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やりたい事をやる為に  作者: 千月 景葉
第一章 黒き森
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1-12 暴君

お読みくださりありがとうございます。


主人公が生後半年を過ぎました。


小さな兄が動き?ます。

  大掃除に尽きる一週間であった。


  一週間程前から綺麗好きの母コレットが、いつにもまして張り切って家の中を大掃除し始めたのだ。


  普段から窓や床を磨き倒しているし、ファブリック類も洗って家中がピカピカなのに、である。


  これ以上、どこを掃除しようと云うのだろう。


  何と綺麗な筈の水場を又洗い始めた。


  台所とお風呂場とトイレである。


  コレット母さんは口癖の様に時間がない時間がないと言いながら、桶やブラシや雑巾を持って走り回っている。


  ライリーとガルシアはコレットの(めい)で、外回りの草むしりや掃き掃除である。


  では小さな子供達はどうしているかと云うと、リビングの一画に固められていた。


  ミラベルは子守りである。


  ミラベルもコレットの(めい)で、何かあったら呼ぶようにと言われ、弟妹に目を光らせている。


  生後半年を過ぎたクロエとほぼ2歳半になったコリンは、中々に目を光らせておかないと大変なのだ。


  母に掃除の手伝いを申し出ていたミラベルだったが、それよりもおチビ二人の面倒をしっかり見ておくようにと厳命が下った。


  不服そうにしていたミラベルに、母がもし掃除して綺麗になったところをコリンが暴れたらどうなると切々と訴えられたのだ。


  最悪クロエは母が自身にくくりつけて何とかなるにしても、コリンは無理だ。


  況してや今コリンは家の暴君と呼ばれている。


  好奇心旺盛なのは良いが、あちこちを開けたりしては中の収納していた道具を引っ張り出し、花瓶があればひっくり返して割るのはお約束、寝室ではシーツ等を体に巻き付けそのまま家の中を走り出す、洗い場では水遊びと枚挙に(いとま)がない。


  コレットが叱り飛ばすのは日常茶飯事、この間はいつも寡黙なガルシアにまで叱られた。


  両親も兄のライリーや姉のミラベルがとても聞き分けの良い育てやすい子達だったので、この小さな暴君には参ってしまった。


  甘やかしてしまったのだろうかと話し合って気付くことがあった。


  そう、兄姉が余りにも出来が良すぎて彼をあれこれ構ってしまった為、彼は甘えることを善しとしてしまったのだ。


  ついつい日々の忙しさにかまけて、二人の優秀な子達にコリンの世話をお願いしてしまっていた自分達を深く反省した。


  だが原因が分かって急に厳しくしたところで、この暴君が納得するであろうか。


  (いな)


  コリンは急に厳しくなった両親や兄姉の態度に反発しだした。


  小さな彼は、この急な自分への態度の変化は何故なのか、理由を必死に考えた。


  そして安直な答えは直ぐに出た。


  “妹のクロエのせい”である。


  妹が皆を忙しくさせているから、自分が構って貰えなくなったと彼は結論付けた。


  自分がイタズラをして、部屋をしっちゃかめっちゃかにしているのは完全に考えの外である。


  家族の重荷はクロエだと、正義感?溢れる小さな暴君は思い込んでしまった。


  さあ大変。


  事あるごとにクロエに意地悪をするようになってしまった。


  家族が目を離すと叩くのはしょっちゅうだし、クロエのラックを乱暴に揺らして寝ている彼女を起こす。


  彼女の離乳食を目を盗んで食べる。


  勿論おっぱいタイムは邪魔をする。


  よくもこれだけやらかすものである。


  クロエ自身もげんなりしている。


  クロエにとって、両親や兄姉が必死に自分を守ろうとしてくれているのは非常に有り難い。


  しかしそれが彼の“焼きもち”を呼び、その行為に拍車をかけてしまっていた。


  ならば家族がクロエを庇わないとどうなるか。


  暴君の攻撃が止む筈が無い。


  それこそ彼女は確実に怪我をしてしまうと思われる。


  それだけは何としても防がなくてはならない。


  家族は小さな暴君の扱いにジレンマの日々を送っていたのである。




  さて、なぜそんな中母のコレットがバタバタと大掃除をしているのか。


  来客があるのだ。


  どうやら父のガルシアと母のコレットの大恩人らしく、年に一度訪問してくれるらしい。


  結構な地位の人物だったらしいが、今は高齢になったので息子に後を譲り、自身は隠居の身となっている。


  ライリーとミラベルはその人物と何度か会っている。


  会うのを二人もとても楽しみにしているようだ。


  来訪するのは、いつもならその御仁と常に側に控える側仕えと騎士の3人。


  しかし、今年はもう3人増えた。


  その御仁の娘と側仕えと騎士である。


  6人を迎えるのだ。


  それを聞いてからコレットは、何日も掛けて準備をしていた。


  幸いこの家は部屋数はあるので3部屋確保できた。


  ガルシアがベッドを入れ、コレットがファブリックを用意し3部屋共に準備が出来たのが3日前。


  その直後暴君がやらかした。


  ある1部屋に入り込み暴れた挙げ句、眠って(よだれ)とお漏らしをしてしまったのだ。


  オムツはしていたのに、下世話な話で恐縮だが量が多すぎたのだ。


  いつもならそれまでにならないのだが、部屋突入直前、クロエお気に入り果実水を彼女に渡さない様にする為に大量に飲んだのだ。


  母は部屋の惨状に涙した。


  クロエは果実水が飲めなくなり涙した。


  暴君してやったりである。


  ガルシアがこれで怒ってしまった。


  コリンを寝室に連れていき、厳しい口調で叱った。


  与えられた罰は、おやつと果実水の暫くの禁止。


  充分に甘いお沙汰であるが、2歳半では仕方無い。


  しかし彼には青天の霹靂である。


  泣くわ暴れるわ大変であった。


  ガルシアは彼を反省させるため、物を取り払った“物置”に彼を閉じ込めた。


  しかし泣きわめいて、壁を叩くわ蹴飛ばすわ、である。


  それでも心を鬼にして放っておいたら、いつしか泣き止み静かになった。


  大人しくなったので、心配し部屋を開けたら大の字になってスヤスヤ寝ていた。


  ある意味大物ではある。


  そんな不安要素を抱えつつ、大事な来客を迎える一家。


  何も起こらないでほしいと、誰もが切実に願うばかりである。


  因みにコリンも願っている。


  やって来る客が“諸悪の根元”のクロエを連れていってくれますように、と。


  両親や兄姉が聞いたら烈火の如く怒り狂うような願いである。


  しかし彼は家族の平穏を取り戻すのだと、彼なりに真剣に考えていたのである。


  クロエは出来る限りコリンの目に触れないように大人しくしているが、まあ余り意味はない。


  クロエ自身もどうしたら良いかと考えてはいるが、何せ漸くずり這いと1人お座りが出来るようになったばかりである。


  何かあっても逃げることすら(まま)ならない。


  早く喋れるようになればまだ対処の仕様もあるのに、と(ほぞ)を噛む毎日である。




 さて時間は瞬く間に過ぎて行き、もう午後である。


 昼食時、大役の“子守り”を仰せつかっていたミラベルは疲労困憊の様子であった。


 コレット母さんの(めい)はリビングの一画からおチビ達を逃がすなの一言だから、体力的には動かないでいたのでむしろ普段より楽だったが、精神的にやられてしまっていた。


 理由は勿論、暴君コリンである。


 原因である本人はケロッとしているが、中々の神経戦だったのだ。


 オフェンス側のコリンはミラベルの視線を気にせず動く。


 ディフェンス側のミラベルもそこは問題なく全て対処できた。


 厄介なのはその動く合間合間に、クロエを叩いたり背中を押して転ばせたりすることだ。


 コリンはその妨害をたまに入れて来るのである。


 ミラベルがクロエを助けている隙に逃げようとするのだ。


 何とか捕まえ、また神経戦に突入する。


 クロエはミラベルを痛ましげに見ていた。


 (ミラベルお姉ちゃんファイトー!協力してあげたいけど、せめて手を煩わさぬように立ち回るしかできない無力なアタシ…。なんとかコリン大王の攻撃から極力逃げるんだ、頑張る!)


 コリンが手を出そうとするとスッと横に体を避ける。


 頭を叩こうとしたらお座りからずり這い姿勢にトランスフォーム!


 コリンが近寄るとずり這いスピードMAXでミラベルの後ろに避難!


 この繰り返しでなんとか幾度かの攻撃をしのいでいた。


 ミラベルがコリンに手一杯で、クロエを構うことが出来ないのを彼女が気にしているのが解ったので、クロエは彼女と目が合った瞬間大きく頷いた。


 (お姉ちゃん、アタシは大丈夫!コリンお兄ちゃんを頼むね!ファイト!)


 ミラベルもその意味が解ったのだろう、そこからはクロエを気にせずコリン一人に集中した。


 普段ならクロエが変だと騒いでいたかもしれない、姉と妹のアイコンタクト。


 しかしミラベルは必死だったので、そこは全く考えもしなかった。


 クロエからエールを送られたと心強く思ったのだ。


 手強(てごわ)くなった姉と素早く逃げる妹に翻弄されながらも、何とか姉の手から逃げてイタズラの本懐を遂げようとするコリン。


 この行き詰まるような攻防が昼食時までずっと続いたのである。




 「お母さん、アタシもう無理。コリンが全然大人しくしないの。疲れちゃった」


滅多に泣き言を言わないミラベルが母に白旗を上げた。


両親と兄は彼女を労い、子守りから外した。


ではどうするか。


コリン曰く自分は悪くない、クロエが暴れたからだの主張もあり、クロエは母が見ることに。


母もクロエは手が掛からないし、動き回る家事は既に終えていたので、彼女を見ることに異存は無い。


ミラベルも母を手伝いながら、クロエだけなら子守りできると申し出た。


当のコリンはガルシアとライリーの二人で見ることにした。


当然だがコリンは嫌がった。


まだ母や姉の方がやり易いと思ったのだろう。


しかし父と兄の強力タッグでは自分に分が悪すぎる。


だが彼の言葉は却下された。


来客がやって来るのはもうすぐ。


ここで気を緩めてはならない。


ということで、コリンは来客がやって来るまで父と兄の厳しい監視下に置かれる事になったのであった。


 



 


 

 




 

次話は明日か明後日投稿します。

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