強に勤しむ。算盤の練習より、今では寧ろこちらの習得に熱が入っていた。

 因みにクロエ自身の学習についてだが、彼女はこちらの文字を既に完全に覚えてしまった。

 この文字の習得は、正直クロエ本人も驚く程、スムーズ且つ異常までに早く済んだ。

 今では読めないもの、書けないものが無くなってしまっている。ガルシアの本もディルクの本も問題無く読めるようになったのだ。

 実は事前にディルクにより、伝説や伝承話等の“黒の女神”について少しでも記述されている書物は、小屋の物置の奥まった所にひっそりと隠されている。

 だからディルクとガルシアの所蔵していて幼女(クロエ)が自由に読める様にしている書物では、黒の女神について知るすべは無い。

 近い内、ジェラルドの邸宅に引き上げて貰う手筈にしていた。それ程ディルクは幼女(クロエ)が、“黒の女神”について知ることを恐れていたのである。

 それはさておいて、この世界の言葉の文法と単語は、日本語に比べたら非常に簡易な表記システムなので、習得に意気込んでいたクロエにとっては、拍子抜けする位早く身に付いてしまった。

 それで今、自身の学習が一段落した幼女(クロエ)は、ディルクの日本語習得に力を貸しているのである。



 加えて視察から程無く、グレースが“ジェラルド”のポケットマネーをフルに使って用意した子供用の竪琴と笛がテオによって運ばれてきた。

 何とフルオーダーらしく、色や意匠等も一つ一つ変えてある。テオ曰く、ジェラルドが涙目でその竪琴と笛の請求書を受け取っていた姿は、周りの侍従の涙(と苦笑)を誘っていたそうだ。

 テオが帰った後から早速魔術法具でのグレースの“通信指導”が始まり、慣れぬ弦楽器に四苦八苦しながらも美しい音色に魅了されたクロエとミラベルは、楽しく練習している。

 ディルクに教えを乞うライリーとコリンも同様である。

 特にライリーは笛がとても気に入ったらしく、暇を見つけては練習している。

 コリンも触発されて頑張ってはいるが、如何せん未だ3才を過ぎた所なので、手が小さくて穴が中々巧く塞げない。

 そのせいで、思う音が出せないのだ。

 気長にやるしかないのである。

 でも3兄弟は初めて知る“楽”の音色に魅了されたのは確かで、今彼等は(まさ)しく“音”を“楽”しんでいる。

 ひょんな鼻歌から始まった彼等への音楽の教育は、思った以上の成果を上げていた。


 ……以上が現在の彼等の毎日であった。




 そんな紅の季のある日。



 今日は珍しいことにコリンが何故か畑に行きたがらず、自宅のリビングで笛を吹いていた。

 本人曰く、何だか体が疲れているらしいのだ。

 朝食時は普通だったのだが、用意している時に急に疲れを感じたらしい。

 いつも元気印のコリンの突然の体調不良に、家族も心配し部屋で休む様に言ったが

「病気じゃないし!今日はゆっくり笛の練習をしとくよ。

 大丈夫!疲れてるだけだし、きっと明日には治ってるから。皆も気にしないで?」

 と明るく言った。

 しかしどうしてもコリンが心配な家族は、妹のクロエを一緒に居させる事にした。

 ライリーとミラベルは小屋で勉強があるし両親も各々仕事や家事があるので、比較的“暇”しているクロエにその役の白羽の矢が立った。

 それにコリンはクロエにとても甘いので、1番彼が拒否反応を示さない人選でもあったのだ。

 コリンは勿論だが、他の家族と同じく(コリン)が心配だった末妹(クロエ)にも異論はなかった。

 と云う訳で今彼が笛の練習をしている横で、クロエも絵を描いている。

 絵を描きながら、チラチラとコリンの様子を窺うクロエ。

 笛の練習をしている今日のコリンは、やはりいつもとどこか違う様な気がする。

 先ず口数が少なすぎるのだ。

 いつもならクロエに色々話し掛けてくるのに、今日はそれが全く無い。

 加えて笛もそれ程吹こうとしない。

 ボンヤリと座り込んでいるという印象である。

(ホントに大丈夫かな……。やっぱり部屋で休んだ方が良いんじゃない?

 絶対変だよ、コリンお兄ちゃん……)

 と心配しながら見守っていた。


 と、その時。


 コリンの体がフラッと揺らぎ、床にパタンと倒れたのだ。

「お、お兄ちゃん?!どうしたの!大丈夫?!」

 とクロエは絵を放り投げ、コリンに駆け寄る。

「……あ、クロエ……。あれ?僕……何で……?」

 と視点が合わない目でクロエを見ようとするコリン。

「体が辛いの?しっかりして!今母さん呼ぶから!」

 とコリンの体を擦って、直ぐに母を呼ぼうと腰を上げるクロエ。

 するとコリンはクロエの手を握って

「……良い。大丈夫……だから。

 母さん呼ばなくて……良いから。クロエ……居てくれたら寂しくないし。

 ちょっと寝たら……平気……」

 と母を呼ばないようにと止める。

「!何言ってるの!全然大丈夫じゃないよ!

 あ、お兄ちゃんの体、熱いじゃない!熱が高いわ……まさかっ!」

 とコリンの熱が高いことを感じ取ったクロエは、この状況のある可能性に思い至る。

(まさか、魔力熱?!いけない!早く母さんを!)

 クロエは唇を引き結び

「お兄ちゃん、良い?アタシはこの後ずっと側から離れないから、今だけ扉まで行かせて?

 母さん呼んだら直ぐに戻る。

 お願い、今だけ手を離して?ね、良い子だから……」

 と、もう片方の手でコリンの頭を撫でながら、優しく彼に語り掛ける。

「……クロエ……直ぐに戻る?

 あの……時みたいに……居なく……ならない?

 もう……会えないの……嫌だよ」

 と不安そうに眉を潜めて、そう話すコリン。

「……!……居なくならないわ。ちゃんとアタシ居るから……。ね、お願い、お兄ちゃん!」

 とクロエは兄を撫でながら、約束する。

「わかった……」

 と漸く妹の手を離すコリン。

 クロエはコリンの手を一度キュッと握ると

「良い子……。待ってね、すぐ戻るわ!」

 と離れて扉まで駆けていき、直ぐ様開けると

「母さーん!来てーっ!お兄ちゃんが大変なのっ!早くーっ!」

 と大声で叫ぶとコレットの返事を待たず、扉を開けたままパタパタとコリンの元に戻る。

「アタシの膝にお兄ちゃんの頭を置くね。よいっ……しょと!

 大丈夫、アタシずっと居るからね。

 離れたりしないよ?心配しないでね……」

 と語り掛けながら、コリンの頭を撫で続ける。

「クロエ……重いだろう?僕……下りるから……」

 とコリンがクロエの膝を気遣う。

 クロエはフンッと鼻を鳴らすと

「だーいじょーぶ!コリンお兄ちゃんの髪は柔らかいから、アタシ撫でるの大好きなんだ~!

 重いの位、どうって事無いんだから。

 だから、気にしないの!」

 と努めて明るく話し掛ける。

 コリンがクスッと笑って

「そっか……クロエは……僕の髪……撫でるの好き………かぁ」

 と嬉しそうにする。

(熱……高い。息も浅くて速い。辛いよね、お兄ちゃん。

 母さんは未だなの?!)

 とクロエは内心で焦りながら少し開いた扉を見つめる。



 そうしている内、コリンが何も喋ってこなくなった。

「お兄ちゃん?眠いの?

 ……え、意識が無い?!

 やだ、しっかりして!母さんっ、母さーんっ!!」

 とクロエはコリンの容態の変化に焦り母を呼ぶが、声が届いていないのか母が来る気配が無い。

「どうしよう。お兄ちゃんを置いて母さんを探す?

 だけど置いていけないよ……、離れないって約束したのに。

 お願い、気付いて母さんっ!」

 とコリンの頭を抱き締めて母を呼ぶクロエ。

 コリンが意識を取り戻す様子は無い。

 焦る彼女(クロエ)は、ハッとする。

(……アタシの魔力熱の時、母さんは何をしていたっけ。

 確かアタシに魔力を流してくれたんだよね。それで中のアタシを呼んでくれた……。

 ああ、オーウェンお兄ちゃんも確かそうしてくれたのよ。お兄ちゃんは自分の“魔力”で荒れるアタシの“魔力”を『誘導し整える』って言ってた!

 ……アレ、アタシには出来ないのかしら。

 この間、アタシの体の中でチクチクして暴れていたのが“魔力”よね。

 アタシの中の“魔力”……アタシに今判るかしら。

 落ち着いて……体の感覚に集中してみよう)

 と思い付くと、1つ大きく深呼吸して神経を研ぎ澄ませる。

 すると何か体の中に妙な感覚を見つける。

 普段も少し感じていた感覚だが、今神経を集中して自分の知覚出来る体の感覚を鋭敏に感じ取ろうとしたせいか、確かに何かを感じることが出来た。

 だが体を流れているという感覚ではなく、寧ろ何かを引き込もうとする“吸引力”みたいなものだ。

(何、これ……。これは“魔力”じゃないわよね。

 何かを取り込もうとする様な感覚?

 これじゃ“魔力”を流して落ち着かせるなんて無理よ…。

 あ、待って!“魔力”を整える事は無理でも、この“掃除機”みたいな力で高い熱を下げられないかな?!

 熱が下がれば楽になるよね?

 お兄ちゃんを守らなきゃ!

 せめて高い熱だけでも下げてあげたい……)

 と考え、その力を使う方法を模索する。

 あ、と手をポンと叩くと

「そうよ、前の世界でも良く『手当て』って言ってたじゃない!

 お兄ちゃんのおでこに手を着けて『熱こっち来い!』って強く思ったら、あの“力”が動くかも!

 ……そうよ、やってやれないことはない。やらずに出来る訳がない!やるんだ、アタシ!

 高熱を微熱にするのよ……。

 お兄ちゃん、アタシ頑張るからね。もう少し待ってね」

 と熱でグッタリするコリンに声を掛け、試しにもう一度大声で母を呼ぶ。

 ……しかしやはり母がやって来る様子はない。

 少し開いた扉が動く事は無かった。

 クロエは覚悟を決め、コリンのおでこに手を当てる。

「コリンお兄ちゃんの熱、下がれ!……下がれ下がれ下がれ……!

 アタシの中に熱よ、来い!

 お兄ちゃんを楽にしてあげるのよ……っ!」

 と口で呟きながら、コリンの熱を掃除機で吸い込むイメージを膨らませる。

 すると手が熱くなって、コリンから体温が流れて来る感じがした。

(……!嘘っ、熱が来たっ!で、出来たわ……!だけど熱も下げ過ぎはいけないから、微熱位で……)

 と考えながら手を着けていると

「……ん?あ、何か気持ち良い……。クロエの手、気持ち良いから、頭が凄く痛いのが消えていく……。クロエ、手、このままにしといて……」

 とコリンがうっすら意識を取り戻した。

 クロエはコリンの声に安堵し

「お兄ちゃん!しっかりして!……高い熱が出てるの。

 アタシの手、気持ち良いのね?苦しくはない?

 このまま熱だけを取るから、お兄ちゃんは静かに寝ていてね。

 苦しかったり、寒く感じたら言って。わかった?」

 と早口で言うと、再び意識を集中する。

 熱が下がり始めたコリンは、意識が次第にハッキリし始め

「……熱を取るって……。え、クロエはそんなことが出来るの?!

 だ、駄目だよ!……クロエの体が危ないよ!

 止めるんだ、クロエ!僕はもう大丈夫だから!」

 と顔を強張らせて、自分のおでこに当てられていたクロエの手を握って外そうとする。

 クロエは兄の説得に微笑み

「大丈夫……もう終わるわ。

 手を離すわね。……よし。

 ……お兄ちゃん、頭は痛くない?体は寒くない?どう?」

 と漸く手を離して、膝の上の兄の顔を覗き込む。

 コリンは慌てて

「大丈夫、もう殆ど痛くない。体は未だ怠いけど。

 ……って違う!クロエ、お前体は?!何で僕の熱を取るなんて……お前の体が危ないじゃないかっ!」

 と体を起こそうとして、クロエに押さえ付けられた。

「駄目!起きちゃ駄目!

 アタシは平気よ。大丈夫!

 母さん呼んでくるから、コリンお兄ちゃんは横になっていて!

 動いちゃ駄目!良いわね?!」

 とキツい口調でコリンを抑え、立ち上がるクロエ。

 若干立ち上がる際にふらついた妹に、コリンが

「クロエッ!やっぱり無茶したんだねっ!」

 と叫ぶが、クロエは

「違います~。足がしびれただけです~!イタタ……。

 よしっ!待っててよ、お兄ちゃん!」

 と言い放つとパタタッと扉に走り、声を限りの大声で

「母さーーんっ!コリンお兄ちゃんが倒れたーーーっ!早く来てーーーっ!!!」

 と廊下に叫んだ。

 すると玄関がバターンッ!と開き

「クロエッ!ごめんなさい、小屋に話に行っていてっ!

 コリンが倒れたのっ?!意識は?」

 と母が駆け込んできた。

 クロエは母の姿に顔を緩め

「良かった、母さん!

 今意識は取り戻したわ。でも熱があるし、体は怠くて動かないみたい!早くっ!」

 と扉を開けて、母を兄の元に案内する。

 コレットはコリンに屈み込み

「ごめんなさい、コリン!

 ああ、魔力熱だわっ!間違いないわね……。

 さ、ベッドに運ぶわね。ちょっと動くわよ……」

 と言って息子を抱き上げる。

「母さん、僕歩けるよ……」

 とコリンが話す。

 コレットが優しく笑い

「こういう時は甘えなさい。

 魔力熱は辛いけど、大丈夫よ。それに父さんがもうすぐ戻るわ……。ああ、ほら……!」

 と言うが早いか

「コリン!大丈夫かっ!コレット、コリンはっ!」

 と又玄関がバッターーンッ!と乱暴に開かれ、今度はガルシアが大声を出しながら駆け込んできた。

(わお、デ・ジャブ。夫婦そっくり~。オシドリ夫婦だね~)

 と生暖かい目で父を見守るクロエ。

 あっという間にコレットが抱き上げていたコリンをガルシアが受け取り、男の子部屋に運ぶ。

 コレットがクロエに

「ありがとうね、クロエ。

 後、悪いんだけど小屋に行って先生を呼んできて貰えないかしら?

 一人で行ける?大丈夫?」

 と申し訳なさそうに頼む。

 クロエは笑って大きく頷き

「まーかせて!行って来る!

 お兄ちゃんをお願いね、母さん!」

 と言うと身を翻して、リビングを飛び出して行く。

 コレットはそれを見送ると直ぐに看病の準備に動き出した。




 小走りで小屋に向かうクロエ。

 程無く小屋に着くと、扉を激しくノックする。

 「先生!ディルク先生ーーっ!

 開けて下さい、クロエですっ!」

 とクロエは大声で叫んだ。

 直ぐに扉は開かれ

 「どうした、クロエ!

 コリンに何か起こったのか?!」

 と何故かライリーが飛び出して来た。

 クロエは大きく頷き

 「魔力熱よ!母さんが先生を呼んできてって。

 ライリーお兄ちゃん、早く先生を……!」

 と話していると

 「わかった、直ぐに行く。

 ああ、ライリーとミラベルも来なさい。弟が心配で勉強どころじゃ無いだろうからな。

 さあ、行こうか」

 とライリーの後ろからディルクとミラベルも現れ、老教師は靴を履きながら子供達にも声を掛ける。

 子供達も頷き、直ぐに靴を履く。

 小走りにディルクが家に向かい、ライリー達も後を追う。

 一番小さなクロエは小走りになるが、みるみる皆から離れてしまった。

 ライリーが気付き戻ろうとしたが

 「ライリーお兄ちゃん!早く行って!母さん手伝ってあげて!アタシも直ぐ行く!」

 とクロエが声を張り上げる。

 ライリーは一瞬戸惑いを見せたが

 「……わかった。気を付けるんだよ!」

 と前を向いて走っていった。

 クロエはその姿を目で追うと、やがて足を止めた。

 「ハア……ちょっと苦しいな……。歩こう。

 もうコリンお兄ちゃんは大丈夫だしね。

 ホッとしたら、何だかさっきの熱が……。掃除機の力で抑え込まなきゃな。

 ……アタシの体に問題はなさそうだけど、集中は要りそう。

 え、と……ああ、玄関の横で座るか。

 フウッ!ヨイショ……。

 さて集中、集中……。

 さあ、熱を完全に取り込むわよ。

 皆が心配するからね……」

 と呟き、クロエは玄関横の壁に背を預けてズルズル座り込んだ。

 そして壁に持たれたまま、目を閉じて集中する。

 そして熱を完全に自身に取り込んだ彼女は安堵し、あろうことか疲労のためそのままスヤスヤと眠ってしまったのだった。












クロエさん、それを“やらかし”と言うんです(笑)

次は騒ぎの収拾をはかります。

なるべく早く更新します。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ