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やりたい事をやる為に  作者: 千月 景葉
第一章 黒き森
123/292

127. グレースの演技

お読みくださりありがとうございます。

レビュー効果か、アクセス数がすごく伸びました!嬉しいな♪

グレース奥様は演技派でした(笑)

「グレース様……あの……」

 とクロエは戸惑いながらも、顔を覆って泣き続けるグレースに何とか声を掛けようとするが言葉が思い付かず、もどかしさを噛み締める。

『ご、ごめんなさいね……、私は貴女と同じくらいの孫娘を失ったのよ。

 私はこんな体だからその子とお別れすることはおろか、1度もこの手に抱くことすら出来なかったの……!アナスタシアが娘を失って嘆き悲しんでいるのに、その側にも居てやれず……。情けないわ。

 消えてしまったあの子はオーウェンとそっくりな髪と目をしていたって聞いていた。だけどこの体のせいで会えないまま孫娘を失った私は、1度も会う事が出来なかったその子を思い描いては泣いていたのよ。

 だけどその孫娘にそっくりだと言う貴女が居るって聞いて!それも可愛いガルシアちゃんとコレットちゃんの元に!

 ……それを聞いてからというもの、どれ程貴女に会いたかったか解るかしら?あの子はいってしまったけれど、せめてそっくりな貴女に会いたいって、ずっと願っていたのよ。

 ……ごめんなさい、貴女にはとても失礼な話よね。失った孫娘を貴女に見るだなんて……。

 況してや1歳に成ったばかりの貴女に、こんな話をして……理解出来ないわよね。

 本当にごめんなさい……』

 とグレースは声を詰まらせながら、クロエに詫びる。

 儚げな老貴婦人の痛々しい様に、胸が締め付けられたクロエは思わず

「わ、解ります!グレース様がとても悲しんで苦しまれたの、アタシ解る!

 だ、だから謝らないで下さい!アタシに謝る必要なんて無いです!

 寧ろアタシなんかで良かったら、いーっくらでも見て下さい!

 多分亡くなったグレース様のお孫さんの方が何倍も可愛かったと思うし、きっと良い子だったと思うけど……!

 だけどアタシ黒髪で目が緑色なのは一緒みたいだし、同じ歳なんですよね?

 グレース様がアタシを見て少しでも笑ってくださるなら、アタシいっくらでもグレース様に会いたいです!

 でも、お喋りなのは許してくださいね?これは直んないと思うので……。

 ……あっ!1歳なのにアタシがこんな風でびっくりされましたよね……?え、ええと、どうしよう……」

 と勢いでそこまで喋ってから、アワワと狼狽える。

 家族はクロエが喋った後狼狽えた様子を見せるのは珍しい事では無いからか、静観している。

 ディルクは小さく溜め息を吐いた。

(……懲りん奴じゃな、全く)

 グレースはクロエの流暢な話し振りに目を見開いて驚いていたが、幼女がアワワと狼狽えているのを目にすると

『フフ……心配しなくても大丈夫ですよ、クロエ。本当に貴女はお喋りがお上手なのね。

 それにオーウェンとジェラルドから聞いていましたもの。

 貴女は1歳とはとても信じられない位賢い子だって事をね。

 それに私、嬉しいの。こんなに貴女が私と親しく話してくれるなんて、思ってもいなかったから……!

 ねぇクロエ。優しい貴女に1つだけ、私の我が儘なお願いを聞いて欲しいの。

 ……言っても良いかしら?』

 と優しく宥めた後、少し身を乗り出すようにしてこう言った。

 クロエは小首をかしげて

「……アタシにですか?何でしょう、勿論アタシに出来る事なら、やりますよ!

 取り敢えずグレース様のお願いをお聞かせ下さいませんか?」

 と尋ねる。

 グレースはクスッと笑って

『……本当に驚きだわ。相手に対する言葉選びも問題無いし、気遣いまで完璧なんですもの。……オーウェンの言う通りね。

 フフ、難しいことでは無いの。だけど、とても図々しいお願いなのよ。

 どうか私の事を“お祖母ちゃん”って呼んで貰えないかしら。

 ……グレース様じゃなくて。

 お願い!』

 と胸の前で両手を握り締めてクロエを見つめつつ、そう言った。




 クロエは又戸惑いを見せたが、1つ小さく頷くと

「何だかとてもアタシ、グレース様に馴れ馴れしくし過ぎてる気がしますけど、グレース様、違った……グレースお祖母様がそう仰るなら。

 ……お祖母様でも良いですか?流石に“ちゃん”はどうかと……」

 と恥ずかしそうにグレースの“お願い”に応えた。

 グレースが嬉しそうに

『ありがとう!あ、でも……そうね、“お祖母ちゃま”ではどうかしら?

 ね、“ちゃま”では駄目?』

 と妙な譲歩案を出してきた。

 クロエは顎に指を当てて小首をかしげたまま

「“ちゃま”ですか?

 えっと、お祖母ちゃま……グレースお祖母ちゃま……あ、何か可愛いですね。

 分かりました!グレースお祖母ちゃまってお呼びしますね!

 あれ?でも待ってください……何か可愛い尊称ですけど、アタシが益々馴れ馴れしくなった気がしませんか?え、不味いかな、やっぱりお祖母様の方が……」

 と1度は承諾したものの、やはり失礼ではと腕を組んでウ~ンと唸り、悩み始めた。

 やきもきしたグレースが

『もう!私は可愛い貴女から“お祖母ちゃま”と呼ばれたいの!クロエ、お祖母ちゃまって呼んでくれなきゃ、あたくし泣いちゃいますからね!

 ……あら、興奮したら何だか眩暈が……』

 と言うと、片手で上品に目元を押さえて椅子にもたれ掛かった。

 慌てたクロエは

「え!大丈夫ですか?!オーウェンお兄ちゃん、ジェラルド様!グレース様が!」

 と陽炎に駆け寄ろうとして、立ち止まる。

『……クロエ、呼んでくれないの……?ハァ……』

 とグレースが息も絶え絶えに言う。

「い、言います言います!グレースお祖母ちゃま!

 だから早くお休みに……っ!」

 とクロエが慌ててグレースを呼びながら、体を休める様に進言したら

『きゃあ!やったわ!ありがとう~嬉しいわぁ!

 可愛い貴女にお祖母ちゃまって呼んで貰えるなんて~。

 ああ、幸せ……。

 絶対、様付けは駄目よ!

 “お、ば、あ、ちゃ、ま”ですからね?

 約束よ?ウフフ』

 と今まで気怠(けだる)そうにしていたグレースが、急にむっくりと椅子から身を起こして、嬉しそうに跳ねた。

 横でジェラルドが溜め息を吐き、オーウェンが苦笑いしている。

 クロエはポカーンと口を開けて、陽炎の向こうで嬉しそうに身を揺するグレースを見つめる。

「あれ?今……だって眩暈って……あれ?」

 混乱するクロエの横にコレットがスッ……と屈み込み

「実はグレース奥様って悪戯好きでとってもお茶目さんなの。今の眩暈は演技よ。……相変わらず演技派でいらっしゃること。

 貴女は奥様にからかわれたのよ、クロエ。

 よっぽどお祖母ちゃまって貴女から呼ばれたいのね、奥様は。

 奥様の仰るようにお呼びして差し上げなさいな。

 でないと又“眩暈”を起こされるわよ?

 ……奥様の体調不良の演技は、次第に本物に変わるから怖いの。

 悪いことは言わないから、ね?クロエ」

 と小声で“事情”を教えてくれた。

「ええーっ!……な、何て(たち)の悪い演技なんですか、グレースお祖母ちゃま~!

 そんな真に迫る演技をなさら無くても、ちゃんとお祖母ちゃまってお呼びしますから~!

 グレースお祖母ちゃま!」

 と肩を落として脱力したクロエが嘆く。

 クロエの後ろで、末妹(クロエ)と同じくグレースの行動に唖然とする3兄弟。

 ディルクは口元を押さえ

「変わらんのう……ククッ」

 と忍び笑いを漏らし、ガルシアは

「やはり奥様は奥様ですね……。妙に安堵いたしました」

 と達観した笑みを浮かべたのだった。




 お祖母ちゃまと呼んで貰えて至極ご機嫌なグレースは、手をパチンと叩くと自らの手首をクロエ達に見えるようにしてから

『そうそう!クロエから贈り物、受け取りましたよ!

 ありがとう~もう嬉しくて、見て見て?ちゃんと手首に巻いたわよ~!可愛い飾り紐ね!1歳でこんな素晴らしい物が作れるなんて、ちょっと信じがたいのだけど……でも信じるわ!こんな小さな花なんて、一体どうやったら編めるのかしら……凄い子ねぇ……本当に。

 でもこれでいつでもこの贈り物を通じて、貴女を感じられるのね……。嬉しいわ。

 嬉しいこと続きで、あたくし今日は沢山お食事を頂けそうよ?だって元気にならなきゃ可愛い貴女やライリー、ミラベル、コリン、そしてオーウェンとエレオの成長が見られないもの!

 ああ、本当に嬉しいこと……。

 あ、いけない!忘れていたわ!ジェラルド、アレを!』

 とミサンガのお礼を捲し立てた後、ジェラルドに何かを頼み、クロエに笑い掛ける。

 クロエもにっこり笑い

「うふっ。アタシは変わってる子なんです~!

 実は夢でこの飾り紐が出てきたんです。で、どうしても作りたくなって試しに作ったら、割合簡単に出来ちゃったんです!

 オーウェンお兄ちゃんから、グレースお祖母ちゃまやアナスタシア様、エレオノーラ様達にも作って欲しいって頼まれて。

 ご迷惑で無かったなら良かったです!」

 と嬉しそうに事情を話す。

 グレースはウンウン大きく頷くと

『クロエなら簡単に作っちゃいそうよね!ウフフ、賢いだけでなく器用さも併せ持つなんて、驚きが止まらないわ~!

 でね、そんな貴女に私、お礼がしたいの。

 勿論貴女だけではなくて、貴女の兄弟皆にね。

 私が貴女達、私が直接教えるのは女の子達だけど、先生にも男の子達を教えて頂いて、皆で“楽”を学びましょうね。

 具体的には女の子には竪琴、男の子には笛を学んで貰うわ!

 ……ほら、これが竪琴よ?』

 とジェラルドから自分の竪琴を受け取り、弦を弾く。

 ♪ポロン、ポロン……と綺麗な調べが陽炎の向こうから聞こえてくる。

「わ、あ……綺麗な音……。

 あ、私にも教えて下さるのですか?グレース様」

 とミラベルがウットリとした顔で竪琴の調べに耳を傾け、グレースにはにかみながら質問する。

 グレースが大きく頷き

『ええ、勿論よ!ミラベルちゃんとクロエはあたくしが竪琴を、ライリーとコリンちゃんは先生から笛を習うのよ。

 貴族でも“楽”を嗜む者は未だ未だ少ないの。

 でも楽を嗜む事は、今後においてきっと貴女達の役に立ちます!……必ずね。

 只でさえ貴女達は皆、賢くて見目も性格も良いのですから、教養を出来る限り身に付けるの。

 貴女達はあたくしが責任をもって教養が身に付く様指導しますからね。

 先生はライリーとコリンちゃんをお願いしますわ!

 ウフフ、これからこの法具で1週間に1度は会って、楽しく竪琴の練習しましょうね!

 ……どうかしら、皆さん?』

 とここまで立て板に水の勢いで話して、漸く子供達の反応を窺う。

 子供達は全く異論を唱えなかった。ミラベルを除けた2人の兄弟は、グレースに逆らう気になれなかったのである。

 それ程、ジェラルドに釘を刺すグレースの様子が怖かったのだろう。

 ……ご愁傷さまである。



 その後、暫く楽しく歓談した後

『貴女達に渡す竪琴と笛は近日中にテオに持って行かせるわね!楽器がそちらに着いたら、授業を始めましょう。

 じゃあ今日はこの辺で……』

 とグレースが話し終えると、やがて法具の輝きが鈍り始め、完全に陽炎が見えなくなった。

 ……日はもうすっかり陰り始めていた。







とても和やかに歓談出来た法具での面会は、グレースの言う通り、この後週1回は必ず楽のレッスンと称して続けられることになりました。

あ、因みに嵐は見事にジェラルド夫妻に直撃し、グレース奥様はハリケーンと化しました。

結果、子供達に渡す竪琴2本と笛2本、ジェラルドのポケットマネーで購われましたとさ(笑)


なるべく早く更新します!

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